決断、疑惑
『決まったか?』
盗賊達の記憶処理を終えた星夜は、どうするか悩んでいた盗野の答えを聞いた。
「ああ。記憶は消さないでくれ」
『そうか。一つ聞きたいことがあるんだが良いか?』
「なんだ?」
『お前が最初に所属していた盗賊団のアジトは何処にある?』
「なんでそんなことを聞くんだ?」
盗野は、星夜の質問が意外だったらしく、不思議そうに逆に聞き返した。
『いや、カーバンクル達の為にこの辺一帯にいる盗賊連中は駆逐しておこうと思ってな』
「ああ、なるほどな」
「とか言って、盗野さんの為じゃないんですか?」
星夜が盗野と話していると、深剣がそう言ってきた。
どうやら深剣は、星夜が盗野の為に盗賊団を潰そうとしているように感じてようだ。
『残念ながらハズレだ。ここにいる盗賊達の記憶を消したのは同じ転生者のよしみだが、他の盗賊団を退治するのは本当にカーバンクル達の為だ。あいつら、盗賊共のせいで人間不信になってるからな』
星夜は、保護しているカーバンクル達の状態を思い出しながらそう言った。
「そんなにそのカーバンクル達の様子はひどいんですか?」
『ああ。盗賊達に追い回され、ボロボロになっていたからな』
「そうなんですか。可哀相ですね」
『本当にな』
「けど、よくそんな状態のカーバンクル達を保護出来ましたね」
深剣はカーバンクル達のことを悼んだ後、何か尊敬するような眼差しを星夜に向けながらそう言った。
『どういうことだ?』
星夜には、なんで深剣からそんな眼差しを向けられるのかわからなかった。
「え?カーバンクル達は人間不信になってたんですよね?あなたが何かをして、その不信を和らげて、彼らの信頼を得たから保護出来たんじゃないんですか?」
星夜の問い掛けに、深剣は逆に不思議そうに聞き返した。
『・・・言われてみれば、たしかに普通はそういう展開になるよな』
星夜は深剣に言われてみて、はじめてその事実に思い到った。
「あの、違うんですか?」
『あ、ああ。あいつら、最初から俺に助けて欲しいと泣きついてきた』
星夜はそう言って、昨日のカーバンクル達との出会いを説明した。
「なるほど。そんな流れでここに来ていたんですか」
星夜の話を聞き終えた深剣は、一つ頷いた。
「けど、なんでカーバンクル達は人間不信なのに、あなたに飛びついて助けを求めたんでしょう?」
『わからん。が、わからないなら直接聞いてみれば良い』
星夜は深剣と一緒に首を傾げた後、本人に確認することにした。
星夜はダンジョンの出入口を開き、そこに手を突っ込んで手近な所にいたカーバンクルを一体引っ張り出した。
キュッ?
外に突然引っ張り出されたカーバンクルは、不思議そうに首を捻った。
キュッ!キュキュッ!?
そして、深剣達の姿を見つけると慌てて星夜の陰に隠れた。
「本当に人間不信みたいですね」
星夜の陰で震えるカーバンクルを見て、深剣達はカーバンクル達が人間不信であることを事実として認識した。
『ああ、大丈夫だ。彼らはお前に何もしないからな』
星夜は震えているカーバンクルを抱き上げると、そう言ってカーバンクルを落ち着かせようとした。
震える身体を優しく撫で、星夜はカーバンクルが落ち着くのを待った。
『本当?』
『本当だ』
少しすると、カーバンクルは星夜を上目づかいで見ながらそう尋ねてきたので、星夜は安心させるようにそう言い聞かせた。
『ソレデ、ナニ?』
『少し聞きたいことがある』
『聞キタイコト?ナニ?』
『お前さっき深剣達を見て震えていただろう?』
『ウン!』
星夜がまずは前提を確認すると、カーバンクルは頷いて肯定した。
『なら、なんで俺のことは怯えないんだ?』
『?』
『俺も人間だろう?』
『!』
カーバンクルがこちらの質問が理解出来ていなかったようなので、星夜は率直にもう一度尋ねた。
その結果、星夜に何を聞かれているのかカーバンクルは理解したようで、反応を示した。
『人間?違ウ!』
『違う?いや、俺は人間のはずだが』
どうやらカーバンクルは星夜を人間と判断していないようだ。
星夜は一瞬自分が転生者だからかと思ったが、深剣達への反応を思い出し、すぐに違うと思った。
転生した時に種族をいじられたのだろうか?
星夜の頭の中で、そんな疑惑が持ち上がった。
「どうかしたんですか?」
『いや、カーバンクが俺を人間と認識していないらしくてな』
星夜がカーバンクルの答えに戸惑いを覚えていると、深剣が声をかけてきた。
なので星夜は、ありのままを深剣に答えた。
「その姿じゃしかたなくないか?」
『いや、彼らと会った時は普通に人間の姿で会ったぞ』
「「「えっ!?」」」
氷室の言葉に星夜がそう答えると、三人から驚きの声が上がった。
『どうかしたのか?』
星夜は、三人の様子をいぶかしんだ。
「お前、その姿に転生したんじゃないのか?」
氷室がそう言って星夜に迫って行った。
『うん?・・・ああ、なるほどな』
星夜は今の自分の姿を確認し、三人が驚いた理由に納得がいった。
『この姿はただの偽装だ。本体はあくまで人間の姿だ』
「なんでわざわざそんな姿を?」
『身元がばれないようにする為だ。盗賊達のアジトにそのままの姿で乗り込んで、壊滅させられなかったら後々面倒事の種になるからな』
「まあ、報復とかされそうですしね」
深剣達は、星夜の偽装理由に納得がいったようだ。
「なあ、人間の姿を見せてくれないか?」
『なんでだ?』
「いや、少し気になってな」
『・・・今は駄目だ』
星夜は少し考え、氷室にそう返事を返した。
「なんで駄目なんだ?」
『ここはまだ盗賊達のアジトだ。まだ何かある可能性があるいじょう、危険を冒すつもりはない』
「そうか」
星夜の説明に、氷室はひとまず納得したようだ。
『まあ、お前達はすぐに俺の人間の姿を知ることになるだろうな。少なくとも、深剣と氷室だけは確実に』
だが、星夜はすぐに先の発言を翻すようにそう言った。
「どういうことです?」
『いや、俺も冒険者ギルドに加入しているんだ。もうすぐ新規加入者の研修があるだろう?当然俺も参加するからな、そっちが気がつかなかったとしても、姿だけは確実に見れるぞ』
星夜はそう言って、明日ある冒険者ギルドの行事に参加することを三人に伝えた。
「えっ!あなたも冒険者ギルドに登録しているんですか!?」
『ああ、している。もっとも、俺は薬草の採取依頼やスライムの討伐くらいしか冒険者ギルドの依頼を請けたことがないけどな』
「「「えっ!?」」」
驚いた様子の深剣に、星夜が自分の請けた冒険者ギルドでの依頼内容を伝えると、盗野や氷室も一緒に驚いた。
『どうかしたか?』
「な、なんでそんな簡単なのしか請けてないんですか!あなたならもっと・・・」
「そうだ、俺達を手玉に取れるんだ、もっと難しい依頼だって請けられるだろう!」
深剣と氷室は、口々に星夜にそう言った。
『別に問題は無いだろう?自分が出来る依頼をしているだけなんだから』
星夜には二人が何を言いたいのかわからなかった。
「いえ、それはそうでしょうけど・・・」
「もっと難しい依頼をしたいというような気概はお前にないのか?」
深剣と氷室は、星夜の答えを聞いて釈然としない様子だ。
『むろんあるぞ。が、別に俺は生き急いでいないからな。それに、厄介事もごめんだ。まだまだ人生長いんだ、スローライフでゆっくりとやるさ』
今のところ星夜のタイムテーブルでは、ダンジョン関係が優先であり、冒険者としての活動は後回しで良いらしい。
というか、星夜は世界の存続を願っている。その前提ゆえに、ダンジョン関係が最優先なのはある意味当然のことだ。
世界が消えるのなら冒険も何もあったものではないのだから。




