予言の是非
『責任は問わない、か。だが、ギルドマスターならともかく、お前との約束にそこまでの効力があるのか?こう言ってはなんだが、一冒険者がそんな契約を勝手にしても、契約を履行出来ないだろう?』
というか、逆に出来るのならアルバートの正体が気になるところだ。
「いや、幸い俺にはツテがあってな。この街の領主とお前を会わせるくらいは出来る」
『ふむ。トップと話が出来るのなら、そこまで非現実的でもないか』
星夜はこの話を受けるべきかどうか考えた。
「どうだ?」
『・・・今は保留だ。お前はともかく、その領主がどこまで信頼出来るかわからないからな』
「そうか。まあ、それくらい慎重な方が良いだろうな」
万影が保留を望み、アルバートもそれに異は唱えなかった。
『・・・そういえば、結局初心者冒険者の研修とやらはどうなるのだ』
「研修か?普通だったら実戦だけもう一度やるんだろうが、コカトリス達がいるような場所でそれは無理だ。というか、今日からしばらくの間は、初心者冒険者も一般冒険者達も街の外には出せなくなる。今街の傍に脅威が居るのをわかっていて外に出して、冒険者の死亡率を無駄上げる理由なんてギルドにも街にもないからな」
『まあ、それが道理だな』
万影は一つ頷いた。
『それではな』
万影がそう言うと、万影と星夜の姿が冒険者ギルドから消えた。
「行ったか」
二人を見送ったアルバートは、早速今行った交渉の内容を領主に伝えに向かった。
「アリア姉、俺達はどうする?」
「私達も神殿に帰りましょう。私達がここに居ても、邪魔にしかならないわ」
「わかった」
アルバートの後を追うように、アリアやシン達も冒険者ギルドを後にした。
それをきっかけにするように、身内に石化した者がいない人間達が、それぞれ冒険者ギルドを後にしていった。
最後まで残ったのは、冒険者ギルドの職員達と身内が石化している者達だった。
「僕達はどうしましょうか?」
「とりあえずは石像になった連中をギルドに預けておこう。さすがに宿に持って帰るわけにもいかないしな」
「そうですね。それじゃあ、その後はどうします?」
「俺は神殿に行こうと思う」
「神殿にですか?」
御剣は、氷室が神殿に何をしに行くのだろうと思った。
「ああ」
「何をしに行くんですか?」
「昨日あいつがクラスを確認するように言っていただろう?明日の決闘の為に、少しでも使えるスキルを知っておこうと思ってな」
「なるほど。なら、僕も行っておいた方が良いですね」
「そうだな」
これからのことを決めた氷室達は、石化した盗野達をギルドの職員に預け、神殿に向かった。
「さて、このまま真っ直ぐ帰るべきか、それとも寄り道した方が良いかな?」
星夜は冒険者ギルドをあとにした後、影の異世界を移動しながらそんなことを考えていた。
「うん?さっき新しいのが来たばかりなんだけどな」
星夜がどうするか悩んでいると、新しい依頼の紙が飛んで来た。
「今度はどんな依頼かな?」
【依頼】
コカトリス及びコカトリスを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】毒沼に潜む海蛇の迷宮を襲撃し、ヒュドラの街への進行を阻止せよ。
【報酬】
【魔法】時間魔法:タイムパラドックス
【依頼】
ゴーレム及びゴーレムを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】朝日に鳴く雄鶏の迷宮を襲撃し、コカトリス達の街への進行を阻止せよ。
【報酬】
【スキル】リフレクション
【依頼】
ヒュドラ及びヒュドラを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】死魂と戯れる魔屍の迷宮を襲撃し、スケルトン達の街への進行を阻止せよ。
【報酬】
【魔法】夢魔法:イリュージョン
【依頼】
リビングアーマー及びリビングアーマーを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】連なる元素の迷宮を襲撃し、エレメンタル達の街への進行を阻止せよ。
【報酬】
【アイテム】魔法辞典
【依頼】
エレメンタル及びエレメンタルを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】天翼翻る御使いの迷宮を訪問し、■■■■■達と同盟を結べ。
【報酬】
【アイテム】召喚術入門書
【依頼】
エレメンタル及びエレメンタルを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】堕翼翻る囁く者の迷宮を訪問し、■■■■■■達と同盟を結べ。
【報酬】
【アイテム】契約術入門書
【依頼】
エレメンタル及びエレメンタルを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】星夜彩る星霊の迷宮を見つけ出せ。(このダンジョンは、マップには表示されない)
【報酬】
【アイテム】星天のオーブ
【依頼】
エレメンタル及びエレメンタルを材料にした魔物達を率い、【ダンジョン】運命導く遊戯の迷宮を見つけ出せ。(このダンジョンは、マップには表示されない)
【報酬】
【アイテム】運命のカード
「ダンジョン襲撃に訪問。ついでにダンジョン探索の依頼か。というか、ここにきて新しいダンジョンの名前が五つも出てきたな。さらに言えば、これで俺のダンジョンを入れてダンジョンの数が十三。アジ・ダカーハの予言と数が合わなくなった。混沌の坩堝って、ダンジョンのことじゃないってことか?それとも、俺のダンジョンが後付けだから数に入っていない?」
星夜は新しく発生した謎に、首を捻った。
「・・・考えても答えは出ないか。なら、さっさと依頼を達成してしまおう。優先順位としては、街への襲撃をしようとしている魔物達の対処が一番か。まあ、その中でもどれを一番最初に対処するかという問題があるか。なんせ、四つも同系統の依頼があるからな。・・・毒沼に潜む海蛇の迷宮。そこから襲撃するか?」
星夜は報酬の内容を見て、まずはそこから襲撃することにした。
ヒュドラ退治の報酬はタイムパラドックスという魔法。
直訳すると、時間的矛盾。
おそらく、対象となったものを同じ時間軸に複数存在させる為の魔法だと星夜は考えた。
残る三つのダンジョンへの襲撃と、明日の決闘のことを考えると、分身系の能力は是非欲しかった。
「やることは決まった。なら、早速下準備を始めよう」
星夜は影の異世界からダンジョンの方に移動した。
「まずはダンジョンポイントの確保をしないとな。おいで、ニクス。《幻獣現創》」
ダンジョンに移動した星夜は、まず最初にコカトリス達を出現させる為のダンジョンポイント。その元となる魔力を生成する為、赤い鎧姿に変身した。
そして、周囲に大量の羽根をばらまき、自身を中心に熱を生み出しはじめた。
今回は前回とは違い、最初から魔力を全て羽根に注ぎ込んだ。
その為、短時間で羽根は発熱し、大気を歪める程の熱量が生まれた。
「《アブソープション》」
星夜は生まれたその熱を随時吸収して魔力に変換。
変換して生まれた魔力を、どんどんダンジョンコアに注いでダンジョンポイントに変えていった。
「さあ、どんどん造ろう!」
星夜は段々テンションが上がってきて、ハイになっていった。
その結果、本来必要なダンジョンポイントを上回る量のポイントを生成しても魔力をダンジョンコアに魔力を注ぎ続け、この短時間では本来ありえない量のダンジョンポイントを保有することになった。
しばらく経って星夜が現状に気がついた頃には、保有しているダンジョンポイントが数えるのも馬鹿らしい数字になっていた。
星夜はやり過ぎたと思ったが、もうそのままいくことにした。
星夜はダンジョンポイントを消費し、新たな配下の魔物を出現させていった。




