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今日も墓場で老人会。

アルファポリス様にて今年1月からほぼ毎日更新しているものを順次移行しています。

気軽に読める明るい和風ファンタジーを目指していますので、感想等いただけると大変光栄です!

ただし誤字脱字報告はどうかご勘弁を(汗)

自覚はあるのですが、量が多すぎて直せませんっ。ご了承のほどよろしくお願いします(土下座)

草木も眠る丑三つ時…。


市街地の片隅にたてられた小さな霊園。

そんな場所に、とある幼女が一人。


「寺尾のおじぃちゃ~ん!!!」


ぶんぶんと手をふり、嬉しそうに霊園内を走り回る幼女。


おかっぱよりも少し長い程度の真っ黒な髪に、好奇心旺盛なまんまるの瞳。

スカートの後ろについた大きなリボンが動くたびにひらひらと揺れている。


「おぉ~たぁちゃん。今日も来たかぁ!」


「おじいちゃ~ん、遊ぼ!」


等間隔に建てられた電灯の真下、「寺尾」と書かれた墓石の前で穏やかな笑みを浮かべていた老人は、駆け寄ってくる幼女に気づくと、目尻を下げて両手を広げる。


「今日はおじいちゃんに朗報!おじいちゃんの目論見通り、遺産相続が大揉めに揉めてとうとう寺尾家は修羅場に突入いたしました!!」


「ほぉ!こりゃ愉快じゃなぁ。して、情勢は誰が優位になっとる?」


「う~ん。遺言書が見つからない状態じゃあ寺尾のおばさんかなぁ?でもおばさんはおじいちゃんの老後の面倒とか全く見てなかったでしょ?それを盾に次女の和恵おばさんも権利を主張してるみたいだけど…」


「和恵とて儂の元へ来るのは月に一度もあればいいほうじゃったがなぁ…」


「仲良く半分こすればいい話なのにね?おばあちゃんの分の遺産までがめつく奪い合いしてるみたい」


「やはりなぁ…。そうなるとは思っとったんじゃ」


眉間にシワを寄せて、うんうんとうなづく寺尾老人。


「昨日は二人で殴り合いの喧嘩になって近所の佐藤さんに警察呼ばれちゃったみたい」


「佐藤のところの嫁は気が強かったらかのぉ。まぁいい気味じゃ。ひと晩ぐらい豚箱にぶち込まれりゃあええ」


「さすがに親族間の揉め事だからそこまではいかなかったみたいだけど…。まぁ、ご近所では結構有名になっちゃったよね」


父親の遺産を争い、認知症を発症した母親の目の前で娘が二人揃って殴り合いの喧嘩だ。

そりゃあ有名にもなるだろう。


まだ良識があった次女の夫がなんとか喧嘩を収めようとしていたようだが、気の強い妻を止めることはできなかったのだろう。

遺産争いをする醜い妻の姿に幻滅し、最近ではこっそり外に愛人を作っているらしいという噂だが…。


「まぁ、気持ちはわからないでもないよね」


「わが娘ながらあの性格ではのぉ…。和恵の所は子も生まれんかったし」


「そうそう。寺尾のおばさんは寺尾のおばさんでシングルマザーでしょ?息子さんが中学に入ってから引きこもりになっちゃったみたいでお金がかかるから余計遺産が欲しいみたい」


「博司か…。あの子も気の強い母親に萎縮してすっかりおとなしい子になっとったが…」


大人しいを通り越して自宅警備員に就職が決定しそうだ。


「で、おじいちゃんの遺言は49日が終わったら開封するように弁護士さんに頼んでおいたからね。おばあちゃんが介護つきの有料老人ホームに終身で入れるようにもう入所の手続きは粗方終わってるっていうから…」


「ハッハッハ!あいつら、期待しとった遺産がろくにのこっとらんと知ってどんな顔をしおるか今から楽しみじゃのぉ」


「何なら弁護士さんに頼んで隠し撮りしとく?」


「是非に」


ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるこの老人。


彼が〈亡くなった〉のは、今から半月ほど前の話。

昔は結構な大手建設会社の役員だったが、定年後すぐ妻が認知症を発症し、亡くなるまでずっと奥さんの介護を一人で行っていた。


その無理が祟って心筋梗塞を発症し、その場で息を引き取ったのだ。


幼女ーーーーいや、高瀬が老人と知り合ったのは数ヵ月前の事。

詳しい話は省くが、母親が認知症になっても面倒一つ見ず、また同居すらも頑なに拒んだ二人の娘に対して、老人は生前から酷い憤りを感じていた。


死後、その怒りのままに成仏することが叶わなくなるほどに。


このままでは悪霊になりかねない、そう感じた高瀬が付き合いのあった老人にしてあげられること。

それがこの『遺言書偽造ざまぁww作戦』だった。


妻の介護で手が離せず、遺言状を用意する余裕などなかった老人のために、死後〈いま〉から彼の遺言を作り上げて、いかにも生前預けてありました的な感じで出して貰おうという、実にシンプルな作戦だ。

日付は後付けだが、老人を高瀬の身体に憑依させて書いて貰った為、筆跡は間違いなく本人のもの。

それを協力者の弁護士に預ければいっちょあがりだ。


遺言状には、遺産を使って老人の妻を介護老人ホームへ入所させる旨を書き残しておき、弁護士にその代

行を依頼しておいたことにして、先に入所の手続きやら何やらを済ませておく。

更に本人の霊だけあって自身の通帳や保険証書など財産の在処は熟知しているから、それを書き記しておくことで遺言状に信憑性を持たせ、疑いようのないものにした上で親族による財産の隠蔽を防いだ。


ちなみに入所予定の介護施設は終身介護つきで一括数千万の前払い。

かけてあった本人の保険金のほぼ全額に近い額だ。


わざと遺言状を四十九日の後に公開するのは、捕らぬ狸の皮算用で争う娘二人が真実を知って愕然とするのを期待してのことである。


まぁ、その相続争いは高瀬たちの想像の斜め上を行き、なかなか面白い修羅場の様相を呈しているのだが。


外野で見ている分にはなかなか面白い。

老人としても多少腹の虫が収まることだろう。


「おばあちゃんのことは心配しないで大丈夫だよ。いいところが見つかったって聞いてるから」


「…そうかそうか」


成仏できなかったのは、一人残すことになる妻への思いもあったのだろう。

ようやく満足そうな顔を浮かべる老人。


「だからさ、今日は遊ぼうよ、おじいちゃん!」


ひとしきり泥臭い話をしたあとで、すっきり意識を切り替え、にっこりと笑う高瀬。

老人も楽しそうにニコニコと「そうじゃなぁ、何をして遊ぼうか」とうなづいている。


「ゲートボール!今日は去年亡くなった春日ばあちゃんが命日でこっちに帰ってきてるみたいだから、一緒に遊んでくれるって!すぐそこの公園で待ってるって言うから、一緒に行こ!」


本来、霊はそうそう自由に動き回ることなどできないものなのだが、そんなことは高瀬には関係ない。

高瀬に腕を引っ張られた老人は、これまでここから一歩も動けなかったはずの体が、当たり前のように動くのを感じ、いつものように「そりゃあ楽しみだ」と笑っている。


一見祖父と孫のように見えるこの二人。だが二人の足元には影はない。


一人は死者。

だがもう一人は生者だ。


「そういえばたぁちゃん。最近妙な男に追いかけられとるっちゅう話を耳にしたんだが、大丈夫なのかい?」


手をつないで歩く途中、心配そうにかけられた声に高瀬は「う~ん」とうなる。


「大丈夫じゃないけど…まぁなんとかする」


「あまり無理をしてはいかんぞ?わしらはもう死んどるからええが、お前さんはまだ生きとるんじゃから」


「あはは。そりゃそうだ。でも平気平気、私の正体に気づく相手なんてそういないからさ」


――――そう、正体。


一見ただの幼女の幽霊にしか見えない高瀬の本来の姿は、現在の姿とは全くの別物だ。


今のこの姿を見て、現実の高瀬とイコールで結ぶことのできるものはそうはいないだろう。


「じゃが儂は出会って直ぐに気づいたぞ?」


「そりゃおじいちゃんだからだよぉ。おじいちゃん、もともと善行を積んでる人だから」


心の目、みたいなものが鍛えられてるんだと思う。


「ただの一般人には私は子供の幽霊にしか見えないからさ。平気平気」


「しかし、たぁちゃんももう結婚してもええ年頃じゃろ?ほれ、コレの方はどうなんじゃ」


「…おじいちゃん、下世話!コレとかもう古いから!」


指を立て、男はいないのかと示す老人の背中を思い切りバンと叩く。


「すまんすまん、余計なお世話だったわ」


霊体だというのに、なぜ叩かれた痛みは感じるのだろうな、と思いながら、老人がちょっと首をかしげる。


しかし、老人の目には、今の子の姿も、本来の彼女の姿も、大差なく愛らしく見えるのだが。


「まったく、世の中の男は見る目がないのぉ…」


「そう言ってくれるのはおじいちゃん達だけよ…」


そのほとんどが既に死者というのが切ない話だが。


寺尾の老人以外にも、高瀬が付き合いのある霊体は結構多い。

そのほとんどが害もなく、ただ残された遺族を見守る為に成仏せずにいる善良な霊だ。

そんな彼らにとって、既に高瀬は共通の孫のような存在として認識されつつある。


できることなら可愛い孫には幸せな結婚をして欲しい。

本人にはまだ全くその気はなさそうだが…。


「誰か、いい男がおらんもんかのぉ。

・・・・・わしらの可愛い孫を幸せにしてくれるような、ええ男が」

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