間近にある脅威
『光剣、氷爪、少し良いだろうか?』
「・・・なんです?」
「・・・なんだ?」
依頼達成の為の道筋をつけた星夜は、影絵を動かしながら御剣達に念話を送った。
万影に声をかけられた二人は、苦痛に歪んだ顔を万影に向けた。
『今主より命がくだされた』
「それがどうしたんです?」
御剣は、万影の言葉にそれがどうしたと思った。
今は仲間達の死を悼みたいから、そっとしておいてほしいのだ。
『光剣、氷爪、我と。いや、我らと決闘してもらいたい』
「なんで僕達がそんなことをしないといけないんですか!」
御剣は、場の空気を読まない万影を怒鳴りつけた。
『そう怒鳴るな光剣。ちゃんとお前達に報酬は支払う。お前達が我らと決闘してくれるのなら、石像となってしまったお前の仲間達を我が治してやろう』
「「「えっ!?」」」
万影の言葉を聞いた冒険者ギルド内の人間達が、一斉に万影を見た。
「盗野さん達の石化を治せるんですか!」
そして、皆を代表するように御剣が万影に確認した。
『ああ。我が主より授かった知識の中に、石化解除のポーションの製造方法というものがある。それを使えば、お前達の仲間は助かる』
御剣の確認に、万影はそう断言した。
「「「おおっ!」」」
この突然の吉報に、冒険者ギルド内がわいた。
『・・・光剣達はともかく、なぜお前達まで喜ぶのだ?』
「「「えっ!?」」」
そんな彼らに、万影が水を差した。
「どういうことだ?」
『どういうこともなにも、石化解除のポーションはお前達に渡す報酬だ。他の者達には関係ないだろう?』
「「「あっ!」」」
氷室にどういうことか聞かれた万影は、ありのままの事実を答えた。
その結果、喜んでいた者達は自分達が関係していないことに気がついた。
そして、喜びの顔から一転。悲痛な顔に逆戻りした。
「そこをなんとかならんかのう?」
『誰だ?』
場の雰囲気が暗くなっていると、ギルドマスターが万影の方に一歩踏み出した。
「この冒険者ギルドのギルドマスターじゃよ。お前さん、万影とかいったか?」
『そうだ。万影のアポスル。それが我だ』
「その石化解除ポーションとやら、どうにかこちらにも融通してもらえんかのう?」
『・・・断る』
ギルドマスターの頼みを、万影は簡単に断った。
「なんで駄目なんです!」
アリアはそんな万影の言葉が納得出来ず、万影にその理由をとうた。
『逆に聞くが、なぜ我がそんなことをせねばならん?』
万影はアリアの言葉を意にかえさず、逆になぜ助けねばならないのかアリアに問い返した。
「なぜって、人命がかかっているんですよ!」
アリアは、万影の言葉が信じられなかった。
人を救えるに、なぜ救おうとしないのか。
そのことをアリアは理解出来なかった。
『そうだな。しかし、冒険者ならば命の危険性は理解していよう。魔物と戦う冒険者とは、常に死と隣合わせの存在だ。ならば、今のこれもありふれた日常のひとこまでしかない』
「それは、・・・たしかにそうですけど。だけど、そこに救える命があるんですよ!」
アリアは万影の言葉を否定出来なかったが、それでも救える命があるのなら救うべきだと思った。
『それもまた事実ではあるな。だが娘よ、命を救うという行為は、自分が責任を持てる範囲で行うものだ。残念ながら、彼らとこれから発生するであろう全ての被害者達にたいし、責任を持つことなど我にはできん』
だが、そんなアリアの訴えを万影は拒んだ。
自分には責任を持てないという理由ゆえに。
「彼らと、これから発生するであろう全ての被害者達じゃと?それはいったいどういう意味じゃ!」
そんなアリアと万影の会話を聞いていたギルドマスターは、万影の言葉の中に聞き捨てならないものがあった為、声を上げた。
『言葉通りだ。あのコカトリスは我の仲間である火翼が倒した。が、コカトリスはあれ一体ではすまない。下手をすれば、コカトリスの群れがこの街の近辺に出没し、ありとあらゆるものを石に変えるのだ』
「なんじゃと!」
万影のこの話に、冒険者ギルドは再び騒然となった。
一体だけでも三十近い人々が犠牲になっているのだ。
コカトリスの群れが本当に現れたら、被害者の数は現状では想像もつかなかった。
「なぜじゃ!なぜそんなコカトリスの群れなどが、突然この街の付近に現れるんじゃ!」
ギルドマスターは、なんの前兆もなくわいてでた街の脅威にそう思わずにはいられなかった。
また、そのギルドマスターの思いは、冒険者ギルドにいたほぼ全ての人々の思いでもあった。
『その理由は簡単だ。この街の近辺に、複数のダンジョンがある者の手によって生み出されたからだ』
「ダンジョンじゃと!」
万影のこの言葉に、冒険者ギルドはよりいっそう騒がしくなった。
『我が把握している分だけでも、今日現れた魔物達が生息しているダンジョンと、他にもう二つダンジョンが存在している』
「今日現れた魔物というと・・・」
「ドラゴン、ヒュドラ、コカトリス、アルラウネ、ゴーレム、スケルトンだギルドマスター」
今日報告された魔物達のことを思い出そうとしているギルドマスターに、実際に見て来たアルバートがそう教えた。
「おお!そうじゃったな。・・・なんじゃと!」
ギルドマスターは魔物達の名前がわかって一旦はすっきりしたが、その直後、その魔物達のラインナップに恐怖した。
「なんでそんな厄介な魔物が生息しているダンジョンばかりが街の近辺に!」
『さあな。配置場所の理由などは我も知らん』
万影はギルドマスターの心からの叫びに、そう無情に答えた。
「・・・そういえば他にあと二つダンジョンがあるんじゃったよな?」
『ああ。リビングアーマーが生息するダンジョンと、雑多な魔物達が生息するダンジョンがな』
「「「雑多?」」」
ギルドマスター達は万影のこの言葉に首を傾げた。
なぜなら、彼らの常識ではダンジョンに生息している魔物達は、ダンジョンマスターの種族と同族の魔物達のはずだからだ。
なのに万影は雑多と言った。
どういうことなのかと、不思議に思うのも無理はない。
『そうだ。だが、お前達が最後の二つのダンジョンに手を出すならば心しろ。その二つのダンジョンに手を出す時が、この街の最期の時だ』
「「「!?」」」
万影は彼らの疑問には答えず、ただ警告の言葉を送った。
「どういうことじゃ?」
『言葉通りだ。二つのダンジョンに手を出すのなら、この街は最期を迎える』
「・・・聞きたいのはその理由の方じゃ」
『理由か?それは、その二つの内の片方が我が盟友のもので、もう片方が我のダンジョンだからだ』
「なんじゃと!お前さん、ダンジョンマスターなのか!?」
万影のこの申告に、ギルドマスター達は一歩下がって万影から距離をとった。
『広義の意味ではな。が、ダンジョンに縛られた者達と我では異なる点がいくつもある』
「「「異なる点?」」」
『そうだ。まず一つ目は、我はダンジョンに縛られていないということ』
「そういえば、なぜダンジョンマスターなら外におるんじゃ?」
ギルドマスターはダンジョンマスターが外にいることはありえないと知っていたので、万影の正体が途端に怪しくなった。
『言っただろう、我はダンジョンに縛られてはいない。それに、我のダンジョンは正規のものとは言い難いからな』
「「「?」」」
冒険者ギルドの面々は、万影が何を言っているのか理解出来なかった。
『我のダンジョンは、主から与えられたアイテムによって生み出したものなのだ。つまり、自然発生したものではなく人為的に創ったものなのだ』
「ダンジョンを人為的に作り出したじゃと!そんな馬鹿なことが!?」
ギルドマスターは、自分の常識が崩れていく音を聞いた。
『それについて問答するつもりはない。二つ目は、我がダンジョンに出現させられる魔物の種類』
「魔物の種類?」
常識が崩れ、固まってしまったギルドマスターに代わって、アリアが万影の言葉をなぞった。
『そうだ。通常のダンジョンでは、ダンジョンコアが生み出したダンジョンマスターか、縛られたものと同じ種類の魔物が出現する。しかし、我のダンジョンでは我と我の仲間や配下が倒した魔物を出現させられるのだ』
「つまり?」
『我は、我の好きな魔物を好きなだけ呼び出せる召喚術師と言っても良いということだ』
「「「!」」」
万影のこの言葉を聞いた全員が絶句した。
『それゆえに、今の我はヒュドラやコカトリスを配下にしているとも言える』
ドサッ!
ついで万影が言ったその言葉に、何人かが卒倒して倒れた。




