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旧 月光のサルヴァトーレ  作者: 天宮 悠
2章:レンジャー結成
4/106

01

 背伸びをし、胸一杯に息を吸い込む。

 オスティア首都、シュテルンの澄んだ空気は何の抵抗もなく肺に染み通る。ヘルゲンの浜の磯臭いにおいとはまるで違う、洗練されたものがそこにはあった。


「ふー……綺麗すぎるわね」


 あの惨劇から約一周間。ずっと病室と軍のお偉方が集まった重苦しい空気の部屋とを行ったり来たりする日々からやっと開放され、強要されることなく自分の意志で初めて口に出した言葉がそれだ。


「あれだけの傷がものの一週間で……か」


 レナは右手で拳を作っては開いてを繰り返す。どこにも傷跡はなく、こうして記憶として残っていなければレナ自身もあれは嘘だったと思い込んでしまうだろう。それほどに、あれだけの深手は一切の後遺症もなく完治した。さすがは魔法、といったところか。


 そしてレナがこうして再び青空のもとを自由に闊歩できるのに一番貢献したのが、最後に見つけたあのマフラーの魔女だというのだから運命というものはわからない。

 彼女の保有する魔法は治癒。あの場で気を失ったレナを治療し、本来あそこで失血死するはずだったレナの命を拾ったのは彼女らしい。らしいというのは、あれ以降彼女達はおろかエドガーの顔すら見ていないからである。


 病院で見知らぬ魔女と医者の治療を受けながら、あの殺戮者について根掘り葉掘りおなじ質問を毎日入れ替わる軍や教会、貴族のお偉方に説明して過ごしてきた一週間は酷く退屈で、それが今日終わると知ってレナはつい予定があるのに市街地へと繰り出していた。

 さすがというべきか、オスティアの首都ともなれば今まで見てきた街も遠く霞んでしまう。地平線を覆い隠す石造りの壁はシュテルン全体を囲い、森の大樹にも劣らぬ高さの建物が幾重にも並びその横を人の波が絶えず揺れ動く。レナがこんな光景を目にするのは初めての事だった。この時間レナの村ならせいぜい道を練り歩いて十人に会えればいい方だというのに、まったく田舎と都会の違いを思い知らされているようでレナは乾いた笑いを浮かべることしか出来なかった。


「おっと、もうこんな時間か……そろそろ戻らないとかな」


 シュテルン中央にそびえ立つ時計塔の鐘が正午を知らせる。

 正午前に部屋に迎えを寄こすと言われているので、正確にはもう遅れ気味なのだがこれは初日に事情を聞こうとした軍上層部の制服を着た連中がレナを三十分待たせたことによる些細な反抗だ。


 そう、今日別件でレナに用事があるのは軍の連中らしい。軍務に復帰する前にどうしても言わなければならないことがあると言っていた。

 中心区の片隅にひっそりと立つ軍人だけが使用することのできるアパルトメント。そこの三階がレナの部屋なのだが、目論見通りレナがやってくる頃には困ったようにドアの前で佇む一人の人影があった。おそらくはレナを呼びに来た使者だろう。


「って、あれ?」


 その後姿が、まだ記憶に新しい人物と酷似しているのに気づくと、レナは急いで『彼女』の元へと駆け寄った。


「魔女ちゃん?」

「うおう!? って、あれ? なんだ、外にいたんだ。寝てるのかと思った」


 斜めに被った紺のベレー帽が印象的で、少し小柄な体型に肩まで伸びた深い栗色の髪はアガレスの民特有のものなのですぐに分かった。


「ん……おひさ」

「ああ、うん。久しぶりだね、英雄さん」


 二人で見つめ合い、しばらく気まずい空気が流れる。ここにいるということは知っていたが、結局あの惨劇以降顔を合わせていなかったし、そこそこ期間が空いたせいか思うように言葉が出てこない。

 それもそのはずだ。彼女と一緒にいた時間は一日にも満たない。仲睦まじい間柄の者なら気の利いた言葉の一つや二つくらいレナも浮かんでくるが、帽子の魔女とはほとんど赤の他人も同然なのだ。


「それで、あなたが迎え?」

「うん、そ。すぐに行く? 何か準備がいる?」

「いいえ、このまま行きましょう。これ以上待たせても悪いしね」


 そもそも病室に運び込まれた時点で、レナの荷物は無いに等しかったのだ。気の利かない軍の連中はヘルゲンの浜の拠点に置いていた荷物を持ってきてはくれなかったし、あの時着ていた装備は剥ぎ取られて病衣のままベッドで寝ていたので行方はわからない。

 だからあの部屋にあるのは新品の軍服が何着かと、最低限数日ここで暮らせるだけの資金だけだ。

 レナとしては堅苦しい軍服より戦闘服の方が動きやすくていいのだが、初日に申し出てあまり首都を戦闘服でうろつくなとあっさり却下されてしまった。


「そだ、あの男の人とマフラーちゃんにも今日は会えるよ」

「男……ああ、エドガー?」


 狭い路地の石段を下りながら、帽子の魔女が思い出したように歩みを止めて言う。とすれば今日はあれの生存者揃い踏みということになるか。


「おお! もうマフラーちゃんじゃないや。あの子はエイラね、エイラ・H・ヘーゼルダイン」

「へぇーエイラっていうんだ……ん?」


 そこまで聞いて、レナは首を傾げる。確か名前は秘密ではなかったのだろうか。


「それ言っちゃっていいの?」

「え? うん、なんで?」


 逆に聞き返され、自分の方がおかしいのかと首を傾げながらレナは肩を落とした。


「まあいいや、それであなたは?」


 レナが言うと、待ってましたと言わんばかりに無い胸を突き出して帽子の魔女は何故か誇らしげに胸に手を当てる。


「帽子を被った謎の美少女、その正体は――」

「いいから名前」

「んもー……」


 レナの言葉に調子を崩されたのか、頬を膨らませて帽子の魔女は拳を作るとそれを自分のやや乏しい胸に当てた。


「私はユリアナ・H・グリント。よろね」

「うん、よろし……く?」

「な、なんでまた疑問形?」


 彼女には悪いと思ったが、どうしてもレナは気になる事があった。あのマフラーの子、エイラもミドルネームがHだ。これは偶然なのだろうか。


「いや、ユリアナもHなんだね」

「え? あー、そっか。魔女のこと知らないんだっけ」


 手の平に拳を置き、何か納得したように帽子の魔女は一人頷いた。やはり魔女に関わることだったかとレナは予想が当たったことを内心で喜ぶ。


「Hはヘックス。つまり魔女って意味ね。そう、つまりは魔女なら誰でもついてるのさ。だから気にしないで。ああ、それと私は気軽にユーちゃんって呼んでくれてもよいぞ」

「なるほど……ん、じゃあユー、よろしく。私はレイナード・ブレンナー」

「おうさ、レナもね」


 明るく快活そうな少女。皆が思う彼女の第一印象はそんなところだろうか。誰にでも心を開き、場の空気を和ませる。そういったことが得意そうだし、実際あの時も最初は新兵達の気を紛らわしてくれていた。

 あのマフラーの魔女――エイラもそうだが、彼女達は戦場には似合わぬ可憐な乙女だ。ゆえに、だからこそ戦場の華と成り得る。彼女達魔女が戦場を駆ける姿こそ、兵の士気を高揚させるのだ。

 とはいえレナは同じ女だし、またレナと呼ばれたことに憤りを覚える。


「できればその呼び方は避けてくれると助かるんだけど」

「でもあの男の人もそう言ってなかったっけ?」

「あいつは……ああ、もういいよそれで」


 エドガーはわかっていて呼んでいるのだが、レナとは村で飼っていた犬の名前と同じなのだ。さすがに犬と同じ呼ばれ方というのは心地良ものではない。


「さて、紹介も済んだしそうだねぇ……どっかで昼食でも食べる?」

「そんなに悠長にしてていいの?」

「ううん。まったく。これっぽっちも大丈夫じゃない」

「そう、なら行きましょう。一回抜いたからって死にはしないわ」

「えぇ……」


 大丈夫じゃないと言いながら残念そうに肩を落とすユーを急かしつつ、やってきたのは教会だ。築何年かまでは断定できないが、壁の劣化具合から見てもそこそこ古いものだということは見て取れる。そこまで大きいものではないが、歴史を感じさせる建物であることに間違いはない。

 巨人でも入りそうな大きな木製のドアは既に開け放たれている。だが内部は薄暗く、意図的にしているのであろう本来光を灯しているはずの蝋燭の火はついていない。ステンドグラスからわずかに差し込む七色の光のもとで、数名うごめく影が見えた。


「すいません、遅れました」

「構わないとも。では早速話を始めるとしよう」


 レナを出迎えたのは、カソックを着た教会の神父と、初めて見るが優美な立ち振舞とあの無駄に豪勢な衣装は高位の貴族と見受けられる。その後ろには、エドガーとエイラが緊張した様子で互いに隅の方で縮こまっていた。


「ふむ、なるほどな……」


 若くはないが、決して老いているわけでもない貴族の男はマントを翻しつつレナに歩み寄ると、手で顎をさすりながらまるで品定めでもするかのよう螺線を這わせてくる。

 それに不快感を覚えながらも、レナは自ら何かを言うことはなく男が口を開くのを待った。


「いや失礼、婦女子に対してすることではなかったな。非礼を詫びよう。かのロイド・ブレンナーのご息女と聞いて、私も少し気になってね」

「……そう、ですか」


 レナは一瞬目を見開くと、すぐに細めて貴族の男を見据える。

 まさかこんな場所であの名を聞くとは思わなかった。もしもそれが関連したことで呼びだされたのならば、レナにとっては不都合なことでしかない。


「そう怖い顔をしないでくれ。勝手に調べたことについては謝るが、こちらも仕事でね。上の方々に納得してもらえるだけの情報を揃える必要があったのだよ」

「納得?」


 聞き返すと、男は首肯してエドガー達を手で招き寄せる。と、レナ達の隣に並べ、一度全員の顔を眺め咳払いをした。


「今日ここに集まってもらったのは他でもない、私個人の願いを聞いてもらうためだ。とりあえず皆、話だけでも聞いてはくれないだろうか? 異論はあるかね?」


 その場の全員が押し黙り、沈黙を守る。その中でただ一人、平静を装いつつも敵を見るような張り詰めた空気を醸し出すレナに気づいていない者はいなかったが、それを汲み取った上で男は全員の了承を得られたのを確信すると口を開いた。


「君達もよく知っているだろう、一週間前にあの基地でブレンナー君が撃退した相手を。あれはまさしく伝承の通り――すなわち覚醒者に相違ない。前回の出現から約八十年、まさか戦時中の……しかもこのような時期にとは運が悪い。とはいえ、初回はブレンナー君のおかげで被害は最小限に留まったが」


 こつこつと靴底が床を叩く音を響かせながら、男は眼前に並んだレナ達一人一人に視線を合わせ何かを確かめるように右へ左へと止まることなく歩を進める。ただ歩いているだけでも気品漂うその姿は、この男が生まれながらにして貴族という者の何たるかを叩きこまれてきたかを暗に示していた。ただ彼は軍人というわけではなさそうなので、軍に関することでも軍部というよりはもっと上からの用事のようだ。


「問題はそこだ、ブレンナー君。君が彼を撃退してしまったことで、他の貴族らから君は覚醒者に次ぐ者に成り得る存在だという意見が出ていてね。ならば恐らく君もまた一騎当千の力を持っていると。だから前線に出て欲しいとの声があるのだよ」

「とんだ見当違いです。ただの田舎の小娘ですよ私は。しかも新兵の。前線に出たところで、一兵士分の活躍ができるかどうかすら怪しい」

「謙遜はよしてくれ。たしかに一騎当千とはいかずとも、君なら正規兵百人分程度の武勲は立ててくれるだろう」


 レナは大きく息を吐いた。つまりこの男が期待しているのは、レナではなくブレンナーとしての力なのだ。

 なら尚の事見当違い甚だしい。レナにあるのは、ブレンナーの血ではなく名前だけなのだから。


「私がブレンナーだからというのならそれは間違いです。私は両親の子では――」

「知っているよ」


 レナが何を言い出すか知っていたかのように、男はさも当然のように言ってのけた。それに虚を突かれたようにレナは目を丸くする。

 知っていてなおレナの力を望むなど、どういう了見なのか。


「それでも、ロイド・ブレンナーが君に託したものはなにもない訳ではないのだろう? 君は魔法を知っている。それを行使する術も。ああ、そうだ。重要なのはそこだよ。今回覚醒者を撃退したのがブレンナーだということではなく、私が注目したのは魔法を使える者が今回の件に関係していてくれたことなのだ」

「はぁ……」


 ようは、あれ(覚醒者)を倒すのに魔法使いの力を使いたいと言いたいのだろう。だが、それならやはりレナの出る幕ではない。


「魔法使いならオスティアにもいるでしょう。父さんも母さんも別にオスティア一の、ってわけじゃないでしょうし、それこそあんな化け物が出たならそういう人たちに出てもらったほうが――」


 そこまで言って、レナは言葉に詰まる。胸の何処か隙間に、妙な違和感を覚えた。このまま誰かに任せていいのか、と。あれと一度打ち合ったきり、それで終わりでいいのかと。

 いや、それでは駄目だ。駄目なのだ。やられたまま引き下がるのは、レナの性分ではない。


「君も知っているだろう、元来魔法使いは表の舞台に姿を見せてはならぬ者。影の存在として彼らは彼らのルールを持ち、派閥や組織等で目的も様々だ。生憎とオスティアの魔法使いたちは厳格でね、今あれを追えと頼める者はオスティアにはいない」


 ああ、とレナは肩を落とした。そうだ、そういう意味では、たしかにレナは都合がいいのかもしれない。


「でも、その覚醒者は調度良くそこに居合わせたフリーランスの魔法使いが撃退した……なるほどそれは確かにあなたにとっては吉報だ」

「はは、手厳しいな。まあつまりそういうことだよ。魔法使いの枷に縛られない魔法使い、レイナード・ブレンナー……君に覚醒者の討伐を任せたい」


 レナは一度男から目を逸らす。ふと、横で不安げにレナを見つめるユーと目が合った。この様子だと、男が何を言っているのかその大半を理解していないのだろう。最初に魔女と聞いた時は世間に魔法が広まったのかと思ったが、恐らく魔女とはどこぞの誰かが修練も血筋も関係なく人の手で無理やり魔法を行使できるようにしただけの存在で、魔法そのものについての理解はそう深くはないのだろう。


「それが今回ここに私達を呼びつけた理由……ですか?」

「ああ、前線に出るよりはましだと思うが……どうかな?」

「それに答えるのは、彼女達の声を聞いてからです」


 こんどこそレナはユー達の方へ顔を向けた。

 なんせレナの答えは決まっている、むしろ重畳だ。やはり、アレ(覚醒者)にやられたまま引き下がるのは性に合わない。再戦のチャンスが有るなら、むしろ望むところだ。

 であるならば、この任を受けることに同意を求める必要があるのはユー達の方だ。彼女達は、あの場に居合わせたからか、もしくはレナと一緒にいたから、そんな理由でこの場に連れてこられているだけなのだろうから。レナに名を明かしたのも、一緒に組むと言われたからこそだろう。


 まあ、レナとしてもできれば付き添いは顔見知りの方がやりやすいのは確かだ。というより、今ここで魔法の話をした以上、彼女達の同意は半ば強要されているようなものだろうが。


「え、あ……えと」

「いいよ、またアレと戦わなくちゃいけないんだし。怖いならついて来ないほうがいい」

「待てよ!? お前はアレと戦うのか!?」


 一層声を荒げたのは、エドガーだった。信じられないものを見るような目でレナを見つめ、今にも掴みかからんと足を一歩前に出す。


「そうよ、あのままやられっぱなしとかは嫌なの。倒せるチャンスをくれるってのなら、私はやる。でも、あなた達まで付き合う必要はない」

「――けんな」

「は?」


 肩を震わせ何かをつぶやくエドガーに、レナは怪訝に首を傾げた。

 と、そんな時、急にエドガーが迫ったかと思うと、レナの両肩を掴んでまくし立てる。


「ふざけんな! じゃあ何か? 俺らとはここでさよならで、お前一人であんな化物の相手するってのかよ!?」

「死ぬかもしれないのよ」

「それはお前もだろ! このままお前を送って、そんでもう帰ってこないなんてことになったら……俺ぁ一体誰をからかえばいいんだよ。もう、もう隊の皆は死んじまったんだぞ……そしたら、そしたら本当に俺一人に」

「…………」

「ふざけんなよ、なにかっこつけてんだよ。女のくせによ……」


 震えるエドガーの拳が、レナの胸に当てられる。俯いたまま顔を上げず、彼が今どんな表情をしているかは読み取れない。

 きっと彼は、レナが死ねば後悔するだろう。ここで引き止めていれば、あるいは一緒について行けば、と。


「かっこつけじゃないわ、私がしたいだけ。私が勝手にするんだから、エドガーが気にする必要はない」

「気にするなって言われて気にしないでいられるほど俺は腐っちゃいねぇ……ああ、わかったよ。俺も行く。いや、行かせろ」


 真っ直ぐレナを見つめる瞳に迷いはない。それが、エドガーの出した答えだった。


「そう……じゃあそうね、とりあえず――」

「――え?」


 きょとん、と一転して間抜けな顔を作るエドガー。その眼前には、今まさにレナの本気の鉄拳制裁が迫っていた。


「ぎぃえええええ!?」


 床に打ち付けられ、そのままごろごろと転がっていく様は滑稽だ。あの貴族の男すら肩を揺らして笑っている。


「なにすんだよ!?」

「どさくさに紛れて胸触んな馬鹿」

「え? あ……」


 途端に顔を赤くして気まずそうに頬を掻くエドガーを見下げながら、冷ややかな視線を送るレナ。ついでに舌打ちも食らわせてやる。


「そういう童貞丸出しの反応やめてくれる? 気持ち悪いから」

「う、うっせー! お前みたいな奴の胸触ったって嬉しくねーよ!」


 見知らぬ者に警戒し毛を逆立てる子犬のように唸るエドガー。彼を無視して、レナは魔女たちの方へ視線を移す。一方は聞くまでもない。迷いのない瞳が答えを物語っていた。その背後に隠れるようにしたもう一方の魔女は、いまだ決めかねているのか視線をレナから逸らしてスカートの端を両手で握っていた。とはいえ、皆が賛同する中自分だけ行かないと言い切るのは彼女では難しいだろう。


「別に皆が行くからとか、そういうのは気にしなくていいよ。えっと、エイラ……だっけ? 私はあなたが生きていてくれただけで嬉しいから。それで十分よ」

「あ……」


 しかし、そのレナの一言がエイラの何かに火をつけてしまった。もう十分だからと、そう言いたかったのだがどうやらそれが裏目に出たようだ。彼女にとってあの時のことはすでに、必ず返すべき恩となっていた。


「あ、えっと……その……わ、私も行きます! 行きたいです!」


 徐々に声を大きくし、それまで消極的だったのが嘘のように教会中に声を響かせながらエイラは決意を示した。これならもはや否定するのは無粋というものだ。レナは軽く頷く。


「と、いうわけで。『元』第六ライフル小隊第四分隊と魔女二名はその任をお受けいたします」

「それはよかった。では――本題に入ろうか」

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