過去からの強敵
「さて、こっち側も始めるとするか」
星夜の分身達は、分身の一体が石化ヒュドラ達を回収している間に、それぞれのダンジョンに到着した。
「おいで」
そして、毒沼に潜む海蛇の迷宮の時と同じようにそれぞれのダンジョンに飛び込み、ダンジョン内で新たな魔物達を展開した。
今回は、ヒュドラ、ゴーレム、リビングアーマーを材料にした魔物達が、それぞれのダンジョンに姿を現した。
たいするダンジョンの魔物達は、コカトリス、スケルトン達死霊系モンスター、そして、エレメンタル達だ。
コカトリスのダンジョンについては、コカトリスだけが数十羽いた。
スケルトンのダンジョンは、多種多様な魔物達がいた。
スケルトンは当然として、ゾンビやゴースト、レイスなどの屍肉や霊魂系モンスターがうじゃうじゃいた。
最後のダンジョンには、色とりどりの結晶型モンスター、エレメンタル達が無数に浮遊していた。
「見れば見るほど、イメージと一致するな」
そんなエレメンタル達の姿を見て、星夜は強い既知感を覚えた。
何故かというと、今目の前にいるエレメンタル達の姿が、かつて星夜が書いた自小説に登場させたモンスターと瓜二つだったからだ。
「なんでこんなそっくりなんだ?」
さすがに気になった星夜は、ポケットから本を取り出して魔物の欄を調べた。
「・・・おっ!あった。えーと、何々・・・いっ!?」
そしてエレメンタルの項目を見つけた星夜は、エレメンタルについての情報を読み進んだ。
その結果、星夜は目の前にいるエレメンタル達の正体を知った。
本には次のように記載されていた。
【エレメンタル】
星夜が執筆した小説を夢見た神が、新たに生み出した新種の結晶型モンスター。
ほんモンスターは、星夜の小説内設定を忠実に再現されており、かなり極端な性能を有している。
「・・・マズイな。設定を忠実に再現されているとなると、今の戦力では絶対に勝てない」
星夜はそう結論した。
ちなみに、星夜が設定したエレメンタルの性能は、次のようになっていた。
体力そこそこ、魔力大。物理攻撃力、移動速度皆無。その半面、物理防御力、魔力防御力が極めて高い。
攻撃手段は主に、エレメンタル自身と同じ属性の魔法攻撃。魔法の威力は、最初期の段階でせいぜい見習い魔法使いと同程度。
エレメンタルは、完全な固定砲台型の魔物である。
ただし、星夜が今は絶対に勝てないと言った理由は、このステータスの極端ぶりではなく、エレメンタル達が持つ能力群にある。
このエレメンタルの能力は、属性と数に依存するものが大半で、内容は以下のような感じである。
【エレメントキャンセラー】
エレメンタルと同じ属性の攻撃を大幅に減衰させる。
【エレメントフィールド】
周囲のエレメンタル達に、自身の【エレメントキャンセラー】の属性抵抗値を一部与える。
※対処が同じ属性の場合に、【エレメントキャンセラー】の減衰率がさらに上昇する。
【エレメントチャージ】
周囲に同じ属性のエレメンタルがいる場合、その数に応じてエレメンタルの能力に補正が入る。
※補正率は、エレメンタルの数が五十を越えると、エレメンタル達は自力で移動が可能になる程度。
もっともその段階になると、エレメンタル達は固定砲台から移動城壁か移動要塞という感じになってくる。
空中を赤ん坊のハイハイ程度のスピードで飛行し、移動速度同様に強化された物理・魔力防御力であらゆる敵の攻撃を無効化。あとはちまちまと魔法を連続発射し、敵を殲滅する。
まさに数の暴力といった感じだ。
さらにいうと、小説のエレメンタル達には、全て体力自動回復と魔力自動回復、結晶型由来の状態異常無効化の能力が持たされていた。
つまり、エレメンタル達には弾切れや体力切れは存在せず、状態異常の類いも効果が無いのである。
まさに、エレメンタルは自分が考えた最強モンスターと言った感じなのだ。
ちなみにこれ、最下級のエレメンタル達の話である。
上位個体になると、下級エレメンタル達を召喚するような能力まで持つようになり、魔力自動回復と合わせて一定時間毎に増援を呼び込んでくるのだ。
小説の中ならここまで理不尽でもよかったが、現実では堪ったものではなかった。
ちなみに、こんな理不尽なエレメンタル達の相手をさせられていた星夜の小説の主人公がどんなのかというと、こちらも単独でマイクロブラックホールを連射するような理不尽な人間である。
作中では、主人公とエレメンタル達は壮絶な持久戦を繰り広げていたのだ。
とまあ、こんな感じな為、今の星夜の戦力ではエレメンタル達には絶対に勝てないのである。
「ここは一時撤退した方が良さそうか?・・・いや、この依頼は撤退した時点で失敗になりそうだ」
星夜は自分が作った設定を振り返り、撤退することを考えた。が、すぐにその場合その後どうなるかを想像してしまい、撤退を躊躇することになった。
今ここで星夜が撤退すれば、エレメンタル達は神様の依頼にあったとおり、街を襲撃に行くだろう。
その時点でエレメンタル達の街への襲撃を阻止するという依頼は失敗したことになる。
そして、襲撃された街は確実に壊滅することが想像できる。
逆に、ほとんどの物理攻撃と魔法を無効化するエレメンタル達が相手に、あの街が生き残った光景を想像することはかけらも出来なかった。
「逃走はマズイ。けど、長期間あいつらを抑え込むのも無理だし、どうするかな?」
短期間なら、ダンジョンの出入口を結界で塞ぎ、エレメンタル達だけを遮断するだけで街への襲撃を阻止することが出来る。
だが、結界はそこまで長持ちしない上、星夜が設定したエレメンタル達の中には、空間干渉型も存在している為、結界の一つや二つは敵が解除出来る。
はっきり言って、時間稼ぎいじょうのことは出来ない。
ならどうすれば良いのか?
星夜は前提条件を振り返り、それを考えた。
「・・・ここのダンジョンマスターが転生者だと仮定するなら、交渉するしか手がないか」
そして、星夜はしばし考えた後そう結論をした。
現在の星夜では、戦って勝てる相手ではないいじょう、交渉でどうにかするしか現状採り得る手がなかった。
とりあえず次の目的が決まった星夜は、エレメンタル達に向かって歩き出した。
エレメンタル達の向こう側にあるダンジョンマスターの部屋を目指して。
「ここのダンジョンマスターはどんな奴かな?知り合いだと話は格段に楽になるんだが、最低限善人でありさえすれば良いな。転生のせいで精神的に弾けていたり、感覚が麻痺されていると交渉がしづらいし、悪人だとさらにマズイしな。けどまあ、街を襲撃しようとしている時点で、後者の可能性が高いんだよなぁ」
星夜は、これから交渉する相手の人物像を想像し、胃がキリキリしてきた。
胃の痛みを抱えつつ、星夜はリビングアーマー達を率い、エレメンタル達の隙間を通り過ぎて行った。
普通ならエレメンタル達に攻撃される場面ではあるが、そこはエレメンタル達のことをよく知っている星夜。
エレメンタル達を倒すことは出来ないが、あしらうことなら可能なのだ。
ちなみにどうやっているかというと、星夜の方は夢幻のローブでエレメンタル達の魔力感知と生命力感知を無効にしている。
結晶型モンスターであるエレメンタル達は、外部情報を魔力と生命力を感知することによって把握している為、その二つに干渉されると周囲の情報を正確には認識出来なくなってしまうのだ。
その為、現在エレメンタル達は星夜を認識していない。
また、リビングアーマー達も基本的に魔力で動く鎧の集団の為、元から生命力などなく、エレメンタル達に敵意を向けていない場合、エレメンタル達はリビングアーマー達をそこらにある石ころと同じように認識するのである。
こうして星夜達一行は、なんの問題も無くダンジョンマスターのもとに向かって行けた。
だがこの時星夜は気がついていなかった。
エレメンタル達が星夜だけは認識していたことに。
そして、認識した上で敵意を向けていなかったことに。




