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冥婚

「君が待機児童なら、つまりうちは保育園か託児所なわけね…」


「ええ、一応調べさせていただいた上で一時保育には適当かと」


いつのまにか高瀬=幼児の認識が共通のものになったいるのはなぜだろう。

わらし姿を知る幼馴染二人や、速攻でバレた部長ならともかく、主任にはその話は一度もしていないのだが。


「一時保育ってことは、認可保育所が見つかればそっちに移動させるつもりなのかな?」


「いずれは」


……なんだ、それ。


「ちょっとまって。何を人のいないところで勝手に話を進めてんの?というか、その話が主任の件と何の関係が…」


「それはさぁ、タカ子。お前をあずけた段階で、お前がやけに懐いてる部長やら、そこの主任やらに関しては念入りに調査させて貰ったってわけ。んで、部長さんとやらは綺麗に何もなかった割に、そっちの主任さんに関しては少々懸念材料があった。それが問題の社長さんってわけ」


「懸念材料……?」


「俺たちは、そこの主任サンが例の社長から脅迫されてるんじゃないかって見てる」


「ハァ!?」


脅迫!?と、慌てて主任を振り返る。


「もうぶっちゃけて聞いちゃうけどさ、実際どうなの?」


いや、ぶっちゃけすぎだろうと思いながら主任を凝視しているが、彼の口から反論は見られない。


「主任……?」


竜児もまた視線をそらさずに瞳を細めて主任を見つめている。

どうやら冗談かなにかでは済まされないようだ。


まさか本当に……?


「……そこまで掴んどいて今更本人に聞くってのは、ちょっと酷いんじゃないかなぁ?」


「なら、認めるわけだ」


「脅迫といっても、別に金銭を要求されてるわけじゃない。妹と結婚してくれと迫られてるだけだよ」


「妹…?」


ちょっとまて。

物覚えが悪いだのなんだのとさんざん言われているが、いくらなんでもさっき聞いたばかりの話は覚えている。


「だって、妹さんって、さっき聞いた双子の……」


「そ。7歳で死んだ俺のもう一人の幼馴染だよ。君たち3人と似たような関係だけど、少なくともあの子はもっとか弱くて、誰の目から見ても守ってあげなきゃと思うようなタイプだった」


まさしくヒロインといったところの。


「実際に身体も弱くて、たったの7歳で命を落としたわけだけど……」


「他にもう一人妹さんができたとか……?」


でなければ、死んだ妹と結婚しろと言われていることになる。


「なるほど。冥婚の相手先として見初められたわけですか」


「……さすが話が早いね?その通り」


諦めたようにため息を吐く主任。


だが、”めいこん”とはなんだ……?

首をかしげる高瀬に、どうせ期待してないと言った様子で口を開く竜児。


「死者との婚姻、つまりは死後の結婚ですね」


「はい?」


あまりにさらりと言われた言葉に、一瞬何を言われたのかわからなかった。


「あるんですよ、実際にそういう話が。未成年で若くして亡くなった子供の為に、死後の伴侶を用意して供養してやる。それが冥婚。本来は絵馬などを使って行われるのが一般的ですが、結婚を目前にして子供が亡くなった場合など、結婚するはずだった相手の写真と、故人の写真とを合成して遺族が勝手に冥婚を行ってしまう場合があるんです」


せめてあの世で、という遺族の気持ちなのだろうが、それは禁忌<タブー>。

ここまで来ると、多少は予想がつく。


「まさか、亡くなった人に引っ張られてその相手まで死んじゃうとか……」


「珍しく話が早い。まさにその通りです」


「うわぁ……」


愛し合った恋人同士がせめてあの世で、とはいうが。

まさしく死後婚。


「迷信とは言え、タカ子ならその危険性は充分理解できるでしょう?」


「まぁ、軽視はできないよね…。絶対とは言えなくても、それが呪いとして発動する場合も…」


ないとはいえない。

縁起を担ぐ日本人としては、気持ちのいいものではないことは誰にでもわかる。

だが、それを押しても故人の為に、という遺族の気持ちもわからないではないが…。


「でも、なくなったのは7歳の頃なんですよね?なんで今更…」


「合成の技術精度が上がったからという理由もあるでしょうね。

今の技術なら、幼い頃の写真を合成してそこの彼と見合うだけの年齢まで成長させることも可能です。

その上で写真を合成すれば、あたかも故人が生きてそこにいるような写真が完成することでしょう」


言ってはなんだが、背筋が寒くなるような話だ。


「他になにか理由があるとすれば…。それを知るのはあなたでは?」


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