ヒュドラVSコカトリス群
「さあ、行っておいで」
星夜が合図を出す。
すると、コカトリスとリビングアーマーの錬成体以外の魔物達が一斉に敵に向かって行った。
「うん?お前は行かないのか?」
それを見送った後、一体だけ残ったその個体に尋ねた。
コクリ
星夜の質問に彼は頷き、星夜の盾となるように星夜の正面に立った。
「俺の護衛をしてくれるのか?」
コクリ
また彼は頷いた。
「そうか」
星夜もそんな彼に頷きを返すと、敵に向かって歩き出した。
「今のところは一方的だな」
星夜はゆっくりとダンジョンを歩いていた。
そして、歩きながら先行した魔物達の戦いを観戦した。
はっきり言ってまるで勝負になっていなかった。
今戦っている敵にヒュドラは混じっておらず、最初に見つけた多頭の蛇ばかりを相手にしていた。
が、彼らと錬成した魔物達では、基本スペックが錬成体の方に軍配が上がるらしく、基本性能だけで敵を駆逐していた。
今だ特殊能力を使用する程の強敵は現れず、ただ殴る蹴るだけで勝敗が決してしまっていた。
「まあ、ヒュドラが出て来てからが本番か」
星夜は現状を見て、そう判断した。
「けど、それにしても愛ちゃんのダンジョンに比べてやたら広いな、此処」
星夜は視線を交戦している敵から外し、自分が今歩いているダンジョン内を見た。
現在星夜がいるダンジョンは、少なく見積もっても愛ちゃんのダンジョンの五倍近い広さがあった。
「ヒュドラの身体のサイズに合わせているのか、それとも愛ちゃんよりもダンジョンポイントが豊富なのか、どちらだろうな?」
前者ならダンジョンとしての都合なので問題は無い。が、後者の場合、敵ダンジョンマスターに豊富に魔力があるか、かなりの数の敵を殺してダンジョンポイントを稼いでいることになる。
魔力量が多いのも問題だが、生物の殺害能力が高いのも厄介だ。
今回の襲撃は犠牲も覚悟しないといけないと星夜は思った。
「うん?」
星夜がそう思った直後、マップに大きな反応が複数表示された。
「ようやくお出ましか」
星夜がそちらに視線を向けると、五体のヒュドラ達がこちらに向かって来ているところだった。
「ようやく本番だな」
星夜がそちらに向かって歩き出すと、それに呼応するように錬成体達も星夜のもとに集結を開始しだした。
「さあ、依頼の開始だ!」
星夜がそう宣言すると、錬成体達が特殊能力を解禁してヒュドラ達に向かって行った。
「まずは分断」
そんな錬成体達に星夜は最初にそう指示した。
星夜の命令に従った魔物達は、それぞれがヒュドラ達の注意を引き、ヒュドラ達の距離を徐々に離していった。
「次は各個撃破」
そして、十分にヒュドラ同士の距離が離れたことを確認した星夜は、魔物達に攻撃を命じた。
一匹目のヒュドラには、通常のコカトリス達。
二匹目のヒュドラには、錬成コカトリス達の内、ニクスの羽根とヒュドラを錬成したコカトリス達。
三匹目のヒュドラには、錬成コカトリス達の内、火ルビーとリビングアーマーを錬成したコカトリス達。
四匹目のヒュドラには、ヒュドラとスライムポットにコカトリスを錬成した魔物達。
最後の五匹目のヒュドラには、星夜、レモラを錬成したコカトリスと、コカトリスを錬成したリビングアーマーがそれぞれ当たった。
「それじゃあ、俺達も行ってみよう!」
星夜が号令を出すと、レモラコカトリス(レモラ錬成コカトリス)がヒュドラに突撃して行った。
それに続くようにコカトリスアーマー(コカトリス錬成リビングアーマー)、星夜の順に走り出した。
当然敵はそんな星夜達に攻撃を仕掛けてきた。
ドラゴン相手にも使っていた、水弾の連射攻撃だ。
レモラコカトリスは、その水弾を避けようともせずに直進。
それを見た星夜が大丈夫かと思ったら、レモラコカトリスに向かっていた水弾が全て途中で軌道を変え、レモラコカトリスには一発も命中しなかった。
「なんだ今の?」
星夜はその光景を見て、レモラにあんな能力があったかと、不思議に思った。
「あっ!」
が、現在は戦闘中。そんな疑問を抱いている場合ではなく、こちらにもヒュドラの水弾が飛んできた。
もっとも、こちらに飛んできた水弾は星夜が対処するまでもなく、コカトリスアーマーの盾に防がれ霧散した。
「ありがとう」
コクリ
星夜の礼にコカトリスアーマーは頷くと、剣を構えた。
「《シャドウ》」
それを見た星夜は、コカトリスアーマー達を支援する為にヒュドラの影の操作を開始した。
ヒュドラの影から九つの蛇頭が浮かび上がり、ヒュドラのそれぞれの首に絡み付いていった。
ヒュドラは慌てて抵抗をはじめたが、相手は影。
どんなに頑張っても、その拘束を外すことは出来なかった。
というか、拘束と透過を繰り返して、ヒュドラの気を散らすいじょうの役目は無いのが本当のところだ。
さすがに相手はヒュドラ。どんなに出力を上げても、動きを完封するなんて無理な話である。
だが、ヒュドラの眼球や口を拘束することは可能。
これでヒュドラが暴れるのは防げないが、こちらを狙うことも、水弾を発射することも防げる。
後はレモラコカトリスとコカトリスアーマーの役目である。
二体は、それぞれが石化攻撃をヒュドラに仕掛けていった。
レモラコカトリスは、通常の石化の視線で徐々にヒュドラの蛇頭を一つ一つ石化させていった。
たいするコカトリスアーマーは、ヒュドラの身体に剣を突き立て、傷口を起点に内部からヒュドラを石化させていった。
星夜達の相手のヒュドラが一体の石像になるまで、三十分もかからなかった。
「ふむ。ドラゴンの支援がなくても倒せたか。やっぱり生まれたてはレベルが低いせいかな?」
石像になったヒュドラを見ながら、星夜はそう口にした。
実際、ヒュドラと言えば神話にも名を刻むボスモンスター。星夜や星夜が錬成した二体のスペックが常識外だとはいえ、ここまであっさり倒せるのは普通におかしかった。
その原因が、ヒュドラの攻撃手段の少なさというのも、あながち間違いではない。
が、やはり星夜達が相手でなければ、普通にヒュドラは強かったことだろう。
このヒュドラには、ご愁傷様という感じである。
「ふむ。他のヒュドラを倒しに行くか」
星夜は視線をヒュドラから外し、他の四匹のヒュドラ達を見た。
他のヒュドラ達はまだ存命ではあった。が、一匹以外はすでに半身が石化か炭化していた。
後もう数十分も待てば、三匹のヒュドラ達は討伐されることだろう。
「元気なのは、普通のコカトリス達が相手にしているヒュドラか。やっぱり通常の個体には、五体いてもヒュドラの相手はきつかったか」
星夜が見ている先。元気なヒュドラの相手をしていたコカトリスの数は、最初の五体から一体にまで数を減らしていた。
残りの四体はというと、ヒュドラの水弾や毒。巨体の一撃をその身に受けて、帰らぬ者になっていた。
「安らかに眠れ。・・・行くぞ!」
星夜はそんな彼らに黙祷を捧げ、まだ石像となったヒュドラの傍にいた二体を呼び戻した。
星夜の命令を受けたコカトリスアーマーは、急いで星夜のもとに移動した。
「うん?どうしたんだ?」
が、もう一方のレモラコカトリスは、石像となったヒュドラの中心の蛇頭を注視し、星夜に合流しようとしなかった。
何をやっているんだ?と、星夜もコカトリスアーマーも不思議そうにレモラコカトリスを見た。
「うん?」
しばらく見ていると、星夜は少し違和感を持った。
「あっ!」
原因は何かとあちこち見ていると、その原因が判明した。
星夜が感じた違和感は、レモラコカトリスの目の色だった。
通常コカトリスの目の色は黄色。
石化の魔眼発動中は灰色に変化する。
だが、現在のレモラコカトリスの目の色は、ピンク色になっていた。
「なんであんな色に?」
違和感の正体はわかったが、なんでそんなことになっているのか、星夜にはさっぱりわからなかった。




