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おもり?

「そういやケンちゃん、お弁当は?」


頼んだコンビニ弁当は一体どうなったのだろう。

話が一区切りついたところで訪ねてみたのだが、主任が「お前空気読めよ」みたいな顔してる。


うるさいな、こっちはお腹がすいたんだ。


「それなら竜児に言えよ。買ってこうと思ったら止められたの」


「僕がついていながらそんな栄養の偏ったものをタカ子に食べさせるわけがないでしょ。夕食なら今から僕がご馳走しますから付いてきなさい」


「……ってことで、これから竜児の奢りだぞ~」


「わ~い」


ご馳走ご馳走、と一気にテンションが上がる二人を呆れたように主任が見ている。


「本当に仲がいいね、君ら…」


「俺ら二人、これでも一応タカ子のことは愛してるからな~」


「掌中の珠のごとく、ですよ」


何でもないことのようにいう二人だが、ちょっとまて。


「ケンちゃん。私を今まで何度竜児に売ったと思ってんの。しかも一日中一緒は無理とか言われたし!」


「いやそれとこれとは別問題?ほら、幼馴染としては愛してるって」


「竜児も、人のこと行き場のない保育児童扱いしといて……」


「愛する君を信用の置けない場所には預けられないと言っているだけです」


しれっと返され、納得のいかないものを感じるが仕方ない。

反論したところで、タッグを組んだ二人に勝てた試しは一度もない。

ちなみに場合によっては竜児VS高瀬・賢治連合になることもあるのだが、その場合の勝率もほぼゼロだ。


あれ、おかしいな。竜児最強かよ。


「で、主任さんはどうすんの?さすがの竜児も初対面のオッサン相手に飯を奢る趣味はないと思うけど」


「僕はお前にも奢るとは言ってませんけどね」


またまたそんな~と竜児の肩を叩く賢治。


「先にお暇させていただくよ。…こっちもいろいろまだ片付けなきゃならないこともあるし」


そういえば、主任は今日サボリ。


「主任、明日は出社するんですよね?」


でないと主に私のナイーブなハートがもたない。


「行くよ。及川くんに谷崎のおもりを任せっきりにもできないしね」


「部長のおもり…」


なんだろう。ちょっと胸がワクワクする言葉だ。

でも高瀬が部長にとって「御守り<おまもり>」的な存在であることは間違いない。


「及川くんは間違っても谷崎にそんな言葉いっちゃダメだからね?さすがに怒られると思う」


「それはよくわかります」


絶対に怒る。鬼のように怒る。

地震、雷、火事、オカン。

怖いものの代名詞が少し変わった。


最もそこには愛があると信じたい。


「そういや、最後に聞いていいかな」


「?なんですか」


玄関口まで見送りに来た高瀬を振り返り、主任が尋ねる。

幼馴染二人は、勝手に出したお茶の片付けを勝手に実行中だ。


もう好きにしたらいい。


「なんで君の幼馴染は君のこと”タカ子”って呼んでるの?」


「あぁ、それですか」


なるほど、確かに疑問に思うかも知れない。


「小学校の頃なんですけど、名前のことで私が軽くいじめられたことがあったんですよ」


「いじめ?」


そうそう、子供というのは残酷で怖いものを知らない。


「ほら、私の”高瀬”って名前、一見苗字みたいじゃないですか。それで、どっちも苗字で名前が無い~なんて馬鹿にされまして」


今思えばよくそんなくだらないことで囃し立てたなというくらいなのだが、幼馴染二人は烈火のごとく怒った。

なにせ当時高瀬をいじめていた子供のほぼ全員が現在までトラウマに残っているほどだ。


「で、その件から2人が呼び出すようになったのがこの名前で」


「タカ子、ね。なるほど」


「あ、ちなみにその名前、2人がいるところで勝手に呼ぶと怒られますよ」


「え?」


「なんでか知らないですけど、怒るんです」


それは高瀬自身にも未だに謎なのだが。

当時の怒りが再沸騰してくるのだろうか?


「あぁそりゃ…もし本気になったとしたら、谷崎は苦労しそうだなぁ」


「?」


「まぁ、宝物ってことだ」


掌中の珠。そういった彼の言葉は実に的確に彼らの関係を表しているのではないか。


「タカ子~。湯呑みはしまい終わったぞ~」


「外に出ますから、上着を用意しておきました」


なんのことだか分からず首をかしげる高瀬だったが、背後からの呼びかけに慌てて振り返る。


「ちょ!だから竜児!勝手にクローゼットを開けないで――――!!!」


「無理無理、コイツ俺が洗い物してる間、タカ子の下着を矯めつ眇めつじっくり眺めてたから」


「ぎゃーす!」


居間のテーブルに倒れこむ高瀬の姿が、玄関からチラリと見える。


「じゃあね、及川くん」


楽しそうに騒ぐ彼らの邪魔をしないようにそっと声をかけ、外へ出る。


「幼馴染、か…」


随分昔に、忘れたと思っていた言葉だ。

たったの7歳でこの世を去ったと思っていたあの子の記憶など、本当はろくに残っていない。

それでも、忘れることがなかったのは――――――。


「厄介なものだよ、まったく…」

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