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旧 月光のサルヴァトーレ  作者: 天宮 悠
5章:死にたがりの狂戦士
17/106

01

 頬に冷たい物を感じる。液体のようなそれはレナの頬を伝い、首筋へと垂れて服に染みこんでいった。

 目を開ける。遠く、遠く離れた空に青い月が浮かんでいた。それはレナを見つめていて、まだ生きているのだとレナは理解した。


「ん……」


 かすかに声を上げて状態を起こす。舞台の照明のように降り注いだ月明かりがレナとその周囲を照らしだすが、それ以上先は暗闇に飲まれ何も見えない。

 とりあえず地面はごつごつとした冷たい岩で、綺麗に円形の穴が開いた先にある空の高さからして地表からおおよそ五十メートルほど下に落下したと思われる。よく生きていたものだ。


 と、そこではっとしてレナは周囲を注意深く見渡した。

 もしあの穴からこの場所に落ちたのなら、もう一人レナと運命を共にした者がいるはずだ。しかし、いくら目を凝らしても暗がりしか見えず、いくら耳を澄ましても滴る水の音しか聞こえない。

 仕方なくレナは装備を確認する。と、まるで誰かが並べたように細剣ノブレスオブリージュと神剣フラガラッハ、そしてナイフが丁寧にレナの横に置かれていた。その時――


「よかった……気がついたんだね」

「――っ!?」


 背後から聞こえた男性の声。反射的にレナは聞こえた声から距離を測り、手が届くと推察すると振り返りざまに見えた男性の胸ぐらを掴みながら投げ飛ばす。と、間髪入れずに馬乗りになって傍にあったナイフを掴み取りそれをだれとも知れぬ男の首元に突き立てる。


「動――」

「はいはーい、動かないでくださいねぇ」


 レナが言いかけると同時に、同じ言葉を背後からかけられた。レナの後頭部に何かがこつんと当たる感触を感じると、観念したようにレナはナイフを地面に捨て両手を上げる。見れば、レナが投げ飛ばした相手はあの青年だ。ただし、あの覚醒者の証明たる赤い瞳はもうどこにもなく、どこか諦めたような顔をしながら澄んだ青い瞳を揺らしてレナを見上げていた。


「殺すなら殺せばいい。でも――」

「でも、仲間は見逃せ? ですかぁ? いやぁお決まりな台詞をどうもありがとうございます……的な? まあ見逃せと申されましても私達もどうすることもできない状況でしてねぇ~」


 小馬鹿にするような含みのある笑いを込めた声。僅かに感じた殺気が完全に無くなると、レナはそっと背後に視線を移した。

 見えたのは、指で銃の形を作りそれをレナに向ける一人の少女。北方の地域特有の黒髪に、オスティアでも稀に見る深い黄色の瞳。首から足先まで徹底して露出を控えた割に全体的にひらひらとした服装に違和感を覚えつつも、それがただの少女でないことを暗に示すように纏う雰囲気だけは常人のそれとは違う異様な何かを醸し出していた。


「ああ、それはそうと。レオンさんの一部が元気になってしまわない内に上からどいていただけると嬉しいです~」

「は?」

「ちょっとトーリャさん! こんな時に……」


 急にレナの下敷きになっていた青年が声を荒げる。若干頬を赤く染めて、先ほどの戦闘が嘘のように歳相応といった風の態度だ。


「えぇ~? 敵に馬乗りになられて、これが覚醒者の力に反応しちゃってまた元気になって出てきたら~的な意味だったんですけど。一体レオンさんは何を考えたんでしょうかねぇ~えっへへ」

「うぅ……もういいよ。どうせ僕は……」


 目の前で行われる寸劇に唖然としつつも、レナはそっと青年から身を退かす。

 レナ置いてけぼりで続く劇に呆然と立ち尽くすしかなく、結局やっと会話の矛先がレナに向くのはそれから五分後の事だった。


「さて、そろそろ超アウェー感マックス状態のぱつきんさんとお話しましょうか」

「いやそれ一番先にしとくべきことだからね。ほんとごめん……」

「あ、いえそんな」


 丁寧に頭を下げる青年につられ、レナもつい普段初めて合う人相手にするような振る舞いをしてしまう。はっとこいつらは敵だと思い直した後には、肩を揺らして笑う黒髪の少女の姿。


「私達、気が合いそうですねぇ。とまあ、あんまり冗談で染めるのも悪いですし本題です。この通り私達突然陥没した地面に真っ逆さま。怪我はしなかったけどあら大変、外に出れません。てなわけで一時休戦して出口探しません? 普通モードのレオンさんは雑草レベルで役に立ちませんし、私は見ての通りお花畑に咲くか弱い一輪の花……的な? そこでなんかレベル高そうなあなたに助けてもらおうかなと」


 両手を顔の前で合わせ、心のこもってないお願いをされながらレナは思案する。

 レナを騙すつもりで言っているわけではないようだ。なによりだまし討ちするくらいなら先ほど眠っている時に仕留めればすむこと。このままだと全員野垂れ死ぬ。覚醒者の青年ならば生きながらえることはできるだろうが、それは彼一人だし死にかけて覚醒されてはこの少女もただでは済まないからと、そういうことだろうか。


 とはいえレナが利用されることに変わりはない。無事出られた瞬間後ろから刺されることだってあり得る。ならば協力せずにいたほうが少なくともこの女くらいは削れるだろうか。そんなことを考えていた矢先、黒髪の少女が咳払いをする。


「こほん、まあ信じられないのも無理はありませんがねぇ。でもほら、出られないと困るのは私もあなたも同じですし? じゃあじゃあさらにこうしません? 無事出られたらとりあえず一切戦闘禁止ってことで。お互い仲間がいる身ですし、心配ですもんね。どですぅ?」

「その言葉を信じられるだけの信用がない。……とはいえ、ここでいがみ合ってても意味ないのは事実よね。いいわよ、とりあえず出口を探しましょう」


 どうせあの青年がいる状態では何をどうしようがレナ達の勝機は薄い。もし、このままこの青年たちと戦闘せず別れることができるならそれは僥倖だ。少女の言葉を信じるわけではないが、今はそれ以外に選択肢もない。


「はいはい、よろしくです~。あ、私はアナトリア・リーヴァと申します。長いのでトーリャと。こっちの雑草君はレオン君です」

「ざっそ……うん、よろしく」

「……レナよ」


 短く皆が呼ぶ愛称だけを言って、レナは彼女たちを一瞥し周囲の探索に移る。

 闇色に染まってわかりづらいが、奥の方はかなり広い空間が広がっていそうだ。ともあれ、明かりがなければ先に進むのは難しいだろう。

 そこで一旦黒髪の少女――トーリャといったか、彼女のもとに戻る。


「ねぇ、なにか明かりになるものある?」

「あ、僕ライター持ってるよ。これでいいかな?」

「ええ、ありがと」


 柔和な笑みを浮かべるレオンからオイルライターを受け取り、キャップを開けてホイールを親指で回す。じゃり、という音と共に柱のように橙色の炎が立ち上り、暗がりにレナの顔を浮かび上がらせた。贅沢を言えばライトが欲しかったが、まあこれでも問題はないだろう。

 迷ってしまっては元も子もないので、進む距離に制限をかけながら壁に手を添わせながら進んでいく。足元とせいぜい目の前程度しか見えないので細心の注意が必要だ。夜だから暗いというよりも、ここが洞窟か何かで光がまったく差し込んでこないのが原因だろう。恐らく夜が明けてもこの状況に変わりはない。


「っと……なに?」


 つま先に何かが当たるのを感じ、レナは視線を落とす。そこにあったのは、何やら白くて丸い――まあいわゆる頭蓋骨。


「最近の……ではないか。昔の人?」


 見ればところどころ劣化が進み、触れれば今にも崩れ落ちそうという風貌。およそここ最近息絶えた者ではない。

 他にもなにかないかと辺りを注意深くライターで照らすと、他にも折れた剣の柄や鎧の残骸がいくつも転がっていた。建国間もない国であるオスティアですら鎧は未だ軍服よりも着ている者が多く、騎士も数多く存在するこの国では見ることも珍しくはないのだが、どうにもここに転がっているものは見たこともない装飾や模様が描かれていて、下手をすればオスティア建国よりも前にこの地に居着いていた者達である可能性すらある。


「オスティアができたのが四百年位前で……うーん、ざっと五、六百年くらい前の人? いや、そんなのの骨残ってるもん? わっかんないなこれはさすがに」


 専門知識のないレナではそれ以上の回答は得られない。しかし、懸念すべき事は別にある。ここに(むくろ)があるということは、何かしら怨念やら何やらが魔力を得て霊体化していてもおかしくはない。つまりはまあ、亡霊(ゴースト)の温床となっている可能性があるのだ。


 霊体に物理的な干渉はできない。祝福された神聖の武器か、神性の高い武器防具あるいは魔法のようなものでなければとり憑かれるか呪われて下手をすれば死ぬ。特にオスティアは大陸南部に近く、7属性の内、闇を司る精霊王が住まう七天の国が側にあるので戦場跡などでわりと闇の魔力に当てられた亡骸が亡霊化するのは良くある話なのだ。よくいるくせに一般人の対処は難しいときて、オスティアだけでなく周辺の国ではやけに教会が多いのもきっとそのせいだろう。


「まずいかな……でも朝になれば多少落ち着くらしいし……いや、こう暗いと昼夜関係ないか? ……とりあえず戻るか」


 どうにもこのまま進むのはまずいと判断し、レナは踵を返してトーリャ達の元へと戻る。

 出迎えた二人は相変わらず緊張感のない態度でじゃれあっていたらしく、敵であるはずのレナを暖かく迎え入れ、レナの報告を聞くよりも先に恐らくレオンが持っていたのであろう帝国軍製の携帯食を手渡してくれた。


「あの……私敵よ?」

「ひゃい? ああ、ひょうれすねぇ」


 長細いブロック型の携帯食を頬張りながら、トーリャはにっこりと微笑んだ。あまりの警戒心の無さにレナが唖然としていると、レオンが困ったように眉を寄せる。


「あ、毒とかは入ってないよ。僕のものだし。ごめん、やっぱりこんな状況で仲良くなんて無理があるよね。そもそも……いや、とにかく今は協力してここから出よう」


 一瞬目を細め何かを言いかけたレオンだが、すぐに取りなおしてまた少し抜けた感じの好青年に戻る。携帯食ならレナも持ってはいるが、今後森での移動を考えれば消費するのは惜しい。腹を括りレナも携帯食に口をつけ始めたところで、トーリャが突然手を打ち鳴らした。


「そうそう、レナさん……でしたっけ? あなた達はどうして私達を? 見たところ兵隊さん? みたいですしやっぱりオスティア軍の命令的なやつですか」

「それ以外に何があるってのよ。雇われたわけでもなければアンタらに恨みがあるわけでも……ないし」


 言いかけてからレナは口ごもる。一応レナ個人としてもやられた借りを返すという目的が最初はあったのだが、自分自身のことだというのになんというかもうどうでもいいようなそんな感じがしてきてならない。

 だが、覚醒者はレナが殺さなければ――そう、それは果たすべき役目だから。


「無茶言いますねー。レオンさんこれでも覚醒者ですよ? 死んで来いって言ってるようなものじゃないですか。敵として出逢えば死ぬ、それが伝説でしょ?」

「うん、でも彼女はちょっと違うんだ」


 そこで口を開いたのはレオン。どこか遠いものを見るように目を細めて、乾いた笑い声を立てながらレナに微笑む。


「うん? どゆことです?」

「彼女は……レナさんは一度僕を退けてるからね。僕が最初に力に目覚めたあの日……」

「……記憶、あるんだ」


 レオンは頷く。その表情は暗い。


「あの日僕を……だからきっと、オスティアの人もそれを知ってレナさんに僕を殺せって命令されたんだよね」

「まあ……そうでしょうね。じゃなきゃもっと暗殺専門とか高名な騎士様をよこしてるわよ。ほんといい迷惑だわ」

「はは、そうだね……ごめん」


 言って、レオンは立ち上がるとレナの側に歩み寄りそこで片膝を付いた。

 何事だとレナが彼の顔を見つめると、揺れる青い瞳がレナの視界に入ってくる。

 全てを諦めたような、それでいて何かを懇願するような瞳。レナはこの瞳を知っている。あの時、レナを一人村に残し去っていった父が見せた最後の顔。あの時もそう、こんなふうに――


「何よ……」

「もし君に、本当に君に覚醒者に抗える力があるのなら……今なら僕を殺せるよ。いや、この言い方は卑怯だ……そう、レナさん。僕を……僕を殺してくれないか」


 レナは驚愕に目を見開いた。何かを言おうとしたがそれも直ぐに頭から消え去り、僅かに口を開いたまま信じられないものを見るような目でレオンを見つめる。

 しかし、レオンの表情に変わりはない。虚言ではなく本当に心からそう思って、目の前の男はレナに懇願しているのだ。


「ちょっと、何言って――」

「このままだと僕はきっとたくさんの人を殺す。毎日、毎日。さっきも言ったけど、あの力が出ていても記憶は残るんだ。だから、今でも僕は思い出せる。あの時君をかばったあの男の人を、そして、君の仲間達を殺したあの時のことを。嫌なんだ僕は、そんなのは……力は欲しかったさ、誰かを守れる力は。けど、こんな力はいらない。何が伝説だ、こんな殺戮者の……だからレナさん、僕がそうなる前に、ここで――」


 レナはただ呆然と、目の前で懇願する青年を見つめていた。

 ここで彼を殺せばすべて終わるのだろうか。本当にすべてが。

 いや、ここで殺さなければ――コレは、世界が産んだ破壊の使徒。故に世界の是非を裁定する月が――『私』ならこの殺戮者を殺すことができる。


「――ッ!?」


 レナはいつの間にか握っていた拳銃を放り投げる。驚愕し目を見開くレオンを置いて、意に反して動いた右手に視線を移して震える手の平を見つめる。


「なんだ……いまの」

「れ、レナさん?」


 困惑しながらもレナの身を案じるように肩に手を置くレオンすら気にもとめず、レナはふらふらと立ち上がるとおぼつかない足取りで壁まで歩きそこで背を預ける。

 頭がずきずきと痛む。何かが言う。殺せと。

 思考が回らない。頭の中に手を突っ込まれて無理やりかき混ぜられているような錯覚さえ覚えてしまう。


 レオンを殺してこれが治るなら今すぐにでもそうしたい。そう思えるほどに――しかし、だからこそレナはそれだけは絶対にしない。他の介入で物事の可否を決めるような真似は――だから、


(――黙れ!)


 体を反転させ、ところどころ突起もある石の壁と向き合い、レナは躊躇なく頭をそれに叩きつけた。

 ぽたりと、額に伝った血が一雫地面に落ちて小さな赤い点を作る。


「レナさん!」


 駆け寄ってくるレオンを手で制すると、レナはその場に座り込んだ。

 穴から降り注ぐ月光を遮るように、顔の前に右手を持ってきてはゆっくりと裏表反転させたり開いたり閉じたりと何を確かめているのか自分でもわからないままレナは動作を繰り返す。

 数分やって自分の思考が働くのを理解すると、そこでやっとレナは深く息を吐いて立ち上がった。


「ごめん……なんでもない」

「いやいやいや、なんでもないってシチュじゃなかったですよぅ!?」


 一部始終を見ていたトーリャから鋭いツッコミが入るが、それを無視してレナは心配そうに見つめてくるレオンへと向き直る。


「さっきの話……ここを出てからでもいいかな。今はちょっと、さ」

「え? ああ、うん……ごめん。何だか悪いことしちゃったかな」


 未だおぼつかない足取りのまま、レオンが作ったのだろう焚き火を囲んで荷物を置いた仮の拠点に腰を下ろす。

 体にあった妙な違和感は抜けているが、間違いなく先ほどのレオンの言葉に反応してレナの中で何かがうごめいたのは事実。


「ん……さっきの場所で悪霊にでも取り憑かれたかな」


 しかしレナとてそれに気づけぬほど間抜けではないし、一応祝福されたミスリル銀の細剣も持ち歩いているのだ、その線は薄い。といっても、古代の霊ならばある程度霊格があるかもしれないし、気取られぬように取り憑き他者を操ることも可能なのではないだろうか。

 それを確認する術を持たぬレナにはもう、どうすることもできない。


「ありゃりゃ、それは大変。じゃあちょっと私が見てみましょうか」

「できるの?」


 四つん這いになって、なにか誘うようにレナを見上げるトーリャ。言っては悪いからとレナも口には出さないが、彼女の振るまいとは対極に生気のない瞳はどこか心すら竦ませる冷たさを感じる。

 あれは確か植物だったか虫だったか。他者が好む匂いや外見を装い獲物を仕留める、幻惑の狩人。ふとレナは不意にそれが頭に浮かんだ。


「ええまあ。うーんでも私の刻印ってば阿呆みたいに数だけはあるくせにサポート系あんまりないんですよねぇ……うい、たまにはちゃんとやるのも悪くないですね」

「刻印?」

「いえいえ、なんでもありませんですよ。ささ、じっとしててくださいね」


 言って、トーリャは丁寧に座り直すと右手をレナの顔の前にかざし目を閉じる。なるほどトーリャは魔女か、あるいは魔法使いらしい。であればあの中で軽装なのもうなずける。


「天空より流れる王の風よ。病に倒れ、魔に汚れし者に癒やしの救いを――天の風よ」

(……ん、オスティア式の詠唱?)


 通気の悪い洞窟内に、ふっと一陣の風がどこからか吹いてくる。優しく頬を撫でる風は、このじめじめとした暗い場所では心地良ものだ。ただ、それだけだが。


「ありゃあ?」


 困ったように眉を寄せて首を傾げるトーリャ。体にも特に変化が見られない以上、レナもどうしていいのか分からず釣られて首を傾げてしまった。


「んん? どうしたの」

「おっかしーなぁ。この超天才魔法使いトーリャさんがしくじるはずないし……レナさんアレです? 魔法防護の加護でも受けてます? でも自分に効く補助系の魔法まで跳ね返すタイプって聞いたことないですけど」

「なにそれ、違うと思うけど」


 とはいえ実際に魔法を食らったことなどないので、どうなのかはレナにもわからない。あいにくと村の近くで魔法を使うタイプの魔物はいなかったし、魔法使いも父がいただけだ。まあその父がいつの間にか何かし込んだ可能性も無いわけではないが、そういうことをする人ではなかったと思う。


「ちょっと軽めに攻撃魔法ぶっ放してもいいですぅ?」

「ぶっ飛ばすわよ」

「てへっ」


 自分の頭を小突きながら、わざとらしく片目を瞑って舌を出すトーリャ。いくらなんでも試しで攻撃されては命がいくつあってもたらない。とはいえ気になるので、後でレナ達一行の魔女達に頼んで試してみてもいいかもしれない。


「まさかの魔法無効化能力者? うーん、ほら、あれって確か一億人に一人? あれ、千年に一人だったかな? そんな感じでいるらしいですよ。どんな魔法も効かないとかなんとか。まさに神からの授かりものですねぇ」

「そんな奴がいたら真っ先に魔法協会に狙われそうね」

「あはは、ですねぇ。まあレナさんは異常がなかったからうまく発動しなかっただけかも。こんな気味の悪い、しかも墓地まがいのところなんですもの。ちょっとくらい気が滅入ってもおかしくはないですから。休みますか?」


 素直にはいと言えないのは痛いが、ここに到るまでの流れからこの分だとトーリャ達がレナの寝込みを襲う可能性は限りなく低い。むろん気を許すつもりはないが、どうにもさっきの一件で自分でもわからない内に疲労が溜まっていたのか急に体が気だるさを感じさせていた。そういえばここに落ちる前もあの狩猟銃の女や覚醒したレオンとやりあっていたのだ、疲れもたまるだろう。


「じゃあお先に……ごめんなさい」


 少し横になるだけ。そんなふうに寝転がり目を閉じたレナだが、意に反してそこから意識を失うまでにはそう時間はかからなかった。ただし、もしもの時のナイフだけは、そっと握りしめて。

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