自己紹介
『と、いうわけだ。そういうわけで、お前達も何かしらの転生特典を持っているはずだ』
星夜の説明を聞き終えた三人は、再び互いに顔を見合わせた。
この様子からすると、今のところ彼らに心当たりはないようだ。
『心当たりは無しか。俺の幼なじみのようにダンジョンを持っているか、俺みたいな特殊なクラスだったらわかりやすいんだがな。まあ、クラスを確認していないだけなら、今度神殿で確認してみると良い』
星夜はとりあえず、三人にそう薦めておいた。
『さて、情報提供はここまで。改めて確認しよう。お前達は転生者か?違うのなら・・・』
「何をするつもりだ?」
『転生者ならとくに何も。もし違ったとしても、殺したりはしないから安心しろ。適切な処置を施した後、ちゃんと向こうに送り帰してやる』
(帰った後については知らないけどな)
「「「・・・」」」
星夜がそう返すと、三人は一旦黙り、その後何かを決めたように星夜を見た。
「ああ、俺は転生者だ。名前は盗野剛。向こうでは有り触れた会社員だったが、何の因果かこっちでは盗賊の頭をしている」
盗賊が一歩前に出ると、そう名乗った。
「次は僕ですね。僕の名前は深剣灯輝です。向こうでは普通の学生で、こっちでは冒険者ギルドに席をおいています」
盗賊が名乗った後は、今度は金髪の少年がそう名乗った。
「最後は俺だな。氷室爪牙だ。深剣と同じで向こうでは学生。こっちでは冒険者をやっている」
最後に獣人の少年がそう名乗った。
「儂も良いかのよう?」
星夜がこれで転生者達の自己紹介は終わりだと思っていると、横にいた迷走のノーマッドがそう言ってきた。
老人のこの発言を聞いた三人は、この老人は誰だろうという顔をした。
「儂の名前は迷地走助。お前さん達と同じ転生者で、さっきまで盗賊達に捕まっていた者じゃ」
三人は老人。迷地の自己紹介を聞いて、ひどく驚いた顔をした。
そして次の瞬間、盗野がすごい速さで迷地から視線を外した。
自分達が捕まえていた人間と対面するのは、気まずいようだ。
「お爺さん、捕まってたんですか?」
そんな盗野を横目で見つつ、深剣が迷地にそう尋ねた。
「ああ。こっちに来てさ迷っていたら、盗賊達に捕まってしまってな。二日程さっきまでいた洞窟の奥にある、牢屋の中に閉じ込められていたんじゃ。ちょうどお前さん達のお仲間が来た辺りにそこにいるのに助けてもらってな。彼が転生者に会いに行くと言ったので、彼について来たんじゃ」
迷地は星夜を指してそう彼らに説明した。
「そうなんですか」
深剣が迷地の話に頷いて、今度こそ自己紹介は終わった。
『自己紹介は終わったな。それでは早速』
ポーン!
『うん?』
転生者達の自己紹介が終わったことを確認した星夜は、早速戦闘を開始しようとした。
が、攻撃を彼らに仕掛けようとした次の瞬間、もう聞き慣れたと言っていい音が星夜の頭の中で響いた。
【依頼達成。報酬贈呈。ユニークスキル事典を入手。スキル:アブソープションを獲得。時間魔法:フューネラルが使用可能になりました】
ポンッ!
そんなメッセージが星夜の頭の中で流れた後、星夜の手元に一冊の本が突然出現してきた。
星夜が本のタイトルを確認してみると、そこにはユニークスキル事典と描かれていた。
『はっ?』
星夜は突然の依頼達成メッセージに、一時的に思考が停止した。
それほどなんの脈絡もなく突然依頼達成のメッセージがきたからだ。
本当にいつ依頼を達成したのだろうか?
「なんじゃねその本わ?」
星夜が固まっていると、迷地が星夜の持っている本を見ながら、不思議そうにそう尋ねた。
これには他の三人もうんうん頷いていた。
彼らにしてみれば、星夜が戦いを仕掛けて来ようとして、突然本が出現。そのまま星夜が固まってしまったのだから、彼らが現状を不思議に思わない理由はなかった。
『・・・はっ!』
星夜は迷地の声で硬直が解けると、辺りをキョロキョロ見回した。
「正気に戻ったか。それで、それはなんなんじゃ?」
『・・・依頼の達成報酬』
「「「「依頼の達成報酬?」」」」
星夜の答えを聞いた全員が、揃って首を傾げた。
『そうだ。もともとお前達と戦おうとしていた理由が、主から請けた依頼を達成する為だったんだよ。そして、主から請けた依頼を達成すると、こうやってアイテムなんかを入手出来るんだ』
「「「「ほぉ~」」」」
星夜が自分の戦おうとした理由を説明すると、四人からそんな声が上がった。
「そんなのがあるんですか。それもあなたの能力ですか?」
『少し違うが、そう受け取ってもらって構わないだろうな』
実際のところは神様の指示であって、星夜の能力というわけではない。だが、ユニークスキルと言われればそうとも言える感じなのは確かだ。
なので、星夜は深剣にそう返答した。
「ちなみにどんな依頼を請けていたんだ?最初は俺達と戦おうとしていたが、依頼達成報酬を受け取ったのなら、何かしらの依頼を達成したんだろう?」
『あの盗賊のアジトで請けた依頼は、お前達それぞれの支援依頼と、迷地の救出依頼。他にはここにいない転生者が関わる依頼だ』
氷室の疑問に、星夜は素直にそう答えた。
「ここにはいない転生者?それはなんて奴なんだ?」
『名前はお前達同様知らない。主から聞いている称号は、空転のキャスターだ。さっきの依頼達成で、お前達の称号の方は確定したから間違いない』
達成した依頼の内容を考えれば、まず間違いない。
「そうなのか。ちなみに、その本が報酬の依頼はどれだったんだ。さっきの言い方だと、複数の依頼を請けていたんだろう?」
氷室は、星夜の持っている本を指さしながらそう尋ねた。
『ああ、これか?これが報酬の依頼は、盗賊の討伐に来た光剣のブレイバーを支援することだ』
星夜は持っている本を叩き、そう答えた。
「・・・本当にそれが依頼内容なのか?」
氷室は、星夜の答えに疑問を持った。
彼の方も、星夜同様依頼達成のタイミングがおかしいと思ったようだ。
『一応依頼紙がある。ほらっ』
星夜はポケットの中からそれを取り出すと、それを氷室に渡した。
氷室は渡された依頼紙の内容を確認し、星夜が嘘を言っていないことを確認した。
氷室が確認し終えた後は、他の三人も順次その依頼紙を確認していった。
そして、依頼内容と報酬の出たタイミングに彼ら全員も違和感を覚えた。
「たしかに依頼内容には支援とありますね。ですが、僕達はさっき何か支援を受けましたっけ?」
深剣は先程の状況を思い返した。
「とくに何かしてもらった覚えはないな」
盗野はとくに思い当たることがなかった。
「たしかに。お前さん達はただ自己紹介をしあっただけじゃったしな」
迷地が言ったことに、星夜達はみな頷いた。
「いや、待てよ。一つだけ支援と言えるものがあったな」
みんなが頭を悩ませる中、氷室が少し考えてからそう言った。
『そんなものあったか?』
氷室の言葉に、星夜達残りの四人は半信半疑だった。
「ああまあ、そう言えるかもしれないという程度だがな」
どうやら氷室自身も半信半疑のようだ。
『それで、氷室は何に気がついたんだ?』
「ああ。おそらくだがこれだろう。転生特典」
『「「「転生特典?」」」』
星夜達は、氷室の言葉をなぞった。
「おそらくだが、この支援にはどう支援しろとかいう記述はなかったから、お前の転生特典という情報提供を俺達の支援と判断している可能性がある」
氷室は依頼紙の一文をなぞり、自分の推測を語った。
『「「「なるほど」」」』
この氷室の推測には、全員がそうかもしれないと思った。
他に候補もない為、氷室の推測が当たっている可能性が高いとみんなが思ったのだ。




