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女子会で上機嫌

「あなた気に入ったわ、及川さん」


「ありがとうございま~す」


スーツを選び終わり、夕食と称して誘われた居酒屋で、中塚女子はそう言い放って豪快にビールを煽った。

職場を離れて改めて接してみれば、意外と気の合う相手でびっくりした。


「物覚えもいいし、人の懐にすぐ入り込める人間は得よ?これなら秘書としてもちゃんとやっていけそうだけど…」


「いやいやいや…。そのへんは主任がなんとか適当にごまかしてくれるっていう話になってるんで…」


秘書検1級なんて相手がゴロゴロいる部署で下手に目立ちたくない。

むしろ埋没していたい。


「私にはムツゴロウ部長のお守りという大役が」


「それもそうね」


あっさり納得された。


私にもおつまみください。枝豆がいいです。

中塚女子は自分のビールのおかわりとともにケチケチせずに新しく頼んでくれた。


「あの部長が幽霊に取り憑かれやすい体質、なんて初めはなんの冗談かと思ったのよ?

だから、生霊にとりつかれてるってあの人にわざと肉食系な女を何人か近づけたんだけど…」


「わぉ。実験したんですか!?」


「そうそう。私、自分の目で見ないと納得しないタイプで」


その中塚女史をもってして、どうやら納得せざるを得ない状況が発生したらしい。


「すごいわよ~。インフルエンザに肺炎に事故に借金…。面白いくらい次々消えていったわ。

代わりに部長の顔色も青かったけど、それも霊障かしらね?」


「…それ、単に肉食系に迫られてしんどかっただけじゃ…」


「まさか~」


あははは、と既に良い気味の中塚女子はいうが、多分そうだ。


「そういえばけしかけた女子の中で一人だけひきつった顔で逃げてった子が居たけど…」


あれはなんだったのかしら、と首をかしげる中塚女子に、ピンときた。


間違いない、きっと例のお局だ。


見た目に反して小動物並みの危機回避能力を有している模様。


「普段はしつこいくらいまとわりついてたのに、どうしたのかしらね?」


「懸命な判断だと思いますよ~」


「そうかしら」


君子危うきに近づかず。


「あの先輩、意外と優秀かも」


「…そう?」


「何かあった時には真っ先に危険を察知して逃げ出すと思いますよ」


「…それを見て逃げろってことかしら」


別名炭鉱のカナリアともいう。

有毒ガスが出た際には真っ先に知らせてくれるはずだ。


「面白い見解ね。一考の余地あるかも。……あ、ビールはこっちよ。つまみはそこへ…」


「私ぽんじり食べていいですか」


「いいわよ。梅紫蘇つくねも食べなさいな。こっちも結構いけるわよ」


「ごちになります!」


焼き鳥の盛り合わせの割り振りを片手間でやりながら、次の注文に向けてメニューを広げる。


「しっかしスーツ一着でまさか○万円するとは…」


「オーダーだもの。出来上がり次第会社の方に届けてもらうようにしたから後で確認しときなさいよ」


「は~い先輩!」


「ふふ、あなたにそう呼ばれるのは悪くないわ。あんまり会社の人間とは飲みに行かないようにしてたんだけど……」


「あぁ、気が合いそうにないですもんね、秘書課って」


なんというか、センター争いをする大人数アイドルグループのような鬼気迫るものを感じる。


「今度からはあなたを誘ってもいいかしら?」


「光栄で~す」


たまには女子会も悪くない。


「部長と主任の弱みを見つけたらお互い情報交換しましょ」


「うっす!」


実によく話がわかる先輩で良かった。


「聞いてくださいよ先輩!部長ってばハムスターに取り憑かれてたんですよ!?しかも名前がリチャード!」


「ハムスターはハム太郎で十分でしょ」


「同感です」


どうやら案外似たような思考をしていたようだ。


「そのハムスターって、まだここにいるの?」


「いますよ~。主任にも見せましたけど、先輩も見ます?」


「見えるかしら…」


「なんなら先輩にはサービスしますよ」


実はとっておきの裏技がある。


「先輩、私の手の上に手を重ねてもらえます?」


「こうかしら」


「女子力高い指ですね~。桜貝の色って感じ」


「ジェルネイルって知ってる?キットさえあれば結構簡単よ。…で、これから何が起こるのかしら」


「えっとですね…。おいで、ハムちゃん」


今日とて高瀬のポケットに忍んでついてきていたハム太郎が、その声に勢いよく顔を出した。


「!」


「見えます?」


「……ハムスターね」


突然目の前に現れたハムスターをじっくりと眺める。


「これ、触れるのかしら」


「流石にちょっと厳しいかと。手を離したら見えなくなるんで、気をつけてください」


「そう…」


ちょっと残念そうだが、もしかしたら中塚女子も小動物好きなのかもしれない。


「本当、あなたといると退屈しそうになくて嬉しいわ」


「ムツゴロウ部長が可愛い小動物を引っ掛けてきたらまた披露しますね」


猫や犬なら即日ゲットできそうだ。


「…カワウソ、いないかしら」


好きなんですね、カワウソ。


「………水族館に視察とか行きませんかね、部長…」


いつか部長を動物園に連れて行こう。

二人は熱く手を組んだ。



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