盗賊になるまで
『情報提供を支援と判断されるか。盲点だったな。てっきり、戦闘関係の支援をしないと駄目だと思っていたんだが』
(情報提供で済むなら、向こうの連中を血まみれにする必要もなかったな)
氷室の推測を聞いた星夜は、もともと潰す予定だった盗賊達はともかく、冒険者達には悪いことをしたと思った。
実際、冒険者達の方はいいとばっちりだ。
「たしかに普通はそうは思わないわな。この依頼紙には、盗賊の討伐に来た光剣のブレイバーを支援せよとあることじゃし」
迷地も星夜の意見に同意した。
たしかに光剣の依頼紙にはそうあったから星夜は戦闘関係の支援と思い込んでしまったのだ。
もしこの依頼紙が剛腕や氷爪と同じただの支援とだけあったなら、星夜は戦闘以外の支援も考えられただろう。
しかし、依頼の中に盗賊の討伐に来たというフレーズがあった為、星夜は誤解してしまったのだ。
「それで、お前さんはまだそやつらと戦うつもりなのか?」
『・・・いや、その必要は無くなった。今彼らと戦っても、達成出来る依頼は一つしかない。今すぐに出来るその依頼の達成は、俺にとってはしばらく後の方が都合が良い。』
「後の方が都合が良い?それはどういう意味だ?」
『その依頼は、時間をかけて達成した場合、報酬を選べるんだ』
「なるほどな」
盗野は星夜の答えに納得した。
「今の言い方じゃと、達成出来ない依頼も手持ちにあるのかのう?」
『ああ、複数ある。ただ、その内お前達が関係している依頼は一つだけだ。さらに言うと、光剣のブレイバーと剛腕のバンデットがだな』
星夜は盗野と深剣に視線をやった。
星夜に視線を向けられた二人は自分を指さしたので、星夜は頷きを返しておいた。
「ちなみにその内容はどんなじゃ?」
『これだ』
星夜はその依頼の紙を迷地に渡した。
他の三人も気になったのか、横から迷地の持っている依頼紙を覗き込んだ。
「・・・僕達、あなたに追い詰められるんですか?」
『俺としてはそのつもりだ。報酬のユニークスキルが欲しいからな』
深剣が微妙な顔して星夜を見ると、星夜はあっさりとそう答えた。
今話に出ている依頼の報酬はユニークスキル《昇華》。
名前からして、何かを上昇させてそれを花開かせるユニークスキルだろうと星夜は考えている。
人に見せられる攻撃手段が皆無と言って良い星夜としては、強化系や応用力の高い能力はぜひ欲しいところなのだ。
現在星夜が使える攻撃手段は、影と魔物しかない。が、影はともかく魔物を表立って使うのはまずいだろうと思っていた。
なので、星夜はまっとうな攻撃手段が欲しくて堪らなかった。
神様の報酬は、ユニークスキルを筆頭に珍しいものが多い。というか、一般的なものがほとんど報酬にならない。
効果は強力だけど、そのせいで人前ではとても使いづらかった。
「それってどうにかなりませんか?」
『あいにくとこちらにも事情がある。だが安心しろ、ただ追い詰めるだけだ。依頼には別に半殺しにしろとか、討伐しろとかいう物騒なことは書いていないからな』
「たしかにそうですね」
深剣はもう一度依頼紙を確認して、少し安心したようだ。
「そうだな。それに、さっきの依頼達成を見るにあまりひどいことになる前に依頼が達成になるだろうしな」
盗野の方も、そんな風にわりと楽観的に考えていた。
「それじゃあ、もう儂らを向こうに送り返してくれんかのう?」
『空転のキャスターがいないから構わないぞ。いや、もう少し身の上話をしないか?』
迷地に頼み事をされた星夜は、逆にそう提案した。
「なぜじゃ?」
『迷走のノーマッドとそちらの二人はともかく、盗賊のその人とは戻ったらもう会話出来ないと思ってな。二人は盗賊達を討伐に来たんだろう?』
星夜を迷地から冒険者の二人に視線を移し、そう確認した。
「たしかにそうですね。僕達冒険者がギルドから請けた依頼は、盗賊達の壊滅です」
「俺達はあっちに戻ったら、そこのオッサンと戦わないとならないな」
深剣と氷室は、それぞれがそう口にした。
『だろう。なら、盗野がなんで盗賊になったのか今ここで聞いておけ。何かが違えば、お前達がそうなっていたのかもしれないんだからな』
星夜にそう言われた二人は、そうかもしれないと思った。
そしておもむろに盗野の方を見た。
三人に釣られるように、迷地も盗野に視線をやった。
四対の視線を向けられた盗野は、話さないといけない雰囲気になったなっと、心の中でため息をついた。
「・・・たいして面白い話じゃないぞ」
『教訓として聞きたいだけだ。別に面白さなんて求めちゃいない』
星夜の言葉に、他の三人も頷いた。
「そうか。なら、俺がこっちに来てから今日までのことを話そう」
盗野は観念し、自分に何があったのか話はじめた。
「大変だったんですね」
盗野の話を聞き終えた深剣の第一声がそれである。
盗野から聞いた話を要約すると、次のようになる。
盗野も星夜同様、最初は街の近くの平原に出現したそうだ。
ちなみに、他の三人も似たり寄ったりだった。
平原に出た盗野は、平原を歩き回った後に街へと向かった。
しかし、こちらの金銭を持っていなかった盗野は街へ入ることが出来なかった。
深剣と氷室の二人の方は、それぞれ街に向かう商人に拾ってもらい、街に入ったそうだ。
この時点で両者の運命が分岐したといって良いだろう。
街に入れなかった盗野は、その後なんとか街に入る為の資金を調達出来ないか考えたそうだ。
思考は真っ当なのに、そこからどうして盗賊なんてものになったのか、最初聞いた時は不思議に思った。
最初は深剣や氷室のように誰かに街へ一緒に入ってもらえないか考えたそうだ。そして、街に向かう人に接触しようとした。
しかし、ここで思わぬ事態になったそうだ。
なんと、接触した相手に転生後の顔と雰囲気のせいで盗賊と勘違いされ、攻撃されてしまったのだ。
さらにおりわるく、盗野が攻撃された直後に本物の盗賊が現れ、盗野が接触しようとした相手に襲いかかった。
ここで盗野が襲われた人達を助けていれば現状は違っていたかもしれないが、盗野は後込みして助けに行けなかったそうだ。
盗野が平和な国の日本人だったことを考えれば、無理もない。
このことには、星夜以外の三人が仕方がないと言って盗野を慰めていた。
その後、盗野は何故か盗賊達にスカウトされ、怖くて了承してしまったそうだ。
不良に絡まれたオッサンという感じに星夜はそのことを理解した。
そして盗野の盗賊生活が始まった。
最初は普通に下っ端だったが、盗賊になってから数日で盗賊の頭になってしまったらしい。
さすがに盗野のこの説明には、全員首を傾げた。
なので、より詳しく盗野から話を聞いてみた。
どうやら盗野が最初に所属していたのは、今盗野が率いている盗賊団よりも大きなものだったらしい。
そちらで功績を上げた盗野が、盗賊達の一部を任されて出来たのが今の盗賊団だそうだ。
ちなみに盗野の功績についてだが、盗野いわく全部偶然の産物だった。
ところどころありえない展開があったが、全て事実らしい。
これは神様が謀った結果だろうか?
転生者達の役柄に合わせ、そうなるようにイベントを起こしている?
星夜はそんな疑念を持ったが、世界存続の為には仕方がないと思うことで納得することにした。
盗賊団を率いるようになった盗野は、今日まで半ばヤケで盗賊稼業に勤しんだらしい。
もう途中からいろいろ麻痺していたらしい。倫理感とか、常識とかその辺りが。
さすがに全員が盗野に同情し、盗野から話を聞くのはここまでということになって終わった。




