腹黒い出来杉君と綺麗なジャイアン①
「助けてどら○もーん」
「…そんな態度でごまかせると思っているんですか?え?僕にいくら借りがあると思ってるんです?いっそまとめて体で返しますか?」
「ギャ~~~人身売買される~~~」
「人聞きの悪い。せめて犯されると叫びなさい」
「oh破廉恥」
狭い事務所の部屋の中。
幼女とサシで語り合うのは、いかんもインテリといった様子のイケメン青年。
爽やかさよりも腹黒さが前面に出てしまうあたりはご愛嬌だが、これでも仕事中はそれなりな爽やかさを演出しているらしい。
なんだろう。爽やかさって、実は後付けのエフェクトの一種かなにかだったのだろうか。
それなら是非私にも妖艶さとか愛らしさとかを販売して欲しい。
言い値で買おう。
「んで……聞きたいのは例の神佑地のことですか」
「しんゆうち?」
「……いわゆる神が在所する土地という意味ですよ。まぁ、造語のようですがね」
「ほぇ~」
「相変わらずのバカ面……。僕の下僕として終身雇用してあげるつもりだったのに、最近とうとう正社員になったんですってね。どうせすぐクビになると思いますけど」
「決め付けないでー。これでも頑張ってるんですぅ~」
「君の頑張りなどタカがしれてます」
「バッサリ!」
さすが幼馴染、遠慮というものは既にゴミ箱に打ち捨てられている。
「というか、なんで知ってんの?正社員になったの」
「君の所属してる派遣会社の顧問をしているもので」
「一契約社員の個人情報を垂れ流さないで~」
情報漏えいしてますYO!!
「僕は顧問ですよ?……まぁ、君の情報以外なんの興味もありませんがね。で、今更あの土地のことで何を聞きに来たんですか?君を正社員として雇った勇気ある会社なら、もうあの件からは手を引いたはずですが」
「うん、会社の方はそうなんだけど、ちょっと別件で」
「別件?」
訝しげな表情を浮かべる竜児。
さすがにそれ以上の調べは付いていないようだ。
「ところで君、机の上に座るのはやめなさい。行儀が悪い」
「だって視線が合わないんだもん」
椅子に座っても合わない視線を調節するために机に直接腰かけていたのを咎められ、ペロッと舌を出す。
「ならここにきなさい」
「膝の上はちょっと……」
「僕の膝を断ると?タカ子の分際で」
「謹んでご遠慮させていただきます…」
「遠慮は要りません、話を聞きたかったらこっちに来なさい」
「うぅっ…」
なぜだ。好条件のイケメンの膝の上なのに、気分は売られる仔牛。
「せめておいしく食べて…」
「なら本体を出しなさい本体を。隅々まで<おいしく>いただきますよ」
「絶対嫌」
本気で食われるわ。
「冗談はそこまでとして…。まさか君、あの男と関わっているんじゃないでしょうね」
「…?もしかして知ってんの?あのエセ霊能力者」
「……似非どころではありませんよ。関わりあいがあるのなら今すぐやめなさい。君には向いていない世界です」
「どゆこと?」
さっぱりわけがわからない。
「僕からすれば敵方の人間ですから。直接関わりがあるわけではありませんが、多少調べはしましたよ。それで出て来ただけでも、えらく物騒な一族の出身のようで」
首を傾げる高瀬に言い聞かせるように、「いいですか?」と竜児は言う。
「呪いごとのプロフェッショナル。一言で言えばそういうことになります。
いわくつきの土地や、元々祟が噂されている土地などの祓いを行ったり……逆に相手を呪うこともある。なにしろ、呪い代行なんてものがネットビジネスになる時代ですからね」
「呪い代行……」
「君なんていいカモにされるだけですから、くれぐれも気をつけなさい」
「……」
「まさかもう何か手を貸したんじゃ…」
無言の高瀬に竜児の目尻が釣り上がる。
「う~ん…。協力というか……取引?」
「取引?一体何を」
「……まぁ、犯人逮捕の……?」
「そういえば最近、子供をひき逃げした犯人が、霊に取り憑かれたと騒いで自首する騒ぎがありましたね…。それですか」
おぉ、さすが弁護士、推理が冴えている。
「まったく…。僕に言えばすぐにでもなんとかしたものを…」
「それも考えたんだけど、本当にたまたまそういうことになったんで……」
偶然です偶然と言い張れば、真顔になった竜児は言う。
「前にも言ったかもしれませんがね。この世に偶然は存在しません。重なる偶然は全てが必然か、誰かの策略です」
――――――必然。その通りかも知れない。
「揃いすぎてるよね…色々」
幼馴染二人に職場の上司、そして知り合ったばかりの男。
何かが動き出した。そんな気がする。