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番外編 「部長と幽霊」

※谷崎部長中学生時代のミニミニストーリーです。

おまけ投稿につきそのうち消えるかも。


<谷崎くんは、本日お友達とこっくりさんをするそうです>


どこの街にもひとつくらいある、古びた廃工場。

「おい、ちょっと詰めろよ」

「誰だよこれ、んなちっちぇぇ紙に書いたら狭いだろうよ!?」

「あぁ!?文句あんならてめぇで書けよ!」

「書き直してる時間なんてあるかよバカ!ほらもっと詰めろって!」


そこらに落ちていた一斗缶の上に腰掛けた中学生3人は、真ん中に置いたこっくりさんの紙を前に、ごくりと唾を飲み込んだ。

ちなみにそこには彼ら以外にもう一人、見張りとして連れてこられた少年がいかにも退屈そうな様子で入口に立っている。

彼の心境をあらわすのなら「なんでもいいから早くしろ」。

そんな彼の心境を慮ったわけではあるまいが、とにかくこっくりさんは始まった。


「「「こっくりさんこっくりさん、おいでになりましたら鳥居にお出でください」」」


どちらかといえば悪そうな顔をした中坊が3人、真剣な顔で10円玉に集中しているのは正直おかしい。

おかしいけれど、本人たちにとってはこれも真剣なのだ。


「う、動いた!動いたぞ!?」

「ハイに行った!」

「おい、なに聞くよ!質問考えてたか!?」

「考えてねぇよ!つかこえぇぇぇ!!!マジ動いてるっ!!」


ずずず、っと動いていく指に、半ば泣きそうになる3人。

初めこそ気になる女子の意中の相手を知りたいやら何やらと青い春を謳歌していたのが一転した。


「と、とにかく帰ってもらおうぜ!」

「バカ!今からがいいとこだろ!?来てすぐ帰らせてどうするよ!?」

「オメェらマジで誰も動かしてねぇだろうな!?」

「「やってねぇって!」」


完全にビビリだ。

そんなにビビるならやらなければいいのに、と口には出さず少年は思う。

部活の後輩だからと無理やり連れてこられただけで、まったくもって興味がないからだ。

だが。


(……ん?)


「……おい!帰ってくれって言ったのに返事がいいえの方にいったぞ!?」

「ふざけんじゃねぇよ!こんなの誰かのヤラセだろ!!」

「俺じゃねぇって!?」


ますます恐慌状態に陥る3人。


「な、なんで帰ってくれねぇんだよ!?」


その間にも勝手に動き続ける10円。


「おい、なんか言葉になってねぇか」

「『…み…て…る…か…ら』」

「「見てるから…?」」


指し示す言葉を繋げて読み上げたその言葉の意味を頭の中でよく考え、彼らの顔から一斉に血の気が引いた。


「おい!見てるからってなんだよ!?誰が見てるってんだよ!?」

「逆じゃねぇの!?こっくりさんが俺等をみてるからとか、そういうことだろ!?」

「どっちにしろ冗談じゃねぇよ!?もうこのままやめちまおう!」

「だけどそうしたら呪われるって…!」

「いやだよう、俺死にたくねぇよぅ」


完全に弱気になった3人。

監視役としてつれてきた後輩のことなどすっかり頭にはない。

すっかり混乱した彼らの頭上に、すっと影が差す。


「先輩、そこになんかいるんですけど、とりあえずどかしますか」

「……へ?」

「だから、その10円玉の上になんかモヤみたいのが浮かんでるんですよ」


一回で理解しろよ、とばかりの若干イラついたその声。


「お、お前まさか霊感あんの…?」

「霊感なんてものは興味ありませんけど、いるものはいるので…」


ぐっと目に力を入れてみると、モヤが微かに人のような形をとっていることが分かる。

弁解するならば、その時の少年はひどくイラついていたのだ。

なんの興味もないこっくりさんとやらに付き合わされて塾の時間に間に合いそうにないことも、くだらないことに自分の時間を使われるそのことにも。

それをおして待っていてやるのだから、さっさとことを済まして欲しい。


「なんか聞きたいことがあるなら聞いたらどうですか」


そしてさっさと帰らせろ。


「お、お前じゃあ説得してくれよ…!こっくりさんが帰ってくれねぇんだよ…!」

「帰すんですか?せっかく呼んでおいて…」


無意味なことは大嫌いだ。余計にいらだちは募る。

その間にも、なぜか突然動き出した10円。

ガクガク震えているように見えるのは気のせいか。

とりあえず、十円玉が指し示す言葉を再び読みあげ、彼らの視線が一斉に少年に集中した。


「『み…て…る…か…ら…か…え…れ…な…い…こ…わ…い』」


つまりは。


「見てるから、帰れない。怖い……?」

「……俺のことですか、それ」


失礼な奴だな、という思いでもう一度モヤをじっと見つめれば、明らかに動揺したような動きを取るモヤ。


「あぁ、男だ。……サラリーマン…?」


スーツを着た、ひ弱そうな中年男性の姿が一瞬見えた。

そういえば、と思い出す。

1年前に、少し離れた公園でオヤジ狩りにあった中年男性が真冬にひと晩放置されて亡くなった事故があったな、と。

同時に3人もそのことに思い当たったのだろう。


「なんだ、おやじかよ」

「ひ弱なオヤジなんだろ?じゃシメられたくなかったら宝くじの当選番号言ってみろや」

「むしろそこは競馬じゃね?」

「つか俺ら馬券買えねぇし」

「そもそもただのオヤジにわかんのか、それ」


霊の正体が掴めたとたん、あっさり手のひらを返す3人組。

気のせいか霊の姿がさっきより薄くなったように見える。


「あ。逃げそう…」

「まて、逃がすな!」

「捕まえとけ!!」

「やれ谷崎!」


一気に元気を取り戻した3人組に命じられ、仕方なしにモヤに向かって手を伸ばす少年。


「………」

「なんだよ、どったの?」

「もしかして逃げられたのかよ!?」

「……先輩、ひとつだけいいってもいいですか」

「んあ?」

「オヤジ狩りしたの、うちの学校の生徒ですよ。今、顔も見えました」


はっきり、見えた。


「……それ、在学生か?」

「さぁ。関係のない先輩の顔まで覚えていないので」


というか興味がなかった。

だが、俄然3人組は張り切った。


「おっし!じゃあ今から帰ろうぜ!!んで、こいつに犯人探させてそいつらをシメる!!」

「のった!俺ら超いいやつじゃね!?オヤジの敵とってやろうぜ!」

「殺人犯相手なら半殺しにしても構わねぇよな~。とりあえず自供するまでタコ殴りにしよう」


先程までの真っ青な顔は何処へやら、いい顔をした少年たちは、もやが見えると言われた場所に向かって、笑顔で親指を立てた。


「俺らがおっさんの敵とってやるから安心しろよ!」

「そうそ、だから…」


「「「くれぐれも俺らを呪うなよ」」」


合掌。チーン。


結局言いたかったのはそれか。そしてただストレスのはけ口が欲しかっただけ。

付き合わされて全くいい迷惑だ。

だが、もやの方は何やら感激した様子でこちらに向かって頭を下げている。

少年たちはさっさとこっくりさんの用紙を丸めてポイしたが、それはどうでもいいらしい。

徐々に消えていく姿をしばらく見つめていた少年だが、ふいに首を背後から締め上げられ咳き込んだ。


「おい、行くぞ谷崎!犯人探し、お前がいなきゃ始まらねぇだろ!」

「んだんだ。図書室からここ2~3年分の卒アル借りてこようぜ。そん中にいなけりゃ在校生っツーことになるだろ」

「そしたらひとクラスずつ面通しだな。面白くなってきたわ~」

「あの、俺忙しいんですけど…」

「ここまで来たんだから付き合えよ!」

「そうそう、じゃないと霊感少年って学校中にバラすぞ」

「あ、でもそれ結構カッコよくね?」

「おぉ、確かに!」


馬鹿だ、こいつら確実に馬鹿だ。

ただバカで暴力的なだけで根が悪いタイプではないのだけが救いといえば救いか。



その後、谷崎少年は図書室に集められた卒業アルバムの中から無事目的の生徒を見つけることができたかどうかは……想像におまかせしたい。

                           

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