フューネラル
『この魔法、お前達に防げるかな?熱き死よあれ、《フューネラル》!』
星夜は、戦闘開始と同時に先程得た新しい魔法を発言させた。
星夜の目の前に魔法陣が出現し、そこから無数の炎が飛び出した。
「くっ!」
深剣は飛んで来る炎を剣で払い、盗野や氷室は自らの拳で炎を叩き消した。
外套の人物は対処する手札がなかったのか、迎撃を深剣達に任せ、彼らの後ろで迷地とおとなしくしていた。
『炎も防いだか。ならば次だ!駆け抜ける死よあれ、《フューネラル》』
星夜はそう言い、先程と同じ魔法を発動させた。
星夜の目の前に再び魔法陣が出現。が、今回は炎ではなく強い風が吹き出し、深剣達に向かっていった。
「なっ!?」
さすがに風を切ったり叩きつけたりは出来なかった為、この攻撃は深剣達にも防げなかった。
しばらくは風に飛ばされないように耐えていたが、やがて風圧に負け、深剣達は後ろに吹き飛ばされて行った。
「なんだあの魔法?」
「ああ。最初に炎だったのに、次は風がきやがった。効果が変わるタイプの魔法なのか?」
風に吹き飛ばされた先で、盗野と氷室は地面に倒れ伏しながら、自分達が受けた星夜の魔法について考えていた。
『あいにくと悠長に考えている暇は無いぞ。押し寄せる死よあれ、《フューネラル》』
そんな二人を妨害するように、星夜は再び魔法を発動させた。
「・・・不発か?」
しかし、今回は星夜の正面に魔法陣は出現しなかった。
その為、警戒していた全員が口には出さなかったが、盗野と同じ感想を持っていた。
『ハズレ。上だ』
「「「「上?あっ!」」」」
そんな隙だらけな連中に、星夜は念話で上を見るように伝えた。
星夜の言葉を聞いた外套の人物以外の四人は、揃って洞窟の天井を見た。
すると、そこには先程まで星夜の正面で展開していたのと同じ魔法陣があった。
「回避!」
魔法陣を見た四人は、慌てて魔法陣の下から移動しようとした。
だが、それを引き金にしたように天井の魔法陣から大量の土砂が五人に向かって降り注いだ。
「「「うわっ!?」」」
深剣達はなんとかその土砂の直撃を避けたが、盗野はもろに土砂を受けて埋もれてしまった。
「盗野さん!」
深剣と迷地は、慌てて盗野を掘り出しはじめた。
「そっちは任せた!」
盗野のことを二人に任せ、氷室が盗野救出の時間を稼ぐ為に星夜に向かっていった。
外套の人物も、氷室よりも遅れて星夜に向かって行った。
『次は貴様らの番だ!もがく死よ』
「させるか!」
星夜は迎撃しようと魔法を使おうとした。が、氷室はあっという間に星夜との距離を詰め、星夜に攻撃を仕掛けた。
星夜は魔法の発動を一旦中止し、氷室の拳を回避した。が、氷室はこのチャンスに一気に畳み掛けてきた。
『くっ!』
星夜は、氷室が繰り出してくる無数の拳撃を影を使っていなしつつ、反撃の隙を窺った。
ちなみにこれは演出である。
手札をさらすことにはなるが、やろうと思えばゲートなどですぐに状況を覆せる。
『舐めるな!』
星夜は影を使って氷室の手首を搦め捕り、深剣達の方へ投げつけた。
「なっ!?」
星夜のこの反撃に氷室は驚いたが、空中で体勢をなんとか整えて無事に着地した。
『隙あり!もがく死よ』
「・・・させない」
『む!』
星夜が氷室に追撃しようとした瞬間、外套の人物が星夜と氷室との間に割って入り、攻撃を仕掛けてきた。
外套の人物は懐から鞭を取り出し、それを星夜目掛けて振るった。
『甘い!』
星夜は自分に向かってくる鞭を影で弾き、後ろに下がった。
『もがく死よあれ、《フューネラル》』
そしてすかさず魔法を発動。
今度は星夜の目の前に魔法陣が出現し、そこから無数の水球が放たれた。
「・・・くっ!」
外套の人物は飛んで来た水球を鞭で叩き割っていった。
が、一部の水球は外套の人物を抜け、氷室や盗野を掘り出している最中の深剣達に襲いかかった。
「させるか!」
深剣達に向かって行く水球を、氷室は再び拳で迎撃した。
「・・・」
「うん?なんだ?」
それから少しの間両者の攻防は続いたが、途中で外套の人物も氷室も違和感を覚えた。
二人が何に違和感を覚えたのか原因を探すと、水球が増殖していることに二人は気がついた。
二人が迎撃していた水球は一旦は破壊されていたが、その滴は残っていた。そして、一定量の滴が集まって水球が復活。さらに星夜の魔法陣からは今だに無数の水球が放たれている為、水球の数は増える一方だ。
氷室達はだんだんと水球の処理が追いつかなくなり、深剣達の方にじりじりと後退していくことになった。
『ふっ、この程度を捌けぬか。ならば終わりにしてやろう!』
星夜は魔法陣を中心に影を操った。
『大きいのを放つ、地面に伏せろ!』
「「「「!」」」」
影を操り水球を一つにまとめながら、星夜は深剣達に念話を送った。
星夜の念話を聞いた全員が、一斉に地面に伏せた。
「!・・・?」
外套の人物が一人だけ立っている形になり、周囲の深剣達を不思議そうに見た。
「伏せろ!」
氷室は慌ててそんな外套の人物の腕を引き、自分達と同じように地面に伏せさせた。
「!」
『遅い!』
全員が伏せたのを確認した星夜は、彼らの頭上を通りすぎる軌道で巨大化させた水球を発射した。
「全員頭を上げるな!」
氷室がそう声を上げるなか、洞窟を埋め尽くすほどの水球が彼らの頭上を通過していった。
『ほう、これもかわすか。どうやら危険察知のスキルでも持っているようだな』
水球が彼らの上を通過したのを確認した後、星夜は彼らにそう言った。
「え?いや・・・」
星夜のこの突然の言葉に、深剣達は困惑した。
『隠す必要はあるまい。我が攻撃にああまで対処したのだ。まあ、そちらはそのスキルを持ち合わせていないようだがな』
星夜は深剣達の困惑をよそに話を進め、先程一人だけ反応の遅かった外套の人物を見た。
星夜に言われた外套の人物は、星夜の言葉に何か納得がいったのか、しきりに頷いた。
『さっきのは全員の反応が同時過ぎた。どうやら違和感を持たれたみたいだから、そういうことにしておいてくれ』
『『『『わかった』』』』
星夜からの念話と、外套の人物の反応で状況を理解した深剣達は、黙って頷いた。
『だがここまで防がれると、こちらも攻め方を変えねばな』
星夜がそう言うと、洞窟内に緊張が走った。
深剣達四人は今度は何をするつもりだと思い、外套の人物は危険察知を持っていない自分に対処出来るのか不安を覚えていた。
『おのが力を受け、死よあれ、《フューネラル》』
星夜がそう言うと魔法を発動させた。が、今回も星夜の傍に魔法陣はなかった。
深剣達は慌てて魔法陣を探した。
以前の土砂のことを考えると、不発ではないだろうからだ。
まずは天井。次に足元。キョロキョロと周囲を確認した。
「「「「「あっ!」」」」」
そして全員が魔法陣を見つけた。
それぞれ別の場所で、五つの魔法陣が展開していた。
一つは深剣の手の平。
一つは盗野の腕。
一つは氷室の手の甲。
一つは迷地の頭上。
一つは外套の人物の足首。
それら五箇所で魔法陣が稼動していた。
それを確認しあった五人は、これから自分達の身に何が起こるのかと、戦々恐々となった。
『さあ、たっぷりと楽しんでくれ』
星夜がそう言うと、五人をそれぞれ別々の異変が襲った。
『願わくば、お前達が力を制御出来るように祈っている』
それぞれが異変に襲われそれどころではない中、星夜のその言葉がやけにはっきりと五人の耳に届いた。




