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かごめかごめ

「か ご め   か ご め


   か ご の な か の 鳥 は い つ い つ で や る 」


「よ あ け の ば ん に

   

   つ る と か め が す べ っ た」



「「「「後ろの正面だぁーーーーーーーーーれ」」」」




…閉じ込められた部屋の中で、子供のすすり泣く声が聞こえる。

それは、ほんの畳数枚分の座敷牢。

籠目に作られた牢の檻の隙間から、男の顔がぬっと牢の中を見下ろしている。

その顔が、にやりと笑った。


「   さぁ、出ておいで   」



差し出された手は、救いか否か。

今宵の月は、出ていない。


              ※



「……幼児連続誘拐事件、だそうだ。君も気をつけなさい、及川くん」


目的地へと向かう社用車の中。


「あの……部長?お言葉ですが、部長の目には私はどう見えておりますか……?」


まさか、こっちの姿でも幼女枠だと思ってるんじゃなかろうな、この人は。


新しく下ろしたばかりのスーツをぴしっと着こなし、目指せオールドミスなひっつめ頭で決めた高瀬は、見た目だけならば立派な秘書。

それもかなりできる部類に見えるだろう。

流石に今の高瀬を見て、幼児扱いする強者は……。


「君の頭の中は幼児と対して変わらないだろう」


「ここにいたわ。しかも即答されたわ!」


せっかくデキる女スタイルで決めたのに!と一瞬にして崩れる高瀬の化けの皮。


「あちょ!」


「!何をする、やめなさい」


「車内で新聞とかよく読めますね、部長。私には無理です」


「……だったら返しなさい。君にはまだ早い」


奪い取った新聞を眺める高瀬に、眉間にしわを寄せて返却を求める。

あれ、これもしかして本気で幼女枠か?素で人を幼女枠に落とし込んでるのか?


「……最近、部長の天然が怖いです」


「俺は君が社会人をしていることが恐ろしい」


「正論!」


しっかりオチまでつけてしまった。さすが部長。


「おーい君達、イチャつくのもその辺までにしといてくれよ~」


「著しく現状認識を歪めている人がここにもいた!!」


車の運転席から、振り向きもせずにかけられた声に、高瀬がおののく。


運転席に座るのは、第一秘書の相原主任だ。


本来は部下である高瀬が運転すべきところだが、生憎免許を持っていない。

そして部長からは「君の運転する車など怖くて乗れない」とのお言葉を頂いたので、折角だから一生運転せずにいようと思う。


「あ~あ、つまんないよ~。いっそ運転を谷崎と変わってもらえばよかったな」


後ろから面白そうな会話は聴こえてくるし、損した、とぼやく相原。


「いくらなんでもその下克上はいかがなものかと思いますよ」


「男なら下克上上等、目指すは天下布武!」


「あ、信長のファンですか。私はどちらかというと伊達政宗が……」


「眼帯しちゃう系?もしかしてゲームファンとかでしょ」


「いえいえ、大河ドラマの方です」


「まさかの渡辺謙きたよ!ちょっとまって、及川さんっていくつだっけ??」


「正月の再放送で見ました。暇だったので」


墓場で老人たちとも実に盛り上がった。


「なぁんだ。それなら誘ってくれればいくらでも遊びに行ったのに。なぁ?」


運転席から声だけかけた相原に、新聞を取り返した部長がそれを几帳面にたたみながら答える。


「……だからなぜ俺に振るんだ」


「そりゃ俺はお前と及川くんとがくっつけばいいと思ってるから」


「妙な考えは今すぐ捨てろ」


「部長即答ですね…」


それはそれでちょっと傷つく…というフリだけだ、フリ。

ここ一ヶ月ほどですっかり高瀬の言動になれた部長はびくともしない。

冷たい目で畳んだ新聞を頭の上に乗せられた。


おっと。なかなかバランスが難しい。


「部長、もういいんですか新聞」


せっかく私から奪い返したのに、という非難を持って問いかければ、帰ってきたのは一言。


「どうせもうすぐ到着するからな」


それはもうしまっておきなさいと指示され、それもそうかと新聞を車のシートポケットに突っ込んでおく。

後で主任が回収するだろう。

そうして、ちらりと部長の横に視線を流せば、我が物顔でそこにいるのは例のチャンピオン犬。

首のしめ縄に高瀬のいたずらで「迎春」という文字が付け加えられ、正月よろしく装飾が施されている。

大変縁起がよろしい仕上がりだ。


万人の目に映らないのがもったいないと、中塚女史、相原主任の二人にだけは特別にお見せしたところ、大爆笑だった。初笑いゲットだ。

ちなみに二人が爆笑したのは犬だけではなく、犬込みの部長の姿に、だが。


そうそう、聞いていただきたい。


なんと犬の名前が決まった。

その名も「アレキサンダー」。

強そう。確かに強そうだが、ハムスターに「リチャード」とつけた親戚の子供と同じ血を感じざるを得ない。

さすが部長だ。わけはないが尊敬する。

本日は出張とあって、張り切って部長の警護に勤しんでいる様子。

勤労奉仕ご苦労様だ。

だが犬にばかり働かせるわけにはいかない。

運転席から仕事向きの顔をした主任が眉をきりっと尖らせ、ミラー越しに高瀬に言う。


「及川君、今日は君の秘書としての初仕事だからね。くれぐれも俺達から離れないように」


「わかりました!」


「もし迷子になったらその場から動かないですぐ携帯で連絡するように」


「わかりました!」


「お菓子をもらっても知らない人についていかないように」


「了解です!……って部長!?ひどいっ」


余計な一言を付け加えた部長にまで、ついいい子のお返事をしてしまったではないか。ひどい。


「ほらほら、谷崎、お前も及川くんで遊んでないで準備しろよ」


「…わかってる」


「やっぱ遊んでるんじゃないですか!!」


「及川くん、悔しかったら頑張って下克上しようね~」


「うぅ…」


無理だ、絶対無理だ。


こうなれば弱みでも握ったほうが絶対に早い。

また今度、中塚女史と飲みに行こうと心に決める。

情報交換は必須だ。


「さ、お仕事だよお仕事~」


車は、大きなビルの入口を潜り、地下の駐車場に飲み込まれていく。

ここからは、敵陣同然だ。

よし、頑張る。


「目指せ下克上!」


「うんうん、いいガッツだね。でもそれはここを出たら上手に隠しておこうね~」


「了解です!」


及川高瀬、デキる女になります。

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