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此の国の神語  作者: 八枝
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そして続く

 そこは異界。

 人の棲む世と重なりつつも外れた、人の踏み込むことは許されぬ神霊の世。

 その山々には深い森の息吹。

 狭間を流れる河には穏やかな旋律。

 ここは昼も夜も大蛇のもの。

 ここは大蛇が己の場として創った広大な異界。

 その中にぽつりと屋敷がある。

 大蛇が住まうためのものではない。

 大蛇はもう、必要がなければ人の姿をとらない。

 屋敷は己が巫女たる氷雨とその許に集うものたちのためのものだ。

 その屋敷の裏、八岐大蛇は頭の一つを氷雨の前に鎮座させていた。





 光。

 薄闇の中で六つの勾玉が輝きを放っている。

 それらは似ていながら、どれひとつとして同じ光ではない。

 あるいは強く、あるいは弱く。

 あるいは鋭く、あるいはやわらかに。

 清冽に輝き続けているものもあれば、気ままに明滅するものもある。

 色合いもそれぞれ異なる。

 僅かずつの差異ではあるが、一度気づけば二度と同じだとは思わない。

 いずれもが美しい、それは魂の輝き。

「お分かりになりましょう……? あの子たちです……」

 氷雨は愛おしげに六つの勾玉を撫でる。

 本当に生身の妹たちを撫でるように、優しく撫でさする。

「人の身では待てぬと聞いたあの子たちは魂を勾玉に封じ、このような姿となってまで、大蛇さまをお待ちいたしておりました……」

 そして大蛇を見上げる。

 氷雨の身体よりもなお巨大なアカカガチの如き眼を、その緋瞳で切に見つめる。

「どうか、お願い申し上げます。今一度の、人としての生を与えてやってくださいませ。新たな名と、人の身体をこの子たちに……」

『人は二百の歳も経ずして消ゆる』

 大蛇の応えは拒否ではない。今度こそ真の別れが来ることになる、と氷雨に告げているのだ。魂のままであれば、永久にとはいかずともまだ数千年は保つ。

 しかし氷雨はゆるりとかぶりを振った。

「それも理にございましょう。何より、この子たちはもう一度大蛇さまにお会いすることを願っております。その願いを、どうか……」

 来るべき永劫の別れと喪失の悲しみを理解して、その上で微笑んでいる。

 望むものは、妹たちの幸せ。

 大蛇は肯った。

『よかろう。一年ごとに上から一人ずつ、齢五つの肉体を与えることとしよう』

 二千の年を過ごした彼女たちの魂は、記憶のすべてを残すわけではない。以前と同じ歳からでは不便であるし、現代の知識も身につける必要がある。

 だからといって赤子からでは、残った記憶と身体の齟齬が激しく多大な苦痛を与えることになるだろう。

 それゆえの選択だった。

『まずは……』

 大蛇はゆらりと頭を上げ、二の姫に新たなる名をつける。












 そして十三年の時が過ぎ去った。


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