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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異形奇譚《源泉》〜魔術師達のゲネシス【前半】〜

作者: saltcandy

えっ、読むの?これ読むの?

長いよ?書いた本人が言うのもなんだけど気色悪いしグロいよ?


それでも読むならどうか楽しんで下さい。

※ この作品はフィクションです。実在の人物や団体等に関係ありません。






コンクリート部屋の中。ポタポタと水が落ちる音がする。 それはまるで俺の鼓動を表しているように早いリズムで。



目の前には紫の髪の男なら女、女なら男と思うような赤い目をしたかつて友だった少年が立つ。

気分は勇者一団が魔王城に向かう途中で四天王最弱に急にであった感じだ。



萌衣がいつでも聖術を使えるように少年に集中する。

少年の側には美しい黒髪の少女がいた。少女の何か熱いものがみえる深碧の目は俺達には向いておらず少年に向いている。


紫妃(しき)、お前は何がしたいんだ!」


回りの()()液体をみながら俺は声を絞り出す。

分かっている。あれはかつての友ではなく狂人なのだと。萌衣に説明されているのを。


しかし、紫妃はそんな事をする様な奴じゃないと思う俺もいた。

いつも、会っている紫妃は少し強引なところがあるが普通の人間だ。


紫妃は俺の言葉を聞き。微笑した。

その笑みはまるで天使の慈愛の笑みのように思え、悪魔の嗜虐的な笑みにも思えた。


そして、それはいつもの笑みでもあると

「復讐」

紫妃は誰もいないはずの方を見て言った。確かに狂っている。


「復讐は何も生み出さない!いや、更なる悲劇を巻き起こすだけだ!

それに、なんで無関係な人まで殺した!?」


「明智光秀、源頼朝。遠く異朝ではチンギスハン、ナポレオン。

お前はそういった人達のした事を無駄と言うのか?

そもそも、復讐に僕は生産性を求めいない。趣味に近いようなもんだ。自身の心を満たせればいい。

それに僕から復讐する奴は今も被害を与えている。

そして、僕と同じそいつを殺そうとしている組織に入っている為にそいつ等は殺した」


俺も萌衣や光恵も顔を青くする。その目はひとつの凶器のようであった。

見られるだけで首に包丁をおかれたような感触がする。

こんな目をした人間が普通である筈がない。

俺は覚悟を決める。ついさっき神から渡された聖術。紫妃に通用するか分からない。しかし、俺はここで紫妃を止めたい。


ノビス()アウ()ミイレ()グラディオ()チョロペデイオス(演舞)


周りに数十の色とりどりの剣が現れる。紫妃はそれを感心したように見ながら下を見る。

周囲には萌衣の炎で埋め尽くされている。光恵は萌衣をまだ信じていない為何もしていない。


しかし、紫妃の敗北は目に見えている。ここまで環境が揃っているのだ。

だが、紫妃もそのそばの少女も驚きもしない。神々しい剣と炎に囲まれている図はとても幻想的になっている。


「少し眠ってろタッキー」

紫妃はそう言うと俺の周りが黒くなる。







「『悪霊廃工場』に行こうぜ!」


  放課後、タッキーが目をキラキラして笑いながら僕達三人にそう言ってきた。


「『悪霊廃工場』?なにそれ滝二」

  光恵が胡散臭そうに聞き返す。僕も赤い目を胡散臭そうにしてタッキーを見る。


  天道 滝二は、黒色の髪で身長は百七十程である。因みに学校中からモテまくる顔の持ち主である。

  剣崎 光恵は、ショートヘアの茶髪に茶色の眼、強気な顔をしている。


「紫妃に光恵もそんな顔するなよ~」


「私は知ってますよ!確か、肝試しした子がそのまま帰ってこなかったていう所ですよね」


  どうやら萌衣は知っているようで、青い顔をしながら言い出す。

 聖陽 萌衣は、黒い長髪に学校でもトップクラスの美人である。


  僕とタッキー、光恵は中学からの仲で萌衣はタッキーの小学校の時引っ越しした幼馴染で高校からこのグループに入った。


  ぶっちゃけ僕だけこの中では場違いである。僕がこのグループにいるのは中学1年の時にタッキーが僕が女顔すぎて告った為だ。ちゃんと制服を着ていたのになんて馬鹿なのだろうか。


  もっと言えば、タッキーはイケメンだが友達が少ない。理由は、モテるから以上!である。

女子が寄ってくるのに反比例して此奴には男子が寄ってこない。そして、その友達である僕にはどちらも寄ってこない。


しかし、以前余りにも女顔すぎて男の先輩が勘違いして告られたことはあるがあれはセーフだ多分。

そんな事を考えながら母譲りの若干紫色の髪を撫でる。この髪は生まれつきである。


「その通り!噂では夜な夜な工場内から叫び声が聞こえるそうで、それを見に行ったという七人の先輩方達は何故かそれから学校に来ていないという。さぁ、行こう!」


「何処からお前はその考えに行き着くんだよ」


「げふっ」


ガッツポーズをするタッキーの横腹を遠慮なく蹴る。


「タキちゃん!?」

「ナイスだ紫妃」

驚きと称賛の声と拍手がする。


「まぁ、まて噂だからな、なっ。確かに先輩方達は休んでるけど多分禁止の場所に行って停学処分とかそんな感じだろ?

それに、今迄多くの生徒が行っているからバレなきゃセーフ。それにまだ夕方だから安全だって!」


ゾンビの様に痙攣しながら倒れているにも明るい声で言うため面倒臭いから行くことにした。




「滝二、あんたって何か悪いものでも憑いてない?」


「イヤ〜、俺もちょっとヤバイと思うね。今度神社でお祓いにも行くわ!」


「その前に此処からどうでるかだけどね。取り敢えず、ジャブを一つ」


「やめて!タキちゃんの心のライフはゼロよ!」


半径10メートル程の広さの空間に僕達はいた。


廃工場の中は特にこれといった者は無かった。本当に何処にでもあるような廃工場であった。

しかし、探索していると倉庫があった。そこには、卓球の球が所狭しと置かれていた。


そこをみていると突如コンクリートの床が崩れた。こんな欠陥工事をするなんて工場を作った人間は何を考えているのだろうか?


幸い、怪我は無いがスマホは何故か全員電池切れだった。確か、七十はあったはずなのだが。


「まぁ、廊下のような場所が前方にあるから外に出る道はあるだろう。出口を探すか」


「おお!何か本当の探索みたいになった!」


「黙れ、単細胞。こちとら、鞄は外に置いてきて特に何も無いんだよ」


「ぐはっ」


「タキち・・・」


「萌衣も一々反応すんな」

光恵が二人程生きた屍を量産する。








「何の工場だったんだ?此処は。完全に監獄のようだが」

一番前を僕がその後ろを光恵そして、萌衣最後にタッキーがついていく。


地上部分は、普通だったのに地下は明らかに牢獄のようなものがあった。それも至る所に。

そして、廊下には未だに電気がついていた。色々とおかしいのである。


「確か、スポーツ用品を作っていたらしいぜ。ただ、ブラック企業で社員を何人も・・・」

「っ!?」


僕はタッキーの話を遮る。そして、床に目をやる。


「えっ!」


「どうしたんだよ二人共?」

「そうですよ、紫妃さんに光恵さん」


「床を見てみろ」

僕は、二人に床を見るように促す。そこにはおびただしい程の血の跡。そして、それの元の牢獄。


二人は顔を病人の様に青くする。僕は、無言でドアを開ける。

()()()()匂いがたちまう。部屋には、大量の皿。そこまで日は経っていない。


壁や床には大量の血や文字が書かれている。

そして、顔に四つの男の顔、腰に三つの女の顔がついている死体があった。


「きゃあああ!」


萌衣が床に倒れかける。


「萌衣!」


タッキーがすぐさま、萌衣を宥める。


「之は、本物なの?」

「多分そうだろうね」


怯えながら、光恵が問いかけてくる。僕は肯定する。之は本物である、そう分かるような生々しさがあった。


「ヒッ、ヒィヒィ」

すると、死体から声が聞こえる。どうやらまだ生きていたらしい。


「メシ?メシの時間?ギョギョウははやい?

イヤ?メシの匂いがしニャイ?

いづもは一人なのにギョウは複数いるジ。アッ、そうかきっとギョウは生きているのをタペルンダ!

アレ?でも、このゴエどこかで聞いたこどかある?あっ、もしや滝二か!

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


意味不明な事をわめきながら笑い出す。


「この声、もしかして先輩!?円堂先輩!?」


円堂先輩、サッカー部のキャプテンで現在は秋の試合の為に練習に打ち込んでいるらしい。

しかし、数週間前から行方意不明であった。因みに、円堂先輩が好きな人がタッキーを好きで一度一悶着あった。


「ソ〜です!サッカーガイの期待の星円堂選手デスス!見ろよ、お前が好きな女は今は俺の○○にいるぜ!ひゃははは!なぁ、幸せだろお前も!」


と円堂は、自分の下半身にいる顔に目をやる。狂っている。そうとしか言えなかった。

しかし、その思考は次の現象で海の波によって消える砂の城のように綺麗に消えた。


「そうぼね。

わだし、ドでもドでもしあわわぜヨ。今ままでがガルでうぞのよヨヨに」


その顔が喋ったのだった。緑色の目で円堂を見ながら。首だけで生きている、そんな非現実的な事が起きたのだ。


「「「あヒヒヒひひひひ」」」


そして、全ての首か笑う。タッキーは、萌衣の耳に手をやり聞かせないようにする。タッキーの顔には恐怖と涙があった。

光恵は、僕に抱きつく。もうそろそろやめてもらわないと臓物が出そうな程にキツく。

僕はそれをただ呆然と見る。


「この部屋から出るるぞ」


僕達は、走ってこの部屋を出た。円堂は、立てないようで追ってこない。

しかし、僕達は廊下にでると絶句した。いや、絶望の方が正しい。


「なっ、何よあれ?」

光恵がこぼす。まだ進んでいない方角の数十メートル先に円堂のような異形が牢獄から出ていた。


頭が他の部位についていたり、頭や手がいくつもついているのはまだ序の口。


皮膚が全て剥がされ手の代わりに傲慢な王に従わされている悲痛な顔をしたような牛の頭が二つついていた人形の異形。


肌色の液体に何かを恐ろしい者を見たような顔や目、口、鼻、脳が大量についているもの。


緑色のした皮膚に母といる時の笑顔の赤子の顔を大量に付け、顔に目が二十程あり、髪は途中から百足になっている女。


中には、某ピンクの悪魔の様な顔に手と足がついているやつ等見ているだけ精神が削れるようなマトモなものがひとつも無いのである。


「ハ、ハロー」

タッキーが顔を青くしながらそう言うとそれに応えるかのように襲ってきた。


「にげるぞ!」

タッキーが動けないでいた萌衣の手を掴み呆然としていた僕と光恵の背を叩くと僕達は一目散に逃げ出した。








奴等の足は早いのもいれば遅いのもいる。そして、早いものでも僕らと同じ位である。

しかし、ゾンビのようにスタミナが無いのだろう。


時偶、後ろにいるのを見てみると全く疲れていない様子である。此方は、五分程で疲れているのに対して。

「まだ、アイツらいやがる!このままだと落ちた所ももうすぐだな。他にも道はあったか?」


「道は、1メートルほど段差があるが一つだけあったと思う」

しかし、このままではアイツらに捕まるだけだ。


「アイツらに捕まったら何されるのかしらね?若しかしたら、素敵なお茶会が・・・」


「はは、それに賭けます?」


「現実に戻ってこい二人共。円堂先輩を見ただろ。ああされるんだよ。それよりも何か手持ちの者で撃退する方法をかんがえない?」


現実逃避しようとしていた二人を現実に戻す。そして、この場をどうするかを話し合う。


「一応小さいけど懐中電灯。後は、携帯食が四つ」


「私は、特に。メモ帳とペンくらいよ」


「私は、護身用の電気でバチッとやる奴を!」

「スタンガンね。何でそんな物を持ってるのか触れないでおくけど。僕は、マッチと腕時計位・・・」


そこで僕は、ピン球の事を思い出した。床が崩れた時ピン球も一緒に大量に落ちてきていた。


「賭けになるけど一つだけ策がある。ただ、この策は人道的な事もあるけどやる?」

僕はそう三人に問いかけた。









「いっせえので行くぞ!」


「きゃあ!」


タッキーが萌衣の手を掴み此方に引き上げる。これで全員揃った。そして、その数十秒後に奴等がここに入ってきた。


そこで僕は持っていた途中にあった木の棒で作った松明を持つ。タッキーと光恵も持っている。


「こんにちは。そして、さようなら」


僕はそう言い奴等が半分ほど進んたところで松明をピン球が大量にある場所に投げた。


「よし!逃げるぞ!」


「「グギよぉぉ」」


「ガガガガ、アヅイ、アガガガガイ」


「ゲヒハフヒヤ」


そして、一目散に逃げる。そして、後から大量の断末魔が聞こえる。それを聞いて何故かワクワクしてしまう。


「やっぱりあのピン球はセルロイドだったか」

それよりも、成功を確信して喜んだが。


「セルロイド?」


「セルロイドっていうのは玩具や文房具、さっきの様に昔はピン球に使われていた物質で歴史上最初のプラスチック材。

非常に燃えやすくて今はピン球は禁止されているけどな。

だから賭け。この燃えているので消防車や警察が来るとといいが」

僕はそう説明する。


ふと、みんなを見るとタッキーと光恵はそこまでだが萌衣は死人のように真っ青な顔をしている。


「萌衣、落ち着こう。俺達が救われるにはこうするしかなかったんだよ」


タッキーが必死に宥める。確かに、 襲って来た。しかも明らかに人の形から外れてはいるが人間を殺してしまったのだ。仕方ない。


光恵は、不思議に後ろを見ている。どうしたのだろうか?


「それにしても、妙よね。こっちに火がこないなんて・・・」


火がこないのを不思議に思っているらしい。そして、僕もそれに気付く。


「もしやこっちから風が吹いている?」

「「えっ!?」」


タッキーと萌衣が驚く。そして、その驚きは喜びに変わる。


「もしかして、外か!」

「それが一番妥当ね。私達は生きて此処から脱出出来たみたいね」


それを聞き全員歩を早める。あんな化け物がいる場所にいち早く出たい。それが心の中を占めていた。

いくつかの曲がり角を超え、歩く事に風が強まる。そして、確信する外だ!


二十分程無言で歩き続け遂にドアが一つだけの行き止まりにつく。


「行くぞ!」


僕は、ドアを思いっ切り開ける。ドアは見た目に反して綿菓子のように軽く思えた。


「「「「えっ?」」」」


しかし、僕達はまた絶望した。そこは、外では無かった。しかし、巨大なそうとても巨大などこか神秘的な地下空間であった。










「はは、これは夢だ悪夢だ!そうだろ紫妃、光恵、萌衣」


「之は夢じゃない。現実だ」


「うぅ、うえええん」


二人で笑いながらそこを見る。光恵と萌衣は足を崩して泣いた。光恵がこんなに泣くのは初めて見た。

岩の壁からは、幾つもの滝のような水が流れる。そして、大量の蔦や洞窟、ドアがあった。


滝の水によって一つの泉が出来上がっていた。そして、泉の中心にはひとつの島があった。

島には、本場より遥かに小さいが真っ白な大理石のローマのパンテオンのようなものがあった。


その中から神秘的な薄紫色の光が漏れ出ていた。

前には木の小舟がひとつ。


「でもよ、こんなのが今迄住んでいた街にあるって可笑しいだろう?」


「そうだな。よく今まで地盤沈下しなかったと褒めたいな。

そして、最悪僕達は此処から出る事は出来ない可能性が浮上・・・」


グジョグジョグジョ


距離はそこまでだが音が聞こえた。半分液体状の物が歩いてくる音である。

その音は死神が鎌を持ってきたかのように聞こえる。


「またかよ!」


タッキーが二人を舟に押し倒す。怪我をしたかもしれないがそれを気にしてられない。

僕達もすぐに舟に飛び乗る。

僕とタッキーが舟を漕ぐ。まだ追って来るとは思わなかった。


hurry up(急げ)hurry up(急げ)

demon(悪魔)が来るぞ、ogre()が来るぞ

village(村人)はお前達、

sacrifice(生贄) はお前達

new(新しい)friends(友達)はお前達

doctorate(博士)言ってた

maazisyan(魔術師) 言ってた

新しい友達とは仲良く遊ぼうって!」


オールを漕ぎながら数十秒前までにいた場所を見る。

パッと見、肌色の半スライム状の身長三メートル程の人型の何かがいた。


ドロドロの顔には、わさわさと何かを求めるような動きをする節足がついた巨大な舌がある三つの口。


六つの瞳が白く白目の部分が黄色の目は子供が新しい玩具を手に入れた様な目で僕達を見つめる。


像のような鼻は、赤ちゃんが涎を垂らすかの様に緑色の液体を出している。


その緑色の液体が落ちている地面は魔女が薬を作る釜の湯気のように毒々しい色をたてながら蒸発する。


耳の代わりに人の手がそれぞれ十ずつついており、空気を掴もうとしているかのように手をグーパーしている。


本来あるべき場所に手が無い代わりに天使の羽の付け根の部分に八つの薔薇色の手があった。 その手にはそれぞれ金色の斧を掴まれている。


でっぷりとした狸のような腹の部分には、大量の赤子や十歳にも満たない少年少女の顔がついていた。その顔は笛吹き男に連れ攫われた子供たちのように虚ろであった。


足のように見えるものは全て目によって作られていた。その目は、まるで昔の友達に会ったかのような喜びの光が映っていた。


恐怖に悲鳴すら出す事が出来なかった。本当ならば体も動かなかっただろうが本能がそれをさせない。

幸い、光恵と萌衣はボートの中で蹲っており見てはいなかった。


タッキーは、一瞬見てしまったがそれ以降は固く目を閉じてオールを漕いでいた。

あんなのに捕まったら何が起こるか分からないがろくな事ではないのは分かる。


すると、アレは困った様な声で言った。


「ここ、博士が入るなって言ってた。

お前ら、悪い子!

悪い子はおめめをくり抜いてお仕置きだ!」


そう言うとその八つの手に握られていた斧で岩の壁を斬り始めた。

漕ぎながら僕はハニワの様な顔で呆然と見ていると


ドスン


奴が抱え込める程の大きさの岩があっという間に出来上がっていた。

時間にして約一分、色々な方面に喧嘩を売っている様なものだ。


そして、奴が何をするかを分かってしまった。


「水に飛び込め!」


僕は大声で叫ぶ。


僕は、光恵を水の中に投げ飛ばしてから直ぐに水に飛び込む。

タッキー達も同じくとびこんでいた。


しかし、僕は此処で大きな問題を忘れていた。


「ゲホッ、グボボボ」


そう、僕は泳げないのである。必死にボートから離れようとするが少ししか進まない。

そうやって水と格闘していると奴は動き出していた。


「ピッチャー試験番号013!

イッキマース!」


轟音

その後にボートがあった場所を中心に波が起きる。


「紫妃、危ない!」


すると、タッキーの叫び声が聞こえた。

何が危険だ?そう疑問に思った瞬間僕の意識は途切れた。










「紫妃またいじめられたの?」


「別にいいもん。アイツらが馬鹿なだけだし」


台所に立つ母に聞かれる僕。之は確か小学五年生の時だっただろうか?

台所では、グツグツ愉快な音を鳴らした鍋やフライパンに焼かれている魚等料理の最中である。


母は、女手一つでここまで育ててくれた。親戚も会ったことすら無い。

一度父について聞いたが何処かに行ってしまっていたらしい。


「僕が男なのをアイツらが否定するんだから」


そう言うと母は薄紫色の長い髪をかきながら困った様な顔でその薄紫色の瞳でみる。


「まったく、それは一つの個性なのに。どうしてあなたはそんな邪魔にするのよ?

せっかく、私似の可愛い顔なのに。

もったいないわよ。もったいないお化けがでそな程よ。

もう、そんな顔をしないで!

目と性格はあの人譲りなんだから」


母はそう言うと手のひらに不思議な傷がついている手で僕の髪を撫でた。そして、優しく微笑んだ。

今思えば、あの笑みは女神の様に慈愛に満ちていて悪魔の様に蠱惑的でもあったのだろう。


「でも、アナタの顔や体を傷付けられるのは嫌ね。

仕方ないわ、私の家に伝わる特別なオマジナイを教えてあげるわ。

之は、他の人に教えちゃいけないとてもとても大事なオマジナイよ?

みんながアナタに優しくなるような」


そう言って母はそのオマジナイを教えてくれた。

アンへ(天使)イスト(でもあり)ボルス(悪魔)アウテ(でもある)












その次の年に母は亡くなった。交通事故だで。


金曜日の十三日の夜に、酒に酔った運転手が引いてしまったのだ。

葬儀の日は、近所のおじさんとおばさんが仕切ってくれた。


その後に奴がやって来たのだ。あの時の怒りは今でも忘れられない。

父がやって来たのである。


そいつは、他の人よりも少し背が高かった為よく分かった。

奴の目は僕と同じ赤い目であった。黒色の髪は短く切られていた。


まだ、来ただけならよかった。それでも、怒りは隠せないが今迄きっと仕事で会え無くって久しぶりにあったら死んでいた。さぞかし悲しいだろう。


しかし、奴は仕事で会えなかったのでは無い。奴は、()()がいたのだ。


葬式に来た人僕も含め唖然とした。奴は、家族を連れてやって来たのだ。

怒りで泣きそうになった。母をなんだと思っているんだ!?そんな気持ちだった。


然し、此処で怒ったら奴に負けた気がする。そう思い徹底的に無視した。


そして、葬式が終わり殆どの人が帰ってしまった後。


奴は初めて僕に近づいた。僕はそれを左目は憎悪の視線で、右目で忌避する視線を送った。


「始めまして、紫妃。君の父親の夢影 繡夜だ。唐突だが私達の家族にならないか?」


その時、気が付いたが奴の首筋には大きな傷があった。服で隠れていたが。


それよりも、僕は奴の家族を見た。


一人は妻なのだろう短い黒髪にオッドアイで左は黒、右は瑠璃色であった。


そして、その右後ろには僕の異母兄だろう黒い髪に瑠璃色の目をした男。


左後ろには、 黒い目に黒い長髪の女。之が異母姉だろう。


それを見たあと僕は笑いながら答えた。その笑いは何かを渇望する様な笑いだった。


「お断りします」

そう言って僕は去っていった。


それから、僕は近所のおじさんおばさんと一緒に住むことになった。






『起きろ』

ふと、そんな声がした。重々しくとても尊大な声だ。


『起きろ!いい加減にせんと食うぞ!』


そんな物騒な声を聞き慌てて目を開ける。


昔の夢を見るとは珍しいそう思いながら周りを見渡す。


そこは、檻の中だった。何故ここに居るのかと上を見ると、檻の中には人一人楽々入れる水が流れ落ちるパイプがあった。


そして、それは何か水飲みのような場所に繋がっていた。そこに僕は腰のあたりまで水をつかせながら立っていた。


最後に前には、


「ドラゴン?」


『やっと起きたか』


黒いドラゴンが鎖に繋がれていた。どうやら、この檻にはドラゴンがいるようである。


自分の言っていることが分からないが事実である。明らかに、「俺ドラゴン!」とアピールしている様な日本人が思い浮かべるTheドラゴンである。


それにしても、廃墟に来たら恐ろしいクリーチャーに追われ、外だと思ったら唯の?地下空間であった。そして、仕上げのドラゴン。


もうなにも驚かない。いや、驚ける気がしない。


『ムッ。驚かぬか・・・

まぁ、魔術師ならば当然か』


「はぁ!?」


はい、前言撤回します。素晴らしい程の早さで僕の常識が壊れていく。


もしかして、僕はタッキーに薬を盛られて幻覚でも見ているのか?

あぁ、それならばすぐさまタッキーを殴り飛ばして交番に連行しなければ(謎の使命感)。


『お主は何故そこで驚く!?

お主魔術師だろうに。げんに今も魅了系の魔術を使っておるだろ』


「魅了系の魔術?

精神病院の場所分かりますか?」


『大丈夫だ問題ない。 お主は正常じゃ』


それは死亡フラグだ。

というより、真面目に此処から出たら何処カウンセリングに行こう。そうしよう。


『もしや無自覚か?お主名は何と言う?』

「妖姫 紫妃」


そう素っ気なく言う。この苗字と名前のせいでどれだけ女だと勘違いされた事か?

しかし、あの男の姓を名乗るつもりは無い。


『妖姫?もしや《魅魔》か?然し、男の魅魔とは珍しい』


「魅魔?」


『ウム、魅了系の魔術に優れた一族だ。

然し、四百年前多くのものが教会と集会やらに迫害されてほぼ絶滅。

一部は明や日の本に逃げ出したがな。

特徴といえば、薄紫色の髪に目で誰もが羨む美しき顔だったな』


確かに特徴はあう。赤色の目はあの野郎のクソ遺伝子のせいだが。

然し、それを信じるなんて誰がするだろうか。いや、するはずが無い。


『疑っておるようだがな、《アンへ・イスト・ボルス・アウテ》お主この呪文を知らんか?』

「えっ?」


その呪文に驚く。何故、母が教えてくれたオマジナイを知っているのだろうか?竜は深碧の目を興味深そうにしながら見る。


『これはな、魅魔だけが扱える魔術、魅了系の魔術の最高峰であり、妾達竜ですら恐れ、欲した呪文。

そのせいで、集会に追われ教会には迫害されたがな 』


「思考能力が追いつかないんだが。

それよりもお前雌!?」


『メスとはなんだ。レディに対して最近の若者はまったくなっとらん』


取り敢えず、現実逃避の為に話題を別の所に移す。

話し方的に男だと思っていたがどうやら女らしい。流石は竜、話し方も歳よりのようだ。


『そもそも、捕まっておる女子を見て助けもせんとは之がゆとり教育の結果か。

しかも、欲情もせんとはな。

ハッ!もしやお主、ホモか!ホモで童貞なのか!』


「訂正すると、ドラゴンなんて初めて見る。それにドラゴンならばこれくらい抜けられるだろうと思った事。

後、僕は爬虫類に欲情する変態では無いし、ホモでも無い。

そして、 この年で童貞卒業する筈無い」


そう言うとドラゴンは怒りを顕にする。深碧の目に一瞬炎が付いたかのように見えた。

どうやら、地雷を踏んだらしい。


『妾は、あの集会の魔術師達に捕まっておってろくに魔術が使えんのだ!

それに、あんな知能の無い爬虫類共と同じにするな!唯でさえ、お主少々知恵がついた程度ではしゃいどるドラゴンと同じにしとるのだぞ!


妾だって人間に化ける事位できるわ!


あれだぞ、あれ妾が人の姿になると出るところは出て引っ込む所は引っ込んだ超絶美女だからな!』


何だろうか?最初は尊大な声だったのが残念に見えてくる。

これがいわゆる残念属性か。


よく見ると竜にはいくつもの傷がありそこからポタポタと血が流れ落ちていた。


『刮目せよ!妾の姿を』


すると黒い靄の様なものが竜の周りに漂う。その靄は徐々に人型が小さくなっていった。


ゴト


そして、その黒い靄は地面に落ちた。アレはタッキー並の馬鹿だ。

断言出来る。


「イタタタタ。頭打った、妾の大事な頭が!」


そこには、黒い髪に深碧の目。身長は僕と同じ位の女がいた。

外見年齢も同じくらいだろう。そして、自慢していた位で男好みする体型である。


そんな女が一糸纏わぬ姿で頭を抑えている姿は中々シュールである。


そして、


「人間の姿に成れば外に出れたのに何でしなかったんだ?」

「なっ!お主そこに気が付くとは天才か!」


竜とは馬鹿であるそんな結論が出た。








「ちくしょう、紫妃が」


何とか島の方まで泳ぐ事が出来た俺達はボートがあった方を見る。

あの化け物が巨大な岩を投げそれによって壊れたボートの破片が溺れかけ紫妃に当たった。


萌衣と光恵は芝生の方で倒れている。


そして、あの化け物は何かに満足したのか何処かに行ってしまった。

何だったんだあの化け物は。いや、あの化け物達だ。


今迄、あんな存在がすぐ近くにいたなんて大問題だ。直ぐに警察へ通報しなければならない。


「あの光は何だ?」

そういった風に色々と悩んでいると不思議な光が出ているのに気が付いた。


その光は神殿風の場所から漏れ出ていた。あのギリシャの有名な神殿に似ているが名前は思い出せない。紫妃ならば知っているだろう。


そして、紫妃の事を思い出す。


紫妃に会ったのは中学一年の入学式の日。教室には多くの生徒がいた。

その中に、アイツはいた。廊下側の席で一人本を読んでいた少年。


紫色の髪をポリポリと掻きながら赤い目で本を読んでいた。


その瞬間、衝撃が走った。この感覚が走ったのは二回目だ。一回目は小学二年の時に萌衣にあった時だ。

この時、学生服を着ている事に気づかなかったのは驚きである。


そして、声を掛けたら衝撃的な発言。


「男なんだが?」


ブルータスに裏切られたカエサルの気持ちが分かった。

そこからは腐れ縁である。


だが、俺はあまりにも紫妃を知らな過ぎたと今日つくづく思った。


何故、あの化け物達に対してあそこまで冷静にいられるんだ?

何故、人を平然と殺しておいて何とも思わないんだ?

何故、あの時、燃えていた人達を見て一瞬だけ、そう一瞬だけ笑ってたんだ?


思えば俺はアイツの実の家族に会ったことすら無い。


母に関しては嬉しそうに話していた。

然し、父の話の時何故あんなにも嫌な顔をするんだ?


あいつは、父に何か怨みでもあるのか?


そして、今日俺はアイツをこう思ってしまった。


「化け物」


突如神殿の所から声がした。驚いて前を向くとそこには男と女がいた。

二人とも白衣を着ていた。


男の方は緑色の髪にチャラい眼鏡を掛けた二十歳ほどの青年。

女の方は、金色の髪に紫妃と同じ赤い目の科学者然とした眼鏡を掛けた高校生。


「何であそこから逃げて来れたのよ?

確かに下には失敗作ばかりだけどそれでも可笑しいよ?

まぁ、いい実験材料になるだけだけどね。

いけ、被験体089号」


それを聞いた直後湖の中から何かが出てきた。


それは、首長竜の首が全て人の手によって出来きた存在であった。

先端には巨大な手に青色の目があった。


此処で俺の意識は途切れた。










「おりゃ!」


可愛らしい声の後にバズーカを撃った様な轟音が響く。

目の前で全裸の少女が鉄の檻を殴り壊しているのは中々シュールな光景である。


「ガハハハハッ!

之こそ妾の力じゃ!どうだ驚いたか!?」


「こっちに顔を向けるな痴女!」


出来るだけ目を合わさない様にする。

普通ならばラッキーと思うかもしれないがこの残念な感じのせいで何とも思わない。


逆に檻を楽々と壊す程の力を持っている事も合わさって恐怖する。


「なっ、ちっ痴女だと」


orz状態となるが事実は事実であるで


「服が無いからしょうがないのだ!

あと、裸の方が動きやすい」

「前半はともかく後半は駄目だろ!」


駄目だ、之は筋金入りの変態だ。早く此奴から離れなければ変態がうつるかもしれない。


そんな事を考えていると突如壁が開いた。どうやら扉だったらしい。


やって来たのは白衣姿の眼鏡をかけた博士らしい男と黒いローブの人間が二人。そして、僕は黒いローブの顔を見ると唖然とした。


二人とも黒い髪に()()()を彷彿させるような赤い目をしていた。

しかし、赤い目はあの男とは若干違う。奴とその子供達は僕と同じ深紅色としたら奴等は銀朱色だろうか?


「ん?あ奴等は《影國》か」


「《影國》?」

どうやら何か知っているようだ。


「世界最大級の魔術師達の傭兵団及び暗殺集団と呼ばれている二家の魔術師の集団だ。

二つの家の名はムエィ家とコクト家という」


その名を聞いてドキリとした。ムエィ家、あの男の苗字とよく似ている。


あの赤い目もそうだ。奴は魔術師なのだ。

怒りが込み上げてくる。あの男の顔を思い出すだけで胃に穴が空きそうでもある。


「はやくして下さい、御二方!

うとうとしていると竜が逃げてしまいます!」


研究者らしい人間が真っ青な顔で叫ぶ。アレはそこまで戦う力は無いのだろう。

しかし、二人は動かない。何か話し合っているそうだ。


「あの深紅の目、本家がまた何 で此処にいるんですか?」

「いや、あの髪は魅魔だ。多分だがハーフなのではないか?

魔術も魅了系以外まだ開花していないようだしな」


何の話だ?よく分からない。そんな事を思っているとさっきまで近くにいた人間?がいないのに気付く。


「ゲホッ」


瞬間、研究者らしい人間の顔が跳ぶ。首なし死体の出来上がりである。


ボト


顔が床に落ちる。いや、顔だったものだろう。


「よくも妾を閉じ込めてくれたな!」


今日学んだこと、人間ってあんなにも簡単に首が取れる。

そして、二人の男達の行動も早かった。僕の目ではまったく追いつかない程に。


「「すいませんでした!」」

綺麗な土下座をした。








何だろうか?


明らかにヤバそうな人間が土下座するこのシュールな空気は。

そして、それを見てご満悦な裸の少女。


もしや、この二人はドMなのか?


美女に踏まれたいと思うのか?


うわ、変態だ。この竜も含めて魔術師とは変態が多いのか?

そして、この竜が言うには僕もその変態に入るらしい。


とても複雑な気分である。


「考えている事は分かるがこの二人はMじゃないぞ。

そもそも、こやつらは金で働く時は命大事だから命乞いだ」


「アッ、アッー」

「兄さん!また発作が出てる!」


「いや、踏まれて喘いでるの見ても説得力無いから」


笑いながら男の頭を踏みつけ、踏み付けられた男は涎を垂らしながら笑っている。


「魔術師って変態ばっかり?」

「兄さんやあの痴女竜の様な変態はそこまでだけど変態は多いですね!

ちなみに僕は(魔術師の中では)普通です!」


一度もう既に立っている方に聞くとそう返ってきた。

何か大事な部分が抜けている気がするが。


「兄さんはあの状態に入ると二時間は戻って来ませんね。

兄さん曰く、『之があるからどんな仕事も楽しくなる!』らしくて。

いつもはクール何ですけどね」


髪を掻きながら困った顔をする。年は二十代半ばだろうか?その割には中年ぽいが。


「さて、その間に色々と話し合いましすか。

何で君、魅魔なのに何で本家の色してんの?」










「此処は?」


薄暗い個室に俺はいた。一言で言えばそこは牢屋である。

床に寝かされていたらしく少し体の節々が痛い。近くには萌衣と光恵が倒れていた。


「起きろ!」

「う、う〜ん」


萌衣の体を揺らすとすぐに目を開けた。その瞳でしっかりと俺を見る。


「此処は?」

「分からない。

ただ、変な格好した奴に捕まったのは覚えてる。

光恵も起きろ!」


『酷いな〜、変な格好なんてね。

これでも僕は魔術師としては普通なんだけどね〜』


光恵も起こそうとしたら頭の中から声がした。俺達を捕まえた女の声だ。

その声に光恵も起きたようだ。


『いや〜、何か人が来たと思ったらあの失敗作達から逃げきるし。

あまつさえ、魔術師がいなければ入れないあの空間に入るしさ〜。

まぁ、それぐらい良い被験体って事なんだけどね!』


「魔術師って何よ、さっさと私達を返しなさい!」

「そうだ、俺達を返せ!それに紫妃も!」


俺と光恵が叫ぶ。なんだ此奴は頭が狂ってるのか?魔術師なんて小説じゃあるまいし。

しかし、萌衣だけは叫ばなかった。それどころか、何かを納得した様な瞳になっていた。


「貴方達、やはり集会の魔術師ですか?」

『おや?そこのお嬢ちゃん分かるのかい?』


「えぇ、貴方達の様な存在は抹消しなければならないので。

そういった事は知ってますよ」


どういう事だ?集会?抹消?魔術師?萌衣は何か知っているのか?


「神の為に貴方達を抹消します!」


そう叫ぶと萌衣の髪が赤混じりの金色になる。目も黒から眩い程の金えと変わる。


突然の事で俺は何が何だかわからなくなる。まるで、馬鹿のような三文芝居を見ているようだ。


そして、突如頭が痛む。頭の中で昔の映像がフラッシュバックする。金色の髪の少女と一緒に遊んだ日々が浮かび上がる。


今迄忘れていた記憶に驚愕する時間はなかった。


浄化(ツェルト)(アゥ)(フランメ)!」


辺りがオレンジ色に染まる。炎は俺に燃え移らなかった。しかし、周りの壁はドロドロに溶ける。


「嘘でしょ」


映画の様な光景である。俺は驚き過ぎて思考回路が停止してしまった。


『まさか教会の人間がいたなんてね!魔術的にはクレーソール家かな?

嗚呼!今日はとってもついてる!教会の人間は中々捕獲できないからね!』


「貴方達の魔術と同じにしないで下さい!この力は聖術です!」

そこにはいつもの弱々しい彼女ではなく凛々しく美しい戦乙女がいた。


『それじゃあ、被験体013・042行け!』


ドロドロの壁から二体の化け物が現れる。


一体はボートを壊した奴。もう一体は初めて見るものである。

それはパッと見黒色のアラクネに見えた。


しかし、男の顔は赤色よりの黒いはだに本来目がある場所は潰され、代わりにカメレオンの様に伸びた舌に一つの目があった。


耳は胸の方まで伸びていた。


黒い髪は途中から吐き気がこみ上げる様な緑色の液が滴り落ちている。


体中には水色の心臓がつらさがっていた。


腕は無い代わりに取ってつけたかの様な子供の手が八本足代わりに付いていた。


「っ!?何ておぞましいものを!」


萌衣が息を呑む。光恵は既に気絶してしまっていた。


『おぞましい?それは君達の価値観なだけであって人はそれぞれ違った価値観があるんだよ?

それに倫理やらなんやら言うんだったら君達教会が今迄行って来た過去の過ちを認めようか?

さぁ、始めようか!

踊り狂ってよ!教会の聖職者(石頭)!』


被験体013と呼ばれた奴が突進してきた。その突撃は戦車ぐらい吹き飛ばせる様に思えた。


デウ()アゥ()フランメ()パリー()!」


炎の壁が現れる。その壁に013は突撃した。どうやら馬鹿のようだ。


「そんな!」


しかし、萌衣が叫ぶ。炎の壁に氷の糸が当たる。あの042からとんでいた。


「ヒャッハー」


そして、013はそのまま萌衣に体当たりしようとした。


その時、俺は何も考えていなかった。本当に咄嗟だった。


「なんで!?」


俺は萌衣を思いっきり横から押しのけて代わりに前に出た。


「ぐぎゃ」


俺は吹き飛ばされた。その後、042は首を絞めて萌衣を気絶させる。




「う〜ん、しょうがないね。

予定より早いけど()()()()()()()()()()を飲ますか。

成功して僕達と同じになるか、彼等の仲間入りを果たすか。


どちらだろうね。


嗚呼、早くこの仕事が終わったら()()に戻りたいものだ。

本家の紅茶が懐かしい」


どこからかともなく現れた少女が微笑みながらそう言い俺は何か赤い物を飲まされた後気を失った。










「僕の名前はフェルド・ムエィ・ルプス。

さて、君の名前は?」

「アゥ、あぁぁ」


「妖姫 紫妃」

「そら、もっと踏んでやろう!」


「ふむふむ、ご両親の御名前と職業は?」


「そっ、そこぉお!そこをもっと!」

「ほほぉ、此処をどうしたいんだ?」

「もっと強くぅう!」


「母親は妖姫 燕、今は亡くなったけど確かアパレル店員だった。

男の方は夢影 繍夜、母の葬式の時に一度会ったけど「クズだった」っ!」


ハモった事に僕は驚く。あの男はやはりクズだったのかという確信もあったが。

そして、とても優しそうな顔だったのがあの男の話をすると汚物を思い出した様な顔をした。


「あの男はクズだよ、クズ。

影國を出てから僕達は必死に探しているんだけど中々見つからなくてね」


「ほら、大きな声で言え」

「はい!私はM豚です!ブヒーブヒー」


「兄さん、いい加減にしてくれ!話に集中できない!」

溜まりに溜まったのか大きな声で怒鳴る。


「何を言うかな?弟よ。

まだ、十分も経っていない。

それに、流石長生きしているだけあって彼女は私のツボをよくおさえてくれる」


「今重要な話ししてるの!そもそも兄さん既婚者でしょ!奥さんに言いつけるよ?」


「なっ、兄を売るのか!それだけはやめてくれ弟よ。いや、フェルド様やめてくださいお願いします」


弟に土下座する兄の図。これは酷い。魔術師の世界でもかかあ天下らしい。


「まぁ、話を戻すとねアイツは今影國から追われてるんだよ」

この人切り替え早いな。相当いつも苦労していたのだろう。


「追われるって何したんだあのクズ野郎」


「クズ野郎はね、自身が当主になりたいが為に本家の人達を大量に殺したんだよ。

そのせいで、ムエィ家の現当主、まぁ戦争で言う前線での総指揮官見たいな者だけどね、大激怒さ。


あっ、僕と兄は分家の分家みたいな立ち位置でね。それよりも上の人達を大量に殺したんだよ。


そして、奴が最もクズだったのはね奴は自分と同世代の奴よりもその下の世代、君の様な子供の世代を積極的にやりやがったんだよ。


之が4.5年前の事だね」


「成程、確かにクズだ」


「さて、ここからなんだけどね。

君、影國に入らないかい?」

「はい?リピートアフターミー」


何故急にそんな話になるのかが全くもって分からない。

そもそも、僕はお前等がクズと言っている人間の息子だぞ?


しかし、フェルドの顔は真剣そのものだった。


「まずね、あのクズ野郎の手によって今ムエィ家は深刻な人材不足なんだよね。

特に本家ではそれが顕著でね。以前の三分の二にまで戦力が減っているんだよ。


そんでもって、今僕達は必死になってムエィ家の血が流れている人間を探しているんだよね。

そこで、本家の血が流れている君をスカウトしているわけ


あと、クズ野郎の息子とかは特に関係ないから。クズ野郎の血をいちいち粛清していたらそれこそ戦力の低下が酷いからね」


「それにお前には他にも重要な価値がある」


話していると横から変態がやってきた。おもわず僕は上半身を後にする。


「すまない、少々取り乱していてね。

私はソルド・ムエィ・ルプス、ルプス家の次男だ」


僕はあまりもの変わりように目をこれでもかと開く。

さっきのM豚はいったい何処に言ったのだろうか?


「あまりひかないで貰えるかね?

それで、君の利用価値なのだが君が魅魔である事でその利用価値は一流の魔術師五十人以上の価値がある」


「はい?」


何故僕にそんな価値があるのか?この男は頭が沸いていのではないのか?

嗚呼、さっきのを見るに頭は完全に沸いているな。


「魅魔というのはね、今、現在集会や教会では懸賞金として見つけたものには日本円にして約五十億円払われるのだよ。

魅魔は、四百年前教会と集会にその力を狙われて追われた。


その過程で、十分の七程の魅魔が死んでしまった。

残りは、ヨーロッパから明、そして、日本へ逃げ切った。


何故日本だったかというと日本に大量の神がいたといわれている。魅魔の力を使うのに最も適していたのだろうな。

そして、日本の多くの神と契約して他の神にすら分からない隠蔽の結界の様な物を創った。


今現在、魅魔はまだ存在するが日本の何処にいるか分からない。そんな状況だからこそ教会と集会は魅魔の力を得るために血眼に探している」


自身の血の歴史はどこか神話の様で信じられないという感じだ。

しかし、男の目は真剣そのものであった。


「魅魔の力とは?」

そして、気になった事を聞く。


「魅魔には三つの異名があった。

《魅了系魔術の最高峰》

《魔術師殺し》

そして、之が二つの集団が欲した理由

《神をも魅了する魔術師》」







暗い、真っ暗な暗闇の中。何の感覚もない。


ここは何処だ?俺はどうなったんだ?


『神になりかけの竜の血。

劇薬を飲まされたか』


声がした。男の声だ。しかし、俺は動かない。


「だ、誰だ?」


『ほほぉ、声が出るか。

質問に答えるならば神だ』


すると、目の前に光の玉が現れた。その光は、優しくも恐ろしくも思えた。不思議な光だ。


『それにしても、我の血に再び会えるとは之も運命か。

折角だ、御先祖様が助けてやろう』


そう言うと、光の玉から小さな玉が一つ分離し俺の中に入った。


『我の名前は、ティンデウ。教会の創始者の一人』

そう言うと光の玉はどこかに言ってしまった。





「心拍数、脳波、異常ありません」


「魂の海、確認できました」


「魂の海、活動を開始しました」


「魂の海の中から魔術の島を確認、成功と判断します」


「了解、彼を二十人目の成功例とする。

発送所に転送。

少女の方は?」


『此方、第三手術室成功しました。

彼女を成功例二十一人目とします』


「影國及び魅魔、失敗作、竜いや、竜の方は?」


『迎撃隊は全て殲滅されました。成功例の発送を急ぎます』


『チッス!此方、第四研究室っす。

教会の娘の魂の海を確認して、聖術を解析中っす』


『所長、僕の作品がもうそろそろ切れそうです。

早めに、発送所三人を牢屋に入れたいのですが』


「分かった。あと数分待ってくれ」







「知らない天井だ」

「そんなの言ってる場合じゃないわよ」


「ぐふっ」


目を覚ましそう言われると光恵に思いっきり蹴飛ばされた。何故か久しぶりに蹴られた気がするが。


「ほんとうにすいません。わ、私にもっと力があれば」


「貴方が泣く事じゃないわよ

悪いのは此処に行こうと提案したこの馬鹿だから」


そう言われて俺は思い出す。そして、後悔する。俺が提案しなければこんな事は起きず紫妃は、紫妃は。


「それよりも、萌衣。

アナタは何者なのよ?炎を出すは魔術師やら聖術とかって?」


そんな俺の顔を見てか光恵が慌てたように話題を変える。

すると、萌衣が何か決心した様な顔になる。


「分かりました。説明します。

私は、魔術師達と戦う組織、教会の聖戦者です。


魔術師とは、人でありながら人ならざる技を使う奴らで、今回私達を捕まえた集団は集会という魔術師の中で一番大きい組織の一部です。


そういった輩と戦うには私の様な神による奇跡、聖術を使う人間が必要なんです。


そして、何故私がこの街に来たかというとスカウトと護衛と監視です」


「スカウトと護衛と監視?」


俺は何が何だかこんがらがってきた。あまりにもスケールが大きすぎるのだ。

そして、スカウトと護衛と監視。萌衣はその為に俺達についていたらしい。


「はい。私は七人の教皇からタキちゃんと光恵さんのスカウトと護衛を頼まれていたんです。

貴方達二人には聖術を使う血筋があったので」


「そっ、そうなのね。私にアナタの様な事が出来るのね。

でっ、監視は?」


自分の手をまじまじとみながら少々興奮気味で光恵はきいた。


「はい、使いこなせば出来ます。そもそも、御二方は私より上の家なので私以上でしょう。

そして、監視は元々組み込まれていませんでしたが危険で重要な人物がいたので組み込まれました」


「危険な人物?誰なんだそれは」

そんな人物学校にいたか?不良なんてうちの学校にはいなかったし。


「紫妃さんです。彼は、ご両親がそれぞれ教会が危険視する魔術師の家でした。

しかも、無意識で魅了系の魔術を使っていました」


「「なっ!」」


紫妃が魔術師。しかも、両親が危険な人物だという。そして、それに何故か納得する俺がいた。


「父方の方は、《闇と共に生きる魔術師》ムエィ家でしょう。

ムエィ家は、影國という集会よりも規模は小さいものの教会が最も危険視する残虐さではトップの魔術師組織の二台柱の一つです。


母方の方は、《神をも魅了する魔術師》の魅魔でしょう。

魅魔は、四百年前に教会と集会が協力して抹消しようとしたのですが、当時の教会及び集会の戦士達の半分を殺し、逃げ延びた恐ろしき一族です」


俺はそれを聞き驚愕した。










「さて、ここで問題だけど紫妃君。

魔術ってなんだと思う?」


完全にイタイ二つ名を聞いて呆然としていたらフェルドがそんな事を問いかけた。

魔術、母やクズ野郎が使っていただろう現象。僕は、未だに見ていないが誰でも魔術師にはなれないという事ぐらいは分かる。


「先祖代々伝わる特に何も特別な物を使わない力」

「う〜ん、まぁ見てないならそう考えるのも仕方ないか。

魔術ってのはね二つ種類があるんだよ」


「二つ?」

僕は聞き返す。


「一つは、之が最も多いけどそれぞれの家の神達から与えられるもの。

之は、根本は同じだけどその能力は人事に違う。


もう一つは、魅魔の様に生まれた直後からあるもの 。

之は、その一族全員が同じ能力なんだよね」


「因みに妾はまだ神になりかけの為そういった力を与える事はできん」


と自分が殺した人間の服に着替えた竜が服を確かめながら言った。追い剥ぎである。

ただ、服が小さいのかとても目に毒である。


「あれ?君竜神でしょ?」


「フェルド、お前は分からないのか。この女はなりかけなだけで未だに上位竜(ドラゴン)だ。

だから、魅魔の匂いを嗅ぎつけてここでうっかり捕まったのだろうな」


うん?さっき、ドラゴン等と同じにするなと言ってた気がする。

僕は、チラリと見るとバツが悪そうな顔をしながら顔をしたに向ける。


「いいじゃん。少しくらい大きくでても。それに妾あともう少しで竜神になれるもん」

「一応言っとくとドラゴンというのは人よりも魔術に優れ、不老の存在でね。

複数ある条件の内どれか一つでも達成すると竜神、即ち神になれるんだよ」


「神になりかけってこれって結構尊い存在?」


「イエス、ザッツライト」


僕は之が尊いなんて絶対に信じない。之が尊いならタッキーですら尊いわ!


「話が脱線してるぞ。

そして、最も多い魔術を私達は属性魔術という。属性魔術は一人につき一つ。


もう一つの方は、特殊魔術という。これは、親が二人共別の特殊魔術持っていたら二つとも受け継がれる。


それで、お前はムエィ家の属性魔術と魅魔の特殊魔術を使う事が出来る。

まぁ、属性魔術は未だに開花出来ていないようだがな」


「開花って?」


「開花とは属性魔術が使えるきっかけみたいなもんだ。

因みにムエィ家の神は大神十二柱、その他の従属神達が数百いる。 そのどれもが闇の属性と他方からは言われている」


何となく雰囲気からそれは分かる。しかし、魔術師といわれても実感は湧きにくい。


「そもそも、影國って何が目的の集団だ?」

僕は疑問に思った事を聞いた。 今迄の話から何故わざわざそんな集団を創ったのか不思議でならない。


「影國の最終目標は教会と集会によって迫害されてきた者達中心の世界を創ることだ。


その昔、ムエィ家とコクト家は迫害され逃げ回った。

その時にその二家は出会い誓った、いずれ奴らを見返してやると。


その結果、最初の二家をはじめ多くの迫害されていた魔術師達が集まってきた。

それは、教会や集会達に追いやられ影のような存在にされた者達。


それらは、何時か國にまでに成長した。


これが、影國。虐げらた者達の集団」


高らかに吟遊詩人が唄うようにソルドは言った。その声には、怨嗟、誇り、希望様々なものが入っていた。

そして、その虐げらた者達の血が僕にも入っているのだろう。


僕は泣いていた。

本能が言う。魂が言う。血が言う。そして、僕は言う。


「分かりました。僕は影國に入ります」


その瞬間、僕の体の力が無くなる。最後に見たのは竜が倒れる僕を受け止めた所だ。











()()()の血は逆らえないという事か」


兄さんがボソリと言う。


あのクズ野郎の繍夜の子供はどうやら相当()()()血が濃いようだ。

紫妃君は見るからに儚くそして、男なのに姉さんよりも女らしい顔をしている。


「気を付けろ。魅魔は神や魔術師程魅了にかかりやすい」


「痛い!ちょ、兄さん髪が無くなる!禿げるって」

すると兄さんが僕の髪を掴んでぐしゃぐしゃにした。

兄さんのせいで最近白髪が気になっていた髪にさらにダメージが!


「ふっふっふ、今の内にあんな事やこんな事をしておけば」


何か不穏な空気があったのでそこを見れば竜が紫妃君の服を脱がそうとしていた。


「何してるんだ?アレ」


「お前知らないのか?神に至る道の一つを」


「はい?」


神に至る道?いった何でいま。


「魅魔が何故《神をも魅了する魔術師》といわれているか知らないのか。

魅魔はだな、神を伴侶にするんだよ」


「はい?神すらも欺くとかそんなんじゃないんですか?」


「何故魅魔が教会と集会に追われても生き残れて奴らの半分を殺し尽くしたか。

それは、奴らに多くの神を味方にしていたからだ」


成程、兄さんが魅魔を重要視するのは当然か。上手くいけば此方は新たな神を得ることが出来るのだから。


「それでだな。魅魔の伴侶はな強制的に神へと格上げされる。

それが、教会や集会が求めて止まない理由だ」


「なんですかそれ!もはや無敵じゃ無いですか。

それじゃ、あのクズ野郎も今神に?」

そんなのになったら奴を殺すことは不可能。封印するのも難しくなっちゃうではないか。


「落ち着け。魅魔は遊びで異性と交際する事が多い。本命は別だったのだろう」


「なっ、成程。それで、あの竜は神になる為アプローチしてると?」


「それもあるが、あれは魅了されているのだろうな。魅魔は上位存在程魅了されやすい」


「クッククク、さて残るは此処だけたぞ〜」


「そこは流石に!」

僕はもはやパンツ一丁となった紫妃君を更に脱がそうとする竜を止めようとする。


しかし、それは遅すぎた。


「なっ!之は・・・」

「「っ!」」


その瞬間、僕と兄は男としての自信が崩れ落ちた。









僕は、窓から日本庭園が見える明治時代にありそうな応接間のような場所にいた。


『魅魔がこんな所にやって来るとは珍しいね』


『しかも、之は本家の血だな』


『じゅるり。ほっぺが美味しそう』


『我の子孫の内の一人がついにか』


『いや、此処にいないという事は遊びだったのだろう。それにクズ野郎が来ても困るだけだ』


『しかし残念。なりかけに唾を付けられているわ』


『ふふふ、此処は先達として譲りましょうか』


『ムッ、この竜は私の一族のものだな。私の一族から神が現れるとは素晴らしい』


『竜はズルいのぉ。儂の子孫はまだ二十もいっとらん』


『いや、二桁でも十分多いだろ!爺さん』


『・・・・・・』


「誰ですか、貴方達は?」


目の前に、()()の椅子。そこに、六人の人に六人の異形がいた。一応綺麗な言葉使いにする。


そのどれもが、目(若しくは目に該当する部分)が赤く黒色の髪か体をしていた。


僕は椅子に座ってそれを確認した。


『嗚呼、僕達はムエィ家を取り仕切る十の大神だよ。

今回は、君に魔術を与える為に意識だけを本部の方に移しただけだから』

と真ん中に座る僕と同じ位の青年が微笑みながら言う。


「はぁ」


『おや、リアクションが薄いね。まぁ、今迄一般人として生きていたんだ。

もう頭の中はパンク寸前でしょ』

ケタケタと面白そうに青年が笑う。


そりゃそうだ。今日だけで人生一回分の不思議は満喫しただろう。


『初代、さっさと終わらせぬか?儂はもうそろそろ日課の相〇を見たいのだが?』


『嗚呼そうだったね。僕もアニメの続きを早く見たいし与えるか』


「あれ?神って思ってたのと違う」


『婿よとある人はいったぞ。『考えるな感じろ』と』


「ちょっと待った!婿ってどういう事だ?」


僕は婚約した覚えもそれどころか女性と付き合った覚えも無い。

竜はやはり頭がヤバいのか?


『私が見た感じあの竜はいいわよ〜。

スタイルも顔もそれに何でも尽くすタイプよあれは。

まぁ、竜だから性格が残念だけど』


「竜の性格はあれがデフォルトですか」

『ウム、竜はあれがデフォルトだ。諦めるのだ少年。我の妻もあんな感じだ』


『そうだな。竜は何故か性格が酷い』


今日だけで声で此奴はマトモだと分かるようになってきたがこの中で一番マトモなのがクトゥルフ神話に出てきそうな黒色の触手と体から大量に角が生えた男とはこれ如何に。


『まぁ、さっさと渡したいんだけどね。

君ね、魂の海が広いわ魔術の島が大きいのに複雑だわで難しいんだよ』


「魂の海?魔術の島?」


『魂の海はその者が一度に行使できる量。現代風でいうと、魔力とかMPだと思えばいい。

魔術の島は、お主の魔術を決めるのに重要でな。大きければ大きい程強力な魔術を得ることができる。

因みに少年は島が複雑な為少々付与するのを難しいのだ』


「あっ、ありがとうございます」


『ウム、礼はいらぬ。あと我は皆からアザトース若しくは触手神と言われている』


「ぶっ!」


思わず吹き出した。触手神は酷い。それよりも、アザトースはクトゥルフ神話の架空の神では無かったのか?


『皆から言われているだけだ。真名は忘れた』

あっ、あだ名なのか。それでも触手神は酷い。


『出来た!それでは僕はアニメの続きを』

と初代と言われた神が何か黒色の玉を僕に投げてどこかに行った。それに続いて続々と他の神はいなくなっていく。


最後は僕とアザトースが残っていた。


『さて、我はお主に言わなければならない事がある』


「はい?」


『実は、お主の父にして我が魔術を与えた存在はお主の母をも殺しているのだ。

本当に済まなかった!』


「えっ」


僕の表情は固まる。母は事故死ではないのか?そして、怒りが込み上げてくる。

母はあいつの事を話す時はとても嬉しそうだった。なのにだ、奴は母を殺したのだぞ。


明確な裏切りだ。


『そして、通常魅魔は死ぬ時契約をした神のもとに魂だけ戻るのだが。

その魂はどういう方法を取ったのか知らぬが奴が持っておる。

我はお主の母が契約していた神と旧知の仲でな。その事をすぐに知った。

そして、我はお主を知った。葬式の日、あの男に憎しみを持っていたお主をな』


「葬式の日いたのか」


『嗚呼、見ていた。

それから、お主が近所の者に匿われてから奴がやって来ないか見張っておった。

之は、ほかの者も知らぬがな。

そして、今日お主は魔術師になった。その事で、お主に頼みがある』


目に該当する部分をうるうるしていたのをやめ。しっかりとした眼差しで僕を見る。


その目には決意の表れがあった。


『我は呪いによりあの男を殺すことができぬ。そこで、お主にあの男を殺して欲しい。


父を殺す事になりその事がお主に十字架を背負わせる事になるかもしれない。


之は本家の頼みというより我の我儘だ。断ってもいい』


「何故僕なんですか?」


そうだ。影國の人達は僕よりも強い人達ばっかだろうに。

その中には、奴を殺す者もいるだろう。


『それが運命になるだろうからだ』


「はい?」


良く分からない事を言う。いや、神なのだから人間には分からない事を言うか。


そして、僕はさっさと決心をつける。


「分かりました。僕はあの男を殺しましょう。それによって、どの様な十字架を背負う事になるか分かりません。

しかし、僕は進みます。ゆっくりでも進みます!亀のような歩みでも進みます。

どんな道でも進みましょう。終わりが無くても進みます。

いずれ奴の首にナイフを付けてから」

僕は宣言する。奴を殺したら僕は十字架を背負う事になるだろう。しかし、そんな事はどうでもいい。

僕は奴に復讐をしたい。母の尊厳をぐちゃぐちゃにした奴を。


『お主の決意しかと聞いた!

我はお主の進む道を見届ける。

お主の復讐に我も手を貸そう。

お主の十字架我も背負おう。

何時か、奴の首を切り飛ばし、

何時か、お主が運命に従い、

何時か、お主が希望を切り開けるまで、

我はお主を導こう!それが、神たる我の役目でもあるからだ』


高らかに宣言した。それはあたかも聖戦を宣言する様な高貴さがあった。


『妖姫 紫妃、我はお主の行く道をしかと導く』

最後に神様は笑いながらそう言った。







『凄い宣言だったね』


『初代か。お主アニメでも見ておったのではないのか?』


我が紫妃がいた椅子を見ていると初代がひょっこりとやってきた。


『あれは、録画予約しているからね。

さて、▪️▪️▪️▪️▪️も酷な道に行かせたね。

しかも、十字架の内容を言わないのは駄目でしょさすがに。

それに、人は神の声に影響されやすいのをわすれた?』


『仕方あるまい。

それに我の言葉は着火剤に過ぎぬ。奴の中にあった運命という名の薪を燃やしたに過ぎぬ。


そう、

之が運命だ。


だから、奴は決して諦めまいだろう。

そして、必ず成し遂げる』


『そうかい。

まぁ、僕も出来るだけ手助けしよう。

そういえば、この事についてアイツに言ったの?』


『初代よかたじけない。

そして、奴には言っとらん。知ったら、奴は暴走するからな』


そう言って、我と初代は部屋を出ていった。










「うっ、うん?」


体の感覚が戻る。そして、唇に柔らかいものがなにか当たっている感触がある。

そして、鼻は女性のいい匂いを嗅ぎとる。


ゆっくりと目を開けると怪しく笑う女の顔があった。

それはあの竜であった。


「ムッ、起きたか。少し待て、今ディープなのを少し・・・」

「ちょ、おま何すんだ!」


僕は必死に暴れる。之は強姦だ!訴えてやる!

しかし、流石竜。非力な僕の力ではうんともすんとも動かない。


「クッククク、そんな緊張するな。すぐ良くなる」

「お前は、同人誌の読みすぎだ!

そこの兄弟さん助けて!」


僕は、フェルドとソルドに救援を求める。


「ごめんね紫妃君、いや紫妃先輩。僕達は君に男の自信をズタボロにされたんだ」


しかし、フェルドは何か悟った様な顔をして応え。ソルドに至っては屍となっていた。


そして、再び唇と唇はひっつき。そこから舌が投入される。


「んむむむ」


舌が口のなかを縦横無尽に動く。舌を噛もうとしたが口に力が出ない。


されるがままである。


そして、それに快楽を覚える自分を殴りたい。現在、自制が勝っているがいつ何時快楽が勝つか分からない。


「んっ、プハー」


そして、やっと舌が唇から離される。短いようで長かった。

そして、顔を見る。


竜の顔は林檎のように真っ赤で目には何か良く分からない欲望が見えた。

その顔に僕は思わずドキリとする。芸術家が見たら思わず絵に書くだろうと思えるほどうつくしかった。

そして、ボソリと僕の耳に声をやる。


「次はお主だ」


そして、僕の理性は途切れた。


「ってなるか!」


素晴らしい程のアッパーを決める。蝶のように舞い蜂のように刺すのモハメド・アリもびっくりの出来だと思う。


裸にされた挙句童貞まで取られてたまるか。


竜はバタりと後に倒れたと思ったらゾンビの様に起き上がる。


めんどくさい。心底そう思う。


「おのれ!女の顔を殴るとは。

しかも、婆様直伝の魅了術も効かぬとは」


「正当防衛だ!」


「こうなったら無理矢理・・・」


「なんでそうなる!」

やばい目が怖い。ホラー映画の怖さが醸し出されている。


そもそも此奴はこんな奴だったか?最初は本物の神様のように思える程尊厳があったはずなのだが。


そんな事を思っているとじりじりこちらにやって来る。本当にゾンビか?


「まず話し合おう。そこからだ」

「ほぉ、話し合えば結婚してくれるのか?妾は優良物件だぞ。料理も洗濯も裁縫も完璧だぞ」


僕が何言ってんだこいつという目で見ているとフェルドが割って入ってきた。


「兄さんが言うにはね・・・」


そして、魅魔のことについて話した。母があのクズとは遊びだった事は鼻で笑ったが黙って最後まで聞いた。


そして、聞き終えたら


「お前は、遺産金目当てで老人と結婚する性悪女か!」

と怒鳴りつけた。これは少々自己中心的ではないかと僕は思う。


僕だって自由に恋愛をしたい。

すると、目を捨てられた子犬の様にうるうるさせながら口を開いた。


「実際、妾も最初魅魔の香りがしてこの街に来たときそういった考えだった。

しかし、お主と実際会ったとき少女漫画でいう一目惚れにあったのだ。

最初、話したときとても緊張した。心が何故か暑くなった。

妾の()()()()わ輝かせてくれると思うた。

お主といる世界はきっと素晴らしい眺めになるだろうと思うた。

お主とならば幸せな生活を歩めると思うた。

だから結婚してくれぬか?

妾ならばお主を幸せに出来る!」


こういったのは男が言う立場なのにと思う。

しかし、その目は悪徳政治家が演説している様な薄っぺらい目ではない本気の目であった。


自分は天井を数秒程見上げ、()()を見た。


深碧の目をじっくり見る。

そして、母を思い浮かべる。優しく、凛々しく、たまにおちゃめな母を。


“母さんに報告します”


「幸せに出来るならばしてみろ」


すると自分の手の甲にに母と同じような傷がついた。







「おめでとう。しかし、此処は敵地だ。集中しろ」


「異議あり!あの竜のせいだ」


現在、ソルドからお叱りを受けていた。


僕は受けた側で最初はあっちなのだが?

まさか、こんな場所で結婚を前提にしたお付き合いを決めることになるとは思わなかった


「僕ハ何モ見テナイヨー」

そして、フェルドは地面で横たわっていた。どうやら、年下に先に恋愛をする事がショックの様だ。


二人は、耳に手を当てて後ろを向いていたらしい。

そして、竜の方は何故か発光しながら寝ていた。ポ〇モンの進化の場面を見ている気分だ。


にしても、奴は僕が気を失っているのをいい事に服を脱がせていたらしい。


竜は本当に変態だ。


「まぁ、お前が開花したのは良かったが。

今、姉に電話をして脱出の手筈を整えている所だ」


「文明の利器を使いこなす魔術師」


そう言いソルドがスマホを取り出し電話をする。魔術師ってもっとファンタジーの様な生活をしていると思ったがちょっとショックだ。


「脱出か」


「うん?嗚呼、ちゃんとお前の友達は助けるぞ」


「そうですか。

それよりも、何で集会で雇われてたんだ?

集会って敵な気がするけど」


「魔術をするにも何でも金が必要だ。

集会は表にも大きな会社が複数あるから金払いがいいんだ。

そして、今この研究所の研究者に影國の本家の一人がスパイ及びスカウトとしているからそれのかいしゅうだ。

奴らは薄々気付いてるかもしれないがどうせ覆せないと思ってるからな」


「成程、下に見られてると」


そんな話をしていると、竜の発光が徐々に弱まっていった。


「兄さん、もうそろそろ神になるよ」


「今日はついてるな。神の誕生をこの目で見る事が出来るなんてな」


「えっ、あれが本当に神に?」

あの物凄い変態が神になるとは物凄い違和感だ。

それにしても成り行きでとはいえ今日は本当に変な日だ。


廃工場に訪れたら化け物に追われ。変な空間が今まで街の地下にあり。

化け物によって溺れ、流され、行き着いた場所は竜宮城ではなくドラゴンがいて。

そして、魔術師と知り、その組織に入り、魔術を得て、最終的に神の伴侶になる。


まぁ、こんな日があってもおかしく・・・


「ないわけねえだろ!」


何故こんな事に。僕が今日何をしたと?そもそも、この残念竜と結婚生活ってよく考えたら胃に穴が開くわ!


あの言葉にグッときたとはいえもう少し熟慮すれば良かったと後悔した。


「いいじゃん。性格は兎も角美人さんじゃん。

僕は、未だに彼女いない歴イコール年齢だからね。

君が忌避する理由を知りたいよ」


今迄倒れていたフェルドが血の涙を流して僕を見ていた。

どこのホラー映画だ。


「確かに、何故お前は嫌がるんだ?」


「まだ出会っても一日も経っていない人と付き合う程僕を神経は太くない。

少し、色々ありすぎて脳が働かなかったようで今自己嫌悪中。

それによく考えたらこの性格は冗談抜きでひく」


思い起こせば、此奴は本当にバカで変態だった。美人なのが勿体無い。


「何も今すぐという訳では無い。ただ、確定しただけだ。

私も妻とは政略結婚の様なものだったが今では愛してるぞ。

そうだ、政略結婚っと何も変わらん」


「まず政略結婚という考え自体古い」


「まぁ、時間をかけて愛を育てればいいだけだ。

寝顔を見てみろ」


「イタッ」


僕はソルドに頭を捕まれ強引に寝顔を見させられる。

そして、その寝顔は一言で言えば天使の様であった。


寝ていたら美人なのにと少し残念がる。いや、あの性格がもしかしたらいいのか?

と一瞬血迷いかける。


そして、発光が無くなり、微かに瞼を動かし竜いや、竜が目を開ける。


目と目が逢う。


「クッククク」


竜が不気味に笑う。その笑いは何故かいまでは魅力的に思える。

って危ない危ない。どうしたんだ自分は?何か変だぞ。


それに戸惑っていた為僕は後に手をまわされていた事が分からなかった。


「捕まえたぞ」


「ちょ」


柔らかいものが体に当たるそして、首の辺りに生暖かい息を感じる。


「ヒューヒュー」


「兄さん、僕は泣いてもいい?」


「大丈夫だ既に血の涙なら流してる」


あの二人はいつの間にか遠くに待機していた。


「さっさと脱出しようか。ア・ナ・タ」


「はい?」


「何を寝惚けている?妾の初めてを奪った罪は重いぞ」


「何言ってんだこの竜?」

初めて?罪?いや、あなたが勝手にやった事でしょ。

そもそも、何もしてないだろ。


「妾の名前は竜ではない。茨院(いばらいん)だ。

イバラと呼べ」


碧目を細めながらイバラは言った。












「萌衣は、何で俺に隠してたんだ?」


「タキちゃんはきっと紫妃君に話していたでしょう。

そして、紫妃君は無意識にタキちゃんを誑かしていたと思います。

魅魔は、人を弄ぶ事がある為それを危惧して言いませんでした。


それに、あれは無自覚に魅了の魔術を使っていましたからタキちゃんはほぼ紫妃君の言いなりになっていたでしょう。


魅魔の魅了の魔術は聖術や魔術を使う者程かかり やすいんです。


私も教会が配布してくれた聖符がなければ危なかったですね」


「そんなに強力なのね。

にしてもそれじゃあ何で紫妃を排除しなかったのよ?

貴方なやそのお仲間さんなら簡単でしょ?」


「なっ、何を言うんだよ光恵」


萌衣がそんな事する筈がないだろ?しかし、光恵はどこか軽蔑した目で萌衣を見る。


「しようと思いました」


「なっ、どういう事だよ萌衣!?」

「滝二、萌衣は魔術師は排除すると言ってのよ?魔術師は絶対的悪と言っているのよ?紫妃の両親の家は危険だと言ってるのよ?


しかも、教会は紫妃の母方の方の家を滅ぼそうとしていたのよ。

私から見れば教会は危険思想の集まりに見えるわ」


「えっ」


萌衣が目玉が飛び出るのではと思う程大きく開ける。


そんな事を本人の目の前でいう事か?


しかし、そんな疑念を思う間もなく萌衣が口を開く。


「光恵さん!


何ていう事を言うんですか!


教会は正義なんです!


魔術師は絶対的に悪なんです!


滅ぼさなければならないんです!


魔術師達の崇める邪神悪神も封印しなければならないんです!


教会が正しいと言うことは何でも正しいんです!


前言撤回して下さい!」


萌衣が壊れた絡繰人形の様に叫ぶ。その目はあの魔術師達の目と同じだった。

それを光恵が胡乱げに見る。


「紫妃が言ってわね。キリスト教やユダヤ教等の

アブラハムの宗教の悪魔等は違う宗教の神等もいるって。

貴方が言う邪神悪神、魔術は同じなんじゃないの?

それに・・・」


「そんな事ありません!」


何か言いかける前に萌衣が叫ぶ。その目には涙が流れていた。

俺はそれ以上萌衣に泣いて欲しくなかった。


「そこまでにしよう」


「あら?肩入れする気。

まぁ、こんな生産性の無い事を話しても何も変わらないわよね」


そう言うと光恵はポトリと座った。









「さて、イチャイチャしているの別に言いけど何の魔術を与えられたんだい?」


女性に抱き上げられるという相当恥ずかしい事になっている僕を満面の笑みでフェルドは見ていた。


「うぅぅ、モチモチするのぉ。もう少しだけ触っていたい」

「ふんむうん(止めろ!)」


「くっ、体が疼く!」

「兄さん、落ち着いて」


そして、モミモミされる事約三分。


「ハァハァ。疲れた」

「「お疲れ様でした」」


僕は倒れふす。そんなにモチモチしていだろうか僕?


「魔術ってどうやって確認をするんだ?」


「うん?簡単だよ。

特に僕達闇國は教会や集会の様に詠唱なんていう言うだけで精神的ダメージを受ける事なんてしないからね」


「というと?」


「教会なんかはまだ僕達には分からない言語で言うからマッシだけど集会はやばい。

普通の言葉で厨二病の様な事を言うんだからね。

皆いつも集会と戦闘がある時は笑うのを我慢するよ」


「よかった!闇國でよかった!」


そんな厨二病のようなもの言えるか!あっ、でもタッキーならば楽勝か。


「本題を言うがコツとしては自分の中にある物を吐き出す感じだ。


何かを吐き出す感じで深呼吸をすれば大体どんな魔術か大雑把に分かる。


後はそれをどう工夫するかだな。

例えば俺の魔術は」


そう言うと、ソルドは目を閉じ自身の影を思いっ切り蹴った。


グイン


すると、影がぐにゃりと動いた。


「グルルル」


そして、影の中から 青色の狼の頭が現れた。青色の狼はゆっくりと影から姿を現す。


「闇國だけにある魔術だ。

他方からは白・黒混合属性召喚系と言われている。

この狼は海狼という種類だ。

こいつ自体は青属性自然系で魔術を使える」


「黒は闇、白は空間、青は水といった感じで属性は色によって分けられてるんだ。


因みに僕達ルプス家は召喚系が殆どでそのどれもが狼なんだ。


ルプス家は、ムエィ家本家の分家セイズ家の十二の分家の一つ。


つまり、本社の関連会社の下請け会社だね」


とどこか自傷気味に笑いながらフェルドが言う。なんとも言えない哀愁が漂う。


「それで本家の方では大雑把に五つに分ける事ができる。

影、死、夜、異形創造、腐食、夢


そして、分家はその本家六系、とその他十種の十六家ある。

系統は遺伝する事が多い。


お前の父親は確か夜と異形創造の複合系統だからお前もその可能性が高い」


「あの男と同じは絶対嫌だ」


僕は汚物を吐き捨てるように言った。それを聞き二人は苦笑いをする。


「まぁ、試しに魔術をと言いたいんだけど。

兄さん?」


「嗚呼、また来たな」


二人の顔が変わる熟練の兵士の様になる。僕は、ふたりが見ている方を見る。

そこには、大量の


「蝶?」


であった。


しかし、その蝶は人間位の大きさで羽の部分は人間の色とりどりの目よ集合体である。


頭は口を縫われた何かを求める様な表情の人間の顔が三つ、胸はギザギザの鮫のような歯がある口、腹からはぐにゃぐにゃと動く触手が無数に生えていた。


それが、少なくとも数百いるのである。


「また来やがったな。

丁度いい、行け海狼」

「グルルル」


「それじゃあ僕も、狼男(ルーガルー)

「またか?それに私はマコンだ。種族名で言うな」


フェルドの影からマコンという金髪の貴族の様な格好の男が現れた。

その目でギラりとフェルドを睨む。


「まぁ、私も神の誕生をこっそり見れたからな。代わりにいつもよりも魂力は少なめにしてやろう」


そう言うと、フェルドから金色のオーラ的な物がマコンに送られる。

金色のオーラは神々しい色なのに禍々しい雰囲気であった。


「それにしても気色悪い蝶だ。近寄るな」


マコンが嫌な顔をすると何も無い空間が一瞬光った。

眩しさに僕は目を閉じる。

目を開けると大量の蝶達が周りを囲んでいるが一定のラインまで進めないでいた。


「ほぉ、白属性か。という事はコクト家の関係者かの?」


「竜殿は博識ですな。しかし、私は防御中心なので竜殿とソルド殿お願いします」


「ふふん、伊達に長生きしとらんからの。

よかろう、旦那を守るも妻の役目!

紫妃よしかと妾の力を見よ!」


「いや、まだ認めてねえよ!」


僕はすぐさまイバラの考えを否定する。

此奴は、ほっとくと何を言うか分からない。例えるなら、街ひとつ破壊できる爆弾を持った危険人物が悠々と歩いている様な感じだ。


「って、おい!」

「心配するな紫妃」


そんな事を考えているとイバラが外に出る。僕が驚くとソルドが大丈夫だと言う。


何故?と思うとイバラが白い陶磁の様な手を横に伸ばす。

その手から手の色とは真反対の漆器の様な黒色のイバラが伸びる。


「ゆけ!」


茨は次々に伸びていく。そして、蝶に当たったそばから蝶は白くなり最終的に塵になる。


その茨はまるで粘菌の移動の様に複雑になる。そして、三分ほどで全ての蝶がいなくなる。


僕はそれに思わず拍手を送る。


「どうだ?妾も凄いだろ。

惚れ直したか?」


「惚れ直さないし。そもそも惚れてもない」


「之がツンデレか・・・」


最後が無ければ凄かったのに。









「やっぱり竜神ってやばいね〜」


「あれ?ただの上位竜じゃなかったんすか?」


僕は若葉色の髪の後輩、パラケルスス家の

ミコト・ホーエンハイムのデコをデコピンする。


「痛いっすよ先輩」


「キャハハハ」


不思議そうな顔をしながらミコト君が痛がる。それを、 僕はお腹を抑えながら笑う。


「いやね?君もあのホムンクルスを創り出したパラケルススの子孫ならば分かると思ったんだよね。

あの体の中に流れる魂の海の黒さをね?

あそこまで、濃いと最早神でしょ」


そう言うと、ミコト君はメガネをしっかり掛けて蝶達の映像を見る。


「う〜ん。分からないっすね。

分かる先輩の方が可笑しいっすよ?


それに、何で俺のような緑属性の家の出じゃないのに実家のホムンクルスを超える化け物を創るわ、俺や教会から出奔した黄属性の魔術師いや聖術師よりも治癒系魔術が上手いわ。


本当に何者なんっすか?」


ミコト君の目がギラりと光る。おぉ怖い、怖い。

それにしても何者か。僕は集会には一応元聖術師と言っているが本当の事を言おうか?


確かミコト君は実家で落ちこぼれとしてこの研究所に強制的に入れられたらしい。

うん、これはスカウトしよう。


それに彼は比較的常識人だ。僕の周りは本当に変人ばかりだから清涼剤が必要だ。


意をけして僕は口を開く。


「そうだね。ミコト君、君は之を聞いたら集会を裏切る事になるかもよ?」


「マジっすか。まぁ、俺は集会は嫌いなんで別にいいっすけどね。

それに、先輩の性格からして俺にはいい話でしょうしね」


「本当に軽いね。まぁ、最初に僕の名前を教えようか」


それを言うと凄く奇妙な顔をされた。


「先輩って名前あったんすか!

皆さんはおチビちゃんとか先輩としか言われていないのに」


「失敬だね。僕にも名前はあるよ。僕はこの名前に愛着もあるし、誇りや、歴史、そしてこの名前を持つ事による十字架も理解する程にね」


それを言うと今度は驚愕した顔になる。例えるならば人間がツチノコやビックフットを見たような感じだ。


まぁ、普段僕は巫山戯ている様に思われているからね。こういった深い話には縁が無いと思われてたのだろう。


「僕の名前はムエィ・リングゥ。ミドルネームはまだだね」

金色のカツラを脱いで言う。






「さてとやっこさん本気らしいね。

イバラさんがあっさり倒してくれたけどこの蝶一つ一つが魔術使えるぽいからね」


「いや、あれは偵察要員だろう。あれくらいなら私でも倒せる。

本家の異形創造の化け物は強いのだったら上位竜つまり神になりかけの竜も倒せるからな」


「うん?つまり、いま攻撃してきたのは味方?」


「嗚呼、手筈通りならば化け物が出る所が出口になる」


「もしやそいつは妾を捕まえた奴か?

それならば八つ裂きにしたいのだが」


イバラがサラリと恐ろしい事を言う。相当恨みがこもっているのか悪役の様な笑みをする。


「そうだけど本家の人間だからやめてね。

それに、彼女等に捕まったから紫妃君に会えたんでしょ?」


「余計な事を言うな」


「うっ」


僕はイバラやタッキーにやっている様にフェルドの腹を殴る。

そんな事を言えばイバラが更に調子にのる。こういった奴は調子にのると面倒なのだ。


「まぁ、お前の魔術の確認はここを脱出してからでいいだろう。

成り立てとはいえ神もいる事だし直ぐにここから出れるだろうからな」


「「それはフラグだ!」」


僕とフェルドが同時に言う。

そう言うとソルドとイバラが歩いていた所を通ったはずの僕とフェルドが踏んだ場所が一気にプリンのように崩れた。


「うわああああああ!」


僕はもう慣れたがフェルドは叫び声をあげながら落ちていった。


僕はまたかと自分に呆れた。












「ムエィ家ってあの影國の?」


「それ以外の何があるんだい」


僕は呆れた顔でミコト君を見る。まぁ、あのクズ以外殆ど離脱者を出さなかったムエィ家だ。

疑うのも仕方ないか。それこそ、チュパカブラやネッシーが白昼堂々大都会の人ごみの中を歩いている様なものだ。


「しかも、最初にムエィって。

先輩、本家っすか。分家の方は昔会ったことがありましたけど本家はないですね。


あっ、でも先輩ってまだ独身なんですね。ムエィ家は他の魔術の家よりも歳を取りにくいっていう言いますから先輩ってもしや行き遅・・・」


「それ以上言うと僕の作品の餌にするよ?」


僕は袖に仕込んでいたメスをミコト君の首に密着させる。

年齢を言うのは駄目でしょ。


流石に震えはしないが顔は少し青くなっている。


「イエッサー!」


メスをまた袖に隠すとミコト君はどこぞのアメリカ軍人のような敬礼をした。

そこまで怖がらなくていいものを。


「引き抜きに成功したのは今のところ所長だけなんだけどね。

まぁ、此処を監視していた集会のお偉いさんはあの竜のおかげでもういないけどね。

本当はあの分家の兄弟に頼むつもりだったんだけどね」


「先輩中々腹黒いっすね」


「僕はそれほどじゃないよ。

初代や三代目、十七代目の若づく・・・」


突如、僕の首筋に扇子、両腕に剣と日本刀が当てられる。

ちょっと地獄耳って度合いじゃないと思うんですが。


僕は汗をダラダラと流す。


「それじゃあ引き続きお仕事頑張れ〜。

あっ、差し入れはこれね。

仕事が終わったら食べてね」


と初代が最近巷で有名なケーキを十個置いていく。これは、僕と所長、ミコト君、分家の三人に、魅魔と竜の分だろう。って、あれ?あと二つは誰だ。


まぁ、いいやと思う。


そして、既に三人はどこかに行ってしまっていた。


「あの三人何者っすか?」


不思議そうな顔でミコト君が聞いてくる。そりゃ、急に現れて僕が顔を青くしたんだから気になるか。


「あれこそ、有名なムエィ家十二神だよ」


他よりも人間らしいが。







「すいません。少し熱くなってしまって」


「あ、ああ。落ち着いたか」


息を切らしながら萌衣が言う。それを光恵が怪訝そうに見るので俺は萌衣を遮るように立つ。


「そういえば、なんで紫妃を貴方達教会は殺さなかったの?

悪だったら何でもオッケーというふうに聞こえる集団なのに」


「それは、教皇にも聞きました。すると、本人にも分からない様な護衛が、日替わりで邪神がいたと言っていました」


「邪神?敵側の崇める存在がなんでそんなとこにいるんだよ」


普通、小説やゲームではラスボスやらなんやらでの存在が護衛とは豪華すぎると思えた。


「邪神達はもともと優れた魔術師がなる存在です。

教会の神は優れた聖戦士や聖術師がもとです。

そして邪神達、特にムエィ家の邪神は結構自由なのです」


どうやら俺の考えている様な神様ではないようで少し驚いた。


「しかし」


だが、萌衣は言葉を続けた。その顔は何か言いたくないといった感じである。


「紫妃さんについていた邪神達は私達教会ではクトゥルフ系と言う影國の中でも謎な神達でした。


このクトゥルフ系というのも捕らえたムエィ家の魔術師がクトゥルフ神話に出てくる神格生物に似ているからムエィ家で使われている為知ったのです。


そして、その邪神達の長にしてムエィ家十二神の1柱アザートスを初めとした者達が護衛していました。

あんな豪華なメンバーは中々ないですね」


クトゥルフ神話、以前四人でそれのTRPGをやった事があるがあのおぞましい神達の様な存在が実際にいると思うと寒気がする。


それが近くにいるとなると尚更だ。


「はい、ですから紫妃さんは当然生きているでしょう」

「そっ、そうか」


残念そうに言う萌衣とは逆に俺は友人が生きていることに安堵する。








「おえぇぇ」

「汚え」


「それは私も同意しますね紫妃殿。

私の主人ながら不甲斐なさすぎる。私の若い頃は、遊びざかりの子供から杖を使っている老人まで皆今の高さの二倍を飛んだというのに」


フェルドは紐なしバンジージャンプによって胃を掃除している。

魔術師はやはり運動音痴ナノだろうか?


自分は、タッキーという名の運動野郎に誘われて朝四人でジョギングしている為体調はある方だ。


後、筋肉を付ければ女と間違えられないのではと思い筋トレをしているが未だに筋肉のきの字も付かない。


「というより、壁キックって初めて見た」


「フン、私達の種族は魔術も使え肉体的にも優秀だからな。

それに、最近はゲームやアニメの動きを実際にやって見るのが流行りなのだ」


なんだそのサブカルチャーにどっぷりと浸かった流行は。

しかし、マコンが壁を蹴りながら僕とフェルドを掴み徐々に速度を緩めていき無事着地してくれて助かった。


どこぞのハ〇ウッド映画のヒーローか。蜘蛛のヒーローですか?


「ハァハァ。それで之はどういう状況なの?」


フェルドが復活し僕達をみながら聞いた。


「ギチギチ」

「シャアアアアア」


フェルドの前方には赤黒い巨大百足、後方には青色の巨大蜘蛛。前門の百足、後門の蜘蛛。

虎も狼も恐れをなして場所を譲るだろう。


「百足と蜘蛛だ」


「知ってるよ!」

マコンが不思議そうにフェルドを見る。分かってるならば何故聞いたといった感じで。


まぁ、百足は二十メートルもあって明らかにただ巨大化したわけではないのが分かる形である。

色はラズベリーを思い浮かべればよい。


それで、触覚は三つあり右は不倫した夫に怒りを覚えている妻の顔、左は多分だがその夫が妻に不倫がばれてどうしようかという困った顔、真ん中がその不倫相手だろうオロオロと今にも泣きそうな女の顔。

蛞蝓(ナメクジ)である。


あっ、今妻ナメクジが不倫ナメクジを殴った。


そして、目は何かやばい薬で漬けられたのか?という程の真緑の脳の集合体である。


チラチラ見えている口の中身は大量の目玉がずらーっと敷き詰められている。

全ての目玉は何故かとても血走っているように見えた。


百足と言えばあの大量の気色悪い足だがその足はなんと全て人で出来ている。

しかも、全員の目がご丁寧に取られている。あの口の目玉はここから調達されているのか。


そして、目は自分の体を必死に探していて血走っていたと。


そんでもって、顔の部分には一人の灰色の瞳に髪の十にいくかいかない程度の少女が泣いていた。


それで巨大蜘蛛だが牛とかを一呑みで食べそうな程の大きさである。

色はブルーベリーを思い浮かべればよい。


まず目なのだが一つの目に手がばぁーと生えておりその手のひらに目がついている。


手はくねくねと肌色の芋虫の様に蠢いている。


口からは牙が見えるがその牙に口がついている。後で付けたようなのではなく元々付いていた、完全に一体化している様な感じである。

偶に開く口からはドラゴンよろしく炎のブレスが吐き出される。

奥にはあの蛞蝓三匹がいた。


足はやはりただの足ではなく足の先っぽは人の顔が花のように付けられている。

全ての顔が笑顔で口から血を出している。彼等彼女等はマゾなのだろうか?


腹の部分には人の足がチューリップのツボミの様なものがある。

それは、三分に一回位に十秒開くのだがそこに之また泣いている赤い目に赤い髪の十にいくかいかない程度の少女がいた。


巨大な空間で出会った被験体十三号や円堂先輩達の様にもうそこまで気持ち悪いとは思わなくなった。

慣れか魔術を得たからだろう。


そして、散々マトモではない奴らに出会って来たおかげでマトモかそうでないかが分かってきた。


その結果、彼処に付いている少女二人は被験体十三号や円堂先輩達の様な完全に壊れていない、やや壊れかけのマトモである。


そんでもって之は会ったばかりのイバラやフェルド、ソルドの様な魔術師達に近い気がする。

つまり、彼女達はマトモな状況でこんな明らかな人外にされているのである。


之を同じ影國の人がやったとなると()()引く。

そして、それはフェルドとマコンも分かっているらしい。


「うわぁ、何あれちょっと引くねぇ。やっぱり本家は奇人変人揃いだわ」


「してどうする?私は守り専門だがあの少女達を助けるか?

私は助けたいと思うが」


「まぁ、助ければ助けたいが。誰が助けるんだ?」


僕がそう聞くと二人は何故かこちらを見た。なんとなくこれで察した。


「僕はまだどんな魔術か知らないんだが?」


少し怒り気味でニッコリと笑う。お前等は、部下に無茶を言う無能上司か。


「大丈夫、大丈夫。失敗してもその内兄さんとイバラさん、若しかしたら姉さんが助けに来るだけだから!

あとは、あの少女が死ぬだけでしょ」


「成程、ノーリスクということか」


僕は魔術の確認をするだけ、失敗してもマコンの白魔術で死ぬ事もない。

もしかしたら、あの少女達は死ぬかもしれないがそもそも僕は彼女等とは無関係。


そう考えていると百足と蜘蛛が動き出した。


「ギチギチ、ギチィィィ!」


最初に百足が動く。少女から何か灰色のオーラが浮かんだと思うとそれが修羅場中の蛞蝓に送られる。

そして、周りのコンクリートがえぐれる。コンクリートがえぐれたことにより轟音がする。


コンクリートの壊れる音って初めて聞いた。


「これは、灰魔術か。

風は見えぬから厄介だな」

狼の様な黄色目を細めてマコンが言う。


灰魔術、また聞いた事ないものが出て来た。察するにゲームで言う風魔法とかだろう。


「あっ、灰魔術というのはね風とかだけじゃなくて雨やら雷、雪などの天候に近いかな?」


「あれはカマイタチの様に風の刃に変なものが混ざっているっぽいけどね」


見ると、えぐれたコンクリートがぐじゅぐじゅと音を出して溶けているのが分かる。

かすり傷でも大怪我になりそうである。


「シャアアアアア!」


次に、蜘蛛の体中からは細長い緑色の炎が出される。

それは正に蜘蛛の美しい模様の巣の様に辺りを張り巡らされる。


そして、その緑色の炎から緑色の手がうねうねと蠢いている。

それを押しつぶすかのように蜘蛛が糸の上を動く。


炎から悲鳴のような物が聞こえるのはきっと気のせいではないだろう。


「怪獣大戦かな?」


「いや〜、流石に僕もアレはないと思うよ。

アレ倒すのに集会の並の魔術師十人は必要だよ。しかも、被害込みで」


遠い目で僕とフェルドは百足と蜘蛛を見る。異形創造ってチートすぎじゃないか?


いや、魔術師自身に戦う力がないから敵に肉薄されたら終わりか。


「あぁ、異形創造はそんな無からあんな化け物を出すってわけじゃないよ。

魔術師事で違うコアという本体になる生物やら物質が必要だからね。

あとは、複合系じゃない限り持ち運びが面倒くさいし」

僕の考えを読み取ったのかフェルドがそう答える。


成程、アレは元々人だったのか。ネガティブな某暑すぎるテニス選手の様に想像出来ない。


僕とフェルドそんな雑談をしているがマコンだけが何故か幽霊を思わせるような青い顔をしていた。


「いい話と悪い話がある。

どっちをさきに聞きたい?」


「「いい話で」」


マコンがこんなに顔を青くさせる程悪い話とはなんだ?


「いい話は私の耳によってソルド殿とイバラ殿が襲撃にあい短くても三十分、来ない事

悪い話は、私の防御がこのままでは十五分程で壊れること」


ガキンピシピシ


百足のカマイタチがまた当たり何も無い空間にヒビが現れる。











「やぁ、君も見ているのかい?」


「・・・・・・」


初代と共に我は愛する妻を捕えられた友人の下に来た。

初代が話しかけても友は無視する。まるで、見えない透明な殻に引き篭もっているかのように。


真っ暗闇の中に浮かぶ虹色に光るシャボン玉。その全てに様々な映像が映る。


赤ん坊が産まれる瞬間の映像、

子供が親に駄々をこねている映像、

夢を目指す様に少年少女が共に夕焼けの空に向かって走っている映像、

砂漠の上で戦闘をしている無意味な魔術師達の映像、家族に看取られ優しく微笑む老人のご臨終の映像。


これらは、この神が今見たいと思った映像を移している。


そして、神は三角座りで一際大きなシャボン玉をまるでテレビを初めて見た古代の人の様に覗き込む。


その神は、虹色の髪をボサボサにしオナガドリの尾の様に長く伸ばしている。


その目は、白色と赤色額の上には黒色の目があった。


ボロボロのコートを羽織りついでとばかりに黒色のホンブルクという帽子を頭にかぶる。


その神が覗き込むシャボン玉、そこには二人の魔術師とルーガルー、そして異形創造によって作られた百足と蜘蛛がいた。


魔術師達とルーガルーは、ルーガルーが作った結界によって守られている。

いや、あれは結界ではなく同じ白魔術でも空間遮断の一つである。


そして、神がボソリと呟く。


妻を奪われてから以前よりも更に無口になった。例えるならば考える人ぐらいだ。

そんな友の口を開くのを久しぶりに見た。


「ツバメ、燕、swallow、hirundo・・・」


次々と燕を表す言葉を紡ぐ。まるで工場の機械のように。


日本語、英語、ラテン語、ドイツ語、韓国語、中国語、ブルガリア語、ルーン文字、古フランス語、シュメール語・・・。


名前も失った言語まで現れた所でポツリと彼は終える。

そして、その目からは涙が落ちる。もしこれが、無気力でなかった彼であれば新しき海が出来るだろう。神話の時代の様に。


「私は無力だよ▪️▪️▪️▪️▪️。そして、私は大きな失敗をして道を踏み外した。

あれを忘れるわけにはいかない。

あれを無かった事にしてはいけない」


「そうだ。お主も我もそして、多くの者も狂ったあの時を忘れてはならぬ」


友が呟く。初代は、近くで紅茶を飲みながら目を閉じ徳が高い者のように黙想をする。

あの時の事を考えると我も泣きたくなる。怒りたくなる。そして、叶わぬが死にたくなる。


「でもね、私は昔みんなに言っていたよね。


『人も魔術師も神でさえ間違えるし道も踏み外してしまう。


それをしないようにする事は大事だ。しかし、私はそういった事をするから世の中は面白く回っていると思う。


それでは何が大事か。


諸君、私はそういった時に必死になって、もがきながらも、前に進み、道に戻る事が大事だと思う。


そして、知恵ある者はその者の為にチャンスを創らなければいけない。


私はそう思うね』


だからさ、私もやり直してもいいかな?」


その言葉は神達による大きな戦争の時、奴と初代が我を連れて敵の神達の茶会に侵入し言った言葉である。


それもあってか戦争は終わった。神や魔術師達の間では有名な言葉であるが誰が言ったのかを知るものは少ない。


「やり直してもいいと思うよ?そして、君は彼を見守るべきだね。


あの時、僕は間近で見たからもう知り合いが無残に殺される姿を見たくない」


「我の力は他人任せである。初代の力は薄めている。だからお主の力も与えた。

裏切り者の夢影縫夜のようにな」


友の手がピクリと動く。そして、首を回し我を見る。

その三つの目からは大粒の涙が落ちている。


そして、おもむろに立ち上がり一つのシャボン玉を取り出す。

そこから、包帯巻きの人型が現れる。シャボン玉の奥を見れば同じ様な物が沢山ある。


そして、何処からともなくペンと紙を出す。手を震わせながら紙に何かを書き込む。


「君の力が大元といった。そして、私の力は攻撃用に入れず捕まえる事に特化させたと言う。

初代の力は、私と合わせる事によって発揮するか・・・


十数年、遅れたが私から彼に誕生日プレゼントを与えるか。


君が話すに彼のコアとなる素材は貴重らしいからね」


そう言うと大きなシャボン玉を友が掴む。そして、その包帯巻きをシャボン玉にぶつけた。


「誕生日カードも書いた。さて、義父として楽しみにするよ紫妃」


「そうだね。さて、屋敷に向かおうか君の椅子はずっと残っていた。

それじゃあ、今はなんという名でいたい?」


初代が聴く。友はよく名前を変える。曰く、生まれ変わる気分であるらしい。


「妖姫 涕哭(ていこく)なんてどうだろうか?」












「あっ、やべ」


「どうしたんすか先輩?」


僕は、被験体077、078の目からの映像を見る。そこには、三つの人影があった。

次に、分家のソルドと竜に行かせた被験体の映像を見る。


やはり、神に成ったばかりで竜は力を上手く使いこなす事が出来ていないようである。

そうでなければ、ここまで苦戦する筈がない。


「あれ?これはヤバくないっすか先輩?」


「やばいよね〜。

しかも、アレの支配権は協会から来やがった三人のうちの一人に渡しているから僕も留めることが出来ないね」


あのブクブクと醜いウシガエルの様に太った魔術師を思い出す。


アレで協会の大きな家の本家の出の為に変にプライドが高いから面倒くさいんだよね。

それで、護衛としてもとが見た目が良かった異母姉妹の失敗作を上げたのだ。


あの時の口の引き攣り様は面白かった。そうかそうかそんなに嬉しいかと思った。

その後からは何も文句を言わなくなったし。

あれ?護衛がいるという事はもしや・・・


「先輩、あの場所蛙豚爺がいるとこっすよ」


「マジで!?やった、これで侵入者に殺されたことに出来るね」


僕のシルクの様に綺麗な手を汚さずに済んでよかったよかった。

そして、ミコトくんがそれを若干怪訝そうに見るが協会から派遣された魔術師は邪魔なだけである。


「でも、勝てるんすか?見た所、あの黒髪は防御専門の召喚魔術ですし。

あの魅魔の属性魔術は何か分からないですし。

それにあの爺さんの魔術は使いこなせていないっすが強力すよ」


「そうなんだ。

それじゃあ、あの爺さんは死にかけのとこを僕がギリギリで救出というシナリオにしよう。

サルドさんに頼もうと。

あの爺さんで作る作品はどうしようかな」


新しい玩具を見つけた子供の様に僕は鼻歌を歌う。そして、どういった作品にするかを想像する。


「そういえば先輩の魔術ってかの有名な異形創造すか?」


「そうだよ。あのアザトース様から与えられる魔術。コアさえあればどんな物でも創れるからね。

まぁ、僕のコアは魔術師だからとても強力なんだよね」


「という事はあの竜の血に耐えきれなかったのも一応魔術師なんすか?」


ミコトくんは、頭の回転が速い。一応、あれは暴走しているが魔術師のカテゴリーに入る。


「まぁ、僕達はイギリスの貴族の様に優雅に紅茶でも飲んで高みの見物としようか」


僕は指をパチンと叩く。すると扉から燕尾服を来た頭に黒色の包帯をぐるぐると巻いた男が荷台に紅茶と茶菓子を載せて持ってやって来た。


「ありがとうねゲイン」


そう言うと骨と銀で出来た荷台から紅茶と茶菓子を置いて部屋へ出ていった。

ティーカップを取る。ティーカップはボーンチャイナの様に滑らかな感触である。

オレンジ色の液、底にはムエィ家の家紋、虹色の玉を足で掴んだ鴉が描かれている。


「うん。

初代が以前持ってきてくれたお茶も美味しい」








空間にヒビがはいる。それは、僕達に絶望を与えようとする。

周りは緑色の毒々しい炎の地獄と化している。そして、壁や床には獣の爪で抉ったような跡が至る所にある。


僕がやらなければいけない。そうしなければここで僕達は骨と化すだけである。


「紫妃君、よくテレビとかで『自分を振り返って〜〜』とかあるけどそういうイメージでやれば何か結果が顕れるからね」


「私もあと十分が限界だから出来るだけ早くしてくれ」


「分かった」


目を閉じる。ゆっくりと息を吐き、大きく吸う。今日だけでなく今までの自分を振り返ってみる。


母子家庭で育ち、保育園時代から女の子によく間違えられた。


そういえば、その時代に真っ黒な服を着た目が赤い男の人に救われた事ごあったと思い出す。


夜に変な人達に追い回され、偶々出会って助けってもらった男。その時、何処からともなく化け物を男が出していたと思い出す。

あれは、異形創造で創られた異形だったのだろう。そして、ムエィ家の魔術師だったのだと思う。


何故か今まで忘れていたのが不気味だが、きっと子供時代の事で夢だと思って記憶から消していたのだと思う。

一度、あの人にお礼を言わなければならない。そう考えると更に死ねないと思える。


手に何か力が入る。微かに地面が波のように揺れているように思える。


そして、小学生時代。何人かにいじめられていたが近所の子供達と一緒に遊んでいた日々。

いつも、帰ってくるとどこか怪我をしていて母に呆れられ怒られていた。そして、母は怒り終えると料理をよく手伝わされていた。


そして、交通事故で死んでしまった。しかし、本当は父、いや夢影縫夜に殺された。そう思うと腸が煮えくり返る思いだ。

葬式で初めてあのクズに出会った。あの時の事は決して忘れない。そして、叶わないと思っていたが復讐したいと思った。


それから近所の子供が仕事で出ていったオジさんとオバさんの世話になった。二人は、とても親切でいつも僕の心配をしてくれていた。

あの二人に会うために生き残らなければならない。


中学時代にはタッキーと光恵と友達になった。小学生時代の友達ともよく話していた。


そして、現在。タッキーの幼馴染の萌衣に出会い、小学生時代の友達とは高校が違う事で疎遠となった。

今は、悪霊廃工場に肝試しに来て散々な全くもって散々な目にあった。

これも全てタッキーのせいである。タッキーを殴るために生き残ろう。


ドスン


そう思っていたら僕の横に何かが落ちた。それは、例えるならばエジプトのミイラであった。


「この気配・・・初代様だ!

えっ、見てるんなら助けて欲しいんですが!」


しかし、答えは返ってこない。いるのならば助けろよ。僕を含めた三人は思う。

だが、一度会っただけだがあれは危機に陥っても直接助けるといった性格ではないのだろう。遠回しに助けたりはするだろうが。


「って、うわ」


そんな事を考えている間に影が動き出す。いや、蠢き出した。

それは、大量の手の形を成す。黒色の手たちは一目散にミイラの方へ向かった。


そして、いつの間にか僕の手には一つの万年筆が握られていた。


その万年筆は、黒を基調とし胴の部分に赤色の目の鴉から出て来た黒い線に虹色の玉を掴まれている模様がある。


「異形創造のキーストーン(要石)!?

それに、影が動いているという事は影の属性もある・・・」


「つまりは、黒属性複合系異形創造・影系という事か」


僕は、それを聞き流しつつ万年筆をミイラに動かす。本能から異形創造の仕方や影の事が分かる。まるで、説明書を読んでいるかの様に。

まずは、素材を確かめようか。影の手を器用に使ってミイラの布を大根の皮を皮剥きで外す様に外れた。

紙が一枚落ちてきたが後で読むとしよう。

そして、僕のコアを知る事になる。


「さてと、どうしようかな?」


外すとそこには粗末な服を着た男が意識を無くして寝ていた。

男の髪は緑色で、年齢的に二十代前半であるだろう。


とりあえず、万年筆を素材の眉間の部分に刺す。


万年筆から虹色の光が発光し、眉間に十三の鴉が描かれる。

これで、この素材の所有権は僕になった。そして、この素材の魔術を知る。


緑属性の魔術は、生命に関すること中心であると移動中聞かされていた。


その生命とは、人であったり動物、虫、植物、微生物それにゲームで言うところの回復などである。


そして、この素材の魔術は自身から擬似的な神経を外に出しその神経がある一帯の生物の神経を操ることである。

これは、ただ単に痛みを与えたり無かったことにしたりと洗脳とはまた違う様である。


「残り五分だ!紫妃殿急げ」


マコンから焦りの声が聞こえる。僕は、それを聞いても焦らず万年筆を走らせる。


まずは、あの蜘蛛からインスパイアして蜘蛛糸の様に触ることを可能にする。

之は、元来の細い触れられない糸と太くちゃんと存在する糸を出す事が出来るようにした。


手には目を付ける。


そもそも、今まで見てきた異形創造の化け物を見て分かるとおり明らかに数が合わない。 あんなに人が行方不明になっていたらテレビや新聞、ネットで大騒ぎである。


そう疑問に思っていたが、アレは作成者がその素材の魂で創った付属品であるのだ。


そして、この素材の魂は古い仏蘭西のワインの様に上質と言えよう。


折角なので空中戦に適応できる様に羽も創ろう。この異形創造での羽と言うのは物理法則関係なく飛ぶ事ができる様になるのだ。


羽は、この素材の魔術の事を考えて神経で出来た羽にする。神経は、緑属性魔術の影響か真緑である。

その羽に目と脳を付ける。この目と脳で本体とは自律した思考ができる様させる。


足は、よく見たらガリガリに痩せていた。きっと、動くことが少なかったのだろう。神経をその細い足にぐるぐるに巻き付ける。

そして、目を顔にあと一つ付ける。


完成である。


「出来た!後は名前を付けるだけだ」


名付けによってやっと完成する。しかし、ここで何にするかに迷いがてる。

流石に数字などで一とかはないだろう。これの元の名前を知っていたら楽なのだが。


「白翠にしよう」


僕は適当に緑色の名前で良さそうなものを使う事にした。手抜きは仕方ない。

僕は、眉間の部分に白翠と書く。すると体から何かが奪われる様な感覚が起きた。


そして、


白翠の三つの目が開く。

周りを見渡し僕を見る。そして、立ち上がり膝づく。


ここまででおよそと数秒の早業である。賞賛に値する。


「おはようございますマスター。

(わたくし)は、ご主人様が名付けた通り白翠でございます。

何なりと命令をおもしつけ下さい」


低い声が響く。その声は無機質ながらに人を導く様な神々しい声であった。

性格は、発狂しない限り以前の性格に近くなる為固い性格だったのだろう。


自身の倒れそうな体を何とか起こして命令をする。


「あの百足と蜘蛛を倒せ。

出来ればコアとなっている人物の救出だ」


「了解しました」


マコンがそれを見て一部に穴を開ける。そこから腐った食べ物の匂いが熱風と共に入ってきた。

外は地獄、そこを白翠が行く。その背には使命の二文字が書いている様に見えた。


白翠が外に出たらマコンがすぐ様穴を塞ぐ。


「紫妃君、君のコアってなに?明らかにヤバそうな人だったよね?」


僕は、フェルドに口角を上げながら言った。


「神だけど」











「キシャアアア」


蜘蛛が暴れ出す。擬似神経は魔術師としての力だが神に成ったらそれは更にパワーアップする。

白翠の場合は、物質を擬似神経にする事が出来る。

因みに、魔術の場合はその擬似神経を出すだけで動かすには手で動かすしかない。


今は、蜘蛛の緑色の炎の糸を擬似神経にしている為糸に乗っている蜘蛛が暴れだしたのだ。蛞蝓達の顔も苦痛に満ち満ちている。

きっと、激痛を感じているのだろう。


蜘蛛は痛みに耐えながら炎の糸を白翠目掛けて口から吐き出す。


「キシキシィィイイ」


しかし、その糸を百足が映画のシーンさながら自身の体で守る。

白翠に操られているようだ。

蛞蝓達の顔が苦痛に染まり百足は痛みに暴れ回る。百足の体には薬品をかけられたかのようにグジョグジョの傷跡が残る。


しかし、数秒でその傷は無かった物にされる。蛞蝓達の苦痛の顔は満面の笑みになる。

代わりに少女の体に百足の傷跡と同じグジョグジョの傷が残る。


「成程、全ての負傷はコアにいくのか。

そして、あの蛞蝓達が体を動かあの二人は燃料ってわけか」

「うわぁ、嫌だねそれ」


蛞蝓達の表情の変わり方を見て僕は蛞蝓達には意思があるという結論を出す。

しかし、実際に傷が残らない攻撃は蛞蝓達にダメージいくようである。

現に蜘蛛の蛞蝓達は口から出て未だに痛みに堪える顔で白翠とコアとなった少女を憎々しい目で見ていた。


「気色悪いですね」


白翠が言葉を零す。その言葉には、恐ろしい程の嫌悪感を感じられた。

思わず、僕達は三人は白翠を見る。


「貴方達は、二人の娘を奪い合っている。


しかし、それは何も娘が可愛く親として責任を持って育てようと自身の子供だと思って奪い合っているのではない。


単純に貴方達は、道具だと思って育てている。


自身が優越感に浸かる為の道具、

自身が実現出来なかった夢を代わりに成功させる為の道具、

自身の裁判を有利に進める為の道具、

自身の老後の為に必要な道具。


哀れだ、実に哀れだ。私は、この少女達が哀れに感じる」


六匹の蛞蝓達は顔を阿修羅のようにし怒り出す。図星か。

きっと、白翠は神経を経由して蛞蝓達の思考を読み取って分かったのだろう。


「何が哀れか。


この少女達は未だに信じているのだ。

再び道具として見ず唯の一人の娘と見てくれるとずっと信じているのだ。


その為に、どんな痛みにも耐える。魂の海が尽きかけても魔術を止めない。

きっと、昔の様に三人とも仲直りしてくれると信じて。


嗚呼、人間とは哀れだ。

これ程まで同族を殺し、道具とし、弄び、壊していく種族はいない。

しかし、それこそ人間がここまで発展した象徴である。


そう、その残虐性こそが。


私はそれを否定しない。何故ならば神の領域に至ってもそれは変わらなかったからだ。

しかし、身勝手な事だが人としての感情によって私は貴方達を許さない」


僕には白翠の昔は知らない。

しかし、この言葉で生半可な過去では無かった事は分かる。まさにイバラの道であっただろう。


タナトス(死神)の糸」


過去は知らないがその戦い方は創っている時に知った。

白翠の擬似神経は糸使いの様に動かさなければならない。


その為、白翠は凄腕の糸使いなのである。

擬似神経は、縦横無尽に動く。全てが触れる事の出来ない糸だが重さは変わらない。

それを使いこなす。


糸が蛞蝓に当たる。


「ギシャアアアアァァァ・・・」

「ギシギシシイイィ・・・」


蜘蛛と百足が倒れふす。蛞蝓達は真っ白に溶けていく。

死因は耐えられない痛みに心が折れたと言った感じだろう。

シュッ

白翠が触れられる糸を出し蜘蛛と百足を切り分ける。

少女達の部分は残して。


糸は硬さを自由にできる様にした。鉄くらいならばコンニャクの様に切れる。

そして、柔らかい糸で少女達を包み込み自身に引っ張りお姫様抱っこをする。


白翠さん、カッコよすぎじゃないですか?


「ご主人様、終わりました」

「それじゃあ僕は寝るわ」


今まで我慢していたが僕は外界から意識を外した。








「どういことだ!

護衛のあの少女達はどうなったのだ!」


整備された部屋の中、あたしの目の前に灰色の髪の豚蛙が自身の脂肪を上下にしながらわめいている。

おぇ、気持ち悪い。

さっさと、あたしの可愛いペットを出して仕留めるか。


「クソ、あともう少しで此処の研究所の違法性の報告書が書けたのに。

此処で死んでは誰があの少女達のような存在を伝える事が出来るのだ!」


おや?見かけによらず中々の正義感があるようだ。まぁ、良い奴から死んでいくとある様に今半殺しにあうのだがな。


「それに、何故影國が此処で警備員では無く研究者としている。

此処は、灰魔術の本家の者の私でも知られていなかった第二重要研究所だぞ!?

研究が漏れてはいけな・・・


もしや、此処の所長と影國が繋がっている?それならば、ここまでの非情性も納得がいいく」


これこれ、集会や教会でも之位のいやそれ以上の残虐さがある研究所は山程あるぞ。

にしても、顔が良ければとても良い奴なのにどうしても悪人に見えてくる。


「それで、影國のお前が私に何の用だ?」

「おや、姿の割に中々有能のようだね」


あたしは、仕方なく姿を現す。あたしの魔術には隠れる魔術は無いが気配を消す技術位できる。


「なっ、何だその姿はおっ、お主は痴女なのか!

女性がそんなに肌を見せるでない!」

「あらあら、 もしや童貞?

あっ、ごめんなさいその顔じゃもしやじゃなくて確実に童貞よね」


すると豚蛙が顔を赤くする。本当にシャイボーイねぇ。

胸もとがちょっと開いた服を着ているだけで痴女なんて。

世の中、顔で判断しちゃいけないわね。


「まぁ、もう関係ない事だけどね。

来なさい、ポチ」


「「「グルルルゥウ」」」


「ケッ、ケルベロス!?

行方不明となっていたがまさか影國と契約していた とは。

しかし、ナメるな!

グリジャ・クリーマ家本家の子弟、

集会からは騎士(ナイト)の称号を得りし、

ナルサスだぞ!」


「ハッハッハ、脂肪が良く動く者だな!

影國の大黒柱の一つムエィ家、

その分家ウィブ家を支える『犬』のルプス家長女

ルプス家三犬、

サルド・ムエィ・ルプス、かかってこいや童貞蛙!」


あたしは、人差し指を立てながら言い捨てた。








「キャァアアア!

お母さん、お父さん、茜オバさん!」


『何を言ってるのよ!

こっちだって痛いのなんてごめんよ。

それよりもさっさと潰すから力を寄越しなさい。

お母さんの命令よ!』

『そうね。

このままじゃオバさんも想太さんも、悦子さんも死んじゃうわよ?

アナタはそれでいいの?』


「い、嫌だよ!」


『それじゃあ、さっさと俺達の為に働くんだよ。

子供は、親の言うことを聞かなきゃいけないからな』


「はっ、はい」


そうだ、きっと何時かお父さんもお母さんもオバさんも如月とも仲良かったあの時に戻れる。


「気色悪い」


真緑の糸で出来た羽を持つ変な人が言った。この人には言われたくないなぁと思う。

しかし、話している内容に私は耳を傾けた。


私は、それで初めて自覚した。まるで最期のパズルのピースを嵌めた時の様に鮮明に


「私は道具なんだ」


三人は何を当たり前な事をと言った。


嗚呼、もう戻れないんだ。

あの幸せな時へ。

どれだけ焦がれていたのだろう。私、涙を流していた。


『『『ギャアアアアアァァ』』』


大きな悲鳴が聞こえた。

そして、意識を真っ黒な海の中へと引きずり込まれた。

最後に見たのは私達と戦っていた男の人が私と如月を抱っこしていた風景だった。


「うっ、うん?」

私は重たい瞼を開けた。そこは、いつものふかふかベットでは無かった。


穴ぼこだらけのコンクリートの上。横では如月が眠っていた。

如月は母は違えど私の妹だ。しかし、如月は黒色の髪ではなく赤色の炎の様な髪をしていた。


左には、ライトノベルの世界から出てきた様な貴族の様な男と黒色の髪に赤い目の男性が腰掛けていた。

右には、高校生位だろうか?紫色の少年が横になって眠っていた。男と分かるのは近くの高校の男性用の制服を着ていたから分かった。

制服を着ていなかったら女性と思っていたと思う。

そして、緑色の髪の()()()羽を付けた私達と戦っていた男性が近くで佇んでいた。



「おっ、やっと目覚めたんだね」


すると、黒色の髪の男性が私達に近寄って来た。その人は、黒色のローブとファンタジーの様な衣装を着ていた。

コスプレイヤーだろうか?

貴族の様な人もいるし、明らかに人?といった格好の人もいる。


「まぁまぁ、落ち着いて。

僕達は怪しい人じゃ無いよ。


あっ、僕の名前はフェルド、

フェルド・ムエィ・ルプス。まぁ、魔術師だよ」


「えっ?」


魔術師?なんだろうそれは。そんな、最近のネット小説の様な人物が何故ここに。

いや、朦朧な意識ながらあの金髪の赤目の女性がそんな事を言ってたっけ。


他にも、夢の中で自身を神と名乗った巨大なドロドロのハエトリグサの様な化け物に乗った若い男ががそんな事を言っていた。


「んっ、あれ薫姉?でも髪の毛が」


「如月!大丈夫?」


如月が目を覚ましてくれた。

何故か私の髪を不思議そうに見ているけど今は無事でいる事に安堵する。

だって、もう如月しか私には残っていないから。


「えぇと、少し話させてくれるかな?」


「薫姉ちゃん、この人何?」

「しっ、見ちゃダメよ。

さっき、自身の事を魔術師と言ってたから。イタい大人だよ」


「それは、酷くないかい!」


私は如月の目を覆う。こんな人を見たら教育に悪いに決まってる。

フェルドさんは、どこか寂しそうな顔をする。


「フェルド、私はもうそろそろ限界だから寝るぞ」

「あっ、了解」


貴族の様な格好の男性が頭を掻きながらフェルドさんに近づき、フェルドさんの影の上まで歩くと止まった。

そして、落とし穴の様にずぼりと影の中に入っていった。


私と如月は目を丸くしてその光景を見る。影に特に異変はなかった。

しかし、人一人が消えたのも事実である。まるで魔法の様である。


「えっ、今の男の人は何処に?

一体どんな手品?」

「手品じゃなくて魔術だよ?

っと兄さん達もやって来た様だね」


「「えっ?」」


頭上からドンドンと大きな声がする。

今気付いたが天井に大きな穴が空いておりそこから上に繋がっている様だ。

そして、そこを青色の狼に乗った男性と黒色の髪の少女が壁を蹴りながら降りてきていた。


狼の方は、美しい青の毛並みに人を丸呑みにしそうな程の大きさであった。

その上に乗る男性は、フェルドさんと同じ赤色の目と黒い髪、ローブをしていた。


そして、少女の方は動きやすさを重視したイギリスの貴族の令嬢が着ていそうな黒色のドレスを着ていた。

深碧の目は同じ位の年代の紫色の髪の少年を見ていた。

はっきり言ってその目は野獣の様で怖い。


「フェルド様、あちらの方は誰でそうか?」

「うん?白翠さんは知らないか。

狼の上に乗っているのは僕の兄さんのソルド。

少女の方は、君のご主人の紫妃君の婚約者のイバラさん。

それよりも、僕の事を様付けしないでくれるかな?居心地悪いんだよね」

「それではフェルド殿とします」


私にはこの人達の立場関係がよく分からないけどあの少年がこの緑髪の人?の上司なのだろうか。

それにしては、今来た人の事を知っていないようだけど。


「薫姉ちゃん」

「そうよね、この人達から出来るだけ離れ・・・」

「なに、この夢の様な光景!」

「「えっ」」


私とフェルドさんの声がハモった。

私は、如月がこの人達の事が怖くて離れようと思って私を呼んだのかと思ったらどうやら違うらしい。

というよりも、夢の様な光景?

どういうこと?


「こんなイケメン達が集まっているなんて!

っ、鼻血が」


あぁ、そう言えば如月は腐女子に片足突っ込んでると言ってたっけ。

興奮して鼻血出す人って早々いないと思う。

フェルドさんもこれを見て自然とこちらから離れていた。いわゆるドン引きだ。


「あっ、みんな少し横にどいてね」

「「?」」


私達は不思議に思いながら横にどく。

どいた瞬間、


ザッ


何かが通り過ぎる音がする。地面を見ると黒く擦れた色が付いていた。

そして、黒色のドレスを着た少女が紫色の少年の横にいつの間にかいた。


「フェルド、妾に此処で起きた事を教えてくれんか?」

「はい!了解しました」


その少女はフェルドさんに殺気とも呼べる程の威圧を向けて言葉を発した。








「さて、説明してくれますか東所長」

「説明と言いましてもその資料の通りでございますが。

まさか、それを読んでも研究の結果が分からないのでごさいましょうか?」


所長は、恐らく簡略化されているであろう研究の結果をトントンと叩きながら私に言う。

この、白衣を着た研究者というよりもヤクザと言った方がしっくりくる大柄のサングラスを掛けた緑色の髪の男は私を苛立たせる。


「私が訊ねたいのは侵入者の事ですが?」

「ぁあ!それならば我が研究所の研究員の一人が創ったホムンクルス達が追っておりますが?

な・に・か?」


私はまた一弾この男を殴りたいと思う。何故一会の研究者如きがここまで私に向かって大きく出るのだ。

私は、緑色の髪を掻きながら平静さを保つ。


「しかし、既に影國達により本部から来た者が私一人になっているのですが?

そもそも、そのホムンクルスを創った人間がムエィ家を警備員にしようと言ったらしいではないですか?」

「そうですが?

そんな、推薦しただけで何か言われるのはその研究員も可哀想でしょ。

そもそも、その研究員は私自ら選んだこの研究所では最古参の一人ですから彼女を非難するのは()()を非難する事と同意です」


ギロり、そんな効果音が出るのではと思う程赤色の目で私を見る。

辺りが氷河期の様に冷え込む。


「分かりました。

ならば、私が侵入者達を捕らえに行く事を許可してくれませんか?

中には、竜神がいるらしいですし」

「ほぉ、たいしたご自信で。

しかし、貴女は集会の本部の方からやって来た身。貴女に何かあっては私達が困ります。

それに貴女の魔術は平凡な人にも負ける可能性がある。

ここは、どうか私達で対処させてもらえませんか?」

「いいえ、神と相対するのならば私達も神を出すべきです」


私は、そう言って部屋から出ていく。所長、いや長年集会に潜伏していた影國のスパイは憎々しく神たる私を見ていた。







物語は川のように各地から集い終幕という名の海へと向かう。

未だ川は上流に差し掛かっているだけ、物語はこれから更に騒がしくなるであろう。

どうでしたか?

次が何時になるか不明です。

《源泉》が終われば連載にしようか迷っています。

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