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邪神が夢見る異世界  作者: 中野 翼
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戒められた脅威

「悪用された場合ですか?」

『そうだ』

「けど、石化解除ポーションを悪用って、どうするんですか?」


御剣達には、万影がどんな想像をしているのか見当もつかなかった。


『まず我が想定しているのは、そのまま石化の解除に使われることだ』

「それのどこに問題があるんですか?」


御剣にはそれのどこが悪用なのかわからなかった。


『お前の仲間達のような普通の者達に使われる分には良いのだ。だが、今まで石化解除の方法はこの世の中には出ていなかった。なら、石化を危険なものや不死身の存在を封印する為に使われた可能性がある。もし万が一そのような事例が実際にあった場合、石化解除のポーションがその石化されている危険を解放する鍵になってしまうかもしれん』

「それはいくらなんでも考え過ぎなんじゃあ?」


御剣や氷室は、万影の懸念に懐疑的だった。


が、ギルドマスターにアルバート、アリア達は万影が示した可能性に、深刻な顔になった。


『ほう。どうやら心当たりがあるようだな』


星夜は、アリア達の顔色の変化に自分の懸念が当たっていたことを確認した。


「あ、ああ。お前さんの懸念は当たりじゃ。たしかに今まで石化を解除する方法が存在せんかったから、石化を封印として使用された例がそれなりの数ある。ここ最近では、王都を襲撃した七大魔王が一人、色欲のラストの側近の一体を古しえの禁呪魔法によって、石化封印しておる。儂が知っている範囲では、他にもそれなりの脅威がここ二十年近くの間に、五十は石化封印されておる」

「「「五十!?」」」


星夜達転生者達は、石化で封印されている魔物の数のの多さに心底驚いた。


『随分といるな』

「そうですね」


御剣は、星夜の懸念が考え過ぎではないことを理解した。


そして、もし石化解除ポーションの存在を知られた場合に何が起こるのかを想像し、全身を震わせた。


『ちなみにだが、この近くにも石化封印されているものはいるのか?』

「ああ。儂らギルドが所在を認知しているものが五体いる」

『詳細を聞いても?』

「構わんよ。この街の住人なら、だいたい知っておるからな」


ギルドマスターはそう言うと、石化封印されている魔物達のことを話はじめた。


「まずは平原の向こう、アポピス山の麓で二百年前に石化封印されたアペプという魔物についてじゃ。アペプは全長数キロに及ぶ巨大な大蛇の魔物で、当時のこの国の住民を十万人近く喰らった不死身の化け物じゃ」

「「「十万人!?」」」


星夜達は、そのアペプが喰らった人の数に恐怖した。


『・・・ちなみにだが、そのアペプとやらの不死身はどのようなものだったのだ?』

「アペプの不死身か?儂の読んだ資料によると、死んでも朝日を浴びることで蘇るらしい。なんでも、身体をミンチにしても復活したらしい」

『ミンチからでも復活・・・。どんな生命力だ』


星夜はそのアペプとやらの生命力に呆れた。


「まあ、そんなわけでそのアペプを討伐することは不可能じゃったんじゃ。だから、当時の大魔法使いと呼ばれた者達が数人で自分達の命を代償に石化させたそうじゃ」

「命を代償って」


御剣は、その代償の大きさと、そうしなければならなかった過去を悲しく思った。


「二番目は百三十年前にアポピス山の隣、クラフト山の地下で石化封印されたショゴスという魔物じゃ」

「「ショゴス?」」


星夜の頭の中では、クトゥルー神話の不定形生物の姿が思い描かれた。


「このショゴスという魔物はスライムの上位互換存在で、全身を様々なものに変化させる能力を持っていたそうじゃ。再生や復元能力も高い水準のものを持っておって、細胞が一欠けらでも残っておると、そこから無限に増殖して、周辺の街を全滅させたこともあったそうじゃ」

「こっちはこっちで酷いな」

「うん」


氷室の感想に、御剣が頷いた。


「三番目は、八十年前に街の北西のオレゴンの泉にいたアトゥンカイという蛇の魔物じゃ。この魔物は、オレゴンの泉に落ちた生物を魔物に変える能力を持っておって、無数の魔物を生み出したそうじゃ。近づけば討伐者自体が魔物にされてしまう為、遠距離から泉ごと石化させて対象したそうじゃ。いまでは誰も元泉には近付かず、放置されておる」

「魔物を生み出す魔物ですか。かなり珍しいですね」


「四番目は、今から三十年前にこの国を混乱に陥れたナインテイルという巨大な九本の尻尾を持った狐の魔物じゃ。尾の一降りで山を薙ぎ払い、その歩みで地震まで起こしたそうじゃ。こやつも泉の時同様、とても近づけたものではなかった為、遠距離から石化されておる」

「九本の尻尾。九尾?」


星夜は、白い体毛の狐を想像した。


「最後は今から十年前に現れた三つ首の竜、アジ・ダカーハ。こやつについては、儂が石化封印の手筈を整えた魔物じゃな」

「どんな魔物だったんですか?」

「そうじゃのー?・・・おかしな魔物じゃったな」

「おかしな?どういう意味ですか?」


ギルドマスターの言葉に、御剣はどういうことかと思った。


「言葉のとおりじゃ。なんというか、魔物らしくない魔物じゃった。それに・・・」

「それに?」

「あやつがなぜ石化したのかがわからんのじゃ」

「どういうことです?石化封印の手筈を整えたのはギルドマスターなんでしょ?」

「そうなんじゃが」


御剣の言葉に、ギルドマスターは困った顔した。


「「「?」」」


ギルドマスターのその様子に、若年層の者達は揃って首を傾げた。


「まあ、ギルドマスターもそうとしか言えないよな、あいつのこと」

「アルバートさん?」


すると、困っているギルドマスターに代わり、アルバートが口を開いた。


「あいつはな、複数の魔法を三つの首で同時に操る化け物だった。使える魔法の系統範囲も幅広い上、人間が使えないような高位の魔法をバンバンと気軽に使用可能でな。はっきり言って、石化なんて効くとは思ってなかったんだよ、当時の俺達みんなな。だけどまあ、一縷の望みを託してやったことが、なぜか成功しちまってな。今だになんで石化が成功したのか、誰にもわからないんだ。いや、理由は簡単か。ただあいつが防ごうとしなかっただけだ」


アルバートは、今もその理由がはっきりしないことが気になっているようだ。


「そうなんですか。ちなみに、どこら辺が魔物らしくなかったんですか?」


星夜は気になっていることをアルバートに聞いた。


「あいつの魔物らしくなかった点か?いくつか思いつくが、まずはあいつが人語を喋ることだな。あと、考え方がやたら人間ぽかったな。きわめつけは、あいつが戦術や戦略を使ってくることだな」

「・・・たしかに魔物よりも魔族とか魔王が採りそうな行動で、魔物のすることじゃありませんね」


星夜は心の底からそう思った。


「だろう。・・・うん?」

「どうかしましたか?」

「いや、そういえばあいつが石化する前に何か言っていたことを思い出しただけだ」

「なんて言ってたんです?」

「うーんとな、たしか・・・」


アルバートは、必死に過去の出来事を思い出そうとした。


「思い出した!」

「それで、なんて言ってたんです?」


星夜は、思い出したアルバートにもう一度そう尋ねた。


「あれは予言じゃったのう」

「予言?」

「ああ、そうだ。四季が十巡する時」

「虚空の彼方より数多の災いの化身が訪れる」

「そしてその日、この地に十二の混沌の坩堝が具現化する」

「その内の一つ。形無きものに我が主は座されている」

「主がこの地に降臨せし時、我が戒めは解かれ、我は主の御下に帰還する」

「それまでつかの間の平穏を抱け」

「エキストラ達」


アルバートとギルドマスターは、交互に予言の言葉を告げた。



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