ep.13 夕暮れに染まる横顔
春休み突入です。更新速度バンバン上げていきたい!(希望的観測)
私が初めて彼女に会ったのは始業式の日です。進級して新しいクラスとなり、同じクラスだった人もいましたがそれはごく少数で、ほとんどは初対面でした。それは他の人達も同じようで、その日の教室は今よりも少し静かに感じました。
当時の私には友達と言える人はおらず、朝は一人で登校してお昼休みは一人でお弁当を食べて帰りも一人で帰っていました。
もちろん寂しいと感じたことも何回もありましたけど、私の秘密を誰かに知られる事は今の生活を崩壊させるかもしれないという恐怖からどうしても人と接し合うのを避けてきました。友達よりも平穏が大切だったのです。このまま私は高校生活を終えるんだと思っていました。
あの人に会うまでは…の話ですが。
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ガラガラガラ
教室のドアが開いたと同時にみんなが一斉に静かになったと思ったら今度はそれぞれがコソコソと耳を立てて話し始めました。私は読んでいた本から目を離し、教室を見渡してなにが起きているのか確認しようとしたところ、その原因はすぐ隣に立っていたのです。私は驚きのあまり声を出しそうになってしまいましたが、両手で口を押さえてなんとか喉の奥にしまい込みました。
竜の角…まさしく竜少女の証とも言えるそれを一切隠さず、まるで見せつけるかのように堂々と頭に生やしていた女の子。髪は日光によってほんのりと赤みがかっていて、焦げたデミグラスソースのような色と言えばいいでしょうか?背丈は私よりもひと回りもふた回りも小さくて並んだら見下ろす形になりそうです。そのまま彼女は他人の視線や会話を全く気にしていない素ぶりで無表情のまま私の隣の席に座りました。
しばらくすると寝不足だったのでしょうか…大きなあくびをしたかと思ったら机に両腕を置いてそれを枕にするようにして顔を覆いながら寝てしまいました。もちろんその間も他の生徒達のざわめきは収まる事はなかったのですが、彼女が教室に現れた時の驚愕と疑念を含んだ会話ではなく嫌悪と差別に満ちた陰湿な会話になっていたのです。
「ねぇ、そういえば竜少女ってDGっていう機関が管理しているんでしょ?そこに連絡すればあれも引き取ってもらえるんじゃない?」
「俺の母さんが昔竜少女を見たって言ってたんだけど、無表情で命令を実行するまるで機械みたいな奴ららしいぜ?まるで生物兵器だな、はは。」
「これ見て?『今解き明かされる竜少女の真実!!実は竜少女は某国が作ったアンドロイドだった!?』ですって。」
「おい、あのツノって闇取引で高く売れるらしいぜ?ちょっと調べてみよかな」
私はその間ずっと耳を塞いでました。とても怖かったのです。みんながみんな揃いも揃って化け物のように見えて、悪夢のようでした。
生まれながらにして竜少女としての素質がある女の子。それは良く言えば世界を救うことができる力を持っている特別な存在であるのですが、現実はまるで違います。私達のように奇怪な力と容姿を持つ人は人々から恐れられ、差別され、挙句は自由を奪われて隔離されます。私はそんな事は馬鹿げているとずっと思っていましたが、いつのまにかそれを当たり前だと思い込み、気がついたら自分を常に偽って生きていました。それが自分を守るためにできる一番の方法だと信じてました。
結果としてはそれは間違っていたんだと気付きました。いや、気付かされたというべきでしょうか。ひとりの私よりも小さくてそれでも力強くたくましい女の子によって私は変えられました。ようやく会えたんです。私の全てを捧げられる人に…
とは言うものの、元から人付き合いの苦手だった私がいきなりルンちゃんに話しかけることなんてできなくて、あたふたしていたら2ヶ月も経ってしまいました。そこで私は考えて、自分がルンちゃんと同じように角があることを利用すればなんとかなるんじゃないかって思い、それを盾にルンちゃんに話しかけることができたのです。まぁ結局ルンちゃんの私への第一印象は最悪になってしましましたけど…
それでも私はついに念願のルンちゃんとお話しすることができました。ルンちゃんと話せば話すほどルンちゃんの良さがどんどん分かってきて、今ではメモを取ってしまうくらいです。そう、ルンちゃんは見た目はとても怖そうな人ですが全然そんな事はありません。むしろ人を傷つけてしまう事を一番恐れているくらいに優しい人なんです。そんな優しくて、暖かいルンちゃんだから、私は思ってしまったのです。
『この人になら、私のこの秘密を打ち明けてもいいんじゃないかな…』
私の正体を、私の過去を、私の苦しみを…全部彼女に打ち明ける。
今思えば、これは私のわがままだったかもしれません。苦痛の日々から解放されたいがためにルンちゃんに押し付けただけだったかもしれないのです。だけど、それでも知って欲しかった。私が初めて信頼できた人に、私の何もかもを知って欲しい。だって私は…
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心地よくも少し肌寒い風が私の頬を掠めていて、私は目を覚ましました。あたりはすっかり夕暮れで山の向こうの方から密かにオレンジ色の空が見えましたが、反対側の空はもう真っ暗でした。
私の目の前には大好きなルンちゃんの顔が…あぁ、夕闇によってほのかに赤く染まっているルンちゃんの顔はなんて素晴らしいのでしょう。そしてなんと今私はそのルンちゃんにお姫様抱っこされているのです!ここは天国でしょうか?
私達は高い高いお空の上にいました。更に私を抱えているルンちゃんには竜の尻尾らしきものと翼が生えていたのです。
本当に天国みたいです…