ep.14 2人空の上
以前投稿したのが春休み前、今日投稿したのが春休み後。更新ペース…(´・ω・`)
なんだかとても気分がいい…今ならなんでもできそうな気分だ。
私はただひたすらに、がむしゃらに戦った。いや、戦ったと言うよりは暴れたと言う方が正しいかもしれない。目の前で早苗が襲われて、どうにかして助けたいと思っただけ。それは私の中にあるなにかのスイッチを入れるには十分だったようで、気がつけば早苗を抱えて空を漂っていた。
周りはどす黒い色の雲に覆われて何一つ状況が掴めず、ここがどこなのかすら分からない。それに先程から所々にフラッシュのような閃光と花火よりもうるさい爆音が聞こえてきて更に耐えられないような焦げ臭い匂によって目も耳も鼻も正常に機能していないようだ。
そういえば今更ながら何故私は飛んでいるのだろう…そう思いながら自分の姿を見て驚愕する。
「何…これ。」
自分の腰あたりから伸びるトカゲのような尻尾。肩甲骨あたりから生えている鳥とは違うタイプの翼。
それら二つはまさに以前写真で見た竜少女そのものであり、そして私は理解する。
自分は竜少女になったのだと。
試しに尻尾を動かしてみると、第三の腕というわけではないがまるで生まれた時からそこにあったかのように自由自在に操ることができる。翼も同様、走っているような感覚で空を飛ぶことができた。
しかし、そんなことは大したことではない。一番重要なのは私が早苗をお姫様抱っこしていることだ!
早苗は思っていたよりもずっと軽く、そしてここまで密着した状態はいままで一度もない。そして顔が近い、近すぎる。
私は顔をわざとそらしてもう一度周辺の状況を確認することにした。
いつのまにか黒い雲は晴れていて、地上の姿を見ることができたが、どうやら山の上にいたようだ。だがその山にはあるべき木々が一切なく、ただ一面に黒い地面が広がっていた。森が全て燃え尽きていたのである。その規模は山火事なんてレベルではなく、山そのものを丸々焼き切ったように何もかもが灰と化していた。
しばらく進むと都市らしきものが見えてきたが、何か大きなものが落ちてきたかのようにあちらこちらが穴ぼこだらけで、高層マンションやデパートなどの高い建物はほとんど崩壊していた。すでに多くの非現実を見てきた私でさえ、この光景には目を疑った。だが、街中から上がる焦げ臭い匂いと凄まじい炎による熱放射がこれが現実だと知らされる。
「ん…あれ、ここは…」
「あ、早苗。起きたんだ。」
「えっ、ルンちゃん?それ…翼…それに尻尾も…」
「うん…気がついたらこうなってたよ…」
「そうなんだ…」
私達はそのまま気まずくなってしまい、しばらく黙り合っていた。静かな空の上、それは幻想的な世界にも思えてこれは夢なのではないかという気さえしていた。だがその静寂は地上で起きた爆発により破られた。
「ルンちゃん…街が…みんなが…」
早苗の目には薄っすらと涙が出ていた。燃え盛る街を見て彼女が何を思ったのか詳しくは分からないものの、私もその悲しみを貰い受けるように涙を流していた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
【神奈川県某所】
地下に極秘に設置されているこの施設には必要最低限の人員しか残っていなかった。そして、施設の最下部にある『局長室』とされるやや狭い4条半程度の部屋。空気を循環させるためのファンが回り続け、簡易な机と椅子、極秘資料の入った棚という生活感のかけらもないその部屋で2人が無表情で向かい合っていた。
「プランBの準備が整いました。いつでも実行できる状態です。ですが…本当にやるのですか?」
ついさっきドアをノックして入ってきた20代の若い男は、貧乏ゆすりをしながら腕を机の上で組み、机上にある紙切れを眺めながら座る初老の男に再度問いかけた。それは既に決定事項であったのだが、どうしても腑に落ちないのである。今から自分達のすることは正しい。正しいのだが、誤っていないとは言えないのだった。
「あぁ、上からはすでに東京を放棄して福岡に臨時首都を置くことが決定している。もうここら一帯はあと数日もしたらトカゲの尻尾のように切り捨てられるんだ。躊躇している暇はないよ。」
「でもまだ都内や周辺の県にはたくさんの避難民がいるんですよ?もし流れ弾が街中に落ちたりしたら一般市民の住む住宅街が火の海に…」
「余計な所作はいらん。それに首都圏に住む者は前の大戦後からこの事態を想定して避難するための予備知識が叩き込まれているはずだ。マニュアルどおりなら最初の巨竜が出現した時点で該当区域全てに避難勧告および地下シェルターへの誘導が12時間以内に終わるはずだ。」
「マニュアルどおりにいっていればいいですけどね…」
「私達の仕事は巨竜の侵攻を少しでも食い止めること、それだけだ。もしこのまま奴らを進ませてしまったらこの国は終わる。そうなっては守るものも守れん。」
「……」
そもそもの話ではあったが、万が一巨竜が出現して侵攻を始めた場合、全ての国民を避難させることは不可能である。犠牲者が出るのも想定済みでマニュアルは作られているのだ。よって全国各地に存在するシェルターはもし責任者が危険と判断した場合、即時閉鎖することが義務付けられている。逃げ遅れた人の事など考えている余裕などないのだから。
「自分はこんなことやりたく…いや、やるべきではないと思うのですが。」
「そんなことは私だって同じだ、おそらく誰もがそう思っている。だがな、これはやるやらないの問題じゃない。やらなければやられるんだよ。」
若い男も抗議を続けるが、それはもはや願望でしかない。坂から物が転げ落ちるように決して遡ったりはせず、初老の男の判断は覆らない。
「…分かりました。それでは…」
「うむ。作戦開始だ。」
局長が合図を出すと同時に、上空を我が空のように舞う巨竜へ向けて対巨竜兵器が一斉に火を吹いた。