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竜少女〜Dragon Girls〜  作者: ピルルピピ
第1部
3/25

ep.2 掠れた誕生日


 キーンコーンカーンコーン


 下校時刻になったので、早急に帰ることにした。そうしないとまためんどくさいのに絡まれそうだったからだ。

 スタスタと朝歩いた道を帰る。幸いなことに道中では生徒に1人も会わなかった。


 私の家は4階建ての小さなマンション。私みたいに単身な高校生にもお優しい住居で、親が残した預金と国からの補助金でなんとか毎日をつないでいける程度の家賃だ。

 さすがにクラスの奴らも家までは細工をしてこないみたいで、今までそういった事は起こっていない。もっとも、私の家はイタズラ対策のために小型カメラを設置しているから誰かが悪巧みをしようものなら一発で分かるのだが。

 ちなみに、このカメラはコンビニで買ったものだ。最近のコンビニはさらに色々なものを売り出すようになって、ほとんど雑貨屋のようになってしまっている。だからといって、防犯用の監視カメラなんて買うやつは早々いないだろうに…まぁ便利だからいいけど。


 家に帰るなり即PCを起動する。立ち上がる間に着替えて、冷蔵庫からコーラと昨日の帰りにコンビニで買った新作ポテチ「激苦ぽってーと」とやらを持ってくる。

 

「よし、今日も勝つぞ」


 数ヶ月前からハマっているPCゲーム「winner&losers」は、繁華街や砂漠、森林、渓谷、遺跡、鉱山、ゴーストタウンなどのマップ内で数十名のプレイヤーが武器や防具、食料、治療キットなどの物資を集めたり、時にはプレイヤー同士で奪いあったりしながら最後の1人になるまで争う3人称視点のオンラインサバイバルゲームだ。自分がどこにいるかや、相手がどんな武器を持っているかなど、様々な思考で現状を把握し、最善な選択する事が重要なこのゲームは、心理戦や思考戦の得意な私にとって大好物なのだ。

 プレイしている最中は時間を忘れてしまうほどのめり込んでしまうために最近寝不足気味だが、それでも楽しい。そう、このゲームは私の数少ない生き甲斐である。


「さぁ、私の1日のストレスを発散させてくれよ?」



『ただ今緊急メンテナンス中です。』



 ……………寝よう




 気がつくとあたりは真っ暗になっていた。どうやらあのまま寝落ちしてしまったようで、ベッドの脇に置いてある目覚まし時計は深夜1時を示していた。


「まずいな、このパターンは朝まで寝れずに半徹夜状態になって明日の昼くらいに眠気がドッとくるやつだな…」


 私は別に徹夜とかは全然できる方なので苦ではないが、次の日に眠気が蓄積されてくるタイプの人で、明日の授業中寝てしまうかもしれない。それに明日の午後の授業は全て座学であるからして、爆睡する未来が濃厚だ。


 とりあえずスリープ状態のPCを再び動かして色々と現状を把握する。


「全く、まだメンテか。ヘッポコ運営め」


 寝ることもできず、PCゲーもできないとなると、私はもうやることがない。我ながらなんともつまらない人生だなと実感するが、かといって何かをするやる気も起きない。マジでダメ人間だ、私。


「どうせ起きてても暇だしなぁ…」


 そう言いつつも家の中をぐるぐると歩き回りながらやる事を探すが、玄関脇にある部屋の扉にふと視線が止まる。母の部屋だ…

 その部屋には壁一面を覆い尽くすような大きな本棚がある。そこには小説や漫画はもちろん、図鑑、辞典、写真集、カタログ、資格のための教科書、はては特撮のDVDまで多種多様であるが、その端っこの奥の方に鍵のついたA4よりひとまわり大きい箱が隠すようにしておいてある。鍵はダイヤル方式で4桁だ。ただし、私でも鍵の番号は分からず、母や父の誕生日など思いつく数字は全て試したが開いたことはない。


「んーあと試してない番号は…やっぱり思い当たらないな…適当にやって当たるわけないし、お母さんどこかにメモったりしてないのかな〜」


 そんな都合の良い物があるはずもなく、私は半ば諦めムードに入って、箱の隣にあったアルバムを手に取った。中身は私がまだ生まれる前の、母と父の思い出の2ショットでいっぱいだった。

 

「これは…遊園地かな、お母さん尻尾邪魔でアトラクション乗れなかったんじゃないの?」


「これは…多分沖縄かな?お母さんの着てる水着めっちゃかわいい…というかこれ特注なのかな、尻尾穴ついてるけど」


「これは…スキー場かな?お母さんすげぇ、尻尾をストックがわりにしてるよ」


 ダメだ…さっきからウチの母の尻尾にしか目がいかない…当時はまだ英雄扱いだったから、さぞかし注目を浴びていたことだろう。私に尻尾は付いていないのだが、これは年齢によるものなのだろうか…だとすれば後々生えてくる可能性が…


 最悪だな…


 自分の未来に絶望しながらもパラパラとページをめくっていく。何年もの時を巡っていると、気付けば午前2時をまわっていた。そろそろ布団に戻ろうかとアルバムを戻そうとした時、一枚の写真が足元に落ちた。


 ん、これは…私?私が生まれた直後の写真かな。あれ?思えば母さん、昔から容姿が一切変わってないような…気のせいかな。

 それにしても母さん、また尻尾が…あ、そうだ!


 私は肝心な見落としをしていた。よく考えれば私の誕生日をまだ試していなかった。


 えーっと私の誕生日は…ってあれ?何日だったか…


 正直あまり覚えてないないのが事実だ。自分の誕生日だっていうのに情けない。まぁお母さんと一緒にいたのは6歳までだったはずだし、お父さんからも誕生日について教えてもらったことがない。というか、私は誕生日に祝ってもらった記憶がない。いや、小さい頃はあったかな…少なくとも小学校に入学してからはないな。


 うーん、どこかに書いてないかなぁ。


 私はふと写真の裏側を見てみると、やや掠れているがしっかりとそこには母の字が刻まれていた。


『2061年7月1日 最愛の娘、伊藤ルン 誕生』

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