きのこたけのこ
夜の公園に、佇む幼女が二人。
しばらくの間双方無言でブランコをこいていたのだが、たまたま通りすがった一般人が悲鳴をあげて逃げていった為中止した。
酔った若いサラリーマンのようだったが、君に幸あれ!
「うーん。本物の座敷わらしっていうのともなんだか違いそうだけど…。なんだろ、この感じ?」
変態よろしく幼女の爪の先から頭の先まで眺めてみる。
いかん、一部の隙もない。
そして友好関係を築ける気もしない!
「まいったな、こりゃ……」
ポリポリ……。
せっかくハム太郎で気をひいて部長から引き離し、こちらで回収したのだが、何しろ本人に成仏する気が微塵もない。
かと思えば別に部長に執着があるわけでもないらしく、案外すんなりこっちについてきてしまったりと、やっていることに統一性も認められない。
幼女の幼女たる所以と言われてしまえばそれまでだが…。
「見えないんだよねぇ、私にも」
記憶を覗かせてもらおうにも、しっかりガードしている。
よほど見られたくないものがあると見た。
「そう言われると覗きたくなるのが人情ってもんだけど…いくらなんでもなぁ」
こじ開けるのは宜しくないだろう、人として。
せめて名前だけでもなんとかわからないものか。
このままでは、高瀬にできることはひとつ。
部長とは関係のないどこかに捨ててくることだけ。
できればそれはしたくないし、今日の主任の様子も気になる。
なにか心当たりがあるような様子だった。
一旦探りを入れてみてからでも遅くはないだろうか。
「よし」
方向性は決まった。
ならば、後はやることはひとつだ。
「とりあえず遊ぶか」
――――幼女とは欲望に忠実な生き物である。
それが幼女(偽)であったとしても。
※
「そんなわけで、しばらく一緒に遊んでいたんですが、やっぱり部長が恋しいと、気がついたら勝手にいなくなってました」
以上。
泣いて困らされたわけではなく、むしろ無表情で非常にわかりづらかったがそれなりに喜んではいたと思う。
だが、現状はこうなった。
「……朝、気がついたらこの状態だった」
「ご愁傷様です」
さぞや驚いたことだろう。
何しろ、アレクくんOn幼女だ。
しっかり首筋のしめ縄を持って犬の背中に張り付いている。
そして目線は常に部長に。
「やっぱり部長がタイプだったんじゃありませんか?」
「……そういう問題じゃないだろう…」
まぁな。
「じゃあ、ひとまず子守はアレク君にお願いするとして、主任に探りを入れてみます?」
「相原に?……あぁ、そうだな」
おっと。好感触。
「やっぱり部長も主任が怪しいと思いましたか」
「それはそうだろう。昨日のあの様子では……」
速攻で下克上を果たして、結局部長は自分で運転して帰っていった。
後ろでふざけていた高瀬はものすごく怒られた。
そして気づくと新聞は破けましたとさ。
「そういえば今日はまだ主任の顔を見てないんですけど……」
「あいつなら午前中いっぱいは有給を取っている。午後には出勤するはずだが…」
「珍しいですね?」
半休は取れないわけではないが、いつも部長に張り付いている主任にしては珍しい。
「個人的になにか連絡が入ってたりとかは…」
「ないな」
「そうですか……」
残念だが仕方ない。とりあえず主任の出社を待つか。
昨日のうちに賢治とは連絡済みで、主任さえ大丈夫なら今日の夜にでも会えると承諾をもらっていたのだが。
無駄足にならなければいいけど。
しかし、なぜ主任とケンちゃんの間に立ってわざわざ顔つなぎに行かねばならんのか。
賢治に連絡をしたところ、例の部長に高瀬を斡旋する気マンマンの部下だと言ったら、なぜかやる気が漲って、高瀬の同席を求められてしまった。
その後でどこかへ連絡をとっていたようなのだが、ケンちゃんよ。
幼馴染の情報を、即効で売るのはやめようか。
相手がいくら竜児だったとしても。
というかむしろなぜ売る?
私はその仕打ちを忘れまい。
「いい金になったわ、サンキューな!」と悪びれもなく言い放ったケンちゃん、後で覚えておけ。
「そういえば部長、昨日はそれどころじゃなくて聞き忘れましたけど、結局商談はどうなったんですか?」
「…あぁ。あれなら、申し訳ないが少し様子を見させてもらうことになった」
「?うまくまとまらなかったんですか」
「そういうわけではないが…。なにしろある時期から突然店が急発展した理由がはっきりしなくてな…」
確かに、あのドラッグストアが増え始めたのは昨年末あたりから急にだ。
「理由がはっきりしないって、どういうことですか?」
「偶然としか思えないような理由で成功している。はっきりとした根拠もなく」
なんだ、そりゃ。
あの子、本物の座敷わらしだったのだろうか。
「たまたま出店した店が大当たりして、その資金で別の店舗を購入、それがまた当たって…というのを繰り返しているらしい。だが、こちらで調べてみた限り、それほど強力な売りもなければ、他と差別化できるようなものもない。…まぁ、ありふれたチェーン店型の量販店に近い業態だな」
ふむ。マツ○ヨと大して変わらないといったところだろ。
「部長的には、繁盛した理由がわからない以上、いつポシャるかもわからないと思ってるわけですね」
そりゃ、確かに不安材料だ。
「珍しく賢いじゃないか、どうしたんだ」
「……今、部長の心無い発言で私のライフが1削られました」
珍しくない、いつも賢いデキる女になるんだい。
「悪いがタケノコ並みの君の心を気にしている余裕は俺にはない」
ロケット鉛筆に続いてタケノコ来たよ!人の心をなんだと思ってるんだ!?
「生憎ですが私はきのこ派です」
「?なんの話だ」
きのこたけのこと言えば、そりゃひとつしかなかろうに。
山か里かの2択問題だ。
あれ、こういうメゲないところが部長達に妙な自信をつけさせてしまうのだろうか。
自分的には長所のつもりだったのだが、今度は少し落ち込んだフリをしてみよう。
そうしよう。