ep.16 DG指令室
久しぶりの投稿になります。しばらく更新できなくてすいませんでした。
地面から空へ向かい昇っていく砲弾。それはまるで地上から暗雲に向けて降り注ぐ雨の様であった。ただ、その攻撃にも全く応える事もなく侵攻する巨竜。素人のルン達にも見て理解できるように、巨竜にダメージはほぼないようだった。
「全弾命中しています。ですが…」
「やはり通らないか…仕方がない、ウチの竜少女達を出させる。マワリ、出動可能な部隊のリストを全て表示してくれ。」
DGの中枢とも言える空に浮かぶ都市型防衛施設。また、竜少女の養成施設としての役割も備えていることから通称ファームと呼ばれている。
その中心にあるタワー型の建物の最上階、そこにはファームに所属する竜少女達全員を指揮する総合指令室があった。
部屋の広さはそこそこであるが辺り一面を覆い尽くすように電子機器のようなものが張り巡らされ、中央には円形の丸いテーブルがあり、等間隔で5人の少女が座っている。
その中で最も指揮権が強い、すなわちこのファームのトップである指令長の守宮要は、この状況に一切動じることなく冷静に指示を出す。その目は常に鷹の目のように鋭く、どこか不機嫌そうな雰囲気をダダ漏れにしているために初対面の人全員から苦手意識を持たれてしまうのだ。長身で女子とは思えないガタイの良さと真っ黒なショートヘアはそれに拍車をかけていた。
そして、その隣にて手元のデバイスを操作しながら情報を伝えるのが指令室の副長で、かつ要の実の妹である守宮周である。姉と比べれば身長も体つきも並みではあるが、その分姉よりも機器操作能力が高い。しょっちゅう端末をいじくっているためか目が悪く、赤茶色で金属フレームの眼鏡をかけている。髪型は姉と対照的に腰まで伸びるロングだ。
「了解しました、スクリーンに出します。現在の待機組はデルタ7から9まで。デルタ7は全部隊が待機中、デルタ8は巨竜発生前に日本海沖の探査任務に出動中だったために4部隊中2部隊が未だ戻っていません。デルタ9に関しては私も状況を把握していませんが…」
「まぁあの部隊は大丈夫だろう。多分今頃とっくに向かってる頃だ」
「あの3人組、本当にすっごいよなぁ!いっつも真っ先に飛び出してパパッと解決しちまうもん」
「今回はパパッととはいかないでしょうがね…」
「そうだな、よし!わたしが行こう」
「ダメです!また遠藤さんはそうやって自分が突っ込んでいって厄介ごとを増やすんですから」
「そういうのを解決するのが私達の仕事じゃないか」
「だーかーら!!その根本的な原因を作ってるのがあなたって言ってるんです!頭大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「問題大有りです」
指令室とは言うものの、そこまで殺伐とした雰囲気でない。よって、この二人のような漫才じみた会話は日常茶飯事だ。
遠藤馬子。彼女のことを一言で言えば馬鹿である。体つきもよく、ショートポニーで纏めた綺麗な赤髪と要同様に男に勝るとも劣らない堂々たる体格をしていて、この五人の中ではずば抜けて力が強い。馬鹿力とも言う。
ただ、その代償なのか、頭のネジが何本か足りないのだ。ファーム内の定期開催実力試験の筆記試験の部において第2期養成課程である新人竜少女達を抜いて堂々の最下位を取ったり、九九をど忘れしたり、そもそも司令室の場所すら理解していなかったりなど、一見救いようのないように見えるが、その性格は常に真っ直ぐ。良くも悪くも一直線であり、自分が正しいと思うことを常に考えて行動しているも言う意外な面もあるのだ。無論、大抵はそのせいで無謀に突っ込んだり、作戦を無視して行動したりなど散々だが。
そして、放っておけば野垂れ死にしそうな彼女を常に見張っているお世話係の役目をしているのは隣に座っている海のように綺麗な青色のロングツインテールの清水鹿奈子だ。遠藤とは物心がつく前から幼馴染であり、お互いに互いの事は誰よりも理解していると思っている。余談だが、彼女の最近の悩みは後輩達や友人に「お前らできてんじゃん」と冗談まじりで言われることである。まんざらでもなかったが。
さらにその隣で棒付きキャンディを咥えながら遠足気分で2人の漫才を聞いてるのは指令室内で最年少、その低身長と未発達の体からどう見ても小学生である幼女こと島咲美樹。見た目は一切気にしないようで、どこに行こうがジャージ一択である。常に楽しく元気よくをモットーにし、その能天気ぶりから散々先輩たちや友人らを呆れさせているが、何故そんな彼女がこの重要施設の一員としているのかといえば彼女がシックスセンス、すなわち第六感に優れた才能を持つからだ。その範囲は数十分以内と短めではあるが、範囲内であれば自身に起こる出来事や特定の人物の行動まで未来予知のごとく分かってしまう。ただ、稀に外れることもあるのであくまで過信しすぎないようにされている。どうしてそんな力を持っているのかは本人が言いたがらないので不明だ。
「まぁその辺にしておけ清水。いまはそんなことより出動させる部隊だが…」
「待ってください!すでに出現した巨竜と交戦状態にある部隊…いや、単独で巨竜と戦っている者がいます!!」
眼鏡をかけた副指令長である守宮周がそう叫ぶと、指令室にいる全員が一斉に室内中央の球形のモニターに目を向ける。確かにそこには表示された巨竜マークの周りで人を示す白い点が点滅しているのが確認できた。
「これはどこの部隊の奴だ?さっさと呼びかけて退避させろ!!」
「それが、どこの部隊の人ともデータが照合しません。正体不明です…でもこの動き、竜少女?」
小首傾げながら
「モニターの準備ができました。最寄りの偵察機からのものです。今正面モニターに出します!」
再び副司令の少女が手元のタッチパネル端末を操作すると球形のモニターは変形し、平板状になった。そしてそこには空を定期周回している無人偵察機からの情報が送られてくる。
「なっ!!なんだこいつは…」
「顔や身長などのデータも全く一致しません。ただの民間人です!」
ひたいに嫌な汗をかきながらモニターを見つめる少女達は驚愕の表情を浮かべる。
ファーム内に所属しているわけでもなく、軍人でもない一般人の少女が同じくらいの体格の女の子1人を抱えながら巨竜の攻撃から必死に耐えしのいでいたのだ。一般人とはいえ頭には角、背中には翼、腰からは尻尾が生えていたが。
「つまり、覚醒したのか。自力で…」
「そう考えざるを得ません。こんなことは何年ぶりでしょか…」
「突然力に目覚めるなんてことがそんな珍しいのか?」
「はぁ…遠藤さん。教わりませんでしたか?まぁあなたなら覚えてないでしょうがね…」
「そんなことはない。昨日の晩飯くらいは思い出せるぞ?」
「…ノーコメントですわ。」
「で、結局あいつは誰なんだ」
「多分…外で生活していた竜少女候補の子がこの事態に影響を受けて覚醒したんでしょうね。ただ、もちろんですがそれは正規のルートを通らずに覚醒してしまったのですから恐らくその力の使い方も、はては空の飛び方すら分からないはず…なんですけど」
彼女の言葉に続いて全員がもう一度モニター越しに映る自分の数千倍はあろう巨大な竜と対峙している女の子を見る。だが、地上から降り注ぐ砲弾や無差別に襲いかかる小さめの竜達の攻撃を別の女の子1人を抱えながら曲芸のごとく飛び回るその姿は誰がみても正規の方法ではなく、さらに覚醒して間もない竜少女とは思えなかった。
「こいつの顔立ち…どこかでみた気が…」
要が顎に手を添えながらぼそっと呟く。
「えっ、要さん何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。竜少女として覚醒してるとはいえ彼女は今は素人だ、すぐに救助部隊を送る。デルタ9のやつらに通達してくれ、最優先事項だと。」
「わかりました」
要は目的地に向かうデルタ9部隊を見ながらもしばし考え込む。
記憶の片隅にあるあの少女の面影を未だに思い出せずにいた。