襲来する影
「ス、スケルトン!しかもあんなに大量の!?」
自分達の方に向かってくる大量の骸骨の群れ。スケルトン達の姿を確認したアリアは、その認めたくない光景に思わず一歩下がった。
それはシン達三人も同じだった。
自分達の方に向かって来るスケルトン軍団に、声も上げられないようだ。
「アリアさん、シン、ソル、ファウナ、さらに残念なお知らせがあるんだけど」
星夜は、そんな四人の様子に心苦しくなったが、他の魔物達の存在も伝えることにした。
「さらに残念なお知らせ?あれよりもですか!?」
星夜の言葉を聞いたアリア達は、揃ってスケルトン軍団を指差した。
「はい。残念ながらあれより悪い知らせです。あちらをどうぞ」
星夜はそう言うと、マップに表示されている魔物達の方向を順番に指差していった。
「「「「なっ!?」」」」
星夜の指先を追っていった四人は、その先の光景に絶句した。
スケルトン軍団から時計回りに展開していた魔物達の姿は以下の通り。
スケルトン軍団の隣、2時の方向を移動しているのは、体長およそ3m。赤いトサカに灰色の眼。全身を爬虫類の鱗とニワトリの羽根で覆われた蛇の尻尾を持った雄鶏。
その容姿と神様の依頼から推察出来るその魔物の名前はコカトリス。目で見た者を石に変えてしまう《石化の視線》で有名な魔物だ。
そしてそのコカトリスからさらに一時進んだ先にいる魔物。
全身およそ9m。全身を浅黒い鱗で覆われた九つの頭を持つ大蛇。それぞれの蛇頭の口元からは紫色の液体が滴り落ちていて、それが落ちた地面からは白煙が上がっている。
紫色の液体の正体は、おそらく毒物だ。
毒物とその容姿、神様の依頼から推察出来るその魔物の名前はヒュドラ。
ギリシャ神話にて英雄ヘラクレスに敗れた魔物であり、英雄ヘラクレス、賢者ケイロンという神話で有名な二人を死に到らしめた毒の主である。
ヒュドラからさらに一時進んだ先。そこを移動しているのは、全長15m強。
頭部には角と牙。胴体にはコウモリのような皮膜の羽根。全身を赤い鱗で覆われた巨大な爬虫類型の魔物。
その容姿と神様の依頼から推察出来るその魔物の名前はドラゴン。別名竜と呼称されるゲームや物語で最高位に位置づけされる魔物だ。
剣や矢、魔法を弾く頑強な鱗。長き時間を生きる長命さに、その期間を生きる間に培われた膨大な知識に経験の数々。
強大な魔法を行使する魔力量に、広範囲を薙ぎ払う強力無比なブレス(吐息)。
下手をすると、独自言語魔法や固有能力まで持ち合わせている可能性もある。
どう見積もっても、現在の星夜が勝てる可能性が万に一つも無い相手である。
というか、今日があの街の最後になるかもしれなかった。
ドラゴンから二時先に進んで六時の方向。ちょうどスケルトン軍団から反対側になる方向からは、二体の魔物が同時に向かって来ていた。
片方は全長5m。かくばった茶色人型の土巨人。
その容姿と神様の依頼から推察出来るその魔物の名前はゴーレム。
頑強さが売りの魔物だ。
もう一方の魔物は全長1mちょい。
ゴーレムに持たれて移動しているその姿は、上半身が緑の肌をした整った容姿をした美女。下半身は大輪のバラと、無数の茨で構成されていた。
その容姿と神様の依頼から推察出来るその魔物の名前はアルラウネ。
人を捕らえ、その生気を奪う男性の天敵。植物型サキュバスと呼べる魔物である。
どうしてゴーレムがアルラウネを運んでいるのかは不明だが、植物型のアルラウネに足がわりに寄生されているか、両者が協力関係にあるというどちらだと推察出来る。
現状ではこれいじょうの推察は不可能。
とりあえず、これだけの数の魔物達が現在星夜達のいる平原目指して移動していた。
「なんで、なんであんな高位の魔物達が・・・」
アリアはその現実を否定するように首を振った。
「アリア姉」
シン達も不安そうにアリアに寄り添っている。
子供達の手は、無意識にアリアの服の裾を掴んでいた。
「おそらくですが、ダンジョンから来た魔物です」
「ダンジョン?この近くにあんな高位の魔物が湧くようなダンジョンはなかったはずですよ!?」
アリアは星夜の予想を即座に否定した。アリアは数年前からあの街に住んでいるが、あんな高位の魔物達の出現報告を聞いたことはなかった。
また、あれほどの魔物達を生み出すような大規模ダンジョンの存在も知らなかった。
「残念ながらダンジョンはありますよ」
「えっ!?」
星夜は確信を持ってそうアリア達に言った。
アリアは、そう星夜が断言したことにひどく驚いた。
星夜が魔物達がダンジョンから来たと判断した根拠は、以前見た神様からの依頼にあった。
あの時達成出来ないと判断した依頼の中に、雄鶏や妖花、竜と名の付いたダンジョン攻略の依頼があったのだ。
おそらく今こちらに向かっている魔物達は、そのダンジョンから差し向けられた魔物達で間違いない。
なぜなら、ラインナップが依頼の魔物達とかぶり過ぎている。
これでダンジョン以外から来ていたら、アリアの証言からしてこの辺りの生態系の異変ということになる。
その場合、今から来る魔物達には主というか指示するものがいないことになる上、下手すると自然発生して他にもいる可能性が出てくる。
他にもいる可能性はダンジョンから来た場合でもあるが、主のダンジョンマスターはおそらく魔物に転生した人間だ。
この場合なら交渉でどうにか出来る可能性があるだけマシだ。
逆に自然発生型だと、発生条件が満たされ続けるかぎり湧いて出て来る上、誰の指示も受けていないから無秩序に暴れてくるはずだ。
どう考えても自然発生型の方が面倒である。
「あの魔物達が生息しているダンジョンを含め、後二つはこの近くにダンジョンがあります」
今ここに魔物を派遣していない残る二つのダンジョンは、星夜と愛のダンジョンである。
「あの魔物達のダンジョンに加えてさらにダンジョンが後二つ?合計八個もダンジョンが!?・・・いえ、セイヤさん。なぜあなたがそんなことを知っているんですか?」
アリアは星夜が言ったダンジョンの数に驚愕した。
その直後、驚きが一回転して落ちついたアリアは、星夜がなぜそんなことを知っているのか疑問に思った。
実際に高位の魔物達という証拠があるとはいえ、星夜の発言は通常なら到底信じられないものだったからだ。
「例の本の著者である知人からの情報です。なんでも、一週間前辺りに突如複数のダンジョンが、街の近辺に出来上がったそうなんです」
「あの本の著者の方からの情報ですか!・・・けど、どうして著者の方はそんなことを知っているんでしょう?」
それは、その神様がダンジョンを創った本人だからです。
星夜は内心でそうアリアの疑問に答えた。
「それは知人の能力です。いえ、今はそんなことはどうでも良いんです。急いで他の人達と合流しましょう!」
星夜は話の論点を神様から避難にずらした。
「それもそうですね。みんな、急いで合流しますよ!」
「「「おー!!」」」
迫って来る魔物達の存在を思い出したアリアは、シン達に声をかけて急ぎ足で移動を開始しだした。
「《ゲート》」
そんなアリア達を追いかけながら、星夜はゲートの門を使って自分達の後ろにいたゴブリンやスケルトン達を他の魔物達にぶつける作戦を実行した。
これで少しでも足止めが出来ることを星夜は祈った。




