マップ
「さて、川はどこら辺にあるかなぁっと。《マップ》」
街の外に出た星夜は、空間把握魔法を発動させ、近くに川があるか確認した。
現在星夜の頭の中では、リアルどゲームが混じったような地図が展開されていた。上空から俯瞰するように広がっている現実そのままの景色。その景色の至る所に表示されているゲームのカーソルのような矢印。赤や緑、青に黄色と今のところ四色で表示されている。ゲーム由来なら、赤が敵。緑か青が味方か中立存在。あるいは、第三者。黄色の意味は今のところ不明だが、色的には危険か注意を喚起している気がしないでもない。
「川はあっちか」
とりあえず見てみないとわからないので、星夜は目的地に行く道すがら確認することにして歩き出した。
「ふむ。赤が魔物、青が人間、緑が動物、黄色が俺の探しているものか」
目的地である川にたどり着いた星夜は、道すがらのカーソルが指していたものを振り返り、そう結論を出した。
街の外で見かけた人間達には青いカーソルの矢印。平原の辺りにいた野ウサギや、空を飛んでいた鳥には緑色のカーソルの矢印。そして、現在星夜がいる川の付近。そこにいるスライム達は、赤と黄色のカーソルの矢印がくっついていた。視線をズラすと、草むらのあちこちにも黄色いカーソルの矢印が点在している。なので、黄色いカーソルの矢印が示すのは、星夜が探しているものだろう。
「探しものまで表示されるとは、このマップの魔法かなり便利だな。さて、では材料集めを始めるか」
マップの性能にひとしきり感心した後、星夜はまずは薬草の採取から開始した。戦闘は後回しだ。
「これだな」
星夜は黄色いカーソルの下にある草をゆっくりと引き抜いた。
「さて、当たりかどうかの確認をしておかないとな。《鑑定》」
【薬草】
森林地帯に広く自生している植物。傷口に擦り込むことで傷の治りを早くすることが出来る。
品質:普通
持っている草鑑定を使った結果、星夜の目には草の隣にそんな情報が見えた。
「うん、間違いなく薬草だな。これで採取するものを間違うということはなくなった。たしか依頼にあったのは10本だったな。先に依頼分を採取してからポーション分を採取しよう」
星夜は、そう予定を立てた。その後はマップ上の黄色いカーソルの場所を辿って薬草を集めて行った。
「ふう、そろそろ持ち切れなくなってきたな。それじゃあそろそろ次の空間魔法を試してみるか。《ポケット》」
一時間かけて川の付近を歩き回った星夜の両手には、山盛りの薬草が抱えられていた。星夜は、さすがにこれ以上薬草を持てなくなったので、収納空間の魔法を使ってみることにした。自分のズボンのポケットを意識して、早速ポケットの魔法を発動させた。
「成功したかな?」
とくに変わったエフェクトもなかったので、イマイチ魔法が成功したのかわからなかった星夜は、試しに薬草のいくつかをポケットに入れてみた。すると、本来ならポケットから飛び出すはずの薬草が、完全にポケットの中に収まった。
「おおっ!入った入った、ポケットの魔法は成功したみたいだな」
魔法の成功を確認した星夜は、抱えていた薬草を順にポケットの中に収納していった。その結果、星夜はあっという間に手ぶらの状態になった。
「重さもとくにないな。これならポケットに入るだけ集められる。もう少し集めたら次はスライムを倒しに行こう」
手に持っていた時の重さがポケットにないことを確認した星夜は、さらに薬草採取にせいをだした。
「さて、どうやって戦うか?」
現在、あれからさらに薬草を採取した星夜は、本日のメインイベント。スライムとの戦いをどうするか考えていた。
「本いわく、もっとも弱いスライムは子供が蹴っただけで倒せるらしい。それが本当かどうかは実際に蹴ってみればすぐにわかる。問題は、僕はスライム討伐依頼以外にもスライムに用があるという点だ。蹴ってスライムの核を壊したり、スライムの体液を飛び散らせるのはNGだ。となると、採れる選択肢は一つだな。スリーブの魔法でスライムを眠らせ、丸ごと持ち帰る方法だ。これならスライムからの損失はでない。まあ、街に戻ってから仕留めることにはなるだろうけど、寝ている相手から核を抜くだけなら危険も無いだろう。が、手をスライムの中に突っ込むのだから消化される危険はあるか。試しにスライム一体から核を引き抜いてみた方が良いか?」
星夜は、そんなことを考えながら赤いカーソルの矢印にいるスライム達を見た。星夜の視線の先では、水風船のようなスライム達が跳びはね回っていた。
この世界のスライムの見た目は、粘菌タイプのある種ホラーと言える感じではなく、ゲームとかに出て来る愛嬌のあるユルキャラや、マスコット、ぬいぐるみに通じるかわいらしい感じだ。
星夜も、本に載っていたスライムの挿絵を見て、思わず可愛いと思ってしまった程だ。
「討伐するのが可哀相になってくるな」
ポヤポヤした感じで川の付近を跳びはね回っているスライム達には、敵意とかは無縁に見えた。
というか、子供に蹴られても死ぬような魔物がなんで討伐対象になんてなっているんだ?
星夜は、スライム達を見ていて、ふとした拍子にそんな疑問を覚えた。
「数が増えると危険なタイプとかか?帰ったら聞いてみるか」
とりあえず疑問を棚上げにした星夜は、ゆっくりとスライム達に近づいて行った。
「ここまで近づいても襲って来ないのか。本当に魔物なのかこのスライム達?」
現在星夜とスライム達との距離は、約1m。目視圏内どころか、手を伸ばせばすぐに触れる距離である。
最初星夜は、スライム達を警戒していたが、ここまで近づいても襲って来ないスライム達に現在では若干呆れいた。
「なんと言うか、危険なポイントが見つけられないな。だけど依頼を受けているいじょう、仕事はきちんとしないとな。安らかに眠れ、《スリープ》」
星夜が睡眠誘導魔法を発動させると、近くにいたスライム達が端から順に動かなくなっていった。
どうやら無事に眠らせることに成功したようだ。
「あとは寝ているスライムを収納してっと」
星夜は、眠らせたスライム達を薬草を入れたのとは反対側のポケットに収納していった。
「今日はこれくらいにするか」
一通りスライムを捕まえた星夜は、夕方になったのを確認して、街へと歩き出した。
そんな星夜の背を見送るように、まだ残っていたスライム達がポヨンポヨンと跳ね回った。
星夜は、今日は冒険者ギルドへは寄らず、そのまま宿屋に向かった。
その途中でポーションの残りの材料である水を井戸から汲み上げ、桶に水を入れて自分の部屋に持って返った。
川の水でもよかった気はするが、飲料可かどうかわからなかった為、安全性を考慮して星夜は井戸水をポーションの材料として採用した。




