第2話
翼と別れたあと、体育館へ戻った新太は顧問の教員に怒られた。休憩時間はとっくに終わっていたのだ。急いで準備し、練習に加わる。
部活動のとき、体育館は半分に分けられ、二つの運動部が活動する。今日は鈴が所属しているバドミントン部が練習をしていた。鈴の姿を見つけ、先ほど出来事を思い出す。
鈴は新太のことが好きだった。しかし新太には美羽という恋人がおり、鈴の気持ちを受け入れることは出来ない。それでも新太にとって鈴は幼馴染であり友人だ。これからも友人としての関係は続けていきたいと思っているのだが、鈴のあの様子ではそれももう無理なのかもしれなかった。
恵人はいったい何度こんな経験をしてきたのだろう。女子に告白されるたびに、どんな気持ちで相手の気持ちを断ってきたのだろう。
そんなことばかり考えてしまい、練習に集中出来ず、いつもならしないようなミスを何回もしてしまい、チームメイトに迷惑をかけ、顧問に怒られてしまった。
部活動が終わり、片付けをしているときだった。
「おい、新太。彼女来てるぞ」
チームメイトに言われ、体育館の入口のほうを見てみると、そこには制服姿の美羽がいた。美羽は新太の姿を見つけると、無邪気に手を大きく振った。
美羽は手芸部に所属している。手芸部はバスケ部ほど活動日数があるわけではなく、こうして活動時間が合うのは夏休みが始まって今日が初めてだ。
急いで部室で制服に着替え、チームメイトに冷やかされながら、新太は美羽と体育館を出た。
時刻は夕方の六時。夏なのでこの時間でも外は明るい。
練習終わりで腹を空かせた新太は、美羽を駅前のファストフード店へ誘った。新太はハンバーガーセット、美羽はあまり腹が減っていないのかドリンクとオニオンリングだけを注文し、窓際の席に着く。しばらくして、店員が商品を運んできた。
美羽はオニオンリングが好きだ。新太は玉ねぎが苦手なので食べないが、美羽が美味しそうにオニオンリングを食べるのを見るだけで、新太は幸せな気持ちになる。
――白鳥さんは高嶺くんに近づくために新太と付き合ってんだよ。
ふと、鈴の言葉が脳内で再生された。
恵人は女子から人気がある分、男子から逆恨みされることも多い。努力をしているわけでもなく、異性に興味があるわけでもない。それにも関わらず女子にちやほやされている恵人が羨ましくて仕方がないのだ。
新太が恵人に嫌悪感を抱かず友人関係を保てたのは、美羽と付き合っているからだ。しかし美羽がまだ恵人のことを好きなのだとしたならば、彼に敵意を抱かずにはいられなかった。
――俺も翼みたいになれたら、こんな気持ちにならなくて済むのかな。
翼は恵人の数少ない友人である。ふたりは二年生のときから同じクラスで、似たような性格をしているせいか馬が合うようで、とても仲がいい。親友ともいえる間柄である。
「工藤くん、どうしたの? なんか元気なくない?」
と、突然美羽にそう声をかけられる。飲んでいたジュースがむせ返った。咳をする新太を見て「ちょっと、大丈夫?」と美羽が心配する。しばらくして落ち着いてきた。
「いや、大丈夫。何でもないよ」
「何でもでもないことないでしょ。すごい暗い顔してたけど、何かあったの?」
「そ、そんなに変だったかな?」
こういうときの美羽はしつこい。話を深く掘り下げられないよう、別の話題を振った。
「そういえば、もうすぐ花火大会だなーと思って」
「ああ、そうだったね。いつだっけ?」
「一週間後」
「そっか。私たち、もう一年になるんだね」
「そうだな」
「一周年だから、特別な花火大会になるといいね!」
そう言って、美羽は微笑んだ。
続きます。
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