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金色の瞳  作者: 七篠 月
第一章 鬼となった少女
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鬼の頭領

 うぐいす色の羽織と和服に身を包んだきくは上座に座っても、厳しい顔で沙紀さきを見ている。まるで沙紀を品定めしているようだった。

 菊の背は小さかったが、彼女が身にまとう威圧感は、ただのおばあさんではないことを物語っていた。

 彼女は正真正銘、鬼の頭領なのだ。

「菊さま。彼女が例の新しい鬼です。」

 重々しい空気の中、高貴こうきがそう言って、沙紀に目配せをする。それに気づいた沙紀はどうにか口を開いた。

山田やまだ沙紀さきです。」

 名乗って頭を下げた。沙紀は、菊がどんな顔をしているのか気になり、顔をあげるとその瞳から厳しさは消えていた。

「私は、山神やまがみきくといいます。新しい環境に慣れないでしょうから、困ったことがあったら、いつでも頼りなさい。」

 しおがれた声で菊は言うと、微笑んだ。その笑みはどこか高貴に似ていた。沙紀は、厳しさが消えた菊に、少し拍子抜けしてしまい、沙紀が返事をするのを忘れていると菊は不思議そうにする。

「なにか?」

「い、いえ!頼らせていただきます!」

 菊の言葉に我に戻った沙紀は、へんてこりんな返事をした。そのせいで、応接間に変な空気が流れたが、それを変えるためか高貴が話題を変えた。

「菊さま。彼女の処遇はどういたしましょう?」

 その言葉に菊は沙紀から高貴へと視線を移し、少し考え込んだ。

「そうですね。とりあえず、彼女にはこの屋敷に住んでもらいましょう。」

「ここにですか?」

 驚いたように高貴は、菊に確認した。

「ええ。念には念を入れたいのです。指導係は高貴、あなたがなさい。」

「私ですか?私よりも優れた方がいらっしゃるかと。」

「私はあなたに任せたい。」

 戸惑う高貴だったが、有無を言わせない菊の言葉に、口を閉ざした。そして、決意したように強く言葉を発した。

「その任、務めさせていただきます。」

 事情が分からない沙紀はその物々しい様子に、目を白黒させながら、二人の会話を聞いていることしかできなかった。

 すると、話が終わるのを待っていたかのように、廊下から女性の声が聞こえた。

「菊さま、そろそろ、お出かけの準備をなさってください。」

「わかりました。高貴、私は今から会合に出かけますから、沙紀のことは任せましたよ。」

 菊の言葉に高貴が返事をすると、すぐに菊は応接間から立ち去って行った。

 沙紀は、菊の足音が立ち去っていくのを確認すると、ふうとため息をついて、足を崩した。

「緊張した?でも、お優しい方だっただろう?」

「はい。確かに。」

 高貴がにこやかにきいてくるので、沙紀はとりあえず肯定したが、最初の菊の雰囲気を思い出すと、『お優しい方』と断定することには、本能的に躊躇していた。

「じゃあ、早速、部屋を用意させるか。」

 そう言って高貴が襖を開けると、すでに玄関で出迎えてくれた赤毛の女鬼がいた。

「沙紀さん、お部屋にご案内いたします。」

「おお、準備が早いな。」

「準備と言っても、大したものは、ご用意できないのですけどね。」

 そういいつつ、彼女は苦笑いを浮かべる。ただ苦笑いのはずなのに、色気があって、女の沙紀でも見惚れてしまいそうになる。

「い、いいえ、ありがとうございます!」

 沙紀は、慌ててお礼を言うと、彼女の案内について行った。高貴も沙紀の後ろをついてくる。

 応接間よりも屋敷の奥へと歩みを進めたところに沙紀の部屋はあった。やはり和室だが、布団だけでなく、タンスや机などの家具もあり、すぐにでも住めそうだ。

「わあ、純和風のいいお部屋ですね。」

 沙紀が感動していると、赤毛の女鬼も微笑む。

「お気に召していただいてよかったです。」

 沙紀はふと気づく。彼女の名前を知らないことに。そして、彼女に自己紹介していないことにも。

「あの、申し遅れました。私、山田沙紀っていいます。」

「ああ、こちらこそ、申し遅れました。田川たがわ美季みきといいます。わたくしは、このお屋敷で、使用人として働いておりますので、ご用の際は何なりとおっしゃってくださいね。」

 そう言って、ニコリと微笑む美季に沙紀は完全に見惚れてしまった。

「それでは、ご夕食の時間まで、ごゆっくりなさってください。」

 美季は夕食の準備があるのか、部屋から出ていった。部屋には高貴と沙紀が残された。部屋を眺め足りない沙紀が部屋をウロウロとしていると、高貴が口を開いた。

「沙紀、俺は自分の部屋にいるから、なにかあったら、隣の部屋を開けてくれ。」

 高貴はそう言って、部屋を出ようとした。それに、沙紀は返事をしそうになったが、何かが引っかかった。

「ん?自分の部屋?隣?」

 沙紀は驚きすぎて、思考がそのまま口に出ていた。

「ああ、ここの隣の部屋は俺の部屋だよ。」

 高貴はそう言うと、部屋の壁を指さした。厳密には壁ではなく、壁の向こう側の部屋を指さそうとしているようだ。

「高貴って、ここの家の人なの?」

「ああ、そうだよ。」

 高貴はさも当然そうに答えた。

 しかし、沙紀からすると、イケメンと同じ屋根の下、しかも、隣の部屋に暮らすことになるなんて、思いもしない展開に、嫌でも体の温度が上がってしまう。

「どうかした?」

 高貴は黙りこくる沙紀を心配そうに見ている。

 そんな高貴を見て、沙紀はどぎまぎしているのは自分だけだと気づき、さらに恥ずかしくなり、慌てて声をあげる。

「な、なんでもないです!大丈夫です!」

「そう?じゃあ、夕飯でね。」

 高貴は爽やかにそういうと、部屋から出ていった。それを見送った沙紀は、畳の上にへたり込んだ。

 そして、熱くなった頬を両手で挟んだまましばらく動けなかった。


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