縁起物
その一押しが作者のやる気スイッチ(*´ω`*)
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『きゅきゅ!!』
「あれ、ハムちゃんどうしたの?」
食事も終わり、3人で賢治の運転する車に乗り込もうとしたその時である。
突然どこからともなくぽんと現れたハムスターに、竜児がすっと目を細めた。
「これが……タカ子のペットですか」
『きゅ』
ハムちゃん、若干ビビる。
反応が部長に対するものとは明らかに違う。
「おいおい竜児、お前そんな小動物にまで警戒すんなって。タカ子に似て可愛いじゃないか」
妙に抜けてる癖に本能的に危険なものはわかっている所とか、と、なにげに竜児を危険物扱いしながら、賢治もまた運転席から後ろを振り返る。
ハムちゃん、速攻で賢治の方を選んだな。
一瞬ちらっと高瀬を見てから賢治の方へ移動しようとしたハム太郎は、しかしその途中で別の腕にその動きを阻まれる。
犯人はもちろん竜児だ。
「おや、さすがはタカ子のペット。…触れますね」
「それ触るっていうか掴んでると思うけど」
さっちゃんに掴まれた時のように悲鳴を上げるでもなく、そのままの体勢でカチコチに固まったハム太郎が哀れだ。
「それ仮死状態とか言うんじゃね?」
「もう死んでるのに?」
「外敵に対する習性だろ」
そういえばハムちゃんは近所の猫に食べられてお亡くなりになったと聞いたな。
「僕はその辺の野良猫ですか」
「いやいや、んな可愛いもんじゃないだろ~」
「だよね」
「失礼な。僕なら気品あふれる美しい瞳の猫になりますよ」
「サーベルタイガーか?」
「雪豹とか」
どちらにしても猛獣です。
「タカ子はあれだな。エキゾチックショートヘア」
「なにそれ?」
正直そこまで猫に詳しくない。
聞き覚えのない種類に首をかしげた高瀬に竜児が端的に答える。
「潰れた顔をした猫のことですよ」
「ブサ猫かい!?」
そういえば今日主任にも同じことを言われた気がする。
あれこれもしかして共通認識?
「馬鹿ですね賢治。僕なら三毛猫のオスに例えますよ」
「さすが竜児、言われてみれば…」
「?なぜ雄」
不思議に思って問いかけた言葉に、残念そうな顔になる二人。
「知らないのか~?三毛猫の雄って縁起物なんだぜ。なにしろ3万びきに1匹しかいないって言われてるからな」
「中には野良の三毛猫に三千万出して買い付ける好事家もいるそうですよ」
「さんぜんまん」
あらお高い。
「遺伝子異常でしか誕生しない存在であり、昔から嵐を呼ぶ力を持つと信じられ、船乗りたちに珍重されてきました。…とはいえ結局は雑種ですから、血統書などを必要とするペットショップなどでの商品価値はゼロです。性格は昔からの猫そのものと言われ、マイペースで気まぐれ。」
つまり、レアではあるが結局のところ高級品ではないただの市井の猫と。
「確かにタカ子にぴったりだな」
「でしょう?」
「どの辺が?ねぇどの辺?」
「「性別以外全部」」
そうですか、声を揃えるほどですか。
『きゅきゅ~!』
「お、竜児から逃げ出してきたか~よしよしエライな」
3人がくだらない会話を繰り広げている隙にこっそりこっそりと抜け出していたらしいハム太郎。
気づけば賢治の肩に乗ってぺしぺしとその首元を叩いている。
「タカ子~。コイツ、なんか言いたいことでもあるんじゃねぇの?」
「え?」
「ほら、今頷いた」
「なんだ、タカ子より賢いじゃないですか」
「竜児は近寄るなよ。ビビるから」
手を出そうとした竜児を牽制しながら、よしよしと当たり前のようにハム太郎の頭を撫でる賢治。
そういえば賢治は昔から動物好きだった。
むしろ動物の方から賢治に擦り寄っていくのを羨ましく思っていたのだが。
部長との違いは、賢治の方がより野性的なことだろうか。
自分に懐いてきた犬を見て、「チャウチャウって食えるんだろ?似たような名前の割にはチワワって食い甲斐なさそうだな~」とか笑いながら言えるタイプ。
部長なら絶対言わない。
あれはきっと、馬の前では馬刺しが食べられない人だ。
竜児と賢治は気にせず食べる。
ちなみに高瀬も結構気にせず食べる。
「悪ガキトリオ」の後につけられた「無神経3人組」の異名は伊達ではない。
「ハムちゃん、どうしたの。君、部長の所にいたんじゃ…」
『きゅい!』
「…部長に何かあったの?」
ハム太郎は部長に懐いていた。危険を知らせに来ることは充分ありうる。
何しろこの子は本当に頭がいい。
「おいおい、危ないぞ」
ちょろちょろと移動したハム太郎は賢治の頭の上に移動すると、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
まるで「早くいけ!」と怒っているようだ。
「んじゃあ一旦うちに戻ってから…」
『きゅい!!』
「……それじゃ間に合わねぇって言ってる気がするなぁ」
「義理堅い小動物ですね」
「…間に合わないって…なにがあったんだろ…」
「気になりますね…。では行きますか?」
え。
「行くってまさか」
「住所は調査済みです。出してください」
「調査済みって…今から部長の家に行くの!?」
「それしかないだろ~?ってか、どうせタカ子のアパートのすぐそばだしな」
完全に調べられている。
しかも調べただけではなくしっかり把握されているらしい。
「つかまってろよ~ハム子」
『きゅい~!』
するすると頭の上から降りたハム太郎が、賢治の首元にしかっと張り付いた。
「ハム子?」
その子はハム太郎ですが。
「タカ子のハムスターだからハム子だろ」
「そうですね…。たとえ小動物といえど雄の名前は気に入りませんし、それでいきましょう」
「「心せまっ」」『きゅい~』