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犯人みっけ

「部長。私思うんですけど、大切にしていればいつかきっとアイ○だって幽霊になると思うんですよ」


「……なぜその発言が出てきたのかははうっすら理解するが、とりあえず今は黙りなさい」


「ウッス」


会社の入口にペッ○ーくんが置いてあった。ただそれだけの理由である。

人工知能の幽霊。考えるだに恐ろしいが、その場合それは幽霊と呼ぶべきなのか付喪神と呼ぶべきなのかは悩むところだ。


「でも部長、どうも暇過ぎて…。遅くありません?主任」


「…確かにな。少し話してくると言ってからもう10分以上は経っている」


現在ふたりが座っているのは、案内された応接室の椅子の上。


アポイントメントは既にとっていたため、案内自体は難なくされたのだが、そのあとで主任だけが相手先に呼ばれ席を外して以来、なかなか帰ってこない。


「ここの社長と主任とがお友達……って話でしたよね、確か」


「あぁ。そのツテで向こうからうちに連絡してきたんだ。とにかく一度話してみようということになったんだが……」


「アレですよね、最近やたら増えてきたドラッグストア」


居抜きや空き地の買収などで、あっという間に増えたチェーン店型の薬局の親会社が、ここだ。

高瀬が務める商社は、部門によって様々な営業をしているものの、現在部長が統括しているのは、基本的には仲介業。


ショッピングモールや大手デパート、その他不動産テナントなどと、そこに出店したいと考えている中小小売業者とを結びつける役割を果たしている。

成功すればそれなりにボロい商売らしいんだ、これが。


「それに、部長……さすがに気づいてますよね、その子…」


「……あぁ」


お犬様もといアレク君(アレキサンダーの略称)が、彼らの入ってきた扉に向かって、ずっと威嚇を続けている。


二人にしか見えていない光景とは言え、異様だ。

犬とはいえ既に幽霊なのだから、別の犬の匂いに反応した、なんて単純な理由ではありえない。

第一、チャンピオン犬だけあってそういった躾はかなり完璧だった。

今まで部長が連れてきた他の動物霊相手にも、こんな態度を取っているところを見たことがない。

むしろ性格は温厚で、たぬきの子供を背中に乗せて遊んでやっていたくらいなのだが。


……よし。


「ハムちゃんおいで~」


「…!?何をする気だ」


「何って、偵察ですよ、偵察」


胸ポケットから「きゅ!」と顔をだしたハム太郎相手に、部長がぎょっとした表情で距離を取る。

ハム太郎は少しの間部長と高瀬の間で視線をいったりきたりさせたあと、やっぱりこっち、と言わんばかりの表情で高瀬の頬にスリスリと頬ずりする。


「う~いい子だね~」


「……」


再びなつかれたくはないとは言え、どことなくもやもやするものがあるのか、部長の表情は何とも言えな

い。


「この子はね、最近とっても優秀で、頼めば色々な証拠を集めてきてくれるんです!」


「……ハムスターに何をやらせてるんだ、君は…?」


え。色々?


「うん、色々」


小さな巨人とはハム太郎の為にある言葉だと言っても過言ではないと思うのだ、私は。


最初のうちはしばらく遊ばせたら成仏してもらう予定だったのだが、逆にすっかり元気になってなつかれ

てしまった。そうなると、成仏させるのも寂しくてそのままにしていたのだが……。


「……その辺は帰ったら詳しく聞かせてもらおう」


「え~」


「上司として私には君への監督責任がある。……そのハムスターにもだ」


「きゅ?」


「素晴らしいです、部長。ハムスターへの監督責任、初めて聞きましたそんなセリフ」


「…君にそれを預けたのは私だからな…」


はぁ、と深くため息をつく部長。

とりあえず行っておいで、ハムちゃんや。


「それで何を探らせるつもりなんだ」


「……とりあえず社内に何かないか確認してもらおうかと。…あぁ、アレク君はいいんだよ、君は部長の番犬だから」


俺も一緒に行ってやるぜ!とばかりにこちらをみていたお犬様をなだめ、ハムスターを解き放つ。

さすが幽霊、しまった扉などなんの意味もない。

最近とみにパワーアップしたハム太郎の前には人間の防衛力など極めて無力。


「……くれぐれも、悪用はしないように」


「了解です!」


もちろんやりません。

そんなことをしたらハム太郎が悪霊になってしまうではないか。

正義の隠密ハムスター、それがハム太郎だ。


――――ハム太郎を解き放って5分ほど経った頃だろうか。ようやく主任が戻ってきた。

相手先の社長も一緒に引き連れて。

だが、その姿に私も部長も驚いた。

アレク君が激しく警戒し、唸りを上げている。


――ーキタコレ!私以外の幼女枠!!


「……あれは…」


「部長、今はしーっ!後でゆっくり話しましょう」


小声でささやき、こっそり口元に指を立てる。

それに対して了承したとばかりに軽くうなづいた部長が、そのまま立ち上がる。


「いやぁ、大変お待たせして申し訳ありませんでした!」


「いえ…」


「なにしろコイツと二人きりで会うのも随分久しぶりなもので、すっかり話こんでしまって」


そう言いながら主任の肩を叩くのは、確かに主任達と同世代といった様子の男性。

違っているのは、見るからにワンマンといった風情の垣間見える傲慢さか。


なんか詐欺とかでよく捕まるタイプの顔だな、と妙な既視感を覚える。


それにしても、気になるのは主任の様子だ。

なにやら困惑しているように思える。


一体どうしたのだろう。問題発生か。


……ん?


あれ?と、何かに気づいた高瀬が主任の背後をジッと見つめる。


―――気のせい?

今、確かに……。


「及川くん。ごめん、ちょっといいかな…」


「あ、はい」


部長と商談相手が話し合いのテーブルについたところで、貰ったばかりの名刺を出す余裕すらもなく主任にこそっと呼び出される。


「すみませんが、ここは失礼させていただきます。商談は我が社の谷崎の方に一任されておりますので…」


「谷崎です。本日は…」


部長に相手を押し付けて、さっさと逃げるように部屋を出る主任。

部長の方も何かあると見たのか、高瀬に向かい大人しくついていくように目配せをしていた。

まぁそんなことをしなくても、部長の商談のお供なんて退屈なものより、よほど主任の要件の方が気になるのだが…。


退出する際、ちらりと一度だけ振り返った。

相手先の社長だという男の足元にすがりつくような影。


それは確かに、幼い子供の姿をしていた。

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