ド○ゴン○ールスクラッチです。
「折角なんで部長、実験してみたらどうです?」
「実験?」
胡散臭い詐欺師でも見るような目で見られたが気にしない。
これは部長にも、そして私にもメリットのある提案なのだ。
「この子が座敷わらし的なものだとしたら、現在は部長に取り憑いている状態で間違いないと思います」
なにしろ勝手に帰っていったからな、部長のもとへ。
「…と、いうことはですね。今の部長は超絶ラッキータイムなはずなんです」
座敷わらしはとり憑いた家に繁栄をもたらす。
この場合家=部長。
ならば部長は今ゴールデンフィーバー状態。
「行きましょう部長」
がっしりと高瀬に手を掴まれるが、当の部長は赤くなるでもなく動揺するでもなく、実に冷静。
「どこにだ」
「宝くじ売り場ですよ!!!」
一攫千金ゲットだぜ!
「馬鹿か君は。今は就業中だぞ」
「え~。営業に行くとか適当に嘘ついて外出してきましょうよ~。それか部長の財布だけ貸してください。私が行ってきます」
「そんな恐ろしいことはできない」
「部長の私への信用は皆無ですか、そうですか」
主任に引き続き部長にまで信用できないと宣言されさすがにしょぼくれる高瀬だったが、部長は直様首を振る。
「君に盗まれると思っているわけじゃない。私が心配しているのは、君が財布を落としてくるとか、置き忘れてくるとか、スられてくるとか…」
わかったわかった。
「要するに善良な馬鹿だと思われてるわけですね、了解です」
「言い得て妙だが反論はない」
「せめて違うと言って欲しかった…」
「ならそういいなさい」
憮然とした表情の部長、だが、言っていいだろうか。
「なんかこの会話不毛だと思いません?」
「気づいているならやめたまえ」
どんまい。
「じゃあ部長、財布の代わりにアレク君貸してくださいよ。そしたらその子もおまけについてくるでしょ」
「構わないが……本気で試すつもりか?」
「スクラッチ200円5枚狙いです」
ケチということなかれ、現在財布の中身は3000円だ。
これでも三分の一を使った大勝負である。
すると部長が財布を取り出した。
おや?
目の前で諭吉がひらひら舞っている。
「検証なら私の財布から出したほうがいいだろう。……それから、行くのは今じゃない、就業後だ」
飛びついて「わーい」と喜んだところで後半のセリフである。
「部長、そんな堅いこと…」
「当然の常識だ」
ちぇ。
「じゃあお昼休みに行ってきます。それならいいですよね」
「まぁ、それは自由だが…」
「実は今日中塚女史とお外でランチに行く約束をしてたんでついでに買ってきます」
なんてタイムリーなんだ。確か近くの煙草屋さんの前に宝くじ売り場があったはず。
「中塚君と…?迷惑をかけないように気をつけるんだぞ」
「は~い」
良い子でお返事をしながら高瀬は思う。
最近部長はますますオカンに磨きが掛かってきたなと。
それは誰のせいだ?
無論、私のせいだ。
※
「部長、これある意味すごくありません?」
1万円買ったらぴったり1万円当たりました。
差し引きなしのドンピシャ。
損はしない。そもそも部長のお金だからスったところで懐が痛みもしないが、なんか悔しい。
そして実験の結果としては微妙すぎだ。
なにしろ…。
「面白がって一緒に買った中塚女子は1000円買って同じく1万円当たりました」
おかげで今日のお昼は予定外の豪華ランチをゴチです。
「……人徳の差じゃないか?」
「部長の?……すいません、ごめんなさい私のです」
ちょっとした冗談だったのに、睨まなくてもいいと思う。
「アレクくん共々あの子も一緒に見てましたけど、特に何も感じませんでしたし、座敷わらしっていう仮説は間違ってるのかもしれませんね」
そもそも、この子が座敷わらしだとしたら今頃はあの室井という社長は没落の一途をたどっているはず。
座敷わらしは、家にいる間は繁栄をもたらすが、出て行く時にはその全てを剥奪していくことでも有名だ。
「まぁ考えようによっては、一緒に購入した2人が揃って同じ金額の当選っていうのも凄いですけど…」
これはこれで結構な確率だと思う。
それに結果としてはランチがグレードアップしたわけだから、幸運ではある。
「とりあえず悪い子ではないとは確信しました」
「だといいがな…」
だんだんあの無表情顔にも愛着も湧いてきたので、このまま部長にとり憑き続けるのなら、ゆっくりと交流を深めていきたい所だが…。
「主任はもう出勤してきました?」
「…いや」
「でももう午後ですよね?……何かあったんでしょうか」
「実家の祖母が危篤だと事務方に電話があったそうなんだが……」
大変じゃないですか、と言いかけて、妙に歯切れの悪い部長の様子に気づく。
「確か、相原の祖母はもうずいぶん前になくなってるはず」
「なんだ、サボりですか」
おぉ、家庭の事情を騙ったサボり、やるな主任。
さすが下克上を成し遂げた男。