サービスサービス!
「でも、よかったの、こんなことして」
「…こんなこと、とは?」
食事を終え、それぞれに好きな飲み物を注文したところで、気になっていた件を切り出す。
「だって、今まで生身(?)で二人に会うのは控えるようにって話だったし…」
それを、仕事の件で話があった賢治はともかく竜児まで一緒になって、しかも食事まで。
「そうですね。僕たちは恨みをかいやすい職業ですから、君との接触がバレるのは決して好ましくない」
「まぁな~。俺だって、警察に目をつけられてるし」
「え?ちょっと待ってケンちゃんそれ初耳だから」
なにやってんの、あんた。
「この業界やってることはほとんど犯罪スレスレだって、心配しなくても平気平気」
「賢治が捕まったら僕が無料で弁護を引き受ける手はずになっていますからね。問題ありません」
黒を白と言い張る気満々だ。
そして「無罪」と満面の笑顔で掲げる竜児の姿しか思い浮かばない。
「漂う犯罪臭が酷すぎる」
「だからタカ子とはできるだけ会わずにいたんでしょう。そんな僕らに少しはサービスしてもバチは当たりませんよ?」
「むしろ何を」
何をサービスしろと?
「あ、俺パス。俺の分まで竜児にサービスしてやって」
「いい子ですね、賢治。…さぁタカ子、僕の胸に飛び込んできなさい」
「いや、やらんよ!?この犯罪者予備軍どもが!」
なぜサービスする前提になっているのかは分からないが、本日出血大サービスしているのは私の心の傷だ。
もはや木っ端微塵まであと一歩。
「ひでぇなぁタカ子。これでも日々体を張って働いてるんだぜ~」
「そうですよ。僕らの稼ぎが将来の君を養うんです。少しは感謝してくれても…」
「養われるつもりはないんで結構です」
丁重にお断りしよう。
「冗談はここまでにして、真面目な話で…」
「いいこと教えてやろうか、タカ子」
「?」
茶化さずちゃんと話せと迫るつもりだった高瀬の耳元で、賢治がくつくつと含み笑いをこぼす。
「理由はな、嫉妬だよ。お前んとこの『部長』とやらへの」
「……は?」
「俺達がろくにお前に近づけないでいるってーのに、毎日のようにタカ子を自分のそばに侍らかしていちゃいちゃしてる男がいるって聞いて、頭プッツンいっちゃったの」
「誰が」
「そりゃ、俺たち二人共よ」
なぁ?と振られた竜児も、これを否定するつもりはないらしい。
「竜児はともかくケンちゃんまでそんな冗談…」
「いやいや、マジも大マジよ。意外とストレス溜まるもんだなと思い知ったわ」
「ええ。僕も賢治もいない場所でタカ子が自由に楽しく暮らしているかと思うと腸が煮えくり返って…」
「おいおい」
私は二人なしには自由を謳歌してはならんのか。
「だってさ~。お前その部長さんに思いっきり懐いてんだろ?どっちかというと迷惑かけられてる側なのに」
「…まぁ」
ひっかけた霊の回収をそういうのなら確かにその通りだが、それはきちんとした取引。
「一応これで対等の関係というか…」
「対等と思ってんのはあっちだけだろ。お前、その部長に内緒でなんかやってんな?」
ギクリ。
「守ってやってんのが見え見え。それも俺らは気に食わない」
「気に食わないって言われても…」
部長を守ること=自分のためでもあるのだから、特に深い理由はない…つもりだったが。
「部長…いい人だよ?」
「そりゃわかってる。隙があればそこ付け込んで速攻でタカ子の前から処分してやるつもりだったし」
少し前、お得意様になりそうだと喜んでいた男のセリフとはとても思えない。
「失敗しましたね。あそこまで潔癖とは…」
「誰だって調べれば横領の一つや二つあるもんなのになぁ…」
残念だ、と息を合わせる二人。
「部長になんかしたらさすがに怒るよ」
「ここまで手のうち晒しといてそりゃ無理だって」
何かあれば、犯人は自分たちだとばらしているも同然だ。
「タカ子の日常がその部長とやらによって崩されたなら、僕たちもまた変化を始めなければならない」
「その俺たちの総意が今の現状ってわけだ。よかったな、タカ子。これからいつでも遊びに来ていいぞ!なんなら一緒に依頼を受けるか?ちょっと前、こっくりさんをしてみたいけど相手がいないとかいう妙な仕事も入ってたし…」
何だその依頼。
…まぁ、ともかくだ。
「遠慮はなくなったってこと?」
「死なばもろともとも言うけどな」
その場合、もろともに死ぬのは高瀬、賢治、竜児の3人だ。
はっきりいってとんでもない事を言っている。
勝手に心中させるな、と怒るべきだとは思うのだが。
「……安全第一だからね」
「そりゃ、当然」
「これからはクリーンな活動を心がけますよ。ねぇ、賢治」
「そだな~。そもそもバレなきゃ経歴はいつまでたってもクリーンなままだ」
あはは、と反省ゼロの賢治はともかくとして、悪徳弁護士のクリーン宣言も正直怪しい。
だが、仕方ない。
死なばもろとも。
そう言われて、当たり前のように納得している自分がいるのだから。
「でもさ、あの霊能者に思いっきり竜児の関係者だってバレちゃったんだけど…」
それ、大丈夫?
恐る恐るといった様子で問いかけた高瀬に、竜児は不敵に笑う。
「問題ありません。あの男なら、しばらく表の世界には<出てこられない>はずですから」
……出てこられない?
その微妙な発言の真意を聞くべきだろうか。それともスルーしたほうがいいのか。
「少なくとも、僕らの関係を嗅ぎまわっていたうるさいハエは始末しましたし、君との関係を知られたところでそれが例の姿に結びつくとも思えません」
「まぁ、確かに…」
そんなレアケースは部長一人で十分だ。
一発で当たり前のように見破った部長がおかしい。
「あとは君がおかしな真似さえしなければ何も問題ありません」
「……と、いうわけでだな、タカ子」
皿から顔を上げた賢治が、珍しくその瞳を細め、高瀬をジッと見つめた。
「ん?」
「お前、例の主任さんの件にはもう関わるなよ?」
――――え?