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金色の瞳  作者: 七篠 月
第一章 鬼となった少女
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鬼の屋敷

 鬼の村は予想外にも普通だった。

 歩いている『鬼』たちも、見た目は人間と変わらないから、沙紀さきが住んでいた町とあまり変わらない風景がそこにある。違う所と言えば、沙紀が住んでいた町よりも昔ながらの日本家屋が多い印象があるくらいだ。

 高貴こうき栄輝えいき、沙紀が村を歩いていると、通りすがりに、おばちゃん風の鬼が話しかけてきた。

「高貴さん、栄輝さん、お帰りなさい。」

「ただいま。」

「ただいまー。」

 声をかけられたのはこれだけではない。彼らは老若男女問わず、多くの鬼たちから声をかけられた。彼らは鬼たちから慕われているようだ。ただ、どの鬼たちも、年若い彼らになぜか丁寧な言葉遣いをしていた。

 そんな不思議な状況に首をかしげつつも沙紀は、村をきょろきょろと見渡しながら歩いていた。

 すると、前を歩いていた二人が足を止めた。

 よそ見をしていた沙紀は、二人が止まったことに気づくのが遅れて、止まった高貴にぶつかる寸前で、どうにか止まった。

 どうしたのだろうと周りを見ると、止まった所には、先程までの民家と違い、ひと際大きな屋敷が建っていた。門構えも立派で、塀より大きな松の木もきれいに整えられている。

 いかにも地元の名士が住んでいそうな屋敷だ。

「じゃあ、栄輝は今日の件のこと、上に報告を頼む。俺はきくさまに報告するから。」

「了解。それじゃあ、お疲れさん。沙紀もまたな!」

 そう言うと、栄輝は高貴と沙紀に手を振って、そのまま歩いて行った。それに沙紀も応えて手を振った。どうやら栄輝とはここでお別れのようだ。

「おいで、沙紀。」

 沙紀は、高貴の声で、栄輝から高貴に視線を移した。高貴はなぜか大きな屋敷の門へと体を向けていた。

「え?」

「ここに入るんだよ。」

「ここは?」

 沙紀が指でさしながら疑問を投げかけると、高貴は答えてくれた。

「ここは『鬼の頭領』である菊さまのお屋敷なんだ。今日から俺たちの仲間になる沙紀を紹介しないといけないからね。」

「『頭領』?」

「俺たち鬼の中で一番偉い人のこと。」

 鬼の中で一番偉いと聞いて、沙紀の体は強張っていた。

 いかつい鬼なのだろうか、礼儀に厳しかったらどうしようとか頭を駆け巡る。

 そんな沙紀を見て、彼女の心を察したのか、高貴は心配そうな顔で覗き込む。

「大丈夫だよ、菊さまはとてもお優しい方だから。」

「そうなんですか?」

「うん。」

 高貴がそう言って微笑むと沙紀も少し緊張がほどけた。それを確認したように、高貴は沙紀を屋敷へと案内した。

 屋敷にはそれに見合った大きな玄関があった。何十人と靴を並べても余裕があるような大きさだ。高貴と沙紀がそこに入ると、すぐに和服の女性が現れた。

 彼女は、紅く長い髪を左肩にまとめていて、妖艶な雰囲気を持つ鬼だった。

「お帰りなさいませ、高貴さま。そちらは?」

「新しく来た鬼だ。菊さまにお目通りを願いたい。」

 赤毛の彼女に『鬼』と紹介されて、改めて自分は鬼なのだと思い知らされる沙紀だったが、二人の会話はそんな沙紀を置いてけぼりにして、どんどん進む。

「ええ、大丈夫ですよ。応接間にてお待ちください。」

「わかった。沙紀、こっち。」

「はい。」

 高貴に促されると、屋敷に上がり、木目がピカピカと光る廊下を歩いた。入り組んでいて一人では迷子になりそうだ。沙紀はふと廊下から見えるふすまを見た。襖の装飾はどれも凝っていて美しかった。

 襖に見惚れていると、あっという間に目的地に着いたようで、高貴が足を止めた。

 そして、襖を開いた。

 そこは予想通り和室だったが、上座の方が一段高く作ってあった。まるで、時代劇で見るような将軍が家臣と謁見えっけんするような和室だった。

 こんな仰々(ぎょうぎょう)しいところで今から何が起こるのかと茫然と立ち尽くしていると、高貴が座るよう促した。

 しかし、座ってからも沙紀は落ち着くことができず、高貴に話しかけた。

「私、どうすれば?」

「そんなに緊張しなくて大丈夫。ただの挨拶だから。君は自己紹介だけすればいいよ。あとは俺に任せて。」

「わかりました。」

 そう返事をした後すぐ、廊下を歩いてくる音がした。沙紀は慌てて口を閉じた。ドクドクと心臓がなる。

 スーッと襖が開くと、そこには白い髪をおかっぱにしたおばあさんが立っていた。皺は深く刻まれ、目は吊り上がっている。そして、鋭い眼光がこちらに向けられていた。

 沙紀は心の中で思いっきり叫んだ。

(こ、怖そうな人なんですけどーーーーーーー!?)


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