え~っとですね。
履歴書に書くとしたら『趣味:幽体離脱(ただし幼女姿に限る) 特技:除霊、浄霊』だろうか。
「つまりですね、趣味です、趣味」
きっぱりと言い切って、何か文句ありますかとでも言わんばかりに胸を張ってみた。
「部長は、一社員の趣味にまでとやかく言いませんよね?」
「…それが社の信用に関わらない範囲なら、だがな…」
「それなら問題ありません。何の問題もないです」
「…深夜徘徊は…」
「どうせ見える人なんていないし、それ以前に私だって気づく人がまずいません」
部長以外はと心の中で付け加え、ちろりと視線を向ける。
「………できれば自重するように」
「いえす、できればそうします」
「…する気はなさそうだな…」
「のー。どりょくはします」
棒読みのままに返事をする高瀬に、困った奴だとため息を吐く。
「だが助かったのも事実だからな…。今回は不問とする」
「ありがとうございま~す」
んじゃこれでと踵を返そうとして、「あ」ともう一言だけ。
「便利屋、どうでした?」
「…?」
「あの店のオーナー、私の幼馴染なんですよね。小学校時代の同級生で」
その付き合いで番号を知っていたというわけだ。
「よかったら馴染みにしてやってくださいよ」
親の借金のせいで24時間営業の便利屋なんて過酷なものをせざるえなかった苦労人だ。
できれば報われて欲しい。
「番号は登録しておいた。…また世話になることもあるだろう」
「よろしくおねがいします」
頭を下げ、今度こそ本当に踵をかえす。
※
「…え、引き継ぎって今日からなんですか!?」
「そうだよ~。うちのお姉様によろしく頼んでおいたからね」
相原主任に再び呼び出されたかと思えば、告げられたのは早速の配置替え。
まだ正式な派遣の契約解除もされていない状態で、である。
「善は急げって言うじゃない?」
「急ぎすぎだと思いますが」
今日の朝、スマホに届いていたメールには派遣の契約解除は正式には2ヶ月後、正社員としての契約はその後になると書かれていたのだが。
「できれば今すぐにでもあいつについて欲しいんだよね~。だから?」
「だから、って…」
そんな軽い調子で決めてしまっていいのか…?って、いいのか…。
そうだよね、だって部長だもの。
諦めの表情を浮かべて引き渡されたのは、秘書課でも古株と呼ばれる女傑、中塚女史。
「よろしくね、及川さん」
「よろしくお願いします…」
「いきなりで申し訳ないけど、あなたスーツはいくつ持ってる?」
「え?え~と、2着…ですかね」
リクルート用に買ったものと、親から就職祝いに買ってもらったもの2点。
「最低でも後5着は買いなさい。費用は半分会社から出すから、後で領収書を提出すること。
正式採用されればお給料は現在の倍以上になるから、まぁ最初の必要経費と思うことね」
「5着…」
一着1万円程度と考えて、5万円。半分で2万五千円か…と思っていると、最初に釘を刺された。
「吊るしはダメよ。量販店のものじゃなく、ちゃんとしたお店で仕立ててもらいなさい」
「しま○ら…」
「ダメに決まってるでしょう」
きっぱりと言い切られた後で、高瀬を上から下までじっくり舐めるように眺めた後一言。
「わかりました」
「…へ?」
「一緒に買いに行きましょう。今日の終業後、時間はありますか?」
「ええ・・っと…」
「なければ作ってください。これも仕事です」
「…はい」
「では、引き継ぎを………」
――――エラいところに、来てしまったかもしれない。
高瀬の背中に、たらりと冷たい汗が流れた。