石化解除ポーション
『我らに戦いを挑むのなら、それら全てを敵にすると思え』
冒険者ギルド内を沈黙が支配した。
『さて、警告はこれくらいにしておこうか。光剣、氷爪、我らの決闘の申しでを請けてくれるか?』
万影は、沈黙している二人に改めて決闘を請けるかどうか確認した。
「ええ」
「ああ、俺達もこいつらを治療したいからな。ただ・・・」
『ただ、なんだ?』
歯切れの悪い氷室に、万影は問い掛けた。
「ただ、こいつらにもチャンスをやってくれないか?」
氷室は、他の石像達の傍にいる者達を見て、万影にそう頼んだ。
『氷爪、お前もか。だが我の答えは変わらん。責任を持てないことに、軽々しく頷くつもりはない』
が、万影はやはり断った。
「多少は妥協しても良いんじゃないか、万影」
が、話の軌道を修正する為に、星夜からの提案という形で彼らに希望を見せた。
『夢現、お前は我が断っている理由を理解しているはず。なのになぜそんなことを言う?』
「いや、光剣達との決闘とは別に、もう一つの決闘依頼があっただろう?内容はたしか、冒険者ギルドのメンバーと戦うことだったはず。なら、多少は妥協しても良いと思うんだ」
星夜のこの言葉に、一部の冒険者達が顔を上げた。
『たしかにそんな内容の依頼があったな。だが、それでもポーションを必要としている彼ら全員に配る理由にはならない。別に全員と戦う理由は我には無いのだ』
「まあ、たしかにそうだな」
星夜のある意味万影を肯定するこの発言に、顔を上げていた者達の頭が下がった。
『だが、お前がやるというのなら止めはしないぞ?』
しかし、次の万影のこの発言を聞いて、すぐにまた頭を上げた。
「えっ!俺が戦うのか!?」
星夜はわざとらしくならないように、意識しながらそう声を上げた。
『当然だろう、我に妥協を求めておいて、自分が何もしないで許されるとでも?言ったことの責任はちゃんと取れ』
「まあ、たしかにそうだよな。わかった、俺が光剣達以外の冒険者達の相手をする。それで良いだろう、万影?」
『ああ、それで良い。主より依頼達成の報告が来たら、彼らにも石化解除の為のポーションを作成して渡すことを約束しよう』
「「「おおっー!」」」
万影のこの発言に、冒険者ギルドに居た全員から歓声が上がった。
『さて、これで決闘すること自体は決まった。次は場所や時間、ルールだな。光剣、氷爪、何か希望はあるか?』
「場所やルールに希望はありません。けど、時間は今すぐでお願いします!」
「ああ、それで頼む。早くこいつらを元に戻してやりたいからな」
「俺達も今すぐでお願いしたい」
御剣、氷室、アルバートは、順番に今すぐの決闘を望んだ。
『今すぐ、か。それは少し困るな』
が、万影の反応はかんばしくなかった。
「どうしてですか!?」
アリアは、なぜ万影が渋るのかわからず声を上げた。
「それはですねアリアさん。みんな今日の騒動で疲弊してますし、石化解除のポーションはまだ作ってないので、今すぐに決闘しても報酬をすぐには渡せないんですよ」
声を上げたアリアに、星夜がそう説明した。
「「「「あっ!」」」」
これには皆の口から納得の声が上がった。
皆石化した人々を元に戻すことだけ考えていて、そのことまで考えが回っていなかった。
「どれくらいの時間が必要かな?」
『ちゃんと効くか確かめねばならんからな、余裕を見て数日は欲しいところだ。が、確認をここにある石像達でやるのなら、明日には光剣達分は造れるはずだ』
「まあ、そのくらいはかかるよな。というわけで、決闘は明日で良いか?」
「え、ええ。ちゃんと治療出来るならその方が良いですから」
御剣は、星夜の確認に頷いた。
『なら決まりだ。明日の朝、街の外で我らとお前達で決闘を行う。光剣達分以外は、後日随時製造していくことになるだろう。ゆえに、明日の決闘は光剣と氷爪だけにするか?それとも他の冒険者達もまとめてするか?どうする?』
「・・・俺達も明日で頼む」
冒険者達を代表し、アルバートが宣言した。
『了解だ。なら、後残るはルールだな。我らとしては、主が満足すれば良いので、殺害禁止のなんでも有りが希望だ。そちらは何かあるか?』
「いや、そちらが主とやらからの依頼を達成してくれないと、俺達もポーションをもらえない可能性が出てくる。なら、殺害禁止で他制限無しの状態で戦った方が確実だろう」
『そうだな。我は約束したいじょうポーションは必ず渡すが、主の依頼を達成するまでは付き合ってもらわねばならん。なら、決闘の終了は主が依頼達成を我らに伝えてきた時で構わないか?』
「それで良い。ポーションについては、完全にこちらが無理を言っている立場だからな。ただ、決闘に中断は有りにしておいてくれ。街の外で決闘をするのなら、今日のような襲撃がまたあるかもしれないからな」
『わかった。なら、中断は有りでいこう』
万影は、アルバートの提案に問題が無いと判断し、その提案に合意した。
それをもって交渉は終了した。
「なあ、幾つか聞いても良いか?」
『なんだ?』
冒険者ギルド内の緊張状態が緩み出した頃、アルバートが万影に話し掛けた。
「まず一つ目だ。石化解除のポーションってのは、どうやって造るんだ?」
『石化解除ポーションの製造方法か?』
「ああ。この辺りにコカトリスが潜むダンジョンがあるのなら、これからはそのポーションが必ず必要な場面が出てくる。だが、お前さんにはそれを提供する気はないんだろう?なら、製造方法を教えてもらって、俺達が自分達で造るのが現実的だ。それとも、製造方法を教えるのも駄目か?」
『いや、その頼みはこちらとしても願ってもない。だが、おそらく無理だ。出来るのだとしても、かなり困難なことだろう』
万影はそう言うと、あるページを開いた一冊の本を取り出し、アルバートに見せた。
「これは!」
そのページをアルバートが見ると、そこには石化解除ポーションの作り方が記されていた。
そしてアルバートは、万影が無理や困難だと言った理由を理解した。
「・・・たしかにこれは無理だな。いや、時間をかければ作れはするだろうが、量産は無理だ。この作り方だと、一本作り出すにもいくつもの問題がある」
『そうだ。その問題の部分がネックなのだ』
「どういうことですか?」
万影とアルバートが頷き合っている中、恐る恐るアリアはその理由を聞いた。
『まずは材料だ。そのポーションを作る為に必要な材料は、コカトリスをはじめ珍しい物が多い』
「ああ。ここに書かれている材料を全て金銭で集めるとするなら、金貨数十枚はくだらないぞ」
「「「金貨数十枚!?」」」
冒険者ギルド内にいた全員が、アルバートの言った値段に愕然となった。
「ええっと」
そして、自分達が万影に要求していた物の値段がわかった者達が、一斉に万影の顔色をうかがった。
『案ずるな。お前達に渡す分は、我らの依頼達成の為に渡す報酬。代金など請求はせん』
「そうですか」
万影のその言葉に、多くの者がほっとした。
『が、これで我が先程断った理由の一つはわかっただろう。一本それだけするものをぽんっと、渡すなど無理だ。ここにいる者達分くらいは善意で渡しても、まあそこまで無理はない。が、ただで渡していたらいつまでもそれでたかってくるだろう?そちらが対価を支払はないのに、こちらがポーションを渡す道理がない。それに、この話を聞いたここ以外の者達からもポーションを求められるかもしれない。だが、このポーションは材料も製造方法も特殊だ。ゆえに、供給するのはしばらくは我だけということになる。我に需要が発生するのだとしても、それに付き合っていたら我の身体がもたん。また、ある意味これが一番問題なのだが、この石化解除ポーションを悪用された場合だ』




