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金色の瞳  作者: 七篠 月
第一章 鬼となった少女
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刀鍛冶の鬼

 木刀を使っての修業にも慣れた沙紀さきは、木刀の半分だけ色を変えるなど鬼の力の出力調整もできるようになっていた。

 その様子を満足そうに見ていた高貴こうきは、すっと立ち上がった。

「うん、いい感じだ。じゃあ、沙紀の刀をつくりに行こうか。」

「え、私にも刀あるんですか?」

 沙紀からは、思わずそんな疑問が漏れた。

「え?鬼に帯刀義務があることは知ってるでしょ?」

「それは、知ってますけど。この村の人たちは、帯刀してない人もいたので、持てる人と持てない人がいるのかと思って。」

 沙紀の言う通り、村を歩いていても、全員が帯刀しているわけではなかった。この頭領屋敷の使用人も帯刀していない者が多い。

「ああ、なるほどね。でも、みんな、刀は持っているよ。村には、邪が入ってこないから、家に置いてる人も多くてね。帯刀してると、動くとき、結構邪魔だからね、アレ。」

「それで、美季みきさんとかも、帯刀しないんですね。」

 沙紀はそう言いつつ、帯刀しながら廊下の雑巾がけをしている美季を想像した。沙紀の想像の中では、美季の刀は動くたび廊下に打ち付けられ、引きずられている。少し笑える光景だが、そんなことになれば、廊下にも鞘にも傷がつくことは避けられない。

「とはいえ、緊急事態に備えて、護身用の短刀ぐらいは懐に忍ばせてるから、無防備って訳でもないよ。」

 高貴の軽い一言に、鬼も人と変わらないなと思っていた沙紀は絶句した。今まで見た帯刀をしていない鬼たちが、実は短刀を隠し持っていたと思うと、人間社会では考えられないと少し青ざめてしまう。

 沙紀が怯えたことを察知したのか、高貴はボソッとつぶやいた。

「俺たちは、刀が無いと自分の身一つ守れないからね。」

 その自虐的な言葉に、沙紀はハッとした。彼らはあくまで、自分たちを襲う邪から身を守る術として刀を手にしているのに、彼らに怯えてしまったことを沙紀は申し訳なく思った。

 沙紀が謝罪しようか迷っていると、高貴の明るい声が振ってきた。

「沙紀、君を守る刀を手に入れよう。」

 高貴の笑顔を見ると、何も言えなくなった。いまだ、鬼としての自覚の足りない沙紀に嫌な顔ひとつせず、見守る高貴のせいだ。

 沙紀は、間をおいて返事をすると、高貴について行った。



 沙紀と高貴は、山中を歩いていた。

「まだ、登れたんですね、この山。」

 疲れた沙紀がぼやくと、先を行く高貴は涼しげに解説をする。

「村は山の中腹ぐらいなんだ。まだまだ上があるよ。とはいえ、目的地はすぐそこだけどね。」

 高貴がそういうと、カンカンと金属音が聞こえてきた。どうやら、目的地は本当に近いようだ。


 目的地は、それなりに大きな一軒家だった。先程から、金属音が鳴り響いている。

 高貴が迷いなく扉をあけると、中は作業場のようだった。そこでは、大柄の男性が刀と向き合っていた。

刀鬼とうきさん、こんにちは。」

 高貴が彼の名前を呼ぶと、彼はこちらを振り向いた。顔には無精ひげを生やし、頭には手拭いを巻いている、三十代ほどの男性だった。それに、刀鍛冶というだけあって、筋肉質だ。

「ああ、高貴、久しぶり。どうした?」

 刀鬼は汗をぬぐいながら、問いかけた。見かけに負けないぐらい、太くてたくましい声だ。

「今日は、彼女の刀を依頼しに来たんだよ。」

「彼女?」

 その言葉で、入口付近にいた沙紀に、やっと目を向けた。

「山田沙紀です。よろしくお願いします。」

「俺は、二十代目 佐山さやま刀鬼だ。見てのとおり、ここで刀鍛冶をやってる。よろしくな。」

 刀鬼の言う通り、作業場には何本も刀があり、それを作るための道具もたくさんあった。そして、他にも鬼たちがいて、作業を続けている。

「沙紀は、刀は初めて?」

「はい。」

 沙紀は至極当然なことを聞かれ、当然のように返事をしたが、刀鬼は怪訝そうな顔をした。すると、高貴が口をはさんだ。

「沙紀は、この前まで人として暮らしてたんだ。」

「え!?沙紀、いくつ?」

 高貴の言葉はさらに混乱を招いたようで、驚きながら沙紀に問いかけた。

「十六です。」

「十六!?はあ、そりゃあ、珍しいなあ。」

 そう言いつつ、沙紀をじっと見つめる刀鬼。その反応に沙紀が今度は疑問を抱いていると、刀鬼が大声をあげる。

「よしっ!こりゃ、面白いのができるぞ!明日までには、つくっておくから、取りにきな!」

 ウキウキの様子の刀鬼だが、刀をつくるにしては、期間が短すぎる。沙紀はそのことに驚いて、高貴の顔を見たが、高貴は特に驚く様子はない。鬼の刀とはそういうものなのかと、沙紀が何も言えずにいると、和やかな雰囲気に鋭い声が突き刺さった。

「師匠、明日は無理です。」

 声の方を見ると、ベリーショートの黒い髪の女性が、冷たい目で刀鬼を見ている。発言からして、彼の弟子なのだろう。

 彼女の言葉に、やっぱり明日までには無理だよなと沙紀が思っていると、沙紀が考えていることとは違う方向に話は進む。

「暇な時なら結構ですが、今どのくらい注文入ってるか分かっています?」

「大丈夫、大丈夫。頑張りゃ、どうにかなるだろ。」

 二人のやりとりに、『暇な時なら、一日でつくれちゃうんだ…、頑張ればどうにかなるのか…』と沙紀は愕然としていた。

 しかし、あまりに楽観的な刀鬼に対し、弟子の彼女は無言で眉間にしわをよせている。

 我に返った沙紀は、自分のせいでもめているなら、申し訳ない気がして口を開いた。

「あの―。」

 しかし、それは刀鬼の声に遮られた。

「沙紀は一本も刀が無い。それなら、少しでも早くつくるべきだ、沙紀を守る刀を。それが俺たちの仕事だ。」

 強い意志がこもった言葉だった。本当に「師匠」といった感じで迫力がある。それと同時に、仕事への揺るぎない誇りを感じる。

 すると、弟子の彼女も師匠の本気を受け取ったのか、少しだけ口角をあげる。そしてすぐさまクールに、他の鬼たちへテキパキと指示を出す。

 その様子を、刀鬼も満足そうに見ていると、指示を出し終わった彼女が師匠を見上げた。

「師匠、言ったからには、不眠不休ですよ。覚悟してくださいね。」

「え…、マジか。」

 弟子の鬼は黒い笑みを浮かべ、刀鬼は青ざめた。


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