ep.4 不思議な女の子
不自然に大きい帽子を被り、青いメガネをかけたおかっぱ頭の女の子が突然私に聞いてきた。
「伊藤さんって竜少女なんですか?」
彼女がどんなことを考えているのか、正確には分からないがわたしにとってその質問は禁句である。
「いいや、違うわよ。いきなり何言い出すかと思いきやそんなこと?もし私が竜少女だったら今頃こんな所で悠長に学校生活送ってないでしょ」
先の私の口調と比べて明らかに敵意を剥き出しにしている自分に驚いたのか、おかっぱ少女は今まで以上に震え上がってしまう。
「うっ…ご、ごめんなさい。」
「別に謝ることではないけど…正直に言ってあなたそれを聞いてどうしたいわけよ。角の生えてる私をおちょくってるの?」
「そ、そんなつもりじゃ!!」
「じゃあどういうつもりだったの?」
「それは……」
「……」
そのまま彼女は下を向いてしまい、しばらく黙り込んでしまった。帽子が大きいせいで顔が全然見えないけど、この子もしかして泣きそうになってるんじゃないだろうか?自分から聞いておいて泣き出すなんて…
「あのさ…私、もういいかな?まだお昼食べてないんだけど。」
「あ、はい…どうもすみませんでした」
「……うん」
そのまま彼女は黙ったまま自分の席へと戻っていった。
お昼の菓子パンはどうも味がしなかった。
ところで、私は竜少女ではないが普通の人間でもないのは事実だ。正確には私は今のうちは竜少女ではないとも言える。というのも、竜少女には私の角に加えて竜族の尻尾とつばさが生えている。
見た目は完全に竜人である。更に身体能力の著しい上昇が見られ、翼で空を飛ぶことも可能になり、ますます人という枠組みから外れていくのだ。
基本的に竜少女の特徴はその子供にほぼ確実に遺伝する。つまり、竜少女の子は竜少女の子になりうるのである。
ただし、竜少女の特徴を持つ度合いは人によってかなり大きく異なってくる。それこそ角が生えるだけで一生を終える者もいれば10歳に満たないウチから竜と戦えるくらい強い力を持つ者まで、様々だ。これに関しては後天的な要素もあるが、詳細は全く明かされていない。そして、確か情報かどうかは定かではないが、上位の竜少女には物理法則を超越する魔法のような力を使う者もいるらしい。
実にファンタジックな世の中になったもんだと私はつくづくそう思った。
夜、私は大の字になりながらベットで横になっていた。昔から考え事をする時はこうして一晩中思考するのが習慣である。今日は特にあの妙に大きな帽子被って、私に竜少女がどうか聞いてきた女の子についてだ。名前は確か…ヨミさんだったかな。(漢字わかんないけど)
今思えばとても不思議な子だった。だいたい私はすでにこのクラスに2ヶ月以上いるのに今更あんなことを聞いてくるのもおかしい。仮に彼女が小心者で、私に聞きづらかったからとしても「あなたは竜少女ですか?」なんて質問になんの価値があるのだろうか。
いや、聞いて来たのだからヨミさんもなんらかの思惑があるのだろう。果たしてそれはいったい…もしかして新手のスパイか?
竜少女の子孫である私を経過観察するために忍び込んだ彼女は、あえて接触をすることにより私の秘密を暴こうとしている!?なんてのは妄想だけどね。
しかしいくら考えても本当に分からない。彼女がなぜあの場所であのタイミングであのような質問をしたのかが。明日もう一度ヨミさんに聞いてみるか?いや、でも今日あんなに冷たくしちゃったしなー、うーん………
結局その晩は真相にたどり着くことはなく、気がつくと朝になってしまった。
翌日ーー
「よし、思い切って聞いてみよう」
昼休みになって、私は一直線にヨミさんの席に向かう。ヨミさんは昨日と全く同じ帽子を被っていたのですぐに分かった。
「あの、ヨミさん?ちょっといいですか?」
「は、はい!伊藤さん。な、な、なんですか?」
「……ちょっと落ち着こうね…」
「あ、あの。その、昨日のことですか?そのことなら謝りますぅ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「……落ち着こうね?」
私はひたすら震える彼女の肩に手をのせ、ヨミさんの目をしっかりと見ながら優しく喋る。
「……落ち着きました」
「それはよかった。じゃあちょっと聞きたいことがあるんだけど、ここじゃその…なんか周りの視線が痛いから場所を変えよっか?」
「は、はい。構いませんけど…」
ちらっと周りのクラスメイトを見渡すとちらほらと数人がこっちを見ていた。このままこの話を持ち出すのはかなりまずいと思い、私達は昼食を持って屋上に行くことにした。
こんな日差しが暑い所で昼飯を食べている人など誰もおらず、屋上は静かで落ち着いた空間が広がっていてとても居心地がよかった。
「で、とりあえず聞くけどさ」
「は、はい!」
屋上に着くなり開口一番で話しかけると、ヨミさんは直立不動の姿勢で返事を返した。
「なんで昨日、あんな質問したの?何か理由があるんでしょ?」
「え、えっと…それはその。伊藤さんには角があって…それで竜少女なのかなぁ〜って思ったから聞いただけで…その…」
「……その?」
「私、竜少女に興味があるんです!!」
「……え?」
私は唖然とした。
「竜少女ってみんな嫌ってるけど、私はそうは思わないんです。調べてみたら昔、みんなのために頑張って戦ったのになんで今ではこんな扱いなのかとても気になって。でも伊藤さんは竜少女じゃなくてそのことはわからなくて、でも…でも。」
「わかったわかったから落ち着いて。」
なんだか泣きそうになってるヨミさんを落ち着かせる。この子、情緒不安定すぎるだろ…
「ふーん、でもびっくりしたわ。まさかこの学校にヨミさんみたいな人もいるんだね」
「やっぱり私、おかしいですか?」
「いやいや、そんなことないって。でも意外だなーって思っただけ。私にとってはむしろ嬉しいかな、竜少女について興味がある人がいるなんて久しぶりに会ったよ。みんなは私のことを害虫扱いするからさぁ…いや、今はそんなことよりヨミさん、竜少女についてどこまで知ってるの?」
「え、えっと…昔、大っきな竜達が世界を侵略しようとやってきて、それを竜少女達がやっつけてそれで救われたってことぐらいしか。」
まぁ…こんなもんか。流石にネットで入る知識ではこれが精一杯なのだろう。
「うん、たしかにそれは正しいね。でも、それはあくまで表向きの話かな。」
「えっ?」
「私の知ってること少しだけ話してあげるね?竜少女の本当の過去を」