火翼のアポスル
「まずはコカトリス達からだな」
そう呟きながら星夜がゲートをくぐった先では、コカトリスがゴーレムやアルラウネと戦闘を繰り広げていた。
星夜は、少し離れた場所から両者の戦いを観察した。
コカトリスは鳥類としての能力を生かし、駆け足やジャンプ。そこからの滑空を利用して縦横無尽に駆け回りながらアルラウネ達を攻め立てていた。
たいするゴーレムとアルラウネの二体は、ゴーレムがコカトリスの嘴や引っ掻き攻撃を防ぎ、そのゴーレムがコカトリスの攻撃を防いだ瞬間にアルラウネがバラの茨でコカトリスを攻撃していた。
両者はだいたいそんな戦い方をしていた。が、両者ともに相手に決定打を与えられない様子だった。
まずはコカトリス。この魔物の最大の特徴は、相手を石に変える石化の魔眼だ。
しかし、もともと土人形であるゴーレムには効果が無い。
また、アルラウネの茨は石化させられているが、アルラウネ本体はゴーレムが盾になっており、石化することが出来ていなかった。
その為、コカトリスは嘴や足で攻撃するという不慣れな戦い方を強いられていた。
しかも、嘴や足などの物理攻撃は頑丈なゴーレムとは相性が悪かった。
現状、コカトリスはゴーレム達に満足にダメージを与えることは出来ないでいた。
他方、ゴーレムの方も優勢とは言いがたかった。
ゴーレムの長所と言えば、その頑丈さと腕力が上げられる。しかし、現在ゴーレムはアルラウネを抱えているせいで両腕が使用不能。また、もしも両腕が使えたとしても、移動スピードが速いコカトリスが相手では、満足に攻撃を当てられないというのが現実だ。
最後にゴーレムが持っているアルラウネ。
アルラウネの長所は、人型部分を使っての魅了だ。
しかし、ニワトリのコカトリス相手に魅了が通じるわけがなかった。
そうなると攻撃手段が茨による攻撃だけになる。
しかし、その茨は高確率でコカトリスの魔眼の餌食になる上、コカトリスに当たってもそのほとんどがコカトリスの身体を覆っている鱗に弾かれてしまう。
アルラウネの方も、コカトリスと同じように火力不足だ。
このような戦況の為、三者の戦いは泥沼の持久戦の様相を見せていた。
決着はちゃんと着くのだろうか?
それが星夜の正直な感想だ。
「うん?あれは・・・」
星夜がそんなことを思いつつ魔物達の戦いを見ていると、コカトリスに向かって行く影が二つあった。
その二つの影は、星夜の知っている人物。
御剣と氷室の二人だった。
「ふむ。あの二人、アルラウネ達の近くにいたのか。うん?盗野や迷地は一緒じゃないのか?」
星夜はてっきり、転生者四人で行動をともにするだろうと思っていたので、盗野達の姿が無いことを疑問に思った。
「盗野さん達の仇!」
「死ね!ニワトリ野郎!!」
星夜が疑問を抱いていると、御剣達の口から二人がいない理由が叫ばれた。
「盗野達の仇、か。二人とも死んだのか?」
そして、コカトリスに殺されたのか?
星夜は昨日最後に見た二人の顔を思い出し、二人の死を残念に思った。
やはり、同郷の相手にはそれなりに思うことがあったようだ。
そして、二人が死んだのがコカトリスが原因なら、二人が死んだのはコカトリスを送り込んだ星夜のせいということになる。
これは星夜としても、責任を感じずにはいられなかった。
「遺体は・・・」
星夜はコカトリス達から視線を逸らし、盗野達の遺体を探した。
せめて手を合わせようと思ったからだ。
「あった!・・・いや、居た」
そんな気持ちで星夜が二人の姿を探すと、ある場所で盗野達二人の五体満足な姿を見つけた。
「なんだ、死んだわけじゃないのか」
星夜の視線の先。そこには、四体の石像が直立していた。
そして、その直立した石像達の姿は、星夜が昨日見た盗野と迷地、他知らない少女二人の姿をしていた。
どうやら四人は、コカトリスの魔眼を受けて石化させられてしまっているようだ。
「これで敵討ちね。まあ、石化の解除方法を知らないと、死んだのと変わらないか」
星夜はとりあえず、御剣達がコカトリスだけに攻撃を仕掛ける理由に納得した。
そして、後で石化解除のポーションについて調べておくことにした。
盗野達は死んではいなかったが、石化されているいじょう、その責任の一旦は星夜にある。
石化を治療するのは、星夜の義務だ。
「さて、こちらは今は後回しだな。先に向こうを片付けよう」
星夜は、盗野達の石像からコカトリス達の方に視線を移した。
「御剣達まで石化をされると面倒だ。すぐに終わらせる。おいで、ニクス」
星夜は神様の依頼を達成する為に、ダンジョンからニクスを呼び寄せた。
「さて、それではいってみよう。《幻獣現創》」
そして、神様依頼のユニークスキルを発動させた。
すると、ニクスの輪郭が崩れて赤い粒子に変わりだした。
やがて完全に赤い粒子に変わったニクスは、星夜を中心に渦を巻き、そのまま星夜の身体の中に吸い込まれていった。
「さて、どんな形状が良いかな?・・・ふむ、やはり接近戦も出来る鎧型にするか」
ニクスを取り込んだのを確認した星夜は、ユニークスキルを次のステップに進めた。
今度は星夜の内側から赤い粒子が舞い、やがて星夜の全身を覆いつくしていった。
そして、星夜の身体が完全に覆い隠されると、赤い粒子に混じって無数の火の粉が星夜を中心に踊った。
「属性は火、色は赤。形状鎧、モチーフはフェニックス。世界(神)が汝を望むのならば、我が身を器として顕現せよ。新たなる幻獣(存在)よ」
その後星夜がそう告げると、赤い粒子と火の粉が溶け合い、星夜を包み込むように何かの形を形成していった。
その形がはっきりとなっていく毎に星夜より赤い閃光が放たれ、完全な形になった時、一際強い光を周囲に放った。
光が放たれたのはほんの僅かの間。
光がおさまった時、そこには先程までとシルエットの違う星夜が立っていた。
身長は2mくらい。全身を鋭角的な赤い鎧で覆い隠していて、生身の部分は目視出来ない。
鎧の各所には、フェニックスをモチーフしたとわかる部分が幾つかあった。
まずは鳥の頭部を思わせるフルフェース。
背中より伸びた緋色の一対の翼。
そして、日色の風に揺れるマント。
手甲や足の部分も猛禽類のそれと酷似していて、鋭いかぎ爪状になっていた。
「ふむ。身体はこんなものか。後は能力だな」
星夜は手を何度か開閉した後、今度は自分の内面に意識を向けた。
すると、星夜の頭の中に幾つもの情報が浮かんできた。
「なるほど。なかなか使えそうだな」
星夜は浮かんできた情報をあらかた確認すると、そう結論した。
「さて、介入を始めるとしようか」
現状に問題が無いことを確認した星夜は、御剣達を助けに向かった。
「食らえ!」
星夜が移動をはじめたちょうどその時、御剣は【光剣】を発動させてコカトリスに切りかかっている時だった。
「コケェー!」
コカトリスは御剣の攻撃を軽やかにかわし、御剣に襲い掛かる。
「させるかよ!」
しかし、コカトリスの攻撃は氷の爪を生やした氷室に防がれた。
コカトリスは僅かに体勢を崩した。
それをチャンスと判断したアルラウネの茨が、御剣達を巻き込む形でコカトリスに襲い掛かった。
「コケェ!」
「しまっ」
「くそっ」
コカトリス達はその茨を回避出来ず、自分達に直撃すると思った。
「散れ、《フレイムフェザー》」
しかし、そんな声とともに周囲の景色が真っ赤に染まると、アルラウネの茨は一瞬で消滅した。
「コケェ!?」
「なんだ!?」
コカトリス達はその突然の事態に驚き、敵味方関係なく周囲を見回した。
すると、全員の視線がある一カ所に集まった。
「誰ですかいったい?」
御剣が代表して全員の視線の先に居る相手に問い掛けた。
「火翼のアポスル」
御剣に問われた人物。
赤い鎧を纏った星夜は、全員に聞こえるようにそう答えた。




