異変
「・・・いったい、何を、したんです?」
深剣は、現在自分を襲っている異変になんとか抵抗しつつ、星夜にそう問い掛けた。
『喋る余力があるとは意外だな』
星夜はそんな深剣を見つつ、他の四人にも目をやった。
現在星夜の魔法の効果で、彼らはいろいろと酷いことになっていた。
まずは深剣。現在彼の手の平からは、凄まじい閃光がほとばしっている。
深剣はそれをどうにかしようとしているが、手を閉じようが念じようがその勢いは止まらず、彼の周囲は白く染め上げられていた。
それだけだったのならただ眩しいというだけで済んだだろう。しかし、当然というかそれだけでは済んでいなかった。
なんと深剣から放たれている光に一定時間晒されると、発火するのだ。
光っている深剣自体に影響はないようだが、近くに倒れていた盗賊や冒険者達の衣服が燃え上がり、ポーションスライム達が慌てて鎮火していた。
その為、現在深剣は人から距離をとって現状をなんとかしようと頑張っていた。
次は盗野。彼には深剣と違っていたってシンプルな問題が起きていた。
現在盗野の腕は、元のサイズの三倍近くにまで膨れ上がっている。
その為彼は重心のバランスを崩し、まともに立つことも出来なくなっていた。
次に氷室。現在彼は地面に手をつけた状態で身動きが採れなくなっていた。
その原因は、彼の手にある。
現在彼の手の甲から氷が発生していて、それが時間経過とともに周囲に広がっていっているのだ。
その為氷室は、凍った部分をどうにかしないと身動きが取れないのだ。
次に迷地。こちらは他の三人程目立ったことはなかった。
しかし、外からではわからないが、迷地の方も異変に苛まれていた。
具体的には、方向感覚と平衡感覚。視界が狂いまくっていて、まともに歩くことも出来なくなっていた。
上下左右がコロコロ移ろい、今自分が本当は何処にいるのかもわからなくなりそうな有様だ。
最後は外套の人物。こちらはある意味迷地と同じ状況になっていた。
違いがあるとすれば、迷地と違って肉体の方にも異変が起きていることだろう。
現在外套の人物は、空中でクルクル回っていた。
前後左右360度、なんの法則性もなくただただ回転していた。
迷地は感覚だけだったが、外套の人物は身体事シェイクされている為、重度の吐き気などにさいなまれていた。
『ふむ』
五者の現状を確認した星夜は、一つ頷いた。
『どうやら順調に暴走しているようだな』
そして、なにか矛盾した言葉を深剣達に言った。
「暴走?」
『しかり。今貴様らを追い詰めているのは、貴様ら自身に他ならない』
深剣がなぞった言葉を、星夜は肯定した。そして、深剣達に新たな情報を与えた。
「僕達を追い詰めているのが僕達自身とは、いったいどういうことですか!」
だが、それでも現状を理解するには到らなかった深剣は、星夜に疑問をぶつけた。
『敵である我に答えを問うか。愚かしいが、冥土の土産だ、我の魔法について知って逝くが良い』
星夜は内心喜嬉として自分の魔法について語りはじめた。
『我が先程から使用している魔法【フューネラル】は、時間魔法の一種だ』
「時間魔法?それならなんで炎や風が?」
『そう慌てるな。今から説明してやる。この魔法の魔法名、【フューネラル】の意味は葬儀だ』
「葬儀?葬儀ってあの?」
深剣は葬儀の字面を思い浮かべ、星夜に確認した。
『そう、葬り送る儀式の葬儀だ。そしてこの魔法の効果は、その魔法名にそったものだ』
「魔法名にそった魔効果?炎や風が?それに、なんで時間魔法の魔法名が葬儀?」
今深剣の頭の中は、複数の疑問で埋め尽くされていた。
『わからないか?葬儀とは生者を送る儀式。生命の時の終わり、死を万人にしらしめる儀式だ。ゆえに、この魔法は時間魔法に属する』
「なるほど。けれど、その葬儀と先程からの攻撃が結びつかないんですが?」
深剣はフューネラルが時間魔法であることには納得した。しかし、まだ疑問は残っている。死をしらしめるのがどうしてあんな風になるかだ。
『簡単なこと。先程も言ったが葬儀とは生者を送るものであり、死をしらしめるもの。そして、この魔法は相手に確定した死を与える即死魔法や致死魔法ではない。この魔法は、生者が死ぬ要因を生み出す魔法だ』
「人が死ぬ要因?」
『しかり。最初の炎は火事などで人を焼死させる炎。次の風は、人を吹き飛ばし墜落死させる竜巻の風。その次の土砂は、崖崩れで人を生き埋めにする土。最後の水は、人を溺死させる水だ』
「「「「「!」」」」」
星夜の説明を聞いた五人は、先程まで自分を襲っていた攻撃の正体を理解した。
『理解したか。これがこの魔法の効果だ。そして、この魔法の発動手順は簡単だ。最初に死因を定める。そうすれば後は魔法の方が勝手に死因の原因を生み出してくれるのだ』
「それで同じ魔法だったのに攻撃がバラバラだったんですね」
『そうだ。過程は違っても、本質は全て共通している』
「たしかに。・・・じゃあ、今は?」
深剣達は星夜の説明に完全に納得がいった。が、すぐに自分達の現状を思い出して、どんな死因で魔法を使っているのか疑問を覚えた。
『ようやくここまできたか。が、その疑問には最初の言葉を返そう、貴様らは順調に暴走している。そして、貴様らを追い詰めているのは貴様ら自身だ』
星夜は魔法の説明はしたので、これで気がつくと思っていた。
しかし、深剣達の反応がかんばしくなかった。
どうやら、それなりのヒントを与えたはずなのに、自分達がどういう状況なのか予想も出来ないようだ。
『・・・その様子では答えには辿り着けてはいないようだな。仕方がない、せっかくの冥土土産、答えを知らずに逝くのも憐れだ。もう答えを教えてやろう。貴様らは今事故死の途中だ』
星夜は五人が死んでしまう前に、さっさと答えを教えた。
もうそろそろ本当にまずいラインに差し掛かってきているので、星夜も内心ハラハラしている。
「「「「「事故死?」」」」」
星夜の答えを聞いた五人は、答えを聞いても自分達の現状がわかっていないようだった。
(そんなに難しかったか?・・・転生者だから、発想がそこまで行き着かないのか?じゃあ俺は?)
それを見た星夜は、ぶつぶつと独り言を呟いた。
『理解出来ていないか。仕方がない、もう少し詳しく教えてやろう。今貴様らを襲っている異変の正体は、我の魔法で貴様らの持つスキルを暴走させた結果だ』
「「「「「!?」」」」」
星夜は今度ははっきりと現状を五人に伝えた。
その結果、五人はとても驚いた顔になった。
ただ、驚いた理由は自分達が現状を引き起こすようなスキルを持っていたことにたいしてだったが。
『この世界には貴様らの故郷とは違い魔法がある。その為、魔法の暴走やスキルの暴発、操作ミスによる事故死もわりとあるのだ。効果をろくに把握せずに使う若者や、効果を過信した者に多い死に方だな』
「「「「「・・・」」」」」
絶賛スキル暴走中の五人は、額から嫌な汗を流した。
『だが、ここまで貴様らを追い詰められたのは正直意外だったな』
「「「「「?」」」」」
『今言った通り、この死に方はスキルの扱いの未熟な者にしか起こらない。我が与えたのは暴走のきっかけだけだから、スキル所有者が頑張ればスキルの制御は可能なのだ。元々が本人のスキルなのだからな。なのに、貴様らは暴走前はスキルをいっこうに使ってこない上、暴走してからも制御しようとする様子も見られなかった。ひょっとしてだが、貴様ら自分達がスキルを持っていることじた知らなかったのではないか?』
星夜が確認の為尋ねると、全員が一斉に視線をそらした。
『当たりか。なら、我は知らずに貴様らに必殺の一撃を食らわせていたということか』
星夜は事実を確認し、内心焦った。
依頼達成が出来ていないいじょう、まだ彼らを追い詰めた方が良いのだが、それまで彼らが持つのか不安を覚えた。




