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エピローグという名のプロローグ

ここまでお読みいただきありがとう御座います!

引き続きのご愛顧と、ブクマ&評価宜しくお願いします。

それから数日後。


「……というわけで、あの2羽は目出度く神様に昇進いたしました!」


パフパフパフパフ~!!!


「イエ~イ!ほら課長も喜んでやってくださいよ!部下が昇進したみたいなもんですよ!」


「……その喩えが適当かどうかはともかく、確かに喜ぶべきこと……なんだろうな」


「でしょ?」


うんうん、と一人でうなづきながら、部長おごりのビールをぐいっと一杯あおる。

今日の気分は焼き鳥じゃない、魚だ。

焼きホッケもってこい!!


「すいませ~ん、刺身盛り合わせもお願いします!」


「…そんなに一人で食べられるのか…?俺は無理だぞ」


「余裕ですよ、余裕」


目の前に次々と並べられていくつまみの数に、財布の中身より先に胃の中身を気にする部長をケラケラと笑い飛ばす。


「あの姿になった後って、なんかお腹空くんですよね。耐えられないほどじゃないんですけど、せっかく奢ってくれるならお腹いっぱい食べたいなぁと」


「…俺はおごってやるなんて一言も言っていない。君が『あの2羽が故郷の大空に帰って行きました!詳しい話が聞きたかったら奢ってください!』と俺を唆したんだろうが…」


「てへぺろ」


それで付き合ってくれる部長もなんだかんだで気になっていたに違いない。

なんだろう、この安定感。

部長って、意外と癒し系だったのかもしれない。


「だが、大丈夫なのか?」


「ん?何がです?」


「君のことだ。幽体離脱をすると腹が減るということは、なにかエネルギーを取られているということじゃないのか……あぁ、其の辺はまだ小骨が残っている。気をつけなさい」


ホッケの骨がうまくとれずぐちゃぐちゃにしてしまった高瀬に変わり、実に綺麗に骨取りを行ってくれていた部長。

話の途中にもほぐした身をつつき出す高瀬に渋い顔をしながら、心配そうにこちらを見る。


「昔からなんで、大丈夫だとは思うんですけど……。まぁ、食べればなんとかなる程度ですからね。生気を吸われてるとか、そういうことはないと思いますよ」


寝ている間にも運動していることになるとしたら、その程度は許容範囲だと思う。


「……ならいいんだが……」


「もしかして部長、気にしてます?」


「…当たり前だろう。君にはいなくなられては困るからな。それに色々と押し付けてしまった事だし、もしそれが負担になっているようなら、と…」


真面目に心配をしてくれていたらしい。

優しい。

超絶いい人だな、部長。

動物霊の一匹や二匹や五匹(ちなみに今日の朝2匹増えた。たぬきの親子が。←New!)どうってことないのに。


「部長、今までいろいろ変なあだ名をつけてすみませんでした。これからはもう呼びません」


「……どうした?急に」


「これからはプライベートではおかんと呼ばせていただきます!」


「却下だ」


「打てば鳴るようなこの会話!やっぱりおかんですね!」


「……もう帰ってもいいか?」


「やだ~!部長帰らないで~~!!!」


バタバタ地団駄を踏み、だだをこねてみる。


「ほらほら!お刺身も来ましたし!」


「……俺はもう食えんぞ…」


胃を抑えて、同時にやってきた新しい干物の解体を無言で始める部長。

やっぱりおかんじゃん、とは思うが、流石にここでは口にしない。


「っていうかですね、今回のことで私は思ったんですよ」


「…何をだ?」


あ、部長今、こいつ絶対ロクでもないことを言い出すぞとか思ったな。

眉間にシワが寄った。

だが懲りない高瀬はずいっと身を乗り出し、耳打ちする。


「実は部長って、観音様の化身でしょ」


「………」


「あ、その顔やっぱり…!」


「黙って食べなさい」


「むぐっ…」


呆れ返った顔の部長に、でかい干物の身を口に突っ込まれる。


「ほ、骨が、喉に…!」


「…すまない、こういう時はご飯粒だったか…」


「とりあえずビール!!!」


慌ててビールを一気飲みに、ついでにオーダーもお願いする。


「ホッピーお願いします!」


「…君、たしか以前は酒は飲まないと言わなかったか…?」


「それはホラ、部長ともある程度気心が知れてきましたし、今日は祝い酒なんで…」


しばらくは夜の散策も控えるつもりだから、問題なし。


それに、だ。


「炭酸じゃ大して酔いません。飲むなら断然日本酒」


「……酒豪だったんだな」


「え、そうですか?」


それほどでもないと思う。

酒は神の雫というじゃないか。


「なんか力が漲る気がしません?」


「……酒飲みの思考だな。くれぐれも中毒症状には気をつけなさい」


「は~い…。あ、泡吹いた泡」


届いたばかりのホッピーの瓶が勢いよく吹き出す。

さすが炭酸。誰か振ったな。


「だが…神というなら、私じゃなく君がそうなんじゃないのか?」


「え?」


「…あぁ、こぼれている…。あの山に祀られていた神、瀬織津姫、といったな?」


「はい」


こぼれた炭酸を拭いてもらいながら、こくこくとうなづく。

瀬織津姫とは、神道の大祓え言葉に登場する女神で、古事記や日本書紀ではその名を消された神。

水神や川の治水の神、汚れを水の流れで浄化するという意味での祓えを司る神だ。


恐らくあの山に祀られたのも、洪水を収めるという意味でその性質を祀られたのだと思う。

そこには洪水で亡くなった家族達の鎮魂も込められていたのだろう。


「自分の名前を考えてみろ」


「?」


「及川高瀬。及川は大いなる川とも書き換えられるな。そして瀬は神の名の一部と同じくし川の流れを意

味する。ついでにいうなら高いという字は高貴とも連なるが……どうだ?」


「素晴らしいです、部長」


全然考えつかんかった。


「ちなみに私の名前は森鴎外の高瀬舟からつけたそうですよ。当時にわか文学ファンで」


通販なんかで売られている、芸能人が読み聞かせをする名作文学シリーズCD、あれにはまった。

高瀬舟を選んだのは、ただ単に読み上げていた芸能人が昔好きだった女優だからだそうだ。


なんともお手軽。


大人になってから高瀬舟を読んで、その内容に驚いた。

安楽死がテーマの文学なんて、娘の名前に付けるもんじゃない。


「偶然ですよ、偶然」


「まあそうだろうが……」


そうそ、偶然だ、偶然。

あまりに出来過ぎてるなんて、そんなことは考えない。


『重なる偶然は、全て必然でしかない。もしくは誰かの策略だ』


竜児の言葉が頭をちらりとよぎったが、慌ててそれを打ち消す。


あの2羽の事だって、部長に詳しく聞いたところ、そもそも雉を射ちに行ったという相手がその地主。

社長が猟友会に入っていることを知り、自分の持っている山で雉刈りをやらせて接待したらしい。

鷹までもが同じ出身だったのは予想外だが、これはただの偶然だろう。

そもそも○○県は狩猟場の多い場所だ。


「神はサイコロを振らない」


ポツリとつぶやかれた言葉に首をかしげる。


「どういう意味ですか、それ」


「…つまりだ。俺と君が出会った。もしくは、君とその霊能力者の男が出会った瞬間に、全ては決まっていたということ」


「それってつまり……」


――――――物事に、偶然など存在しない。

サイコロが振られた瞬間に、既に答えは決まっている。

これにて第一部完結となります。

引き続き第二部をお楽しみくださいませ。

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