ep.19 デルタ9トリオ
どこからともなく聞こえてくる声に従って、ルンは竜達を振り切りながら都心部方面へと向かっていたところだ。だが、依然として周りはまだ深い森の中である。ようやく地獄の終わりが見えてきたのだが、その道のりは遠かった。
一方その頃、デルタ9の3人は少し焦燥していルところだった。
「ったく、いつになったら追いつくんだよってんだ。報告が来てからもう30分は過ぎてるぞ?いったいそいつはどこまで飛んでったんだよ。」
眉間にしわを寄せ、不満爆発な顔をしながらも3人の先頭を飛んで目的の少女を探している彼女、ドロシー。アホ毛が特徴の銀髪娘である。
出生はおろか、名前すらもわからない孤児として12年前にファームに送られ、以後ファーム内を我が家のようにして暮らし、今年で18になるところだ。ドロシーという名前は当時の指令室長であった者がつけたと言われている。ちなみに服装がいつもコスプレなのだが、これは彼女の趣味である。
「ファームから送られてきた情報によれば後2、3分ほどでターゲットに接触できる予定よ。それにしてもあんたよりも速い子がいたなんて驚きだわ。まぁこれであんたの取り柄はなしってことね。よかったじゃない。」
喧嘩腰でドロシーに話しかける金色の長いポニーテールの少女、アイリーン・ベティングフィールド。成績優秀、容姿端麗で面倒見がよく、友人や後輩からはアイリの愛称でよばれ親しまれている。
だが、そんな彼女が唯一敵対視しているのがドロシーなのだ。アイリもそうだがドロシーもそれに張り合うためにお互いの間には日常的に火花が飛び散っている。
そして、その中和役兼このデルタ9のリーダー。かつファームにおける実働部隊の長。デルタ9で最年長の20歳。神龍麗花は、少しも黒の混じっていない純白の真人間であるが、人間関係についてドがつくほど鈍感である。そんなド鈍感の彼女にとって二人はまるで親友のように見えているらしく、二人の言い争いを微笑ましく見ていた。(ある意味、二人の関係性は喧嘩するほど仲がいいほどにはなっていたのだが、その点に関しては彼女が正しい)
「その少女が竜少女かどうかはこの際関係ありません。私達は助けを必要としている人に力を貸すのみです。」
「でもよぉレイカ、あんな金の卵ちゃんを放っておくのはもったいないんじゃねえのか?」
「それにたとえ私達が彼女に干渉しなかったところで指令室の方々もそうするとは限らないわよ?」
「分かっています。ですが、私としましても戦いたくない人を戦いに参加させたくはないのです。本来、ファーム内で暮らす私達は普通の人のなんの変わりもないはず…ですが、人とは違う容姿をしていた。人とは違う力を持っていただけでこうして戦いに参加させられるのがどうしてもゆるせないのです。だから私はそんな人が増えないよう、こうして戦っているのです。」
「ほぇーレイカも色々大変だなぁ、気分晴らしに今度ウチんちでゲームしない?」
「ちょっとあんた。今のノリでどうしてそうなるのよ。それにレイカがゲームなんてするわけないじゃない。」
「い、いえ…そんなことはないですよ?」
「え、うそっ。ゲームすんの?」
「はい、あれですよね?リズムに合わせてお題の物を順番に言っていく…」
「それって山手線ゲームなんじゃ…」
「えっ、違うんですか?」
「いいや…大丈夫。レイカは何と間違ってはないわ。むしろ、なんかごめん…」
「なんでアイリさんが謝るんですか?」
「アイリもちょっと期待してたんだよ。気にすんな、レイカ。」
「はぁ…期待ですか?」
「(この真人間すぎるレイカの意外な一面が分かるかと思ったのに…)」
「そんなことよりほら、あれじゃね?例の新人竜少女。」
「ようやく見えましたか。皆さん、準備はいいですね?あの人を全力で助け出し、ひとまずファームまで護送するのが私達
の任務です。余計な戦闘は不要です。」
「だってよ、無茶すんなよ?アイリ。」
「いつもそう言って真っ先にしでかすのはあんたじゃない!胸がでかいだけで偉そうにしちゃって。いい加減にしてよね?」
「なんだよ、胸は今関係ないだろ?それにこんなもん、戦闘には邪魔にしかならないんだぜ?要らんわこれ。」
「あなたは今、世にいる胸の小さい女の子達を全て敵に回しましたね…後で覚えてなさい。」
「ふたりとも本当に仲が良いのですね。」
「「どこが!?」」
現在、彼女達が所属するファームのデルタ9に所属する竜少女は3人しかいない。世の中に数万、数十万といる竜少女の中でも特に素質のある者しかデルタ9には入れない。だが、デルタというのはあくまでその人のレベルを表す指標でしかなく、ファームではこれを階級として扱ったりはしない。すなわち彼女達もまた、普通の少女なのである。
生まれながらにして人とは違う個性を持ってしまったがために周りから冷ややかな目で見られ、生活さえも脅かされる彼女達がこうして命懸けで戦っていることを社会は知らない。
過去に世界を守るために死んでいった若い少女達のことを社会は忘れかけていた。