灰色に染める者達
「こんなものか。・・・やり過ぎたな」
星夜は、目の前に展開している大量の魔物達を見て、そう思った。
ダンジョンポイントが有り余っていたので、歯止めが効かなくなってしまったのだ。
その結果、凶悪な魔物を大量生産することになっていた。
これらの相手を今からする敵ダンジョンが少し可哀相になってくる星夜であった。
「まあ、相手は敵だし気にすることはないか」
星夜はそう考え直し、ダンジョンから外に出た。
「さてさて、ヒュドラ達がいる迷宮はっと。《マップ》・・・向こうか」
星夜はマップを開き、ヒュドラ達の反応を見つけた。
星夜はそちらに向かって移動を開始した。
「ここか」
星夜は現在、最初に薬草やスライムを採取した川の上流に来ていた。
そんな星夜の目の前にあるのは、小さなため池だ。幅は5m程度で、とてもヒュドラが潜んでいるサイズではなかった。だが、マップ上では数体のヒュドラの反応がそのため池から出ていた。
まず間違いなく、このため池がダンジョンだ。
「それじゃあ始めるか」
星夜は夢幻のローブのフードを被り、ため池に飛び込んだ。
「・・・到着か?」
星夜が飛び込んだ先には、だだっ広い沼地が広がっていた。
「へぇー、他のダンジョンはこうなっているのか。俺のはともかくとして、愛ちゃんのとも大分違うな」
星夜がダンジョン内を見渡すと、そこには毒々しい紫色をした複数の水溜まりと、ぬかるんだ地面が視界いっぱいに広がっていた。
愛ちゃんのダンジョンは、まんま石壁敷き詰めたゲーム風迷路ダンジョンだったが、このダンジョンは毒床パネル満載の野外風ダンジョンだ。
星夜が見たかぎり周囲に壁はなく、天井も自分が入って来た水溜まりしかなかった。
完全に亜空間状態らしい。
「《マップ》」
星夜はとりあえず地図を開き、魔物の反応を確認した。
「向こうか」
そして、赤いカーソルが複数集まっている地点を見つけ、そちらに向かって歩き出した。
「あれ?ヒュドラじゃない?」
歩くこと少し。星夜は敵を目視出来る辺りまで移動した。
そして、星夜が目指した場所にいたのは、ヒュドラではなかった。
そこに居たのは、一から三本の首を持った複数の蛇達だった。
「多頭の蛇。ヒュドラの下位種かな?それとも、ヒュドラの頭から再生中とか?」
前者はともかく、後者だったら嫌だなぁっと星夜は思った。
しかし、ヒュドラの再生能力を思い出すと、頭から再生してあんなになっているのだとしても、そこまで違和感はなかった。
「そういえば、昼間はドラゴンの火球で消し飛んだり、俺が石化させたりしていたから見ていないけど、ヒュドラの再生能力は頭部単体でも効果を発揮するのだろうか?」
昼間は無事な頭部がなかったので、その辺りが不明だった。
「・・・考えてもわからないな。まあ、基本的に石にする予定だし、別にどっちでも問題は無いか。おいで」
星夜はそう判断を下すと、ダンジョンからさっき錬成したばかりの魔物達を呼び寄せた。
まず最初に現れたのは、依頼に指定されていたコカトリス。
それが五体、星夜の正面に立ち並んだ。
次に現れたのは、シルエットはコカトリスとあまり変わらない錬成コカトリス達。
もっとも、錬成しているので当然コカトリスとはある意味別物だ。が、こいつらはベースがコカトリスなので、傍目からはわかりにくい外見となっている。
まあ、注意深く観察すれば、コカトリスとの違いもいろいろ見つかる。
例えば、羽根に赤いものが混じった個体。
この個体は、ニクスの羽根を錬成した個体で、通常のコカトリスの能力に加え、ニクスの火や熱を操る能力と耐性を持っている。
次に尻尾が蛇になっている個体。
この個体はヒュドラと錬成した個体で、尻尾がそのままヒュドラの頭となっている。また、ヒュドラの毒や再生能力も引き継いでいて、石化能力が最大の脅威だったコカトリスに、更なる攻撃手段と耐久力を持たせている。
その次は全身を鎧状の鱗に覆われている個体。
この個体はリビングアーマーと錬成した個体で、鎧状の鱗はそのまま鎧の機能を持っている。
さらに言うと、この鱗は鎧のように一時的に脱着が可能な上、リビングアーマーのように自立行動も可能としている。
ただし、当然鱗を脱いでいる間は本体の防御力が低下する。
そこが難点だ。
その次は瞳がルビーのように輝いている個体。
この個体は火ルビーと錬成した個体で、ニクスの羽根と錬成した個体とは違い、完全な火属性の魔物となっている。
その為、石化の魔眼が使用不可能になっている。
ただ、地属性の石化の魔眼は使用出来なくなった代わりに、火属性の魔眼が使えるようになっていた。
どんな魔眼かというと、炎上の視線を放ち、見たものを発火させるという、超能力で言えば、パイロキネシス(思念発火能力)と同じようなものだ。
ただし、パイロキネシスのように火を自在に操るようなことは出来ない。
最後に腹に吸盤を持っている個体。
この個体はようやくポイントが出来たので出現させたレモラを錬成した個体だ。
もっとも、この個体の能力には不明な部分がある。
レモラの名前の意味は拘禁するもの。
本来のレモラは、妖怪の子泣き爺のように船に取り付き、その動きを完全に停止させるモンスターだ。
だが、コカトリスと錬成した現在では、あまり使い道のなさそうな能力となっている。
その他の能力となると、サキュバスやウ゛ァンパイアのように船に乗っている人間を魅力する。
冬を呼び寄せ、冷気の源を一身に収束させる。
鉱山の中に掘られた深い井戸から金を吸い寄せる力などがある。
が、どれも場面が限定的なので、現在の錬成コカトリスにどんな形で能力が引き継がれているのか確認出来ていない。
その次に姿を現したのは、もう完全にコカトリスではない魔物達。
こちらは他の魔物をベースに、コカトリスの能力を付与した者達だ。
まずはヒュドラ。九つの頭のそれぞれが石化の魔眼を持った石化蛇。
次にスライムポット。コカトリスの頭部、コカトリスの羽根、コカトリスの脚を持った自走式コカトリス製造プラントだ。
さすがにスライムを発生させる時よりはスピードが落ちるが、それでも定期的にコカトリスを生み出す恐怖の魔物だ。
最後にリビングアーマー。幻獣現創の鎧姿を参考に、コカトリスの意匠の鎧に錬成した。最大の攻撃はもちろん、石化攻撃である。が、あいにくリビングアーマーに眼球はない為、石化能力は変質している。
どんな感じかというと、リビングアーマーが対象を認識して魔力を流し込むことで石化出来るようになったのだ。
遠距離石化のコカトリスにたいし、近距離石化のリビングアーマーという感じだ。
これが現在星夜が錬成し、このダンジョンに呼び寄せた魔物達だ。
が、本来であればスライムとコカトリスを錬成材料にした魔物をここに加えるのもありだった。
まあ、そちらは今回は断念した。
はっきり言って危険過ぎるからだ。
なんせ無限増殖する石化スライムの群れ。自分が生きている内は良いが、自分の死後人の制御を離れた後のことを想像すると、どうしても躊躇いが生まれる。
潰しても潰しても再生し、身体を変形させた目で見たものを次々に石に変えていく。そして、石像となった全てを消化・吸収し、全てを飲み込む。
ラスト同様、世界滅亡フラグを持つ恐怖のスライムが誕生してしまう。
現在は別になりふり構わないような状況ではないので、錬成しない方がよかった。
「さあて、行こう!」
現れた魔物達を確認した星夜は、ダンジョンの襲撃を開始した。




