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邪神が夢見る異世界  作者: 中野 翼
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帰還

『さてと、回収回収』


依頼が達成されたことを確認した星夜は、ダンジョンの出入口を開いてそこに石化したヒュドラをほおり込んだ。


『これで良し!』


星夜は、ヒュドラという錬金術の材料が手に入ってとても喜んだ。


ヒュドラなら、毒薬から回復ポーション、蘇生薬。魔物の錬成材料と、幅広く使える可能性があるからだ。


『もうよろしいですか?』


喜ぶコカトリスな星夜を見ながら、ドラゴンはそう尋ねた。


『ああ。それで、お前が請けた主からの命令ってなんだったんだ?』


星夜はドラゴンに向き直り、戦闘前の会話を再開した。


『人探しです』

『人探し?俺を見つけて命令が果たせるってことは、転生者を探してたってことか?』


星夜はドラゴンの言葉からそう考えた。


『いえ、正確には話が通じる相手を捜すように言われています』


が、どうやら探し人はもう少し広範囲だったようだ。


『そうか。それで、お前の主人は話が通じる相手を見つけて、どうしようとしているんだ?』


星夜はドラゴンの主人の目的を知ろうと、そうドラゴンに質問した。


さすがに同郷とはいえ、悪事に手を貸すのは遠慮したかったからだ。


これが神様からの依頼だったのなら、世界維持の為だと諦めも着くが、その他の理由で悪事に手を染めるなら、完全に自己責任。

わざわざ人の恨みなんて買いたくないというのが、星夜の偽りなき本音だ。


『それは我も知らされておりません。ただ・・・』

『ただ?』

『何か、人探しを手伝ってもらいたそうでした』

『人探し?』


星夜は何かを思い出すように言ったドラゴンの言葉を、不思議に思った。


『話が通じる相手を探した後に、本命の人探しを手伝ってもらうってことか?まあ、ドラゴンじゃあ細かい人探しは無理だろうから、無難な命令なのか?・・・いや、ドラゴンと話が通じるような相手を探している時点で、無茶苦茶な命令だな』


星夜はドラゴンの主人の命令の意図を考え、その後そう結論した。


『そうですね。我を見た相手はたいてい逃げますから』

『ああ、やっぱり逃げるんだ』

『ええ。ここに来るまでに何人かの人間や魔物達と接触しましたが、大半が逃走。一部はさっきの奴みたいに襲い掛かって来ました』

『へぇー!ドラゴンに襲い掛かるようなのが居るんだな、この世界』


星夜はその勇敢なんだか、無謀なんだかわからない相手に感心した。


ヒュドラは星夜がドラゴンに押し付けたが、他にもドラゴンに挑むようなのがいたことは、素直に驚きだ。


『生存本能が壊れているのか、ドラゴンを脅威と見ていないのか。どちらだろうな』

『それはわかりかねます』

『まあ、そうだろうな。それで、お前はこれからどうするんだ?』

『ダンジョンに戻ります。貴方を見つけたことを主に報告せねばなりません』

『そうか』

『貴方も我とともに主に会いに行かれませんか?』

『・・・いや、今日は遠慮しておく』


星夜はこれからアリア達に合流しないといけない為、ドラゴンの誘いを断った。


『そうですか。では、また後日会いに来ます』

『そうしてくれ』


その後星夜はドラゴンに別れを告げ、冒険者ギルドに向かった。



星夜は冒険者ギルドへ向かう道すがら、コカトリスの姿から人間の姿に戻り、依頼報酬の夢現のリングも入手した。


また、ある偽装の為に平原に残っていたアルバート、御剣、氷室、石化した盗野達を含めた初心者冒険者達を星夜はまとめてゲートを使ってさらった。



星夜がそんなことをしている一方、街や冒険者ギルドでは大変な騒ぎとなっていた。


それも当然だ。なにせ、街のすぐ傍でドラゴンやヒュドラという単体で街を滅ぼせる魔物の姿が確認されたのだから。


この街の領主にその家臣達。街の防衛を担う軍。魔物との戦闘を生業にする冒険者。


などなど、この街の戦力と言える者達は、突然のドラゴンやヒュドラの出現に浮足立っていた。


むろん、街の住人達も浮足立っていたが、住人達の方の理由が恐怖一色にたいして、前者の人々はどう街を守るのか。いや、本当に自分達で街を守れるのかなど、意気込みや焦燥などの感情が複雑に恐怖に絡み付いていた。


それでも自分達だけ逃げようなどとは考えていないのは、かなり評価出来る。


これで逃げ出す者がいれば、今よりもひどいパニックが起こっていただろう。



そんな街の喧騒とは別に、冒険者ギルドでも一つの騒ぎが起こっていた。


「すぐに救援を送ってくださいギルドマスター!」


アルバートの頼みに従い初心者冒険者達を連れて街に戻ったアリアは、冒険者ギルドに現状を報告した後、この街の冒険者ギルドのギルドマスターに詰め寄っていた。


「駄目じゃ。今この街は厳戒体制じゃから、冒険者ギルドだけで救援を送ることはできん。また、儂らだけが行ってもアルバート達の救出は無理じゃ」


そんなアリアを、ギルドマスターの老人がなんとか説得しようとしていた。


「そこをなんとか!」

「駄目なものは駄目じゃ」

「・・・わかりました」

「わかってくれたか」


ギルドマスターは、ほっと息をついた。


「私一人で助けに行きます!」

「なんじゃと!?」


が、ほっとしたのもつかの間。

アリアの宣言に、ギルドマスターだけではなく、冒険者ギルドにいた全員が騒然とした。


「それでは」


アリアはギルドマスターに一礼すると、冒険者ギルドの出入口に向かって歩き出した。


「こりゃまてアリア!そんな無謀なことをしちゃいかん!」

「そうだよアリア姉!いくらなんでも無茶だよ」


そんなアリアを見た周囲の面々は、慌ててアリアの進路をふさぎにかかった。


「そこをどいてください」

「それは無理な相談じゃ」

「そうだよアリア姉さん。一人で行くなんて、死にに行くようなものだよ!」


静かに通すように告げるアリアにたいし、ギルドマスターや子供達は必死に説得を繰り返した。


「それでも行かなくてはなりません」

「なぜそこまでして、行こうとするんじゃ?」


ギルドマスターは、何がアリアをそこまで駆り立てているのかわからなかった。


「私達は、私は彼らに助けられました。そんな私が、彼らを見捨てて良いわけがありません!」

「それは、・・・そうじゃが」


ギルドマスターは、訴えかけるアリアの気迫に押されはじめた。


「子供達はこうしてギルドまで連れて来ました。今度は、今も時間稼ぎをしてくれている彼らを連れて来る時です」

「それは、・・・ええい駄目じゃ駄目じゃ!!」


アリアに逆に説得されそうになったギルドマスターは、自分の思いに反して、ギルドマスターとしての判断を優先させた。


「ならば押し通ります」


ギルドマスターの説得を諦めたアリアは、持っていた杖を構えた。


とうとう実力行使で正面突破することにしたようだ。


「まっ!?待つんじゃアリア!冷静に、冷静になっておくれ!」

「問答無用です!」


冒険者ギルドの空気が、一触即発の様相を見せはじめた。


『そこまで』

「「「!?」」」


そんな冒険者ギルドに、一つの思念が響き渡った。


冒険者ギルドにいた者達は、突然響いたその思念に何事かと周囲を見回した。


『救援を出す必要は無い。もう終わった』

「終わった?まさか!?」


アリアは、終わったという言葉に星夜達が全滅したのかと一瞬考え、そして慌ててその考えを否定した。


『そうではない』


思念がそう言うと、アリア達の足元に巨大な影が生まれた。


「「「「!!!?」」」」


それに驚いた冒険者ギルド内の人間達は、一斉に影が無い場所まで移動した。


全員が影から離れると、影から無数の物体が吐き出された。


「いてっ。もう少し優しくしろ!」

『文句を言うな』


影から吐き出されたのは、星夜達外に残された初心者冒険者達だった。


「セイヤさん!」

「セイヤ兄!」

「セイヤ兄さん!」

「セイヤお兄ちゃん!」


星夜を見つけたアリア達は、すぐに星夜のもとに駆け寄った。


他の初心者冒険者達の親兄弟、知人達も一斉に影から吐き出された初心者冒険者達に駆け寄って行った。


冒険者ギルドは、初心者冒険者達の帰還にわいた。



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