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レッツゴー陰陽師

「あんた…マジで霊能力者だったんだ…」


「おい、むしろ人を他になんだと思ってた?」


深夜1時。

昨日と同じ場所で待ち合わせした二人が移動したのは、少し離れた公園だった。


そこで彼が取り出したのは、小さな箱。

ちらっと見ただけでも、非常に嫌なものを感じた。


蓋には幾重にも貼られた御札。


重ねられた一番下は相当に古く、かなりの年数が経っていると思われる。


「なにそれ」


「蠱毒だ」


嫌そうに視線を逸らしながらの問いかけにサラっと答える男。


「だから、なにその”こどく”って」


「そんなものも知らないのか?」


「うるさい黙れロリコン」


驚いたような顔で問い返され、反射的に言い返す。

というか一般人にそんな専門的知識を求めないで欲しい。

いくら趣味が幽体離脱とは言え、そちらの知識は皆無に等しいのだ。


「今時漫画やらアニメやらでもよく出てくるだろう、これくらい」


「生憎私の愛読書はスポコン系かご都合学園ラブなもので」


リアルでオカルトな日常を送っているために、逆にそういった類の創作物には興味がわかなかったのだ。

壁ドン上等、川辺で殴りあうのが男の青春。


例外は仮面ライダーくらいだが、少なくとも日曜朝の特撮モノにそんな物騒な単語が出てきたことはない。


「本当に何も知らずにそんだけの霊力を…。それじゃ宝の持ち腐れだろ」


「持ち腐れてません。思いっきり有効活用してますぅ」


ケッと舌を出し、男の足を思い切り踏みつける。

霊体の高瀬に踏まれたところで本来は痛みなどないはずなのだが、盛大に顔をしかめたところを見るとやはり効果はあったようだ。


「なんで痛いんだ…?意味がわからん」


男の反応を見る限り、やはり高瀬が特別らしい。


「で、その”こどく”っていうのは何なのよ」


「…簡単に言えば、呪詛の一種だな。お前に分かりやすく言えば、呪いだ呪い」


「呪い…」


えらく物騒な単語がでてきた。


「一般的には毒虫を一つの箱に閉じ込め、互いを食い合わせる。その中で生き残った一匹を呪いの元に使うんだ」


「うわ、グロ」


思わず例の箱から距離を取る。

どうりで禍々しい気配を放っているはずだ。


「で、これをどうするつもりなの?」


「開ける」


「げ」


やっぱり…と思いながらもうんざりする。


「古い神社が取り壊されることになってな。解体工事に入った業者がこの箱を見つけた。

…それ以来、工事関係者に事故や病死が相次ぐようになって、俺が呼ばれたわけだ」


「神社の元の持ち主は?」


「随分前に途絶えていたらしい。…この箱が原因かどうかはわからんがな」


「ほぉ~」


十中八九、それが原因だと思う。

預かったはいいが、それを処理するには能力が足りなかったと、そんな所だろう。


「だが開ける前からこれだけの気配を放ってるんだ。正直俺だけの力では荷が重くてな。そこでお前さんに御足労願ったわけだ」


「つまり丸投げ?」


「協力はする。だが俺の手にはおえん」


文字通りお手上げ、というわけだ。


「だったら受けなきゃよかったのに…」


「俺以外の人間がこの依頼を受ければ確実に死人が出る。

其の辺のにわか霊能力者の手にでも渡ってみろ。呪いが拡散されて、それこそ手がつけられなくなるぞ」


だから手に負えないのが分かっていても受けた、と苦渋の表情を浮かべる男を、高瀬は少しだけ見直した。


「意外とちゃんとしてたんだ」


「意外は余計だが…まぁ、今回はこっちが頼み込んでる立場だからな…」


「素直でよろしい」


よし、とひとつうなづいて、やけにババくさい仕草でトントンと自分の肩を叩く。


「んじゃ、とりあえず開けよう」


「…今、ここでか?」


「開けるって言ったのはそっちでしょ、何今更怖気づいてるの」


「だが結界も張らず…」


「張れるなら張ってよ、その結界とやら。私にはムリムリ」


片手を前に出し、ひらひらさせながら首を横に振る。


「それだけの力があってできないはずはないんだが…」


ブツクサと言いながらも、この場で高瀬の機嫌を損ねることは得策ではないと思ったのだろう。

懐から何枚かの札を取り出すと、祝詞らしきセリフを唱え始める。


詳しくはわからないが、神道系、というやつだろうか。


「おぉ~本格的だねぇ、よしよし」


箱を中心に四方に札を配置し、そこに手持ちのトランクから取り出した酒と塩を備え、結界は完成したようだ。


「結界ねぇ…。私にはなんにも感じないけど…プッ何この静電気レベル」


「おい、余計なことをするな!」


結界の壁に当たる場所にひらひらと手をくぐらせ、僅かに静電気のようなピリっとした感覚を覚えたのがなぜか面白くて笑いがこぼれた。


この姿になるとどうにも笑いの沸点が低くていけない。


「ったく…どこまで異常な女だな、お前は…」


「あははは…。失礼なこと言うなら帰るぞコラ?」


「…悪かった。あとは頼む」


ニッコリと睨みつけた高瀬の本気を悟ったのか、あっさり前言を撤回する男。


「んじゃ…開けますかね」


わきわきと腕を組みつつ、ゆっくりと箱へ近づく。


実際近寄りがたいものは放っているのだが、絶対近寄れないか、と言われれば正直そうでもない。

簡単に言えば、高瀬の気分的にはゴキブリを相手にしているのと同じようなものである。

触りたくはないし、できれば視界に入れたくないが、見つけてしまったなら排除するしかない。

そしてそれが自分にはできるという確信があった。

そうでなければ、いくら頼まれたとは言えそんな妙なものに手を出すはずもない。


「う~。開けた瞬間虫が飛び出してくるとかっていうことはないんだよね?」


呪いよりむしろそっちが嫌だ、と一旦動きを止めた高瀬に、「それはない」と首を振る。


「恐らく今回の蠱毒は虫以外から作られてるはずだ」


「ふぅん…。そんなことはわかるんだ…手は出せないのに」


からかうように言えば、「本当の事だからな」と苦笑される。



「んじゃ、いっくよ?そぉれ!!」


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