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金色の瞳  作者: 七篠 月
第二章 鬼導隊編
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震える手


 沙紀さきは、自室の天井を眺めていた。

 初任務から帰ってきて、いつも通り過ごしていたつもりでも、どうにも眠りにつくことができなかった。

 ほんの数時間前に死を近く感じていたせいか、まだ体に安心感が戻ってこない。

 いつまでも眠れないでいると、布団の中にいるのも疲れてきて、沙紀は水でも飲もうと部屋を出た。

 炊事場を目指していると、縁側には見慣れた鬼が座っていた。

高貴こうきさんも眠れないんですか?」

 沙紀がそう声をかけると、ビクッと肩をはねて、高貴がこちらを見た。

「あ、ああ。まあね。沙紀も?」

 平静さを取り戻して、高貴は少し元気なさそうに返事をした。

「はい。何か寝付けなくて。隣、いいですか。」

 沙紀は、高貴に用があるわけではなかったが、なぜかそばにいたかった。

 高貴は少し気まずそうに頷いた。

 沙紀が高貴の隣に座ると、すぐに高貴が頭を下げた。

「ごめん、沙紀。」

「えっ、どうしたんですか?」

 沙紀はいきなりのことで驚いてしまった。

「俺、沙紀を危険な目に遭わせた。本当にごめん。」

 高貴はどうやら、任務でのことを言っているのだろう。

「結局、沙紀を助けたのは栄輝だったし、俺は手も足も出なかった。」

 高貴は切なそうに眉間に皺を寄せていた。

 その様子に、沙紀は慌ててしまった。

「いいえ!その、ぼーっとしてた私が悪いんです。高貴さんは何も悪くないです。」

 これは沙紀の本心だった。

 正直なところ、任務中に隙があったと叱られるだろうと思っていた。

「私こそ、高貴さんに迷惑かけました。すいませんでした。」

 今度は、沙紀が頭を下げていた。

「いや、指導係の俺がもっとちゃんとすべきで…。」

 高貴は謝る沙紀に、さらに謝罪を重ねようとしていると、ふと沙紀の手が彼の視界に入った。

 沙紀の手はふるふると小刻みに震えていた。

 高貴は思わず、その手に自分の手を重ねていた。

「!?」

 沙紀はいきなりの感覚に頭をあげた。

 どうして、手を重ねたのか、質問したいのに、どこか恥ずかしくて、言葉がスムーズに出てこない。

 しかし、高貴は沙紀が何を聞きたいのか分かったのか、口を開いた。

「沙紀の手、震えてたから。もしかして、嫌なこと、思い出しちゃった?」

 そう言われて、沙紀は、自分の手が、いまだ高貴の手の下で震えていることに気づいた。

 沙紀に自覚はなかったが、体はどうにも恐怖から逃れきっていないようだ。

「あれ?おかしいな。か、体が冷えちゃったのかな…。」

 沙紀は、こんな格好悪いところ見せたくないと、初夏の今の時期に、意味の分からない言い訳をしていた。

 こんなことで、いつまでも震えていては、鬼導隊きどうたいには向いていないと失望されるのではないかと、沙紀は心配でならなかった。

 しかし、高貴は沙紀の震える手をそっと両手で包み込んだ。

「大丈夫。怖いのは俺も一緒。沙紀を失うかもしれないと思ったら、怖かった。」

 高貴の手は、震えてはいなかったが、少し力が入っていた。

 怖いのは自分だけではなかった。

 沙紀はそれを知っただけで、気持ちが軽くなるのを感じた。

「あ、でも、このことは、栄輝には内緒な。あいつ、鬼の首を取ったように調子づくから。」

 高貴は、茶目っ気を出してそう言った。

 沙紀は、高貴の言うことがすぐに想像できて、ふっと笑っていた。

「はい。言いません。今日のことは、私たちの秘密ですね。」

「それがいい。」

 お互いに、軽く微笑んでいた。

 もう、沙紀の手は震えてはいない。

 高貴はふと、沙紀から視線を外した。

「でも、俺もまだまだだな。もっと、強くならないと。」

 高貴は遠い目をしていた。

 沙紀は、高貴でもまだ上を目指すものなのかと、なんとなく思っていた。

「もう、仲間を失うわけにはいかない。」

 高貴は、独り言のようにぼそっと、そう言った。

 沙紀は、その時はただ、高貴は仲間想いなのだと思っていたが、その言葉の重さを全然わかってはいなかった。



―翌朝

 太い眉の青年は、眼鏡をかけた青年から、ある報告を受けていた。

「了解。この件は、こちらで手配しておくよ。」

「分かりました。以上で報告は終わります、生徒会長。」

「ご苦労様。」

 太い眉の青年は、生徒会長と呼ばれ、この部屋でひと際いい椅子に体を沈めていた。

 そして、太陽が煌めく外を見つめ、ぼそりと呟いた。

「…来るのが彼らじゃなきゃいいけど。」

「ん?何か言いましたか?」

 眼鏡の青年が無表情のまま聞くと、生徒会長は、首を振った。

「いいや、何にも。」

 その微笑みは、いかにも嘘くさかった。

 


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