転生者候補
(表情の正負が激しいな)
星夜は現在、盗賊と冒険者達の顔を一つ一つ確認していた。そして、今の感想を持った。
ある者は何かに怯え、ある者は何かを思い出して硬直している。またある者は何故か涙を流し、またある者は歓喜の表情をしていた。
それが盗賊と冒険者達に偏りなくあった表情だ。
つまり、一陣営ではなくそれぞれ個人で転生者のことを知っているようなのだ。
(いったいどういうことだ?この近く、それほどの数の転生者達がいるのか?しかも、それと知られている形で)
星夜は、いまひとつ状況が掴めなかった。
『その反応、どうやら心当たりがあるようだな。しかし、反応もまちまちなら陣営もバラバラ。ついでに全員が転生者について知っているか。・・・転生者達と何かあったのか?』
星夜が駄目元で確認すると、この場にいる内の七人が視線を逸らした。
星夜から視線を逸らしはしなかったが、気まずそうな雰囲気を出している者達がいた。
一人は先程から盗賊の代表をしている人物。
おそらくだが、こいつが盗賊達の頭だろう。
少し観察してみたが、明らかに他の盗賊達よりも高い能力を持っているように感じた。
彼が転生者なら、おそらく剛腕のバンデットだろう。その筋肉質な身体つきに盗賊という立ち位置、剛腕のバンデットという称号がピッタリ当て嵌まる。
二人目は剣を構えた十代後半の少年。
淡い金の髪に澄んだ青い瞳。整った端整な顔立ち。すらりとした長身で、かなりモテそうなルックスだ。
配色や容姿を総合すると、何処かの貴族か王族と言った感じだ。あるいは、物語に出てくる勇者様という感じでもある。
彼が転生者なら、おそらく光剣のブレイバーだろう。
神様が役柄に合わせて容姿を変更したとするなら、これほどマッチしている人物もいないだろう。
やっぱり勇者はイケメンの方が受けが良いし。
まあ、ブレイバーの訳が本当に勇者かはわからないが。
ブレイバーの語源だろうブレイブの意味は勇敢。
その変形だろうブレイバーの本来の意味は勇敢なる者。略して勇者というわけだ。
が、それでもこの中では彼が光剣のブレイバーの最有力候補だ。
最後の一人は、手甲を嵌めて拳を構えた、獣の耳と尻尾を生やした二人目と同じ十代後半の少年。
艶やかなシルバーグレーの髪に、透き通るようなアイスブルーの瞳。耳と尻尾もシルバーグレーの体毛で被われていて、とてもフサフサしている。
容姿は二人目と同じ端整な顔立ちながら、彼の方が野生味というか、男らしい顔立ちをしていた。
背丈は二人目よりも少し低く、身体つきは細身だが、しっかりと鍛え上げらた筋肉でおおわれていることが服の上からでもわかった。
彼が転生者なら、おそらくは氷爪のバーサーカーだろう。
理由としては、彼の配色と種族が理由としてあげられる。
シルバーグレーとアイスブルー。どちらも氷を連想するキャラによく使われている色彩だ。
種族もあの耳と尻尾からしておそらく獣人。
氷爪の爪の部分に該当する。
ついでに身体つきからして、戦いの準備は怠らないタイプだろう。
あの身体つきなら、本人が戦闘狂かバトルマニア。バトルジャンキーのバーサーカーの可能性は十分にある。
こうして三人を見てみると、この三人はもう確定のような気がした。
後残る問題は、空転のキャスターが誰かということと、彼らが先程の表情を浮かべた理由だ。
前者については、この場にはいないように感じた。
少なくとも、三人のように外見が一致するような見た目魔術師な人物は見当たらなかった。
この後乱入でもしてくるのだろうか?
星夜は、この件は様子を見ることにした。
次は後者の問題だ。こちらはこちらで気になるが、詮索すると面倒事に巻き込まれるか、うわーとなる予感がした為、星夜はスルーすることにした。
少なくとも、今すぐに聞く必要のあることでもない。
また、ある程度の予想がついたのも理由の一つだ。
文庫本参照になるが、転生者達が現地人にあんな顔をさせる場合は、異世界知識か向こうの常識で何かやった場合だろう。
星夜の場合は、神様の入れ知恵のおかげで問題を起こしてはいないが、他の転生者達が俺ツエーや知識チートなどをやって問題を起こす可能性は高い。
歓喜している者がいたので、人助けなんかをして成功した転生者もいるだろう。
しかし、大半が暗い感じだったので、現地人に迷惑をかけた転生者もいるのだろう。
それなら今はまだ関わりあいにはなりたくないというのが、星夜の偽りない本音である。
『詮索は止めておこう。そして、お前達が俺の捜し人である可能性が高そうだな』
星夜は影絵を三人に向け、そう言った。
「だったらどうするつもりだ?」
『一戦付き合ってもらおうか』
星夜はそう盗賊に返すとゲートを開き、夢の世界から配下の魔物達を向こう側に送り込んだ。
影絵の周囲の影から、無数のスライム達が出現した。
事情を知らないものが見たら、魔物が突然影から湧き出して来たように見えただろう。
実際、その場にいた全員が突然現れた大量の魔物に驚いていた。
『俺が彼らの相手をする。お前達は残りの連中の相手をしておけ。さあ、一緒に来てもらうぞ』
星夜は呼び出した魔物達にそう命じた後、影を一気に拡張して彼らを飲み込んだ。
影に飲み込まれた彼らが次に気がついた時には、月が輝く平原に立っていた。
『ようこそ俺のダンジョンに』
混乱する彼らの前に、星夜は影絵の姿で現れた。
今回はシャドウで操ったただの影ではなく、正真正銘影絵の姿をした星夜本人だ。
また、今彼らが立っているのは、星夜のダンジョンである混沌を連ねる夢現の迷宮の中だ。
星夜は彼らを影で飲み込む瞬間、ここへの出入口を開き、彼らを自分の世界に取り込んだのだ。
そして、今彼らが立っている平原は、星夜が彼らと戦う為に急遽作りだした戦闘スペースだ。
カーバンクル達がいる場所からは、完全に隔離してある為、カーバンクル達が被害に遭うことは決して無い。
『ここでならおもいっきりやっても問題無い。そして、この場所での会話は外にいる誰にも聞かれることはない』
「それはどういうことじゃ?」
転生者ということで、三人と一緒にダンジョンに取り込まれた迷走のノーマッドが、星夜の隣でそう聞いてきた。
『言葉通りだ。このダンジョンの中なら、俺もお前達もどんな転生特典を使用しても外部に影響は出ない。ゆえに、お前達が自分達の能力に仲間を巻き込むことも無ければ、仲間達に先程のような表情をさせることもない。また、この場所にいるのは転生者だけだ。ゆえに、自分を偽る必要も無ければ、現地人に配慮する必要もない』
星夜がそう言うと、転生者達は互いに顔を見合わせた。
『戦う前に自己紹介をしておくか。俺の名前は夢現星夜。役柄はとくに聞いていないが、クラスで言えば夢幻術師と錬金術師だ。この内、夢幻術師というのが俺の転生特典に当たる』
「「「転生特典?」」」
星夜が自己紹介をすると、三人からそんな疑問の声が上がった。
『お前達も自分の転生特典を知らないくちか。それとも、普通の奴らの転生特典ってそんなにわかりにくいものなのか?』
星夜はさすがに、四人も自分の与えられている能力を知らないことをいぶかしんだ。
『わからないなら仕方ない。情報提供をしておこう。代わりに、名前くらいは名乗ってくれよ』
それから星夜は、迷走のノーマッドにもした説明を彼らにもした。




