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鏡よ鏡

真実とは時に残酷なものである。


「ペッ○ーくんペッ○ーくん、私はできるオンナだと思いますか」


そわそわと問いかけた一言に、答えは実に無情だった。


『あなたが、そう思うなら、それでいいんじゃ、ないでしょうか』


「正論!実に正論だけどなんだか心がもやっとする!」


忖度、そうそう、これからの人工知能には忖度が必要だと思う。


「こらこら、なにやってんの及川くん。ほら行くよ」


「は~い」


そこで待っていろ、とペッ○ーくん前に置いていったことを棚に置いて、受付に伝言を頼んだらしい主任が高瀬の肩をぽんと叩く。


「近くに喫茶店があったはずだから、そこに行こう」


「スタ○ですか?」


「いや、ステバ珈琲って店」


「……砂場コーヒーよりもチャレジャーな名前ですね」


砂丘を誇る鳥取県がその名前を付けるならまだしも、捨て場ってなんだ。


「定年退職したリーマンのおっさんが熟年離婚されてやけっぱちで開店した店だからね。『捨て鉢で開店した珈琲店』を訳して『ステバ珈琲』だってさ」


なるほど、なかなかいいセンス。


「ちょっとお友達になれそうな気がします」


「話し込まないでね、俺の要件の方が先だから」


わかってますって。


「じゃあね、ペッ○ーくん」


『できる女になれるよう、おいのりしてます。さようなら』


…なるほど、先ほどの返答は彼なりの忖度の結果だったらしい。


「主任、私心が折れそうです」


「大丈夫大丈夫。だって及川くんの心って、折れても折れても新しいのが出てきそうだから」


「私の心はロケット鉛筆扱い!?」


「懐かしいよね、あれ」


なんだろう。ちょっと涙が出てきたぞ?


「さ、行こう」


「…あ、ちょっと待ってください…!!」


ハム太郎がまだ回収できていない。カムバックハムちゃん!!


           ※


「…は?ケンちゃんを紹介して欲しい?」


「そうそ。お友達なんでしょ君の」


紹介してよ、と言われ首を傾げる。


「携帯の番号は部長も知ってるはずですけど……」


「う~ん、それがねぇ、ちょっと個人的な話だからさ」


部長にも言いづらい話だと。

わからないでもないが、なぜそれを自分に相談するのか。


「あれ?私って意外と主任から信用されてます?」


「本気でそう思う?」


「いいえ全く」


うぬぼれませんとも。ええ。


「んじゃあ、その信用ならない部下になんで紹介を依頼するんですか?」


ぶっちゃけ、便利屋などいくらでもいるし、わざわざ高瀬の知り合いに頼む必要はない。


「信用はしてないけど、信頼はしてるってことだよ。意味わかる?」


全然。


「だよね~。つまり、これまでの実績はそれほど評価できないけど、未来には期待してるってこと」


「よくわからんです」


「大丈夫、期待してないから」


「やっぱり泣いていいですか」


「いい子だからもうちょっと大人しく話をきこうね?」


ハムちゃん、私を慰めておくれ。


「で、ケンちゃんを紹介って、番号が知りたいってことですか?」


「直接顔つないでくれる?」


「は?」


「まず会って話をしたいんだ。それから依頼するかどうか決める」


真剣な顔の主任に、ちょろっとポケットから顔を出したハム太郎が「きゅ?」と鳴く。


「そこまでしなきゃいけない案件なんですか?」


「事と次第によっては及川くんにもお願いすることがあるかもしれない」


それは、つまり?


「部長的な案件ですか」


「そういうこと。……頼めるかな?」


幽霊関係、なるほどわかった。


「バッチこい!!」


主任の弱み、ゲットだぜ!!


「あ、今なんかゲスい顔したなぁ……」


「気のせいです、気のせい」


できるハムさんことハム太郎は、一緒になって「#きゅきゅきゅう~(気のせいだよ~)」と首を振ってくれましたとさ。



ILOVEハム太郎。


「で、いつ紹介すればいいんですか?」


「早ければ早いほうがいいけど、いつなら手が空く?」


「聞いてみないとわかりませんねぇ…」


なにしろケンちゃんはジャパニーズビジネスマン、24時間働きます。


「とりあえず聞いてみてよ。こっちの時間はできるだけ開けておくから」


「お客さん。珈琲2つ、お待ちどう様」


「あ、ごめん後もう1ついいかな。連れがそろそろ来る予定なんだ」


了解ともなんとも言わず、ぶっきらぼうに去っていったマスターは非常に渋い。

珈琲カップも一見植木鉢のような形で、フチがわざと欠けた、まさに「捨て鉢」デザインになっている。


「ナイス!」


ぐっと親指を突き立ててセンスを褒め称えていると、入口に備え付けられたカウベルがなった。


「あ、部長」


「よぉ、早かったな」


入口に向かって主任が手招きする。


だが。


「……ん?」


こちらに向かってくる部長の背中に、なんか。


―――――おいおいおいおい、ちょっと待て。


「主任……」


「ん?」


「どうやら、ミイラ取りがミイラになったみたいです」


「それって?」


どういうこと?と主任が問いかけるまでもなく、席にやってきた部長は、主任のコーヒーを取り上げると一息にそれを飲み干した。


そして高瀬を一瞥し、一言。


「後は頼んだ」


………。


この現状を、一体どうすればいいのだろう。


アレク君が困っている。

部長の背中を見上げ、吠えていいものかどうか悩んでいるらしい。


そりゃそうだろう。


なにしろ、部長の背中に負ぶさるようにしがみついているのは、和服を着た幼い少女。

まるで人形のように無表情に、足元のお犬様を見下ろしている。


「部長……やっちゃいましたね」

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