表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/96

え~っとですね。

履歴書に書くとしたら『趣味:幽体離脱(ただし幼女姿に限る) 特技:除霊、浄霊』だろうか。


「つまりですね、趣味です、趣味」


きっぱりと言い切って、何か文句ありますかとでも言わんばかりに胸を張ってみた。


「部長は、一社員の趣味にまでとやかく言いませんよね?」


「…それが社の信用に関わらない範囲なら、だがな…」


「それなら問題ありません。何の問題もないです」


「…深夜徘徊は…」


「どうせ見える人なんていないし、それ以前に私だって気づく人がまずいません」


部長以外はと心の中で付け加え、ちろりと視線を向ける。


「………できれば自重するように」


「いえす、できればそうします」


「…する気はなさそうだな…」


「のー。どりょくはします」


棒読みのままに返事をする高瀬に、困った奴だとため息を吐く。


「だが助かったのも事実だからな…。今回は不問とする」


「ありがとうございま~す」


んじゃこれでと踵を返そうとして、「あ」ともう一言だけ。


「便利屋、どうでした?」

「…?」

「あの店のオーナー、私の幼馴染なんですよね。小学校時代の同級生で」


その付き合いで番号を知っていたというわけだ。


「よかったら馴染みにしてやってくださいよ」


親の借金のせいで24時間営業の便利屋なんて過酷なものをせざるえなかった苦労人だ。

できれば報われて欲しい。


「番号は登録しておいた。…また世話になることもあるだろう」


「よろしくおねがいします」


頭を下げ、今度こそ本当に踵をかえす。


           ※


「…え、引き継ぎって今日からなんですか!?」


「そうだよ~。うちのお姉様によろしく頼んでおいたからね」


相原主任に再び呼び出されたかと思えば、告げられたのは早速の配置替え。

まだ正式な派遣の契約解除もされていない状態で、である。


「善は急げって言うじゃない?」


「急ぎすぎだと思いますが」


今日の朝、スマホに届いていたメールには派遣の契約解除は正式には2ヶ月後、正社員としての契約はその後になると書かれていたのだが。


「できれば今すぐにでもあいつについて欲しいんだよね~。だから?」


「だから、って…」


そんな軽い調子で決めてしまっていいのか…?って、いいのか…。


そうだよね、だって部長だもの。


諦めの表情を浮かべて引き渡されたのは、秘書課でも古株と呼ばれる女傑、中塚女史。


「よろしくね、及川さん」


「よろしくお願いします…」


「いきなりで申し訳ないけど、あなたスーツはいくつ持ってる?」


「え?え~と、2着…ですかね」


リクルート用に買ったものと、親から就職祝いに買ってもらったもの2点。


「最低でも後5着は買いなさい。費用は半分会社から出すから、後で領収書を提出すること。

正式採用されればお給料は現在の倍以上になるから、まぁ最初の必要経費と思うことね」


「5着…」


一着1万円程度と考えて、5万円。半分で2万五千円か…と思っていると、最初に釘を刺された。


「吊るしはダメよ。量販店のものじゃなく、ちゃんとしたお店で仕立ててもらいなさい」


「しま○ら…」


「ダメに決まってるでしょう」


きっぱりと言い切られた後で、高瀬を上から下までじっくり舐めるように眺めた後一言。


「わかりました」


「…へ?」


「一緒に買いに行きましょう。今日の終業後、時間はありますか?」


「ええ・・っと…」


「なければ作ってください。これも仕事です」


「…はい」


「では、引き継ぎを………」



――――エラいところに、来てしまったかもしれない。


高瀬の背中に、たらりと冷たい汗が流れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ