ep.5 本当の過去
ちょこっと修正しました。(2月5日)
ルンが突然キレだすところが不自然だったので…
竜少女は英雄だ。かつてそう言われていた事もあった。だが、そう思っていたのはあくまで何も知らない一般市民だけだ。当時の竜少女は誰一人として英雄になりたいなんて思わなかっただろう。
「まず、竜少女がどうして生まれたかについては私も詳細は知らない。だけど、一説によれば突然変異だとか言われてる」
「突然変異…ですか?」
「そう。まぁなんで巨竜達が侵攻してきたと同時に都合よく突然変異が起きたかーなんていうのは置いておいて、ひとまず当時の竜少女の成り行きについて話すね」
「…はい。」
「まず、言ってなかったけど私のお母さんは竜少女だったんだ」
「…えぇ!?」
ヨミさんがこの世の終わりでもきたかのような顔をしていた。そんなに驚いたのか…
「うん、でもお母さんは私が物心ついた頃にはもういなくなっちゃったし…あ、別に死んだってわけじゃないよ?ただ、行方が分からないってだけ。」
「そう、なんだ。」
「で、そのお母さんが私のために残してくれた日記があるの。」
「日記?」
「そう、お母さんが竜少女だった時に書いたらしいんだけど、そこから私は竜少女について知ったの。」
「なにが書いてあったんですか?」
「竜少女の実態だよ。」
それから、私はヨミさんに竜少女がかつてどのような事をし、されてきたかを話してあげた。
今から47年前にあたる西暦2030年の夏。空に突然大きな穴が空いて、そこから山のように大きなドラゴンが現れた。それは映画の特撮でも、アニメでもプロジェクションマッピングでもなく、本物の巨竜だった。
そして、最初に現れた巨竜に続くように小さな(とは言ってもそれぞれがバス一台分の大きさである)竜が次々と穴から湧いて、東京の空を埋め尽くす。
人類史上初めての人類存続の危機の始まりであった。
足だけでもスカイツリーなみの大きさの巨竜が一度翼を羽ばたけば突風が木々をなぎ倒し、車は宙を舞い、人は紙くずのようにすっ飛ばされた。
無論そんな化け物に対する抵抗などできるはずがなく、1日で国は崩壊。出現箇所である関東は跡形もなく消し飛び、かろうじて生き残った人々はもはや呆然と立ち尽くすことしかできない。
それから数週間竜達の侵攻は続いた。巨竜はひたすら南西へ進み、ありとあらゆる建造物を破壊。逃げ惑う人々は小さな竜の餌となる。
竜達はとても食欲が強く、まるで我慢させられていた犬のように人、動物、魚にかぶりつく。竜が通り過ぎた後に残されたのは生物の残骸と飛び散った血痕、腐敗臭、そして瓦礫の山だけだった。
まさに地獄ともふさわしい現状で、このまま世界中が竜によって破壊尽くされると思われていたところに現れたのは頭に角が生え、竜の翼と尻尾を持つ少女達である。
まだ成人にも満たない彼女らが空を舞うように飛び、竜の腹わたを切り裂く光景に人々は誰もが思っただろう。
救世主だ、救世主が現れた。
と。
そこから、人類をかけた竜達と竜少女との壮絶な戦いが始まり、人はこれを巨竜大戦と呼んだ。
「巨竜大戦…ですか…」
「そう、中には第一次巨竜大戦と呼ぶ人もいるね。」
「第一次?」
「うん。なぜならいつまた竜達が攻めてきても分からないから。というより必ずいつかまたやってくるから第一次って言いかたしているわけ。つまり次にまた奴らがきたらこんどは第二次巨竜大戦になるってわけよ。」
「そんなの、起こってほしく無いですよ…」
「そりゃ、そうだよ。この前の大戦じゃかろうじて竜少女達が勝ったけどこんども勝てるかなんてわからないし、第一私の生活を壊されたくないからね。」
「え、今『かろうじて』って言いました?」
「うん。」
「かろうじてってことは、竜少女達はそんなに苦戦したんですか?てっきり、ぱっぱとやっつけたのだと思ってましたけど…」
「とんでもない…竜少女達がどんなに犠牲になったか知ってる?」
「知りません…」
「30万。」
「えっ?」
「30万だよ…前の大戦で亡くなった竜少女の数は。それも全員まだ成人前の若い人達。」
「でも、前の大戦で亡くなった人の総計は30億近いって…」
「そういう問題じゃないよ…」
私はこれが他人に向かって初めてムカっときた瞬間だったかもしれない。突然口調を変えたせいでヨミさんは完全に怯えてしまっている。でも…
「彼女達はね、他の人たちとは違って戦って死んだんだ。怖くても逃げたら人類を救えない…だから歯を食い縛って恐怖から逃れようとする本能を抑えながら命をかけて戦って散ったんだ。逃げ惑って死んだ人とはわけが違う。違うんだよ…竜少女達は。」
「……」
「私が言えたことじゃないけど、お母さんも多分そう、怖くて逃げ出したかったのかもしれない。もしかしたら今いないのはそのせいかもしれない。でも、お母さんは…」
「ルンさん…」
気づいたら私の目からはが涙が出かけていた。思ったけど、人前でこんなに感情的になったのは生まれて初めてかもしれない。(もちろん赤ちゃんの時は除いてだけど…)」
「ごめん、ヨミさん。取り乱しちゃって。」
「いいえ、そんな…私こそすいません。」
キーンコーンカーンコーン
ふたりだけの屋上の静寂を遮るようににチャイムが鳴る。
「あ、お昼食べ忘れた…」