悲鳴の正体
男女の区別のつかない悲鳴が、屋敷を駆け巡ると、ドタドタドタとけたたましい音が続いた。
沙紀は身を固くさせて、じっと耐えていた。
しかし、嫌なモノほど、近づいてくるもので、音と振動は次第に大きくなっていて、沙紀たちの方へと向かってきている。
それに気づいた沙紀はさらに体に力が入った。
ただ、それを和らげるような温かいものが沙紀を包んだ。
「大丈夫だよ、沙紀。俺が守るから。」
その言葉に、沙紀は力が抜けた。
その時、沙紀たちの目の前に、何かがなだれ込んできた。
「出たー!!」
「マジで、怖えわ!」
などと、いろいろ言っている若者の集団が、沙紀たちの目の前で興奮しながら息を整えている。
沙紀は、その光景に呆気に取られていた。
すると、自分の頭上から声が降ってきた。
「なるほど。そういうことか。」
その声に驚いて、顔をあげると、高貴の端正な顔がすぐそこにある。
沙紀は、冷静になって、自分の状態を見ると、高貴の体に抱き付いた格好になっていて、高貴は沙紀を受け止めるように包んでくれていた。
その状況に、沙紀の顔は沸騰していた。
「ご、ごめんなさいっ!」
そう言って離れると、高貴は不思議そうに首をかしげた。
「別に謝るようなことは…。」
そんな会話をしていると、いきなり光が目に飛び込んできた。
「まぶしっ!」
思わずそう叫んで、光を見ると、若者たちが懐中電灯をこちらに向けていた。
そして、少しの沈黙の後…。
『ギャー―――――――――――!!』
先ほどより大きな悲鳴が襲い掛かる。
それに、たまらず栄輝が叫んだ。
「うるせえ!落ち着け!!」
どうにか若者たちを落ち着かせた沙紀たちは、事情を聴くことができた。
どうやら、彼らは大学生で、興味本位で『お化け屋敷』として有名なここで、肝試しをしていたらしい。
沙紀が見た光も懐中電灯の明かりで、男女ともつかない悲鳴も男女混合の悲鳴だったから、区別がつかなかっただけというわけだ。
「それで、あなたたちは、『何か』見たんですか?」
高貴がそう尋ねた。
「俺は見てない。誰か見た奴いる?」
「私も見てない。」
首を振る者ばかりで、結局誰も見ていないらしい。
「じゃあ、なんであんな悲鳴を上げたんですか?」
「何か、背筋がゾワッてしたの。それで怖くなって。」
一人の女性がそう答えたことで、結論は出たようだった。
一人が叫べば皆が叫ぶ。
集団ならではのパニック状態となったというわけだ。
「なるほど。ご協力ありがとうございました。」
高貴がそう女性に微笑みかけると、女性はぽっと頬を染めた。
さっきまでの恐怖心はどこへやらだ。
「あのー、ちょっといい?」
大学生には幼い顔だちの青年が声をあげた。
「どうしました?」
それに高貴が応えると、彼は集団の中から出てきた。
短髪で、太い眉が特徴的な青年だ。
そして、高貴の刀を指差した。
「もしかして、君たちって鬼?」
その言葉に、彼以外の周りが凍りついた。
頬を染めていた女性も、今度は青白くさせている。
どうやら暗がりで、刀の存在も沙紀たちの格好にも気づいていなかったようだ。
ただ彼だけは、興味津々といったキラキラした瞳を向けてくる。
「そうですよ。いわゆる『心霊スポット』も邪が出る可能性があるので、見回っているんです。ですから、あまりこういうところには、来ないようにしてくださいね。」
いつもより敬語口調だが、有無を言わせない感じで、高貴は言った。
「す、すいませんでした!これからは気をつけます!ほら、行こうぜ!」
大学生の一人がそう言うと、我先にと、大学生たちは洋館から出ていった。
しかし、眉の太い彼は動こうとしなかったので、他の大学生が彼の首根っこを掴んで引っ張った。
「ちょっ、俺は聞きたいことが…。」
「いいから、早くしろ!」
太い眉の彼は何か言っていたが、引きずり出されていった。
「とりあえず、静かになったな。」
栄輝の言葉通り、大学生たちがいなくなったおかげで洋館は静まり返っていたが、薄気味悪さも帰ってきた感じだ。
「人間たちの噂っていうのも、肝試しを楽しんでた奴らの悲鳴だったってことだろ?なら、もう帰ろうぜー。」
栄輝は大学生たちがいたことで、ここには邪がいないと確信したようで、さっさと帰ろうとする。
しかし、高貴は眉をひそめた。
「だめに決まってるだろ。さっきの女子大生が言っていたことも気になるし、一通りは見てから、帰るぞ。」
高貴は、テキパキと指示を出した。
その結果、栄輝は単独で二階へ、高貴と初任務の沙紀は一階を担当することになった。
栄輝は渋々きしむ階段を上がっていった。
「じゃ、俺たちも行こうか。」
「はい。」
高貴と沙紀は廊下を歩いていく。
不気味な雰囲気は変わっていないが、高貴がいるだけで、どこか安心して歩けてしまう。
沙紀と高貴は、部屋を一つ一つ点検していったが、邪がいる様子はなく、あっという間に、一番端まで来た。
「ここで最後か。」
高貴が最後の部屋のドアノブに手をかけた時だった。
高貴が少し固まった。
沙紀がどうしたのかと尋ねようとする前に、高貴が小声でささやいた。
「誰かいる。」
その言葉に沙紀は、刀の柄に手をかけ、身構えた。
高貴は、沙紀とアイコンタクトと取った後、バッとドアを開けた。




